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第67話 マナの導き

 暗がりの中から一人の人物が歩み出た。


ニクス「サリナ、話がある」

サリナ「ニクス、貴方にも任務があった筈よ。あのオボサンみたいになってはダメ」

ニクス「彼女もここに来たのか?」

サリナ「ええ、『心配だから見に来てあげたわよ』なんて言ってたけど」


 どうせ買い物のついでよ、本気で心配なんてしてないに決まってる。それに私、あの人に心配されるようなヘマはしてないもの、大きなお世話、などとボヤいていた。

 昔から馬の合わない2人だったが、ここに来てますます激しさを増している気がするな。

 ホッヴォ郷は、「ああ、思い出したらイライラする」といった具合に踵を鳴らし指の爪を噛んでいた。すっきりした眉間にもしわが寄っている。これは、かなりキテいるな。上手く話が通じるだろうか。


ニクス「なぁ……もう、こんな事は止めよう」

サリナ「突然、ナニよ」

ニクス「…………このままでは俺達、俺達は」

サリナ「…………」


 苦し気に言葉を絞り出すニクスに、ホッヴォ郷は冷たい視線を投じた。彼女のこんな冷たい眼差しは初めてだ。でも、言わなければ。


ニクス「サリナ、俺達暗黒人(イヴ‐オグル)とて例外ではない。強すぎる力は身を滅ぼすだけだ」

サリナ「だから?」

ニクス「俺達は均衡を保つ者だろう。負の発生を煽ってどうするんだ!!」

サリナ「だからあの人の、陛下の判断に背くというの」

ニクス「違う、そうじゃない。こんなのは間違っていると気づいて欲しいだけだっ」


 そのためにも、サリナには味方でいて欲しい。何よりもこれ以上、取り返しのつかない事を重ねて欲しくないのだ。

 ホッヴォ郷の視線がますます冷たく尖っていく。恐ろしい程の鋭さだ。


サリナ「話はそれだけ?」

ニクス「もう、止めてくれ……アイツもお前を心配している。町の近くまで来たんだぞ、1人で」

サリナ「っ、そんな事あり得ないわ。あの子が、シャンヌが1人で遠出なんてできる訳ない」


 ホッヴォ郷は心底信じられないといった体だった。ニクスはたまらずに叫んだ。


ニクス「そうだ、それでも来たんだ! お前も知ってるだろ」


 それが、シャンヌにとってどれほど怖い事かを。ごく限られた者以外には、モニタ越しでないと満足に目も合わせられない事情を知っているはずだ。

 初対面の相手にもなれば、話しかける事さえも稀な行動なのである。

 ホッヴォ郷は一瞬だけ同様の色を見せた。しかし――。


サリナ「私を惑わせようとしても、そうはさせない。本気なら力づくで止めればいいわ!」

ニクス「サリナ!?」


 ホッヴォ郷が隠し持っていた短剣を構える。

 ニクスは距離をとるが、武器を構える気にはなれなかった。今の状態では、満足に当てる事もできないとわかっているからだ。

 ここまでなのか。もう、話す余地すら残されていないというのか。

 武器を向けられないニクスの様子に、ホッヴォ郷は挑発的な笑みを浮かべた。


サリナ「ナニ? 今更怖気づくの? 貴方の手は、既に同族の血で(けが)れているじゃない!!」

ニクス「ぐっ……」


 ニクスの表情が、纏う雰囲気に苦痛が滲む。目に見えない古傷がひそかに痛みを発した。身体が小刻みに震えるのを抑える事ができない。

 緊迫した睨み合いが続く中、ニクスの耳に複数の羽音が届く。不味い、奴が来た。


ニクス(時間切れ、か)


 ニクスは素早く踵を返した。逃げるのか、と彼女の声が背に突き刺さる。ニクスは振り返る事なく、暗闇の中へと走り去って行った。

 しばらくして、歌劇場の方角から微かに歌声が響き始める。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 北エリアに来たリーヴェとリジェネは、同じくやって来たセレーネ達と合流する。互いに得た情報を交換した。

 北にある住宅街は貴族のものが多く建ち並び、落ち着いた喫茶店や遊戯場が点在。一般の住宅もあるものの、敷地の広い建物のほうが圧倒的に多かった。裕福層が通う学院や美術館もある。

 妖精とは別に、愛らしいペットを連れて歩く人々もちらほらといた。


セレーネ「この何処かに地下街へ続く場所があるの?」

リーヴェ「ああ。2人が見たというコウモリも、こちらへ飛んで行ったんだな」

クロ―デリア「ええ、間違いありませんわ~」

リジェネ「とても関係があるとは思えませんね」

セレーネ「でも、別々だとしたら偶然が過ぎるわよねぇ」


 確かに、まったく関係がないと言い切るには偶然が重なり過ぎている。


リーヴェ「今頃、ラソンは大丈夫だろうか……」

リーヴェ(早く見つけないと)

セレーネ「あたし達の中で一番タフだもん。クライスだって一緒だしきっと無事よ」

リーヴェ「そう、信じるしかないな。皆、急ごう」


 一行は心して捜索に当たる。地下街について知っている人が居ないか探し、隠し通路がありそうな場所は手当たり次第に調べる。狭い裏路地や小さな手がかりも見逃さないように注意して移動した。

