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第68話 風の咆哮

 地下街へ突入したリーヴェ達は、薄暗い廃屋の建ち並ぶ通路を歩いていた。

 かつて光源として使われていたと思われるマナ結晶が、今も辺りを照らしてくれているおかげで辛うじて周囲の様子を知ることができる。


 長い事人が立ち入らなくなり、荒れ果てた通路には瓦礫や草木が乱雑。オーグラシア公国の街でよく使用されている色ガラスの破片が地面に散らばっていて危ない。

 この世界の色ガラスは、マナ結晶を砕いて生成した晶砂(しょうさ)を加工した物。実は武器のエンチャントにも使われる砂(素材)でもある。


セレーネ「ケホッ、ケホッ。何よココ、埃っぽい」

リジェネ「それにガラスが散ってますよ」

リーヴェ「皆、何があるかわからない。用心して進もう」

クローデリア「はぁ~い」


 リーヴェ達が動く度に小さな砂埃が舞い上がった。魔物も徘徊しているので慎重に探索を行う。ここの魔物は主に「ヴォルメデューズ」と「ロンミュース」だ。ロンミュースはホワイトミュースの亜種で、まん丸い体躯の小さなネズミ。長い前歯が特徴的で、体毛は茶色に白い斑模様である。

 しばらく道なりに進むと、目の前の通路が崩れた瓦礫で塞がってしまっていた。


リジェネ「これでは先に進めませんね」

リーヴェ「仕方ない、別の道を探そう」


 一度引き返して通れる道を探すことにする。一歩手前の十字路まで戻り、周囲を確認した後に通れそうな右側の道へ進む。

 魔物はあまり強くなくて助かるが、道があちこち塞がっていて複雑に入り組んでいる。通れる道を選んで右へ左へと進んでいくと、案の定というべきか行き止まりに出くわしてしまう。しかも厄介だったのは近くに魔物がいた事だ。


魔物「チュチューッ!」


 1匹の「ロンミュース」が大量の仲間を呼ぶ。

 同種の魔物が14匹走ってきて、仲間を呼んだ1匹を含めて15匹になる。


セレーネ「増えすぎ――!!」

魔物「チューッ」

リジェネ「来るっ」


 大量のネズミ魔物が一斉に襲い掛かった。魔物は5匹1組のチームになって行動する。縦横無尽に飛びついてくるので連続でダメージを負ってしまう。

 1匹辺りの攻撃力は大した事はなかったが、連続で猛攻撃をされるとかなり痛い。おまけに的が小さくて攻撃を当てるのも一苦労だ。


リーヴェ「うっ、動き辛いな」

魔物「チュゥチュチュー」

クロ―デリア「させません。音波動(サウンド・ノヴァ)

リーヴェ「ありがとう」


 移動を邪魔され防戦一方になっていたリーヴェを、振動でネズミを払って助ける。遠距離攻撃ができる者は出来るだけ距離をとって戦う。


リーヴェ(敵は身体が小さく素早いが、基本的に陸上の生物だ。ならばっ)

リーヴェ「詠唱の護衛を頼む」

リジェネ「はい」

セレーネ「任せて」


 リーヴェは詠唱に入る。使うのはエトワール・ピラーだ。

 クロ―デリアも一通りのバフをかけ終わると、大地のマーチを使って攻撃に転じる。今回、ラソンがいない事で前衛の2人は必死に壁役を務めようと試みる。

 だが、リジェネとセレーネは引き付ける効果のあるスキルを習得していない。しかもセレーネに至っては範囲攻撃も少なく、数の多い敵には苦戦を強いられていた。各個撃破していると、味方に攻撃が集中してしまう。

 もしも、この魔物がもう少し攻撃力の高い種類だったらと思うとぞっとする状況だった。


リーヴェ「エトワール・ピラー」


 上手く巻き込んで3体を同時撃破。2体は辛うじて生き延びる。そこへクロ―デリアの大地のマーチ(二度目)がヒットして撃破した。

 リジェネも地龍槍と懐迅槍を使って4体を撃破。

 瓦礫で道が塞がっている付近や突き当りは、天井が崩れている事が多いので一応騎乗は可能だ。しかし敵が小さいうえに、騎乗できてもそんなに動き回れないので今回は騎乗せずに戦っている。