 他の住宅地と比べて、北エリアは似たような路地が多い。建物も似たり寄ったりで気を付けないとこっちが迷いそうだ。


セレーネ「ああ、あたしもうダメ。地図見ても現在地がどこか絶対わかんないよ」

リジェネ「この町の細かい地図、欲しいですね」

クロ―デリア「他と比べて、目印になるような絵もありませんねぇ」


 急がなければいけないのに、時間ばかりが過ぎていく。クライスが飛んでいるかもしれないと思い、空も適宜に見ているが発見はない。妖精を呼び出せない事態にでも陥っているのだろうか。

 一行の心中に、焦りばかりが募っていく。動揺が止まらない。

 何か、何か手がかりは――。リーヴェが思わず瞼を閉じた時だった。


 ――御子。風の行方……翼の青年……す先、……青年を探せ。

 ――黒き民、均衡を守る者。どうか……を、救って欲しい。


リーヴェ「今のはっ」

リジェネ「姉さん? 急にどうしたんですか」


 皆の心配そうな視線がリーヴェに注がれる。突然大声を上げれば当然か。

 それにしても今の声は、以前から聞こえていた。今ならわかる、アレは「マナの声」だ。御子だけに聞く事ができる惑星の意思、のようなモノ。


 正確には、マナに込められた情報を自分が理解しやすい形に変換して受け取っている。声や言葉と言った形に。前はもっと鮮明に聞こえた筈だが……。

 ともかくリーヴェは、仲間達に今聞こえた声について説明した。リジェネ以外の2人は、初めて聞く単語の羅列に疑問を唱える。自分もすっかり忘れていたし、予想できる反応なのでわかる範囲で丁寧に教えた。


セレーネ「つまり、翼の青年っていうのを探せばいいの?」

クロ―デリア「その先にラソンさんがいるのでしょうかぁ」

リジェネ「風って言うなら多分」


 でも、黒き民とか均衡を守る者とか言うほうは何だろう。救うって?


セレーネ「ああ!! 教えてくれるのは良いけど、何で呪文っぽくするのよっ」

クロ―デリア「謎解きみたいですねぇ~」

リーヴェ「まぁ、最初はそう思うよな」


 だが、無意識に翻訳した結果がこうなのだ。難解な内容をそのまま出されるよりはマシだろう。ん、だとするとリーヴェ自身が呪文めいたものが好きなのか?

 自分でもよくわからないので、今は助言通り翼の青年らしきものを探すことにする。少し混乱が残る皆を促して、該当しそうな存在を探して歩いた。



 入り組んだ路地を進み、北エリアで一番大きな噴水広場まで来たリーヴェ達。声が伝えて来た件の存在は未だ発見できず。

 今はもう使われていない地下街の場所を知る人はほぼ皆無。番地急須か、と諦めかけた時。

 ――ふわっ、ひらひら、と風に吹かれて白く輝く羽が目の前を横切った。幻かと思えるほど儚げな羽は、広場の北側に伸びた路地へと流されていく。


セレーネ「リーヴェ、今の!」

リーヴェ「ああ、追いかけよう」


 羽を追いかけ北へと進む。羽が導く方向にうっすらと人の姿があった。何処かへ流れている。歩いている、と言うよりは風に乗って浮遊している感じだ。人影は淡く発光して見える。

 遠くてはっきりと視認できないが、リーヴェとリジェネはその後ろ姿に既視感を覚えた。あの姿、何処かで……。

 リーヴェは走りながら、必死に目を凝らして後ろ姿を凝視した。朧げながらも、辛うじて銀髪が見えるような。まさか、そんな――。


リーヴェ(まさか、まさか……待って!!)


 光る人影を見失うまいと必死に追跡する。角を曲がったり、階段を上り下りしたりして進み、やがて寂れた廃屋の連なる場所へと辿り着く。

 乱れた呼吸を整えながら、一行は自分達が追って来た人影を探して周囲に目をやった。


リジェネ「姉さん、あそこ……」


 どこか気の抜けたリジェネの声と、彼の指が示す方向に急いで目を向ける。

 いた、光る人影だ。しかし、アレは……あの姿は!!


 透き通った身体をした光る人の姿を確かめるように見つめる。

 白銀のクセが強くて逆立った短髪に金色の瞳、白い肌。前髪の一部がチョロンと下がっている。190越えの長身の逞しい体躯に、柄の長い戦斧を背負い、白い翼を背に生やした男性。


 年の頃は20歳前後で、顎やノースリーブの服から覗く腕に戦闘でつけた傷痕。左の二の腕には不思議な石がはまった腕輪を着用。

 見間違う筈がない。ずっと会いたかった1人。


リーヴェ「フェー兄上」

リジェネ「フェラーノ兄さん!」


 リーヴェとリジェネが意図せず目頭が熱くなる。ダメだ、今は泣いている時じゃない。涙を必死に堪えて目の前に浮遊している人物を見つめた。

 フェラーノの姿をした存在は、すぐ傍の足元を視線と指で示し、再びリーヴェ達を見つめて優しく微笑む。そこに道がある、と伝えているのだ。彼は決して声を発することはなかった。

 微笑んだまま、役目を果たした人影がふっと消える。


セレーネ「今の天使は何だったの?」

リーヴェ「2人にも見えたのか」

クロ―デリア「ええ。不思議なマナの気配でしたわぁ」


 なら、マナがフェラーノ王子の姿をとって現れたという事なのか。本当の所はリーヴェ達には解らなかった。

 けれど、彼が示した場所に地下へ続く階段があるのを発見する。リーヴェは尚も溢れそうになる涙を振り払う。視線に力を込め、進むべき方角を見つめた。


リーヴェ「……行こう!」


 リーヴェ達は恐る恐る地下へ続く階段を降り始める。

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