セレーネ「火月閃」

エルピス『グルルルッ』


 セレーネの足払いで動きを止め、エルピスが「ティグル・ククデンス」でとどめを刺す。

 ティグル・ククデンスは敵1体に噛みついて獲物を上に投げ飛ばし、自身も飛び上がって爪で引っ掛けた敵を地面に叩きつける攻撃だ。獣特攻をもつ高威力な技。



 この戦闘は範囲技を中心に戦い、勝利する。

 かなりの数だったが、経験値は多くなかったためレベルは上がらない。


リーヴェ「ふぅ、意外と何とかなるものだな」

クロ―デリア「ビックリしましたわ~」

リジェネ「本当ですね。今後も同じ事が考えられますし、よりいっそう用心して行きましょう」

リーヴェ「ああ」


 リーヴェ達は再び探索に戻る。警戒しつつも迅速に奥へと進んでいく。

 いくつもの十字路やT字路を曲がり、多少の回り道を繰り返して着々と前へ進んだ。この地下街、結構広いぞ。行き止まりに到着する度に魔物の群れが襲ってくる。

 何度か戦闘を繰り返して、リーヴェがLv39、セレーネがLv38になった。3度目の行き止まりには宝箱もあり、上手く開ける事に成功して素材「水牛の角」を入手。まさか角が丸々入っているとは思わず苦笑する一行。


リーヴェ「また分かれ道か」

セレーネ「うげ、何回目よ」

リジェネ「7回目くらいですかね」

セレーネ「……数えてたの」


 道は3つ、右と左と中央だ。

 左の道は塞がっているし、方角的に入り口側になるので除外。問題は中央と右のどちらに進むかに絞られる。どちらも塞がってはいないし、奥の様子にも違いは見られない。あまり遠くを視認できないというのもあるが。

 全員で意見を出し合い、リーヴェとクロ―デリアは右、リジェネとセレーネは中央が怪しいと言う。見事に半々で分かれてしまった。足止めを食っている場合ではない、さてどうしようか。

 これは勘だが、最奥まであと少しな気がする。何か、背中を一押ししてくれるキッカケがあれば。


クライス『キキィー―!!』

リジェネ「今のはっ」

リーヴェ「間違いない、クライスの声だ」

クロ―デリア「右の道から聞こえましたわ~」

リーヴェ「急ごう!」


 一斉に右の道へ駆け出した。声の聞こえ具合から、そう遠くない事を確信する。

 クライスの声は危機や窮地を知らせる時の感じに似ていた。どうか、間に合ってくれ!!



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



ラソン(ここは何処だ。オレは……)

クライス『キキィッ』

ラソン(クライス!? アレ、声が出ないっ)


 真っ暗な意識の中に響く自分とクライスの声。

 ん、風が肌に当たるのを感じる。だんだん視界が明るくなっていく。身体が思うように動かないが、瞬きだけはできる。

 何か、見えてきた。人? 2人いるようだ。でも視界がぼやけて上手く見えない。


???「まったく、次から次へと何なのよ」

???「まぁまぁ、そう熱くなってはいけないよ。せっかくの美人が台無しだ」

???「だったら寄り道なんてしてないで例の石を届けに行きなさい」


 コボル郷、相当にお怒りだったわと言う女性の声。もう1人は、声の低さから男だろうか。どちらも若い人の声だった。

 クソッ、確かめようにも視界が上手く定まらない。ピントが合っていない感じだ。それに何故、身体が動かないんだ。自分がこうなるに至った記憶も途切れている。


ラソン(何がどうなってんだよっ。此処は何処なんだ!!)


 動け、よく見ろと身体に命令を出すが、完璧に無視される。命令自体が出せていないのか?

 斯くなる上は――。


ラソン(クライス、可能な範囲で周囲の様子を探ってくれ)


 石の中にいる相棒に思念を送り、気づかれない範疇で風を操り探ってもらう。ラソンの行動が制限されている都合上、クライスも力を使いづらい様子だったが頑張って状況を教えてくれた。

 心の中で会話に近いやり取りをする。


クライス『キキッ、キキーキキィ。キィ……』

ラソン(場所の特徴は……舞台? 敵の姿は2人で男女、やっぱりそうか)


 風の通り道から通路や隙間があるらしい事、男女の容姿は地上人とは異なる様子などを漠然と把握した。ただ、どの異世界人かを判別するには特徴が掴みづらい、か。

 自分の他にも数人の地上人が、同じ状態になっているのも教えてくれる。ぼやけた視界には2人しかいないようだから、自分の背後か死角にいるのだろう。感覚も鈍っていて人の気配を感じるのは難しい。

 クライスが風の妖精で本当に良かったよ。他の属性だったら、力を少し使っただけでも気づかれそうだ。何よりも、風以外は探索にあまり向かないだろう。

 召喚しているなら嗅覚や聴覚などである程度探れるだろうが、石の中ではできる行動に限りがあった。


ラソン(クライスはこのまま警戒を続行。後は……)


 ラソンは可能な限り、会話を続けている2人の声に耳を澄ませる。少しでも情報を得なくては。


???「んふふ、君のほうは順調のようだね」

???「当然よ。私がヘマする訳がないわ」

???「コイツ等が最後の団体さんか……ん、この少年は」

???「あら、知り合いでもいたの?」

 

 男の声がすぐ近くから降ってくる。視界にも男が自分の目の前に立っているのが見えた。ヤバい、オレ何かしたか。でも、こんな知り合いいたかな。

 必死に考えるが、まったく覚えがなかった。男はラソンを吟味しているようであった。自由が利く状態ではないが全身に緊張が走る。


???「いや……気のせい、かな。見覚えがある気がしたが」

ラソン(ほっ、大丈夫そうだな)


 いやいや、まだ気を抜いてはダメだ。緊張を解くなオレ。

 ラソンは徐々に身体の自由が利くようになるのを感じながら、視界に写る2人の会話に全神経を向けていた。お、効果が切れて来たのかな。自分に何が付与されていたのか、知らないけれど。

 男性が離れていくのを感じ安堵するのもつかの間、今度は女性のほうが怪訝そうな声音を上げた。


???「んん、その子」

ラソン(今度は何だよっ!!)


 いい加減、勘弁して欲しい。

 実際に掻いている訳ではないが、冷や汗を掻きたい気分だった。女性がゆっくりと近づいてくる。ラソンは「来るな」と心中で叫んだ。

 女性の顔がラソンの瞳を覗き込むように見つめる。蛇に似た奇妙な目だ。リーヴェやクロ―デリア、地精人種とも違う。まさか、この人って――。


???「やっぱり、この子風の……。ああ、ヤダヤダ」

???「どういう事だい?」

???「私の力はね、音を使うのよ。風使いは効果の効きも良いけど切れるのも早いのよ」


 水使い相手なら、効果が出るまで少しばかり時間を要するが、一度効いてしまえば長く持続してくれる。

 彼女がオーグラシア公国で事を起こしたのはこれが理由。要するに、水の妖精の加護を持つ人々は扱いやすいのだ。


???「それに私、海風を操るのも得意なの。公国(ここ)は音を遠くまで運べて便利だわ」

ラソン(え、てことは!?)


 自分は彼女の音を使った術にはめられたのか。なんか、誰かを思い出しそうな力だな。


???「なるほどね。で、ソイツ始末するかい?」

???「そうね……この調子じゃ、効果が切れるのも時間の問題だし」


 良いわ、とあっさり答えてしまう。えええ――、ちょっと待ってくれよ。オレ、どうなっちまうんだ!?

 男がじわじわと近づいてくるのを感じ、助けを求める事もできない悲鳴をひそかに上げるラソン。相棒のピンチを感じ取り、渾身の力を振り絞ってクライスが石から飛び出した。


クライス『キキィーー!!』

 

 未だ動けないラソンを背後に庇い、クライスは単身敵と対峙して勇ましく叫んだ。

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