第64話 香水の都コロ
【サブエピソード35 剣の師匠】
中間地点で休憩していた時の事。場所は小島の中でも比較的広い場所で、一角には結界方陣がある。
特別言ってはいなかったが、結界方陣は各地の要所に何度かあった。しかしリーヴェ達にとってはただの安全地帯なので、今後も結界方陣=セーブポイントの話は控えさせて貰う。各々の想像で補っていただけると嬉しい。
では、話を戻そう。小島には他にも樹木や野草が少しばかり生えている。地面は基本的に砂利だが、大雨などで流れてきた土も多少はあった。
セレーネ「リーヴェって、お姫様なのに剣術を誰に教わったの?」
ラソン「オレもずっと気になってた。そっちでは普通の事なのか」
この世界のおとぎ話でも、お姫様が剣を振りまわしている作品は珍しい。王子ならばともかく、王女は城でドレスを着ているイメージが強いのだ。
リーヴェ「いいや、大人は誰も教えてくれなかったよ。魔法は教わったが」
セレーネ「やっぱり城に住んでたら、護衛はいくらでもつけられるもんね」
ラソン「じゃあ、誰に教わったんだ?」
リーヴェ「私の剣技はフェー兄に教えて貰ったよ」
リジェネ「と言っても、かなりしつこかたらしいですけど」
話を聞いていたリジェネが割り込んできた。どうやら兄から当時の事を聞いていたらしく、兄視点の内容をいくつか補足してくれる。
兄2人も妹が突然剣を習いたいといって来てかなり驚いたらしい。時期的にはちょうど泥の怪物に襲われた直後頃で、相当にしつこく頼んでようやく教えてくれるようになった。
第2王子のフェラーノは、天空界でも珍しい重装戦士という歩兵クラスだ。武器は剣の他に戦斧と盾を装備できる。彼は両手もちの柄が長い戦斧を愛用し体術も多少用いていた。
子供の頃は剣と体術を中心に使っていたが、ある時から斧に武器変更したそうだ。
セレーネ「斧って、王子様って印象から少しズレる武器ね」
ラソン「でもソレ強そうだな」
リジェネ「はい! フェラーノ兄さんは兄弟の中で一番力強いんですよ!」
リーヴェ「ああ、自分よりも大きな敵と戦う術を教えてくれた」
アルンウィア王家の王子の中では、フェラーノは一番身長が高くて体格も逞しい。最初は乗り気でなかったにしろ、いろいろと丁寧に指導してくれた。もちろん、実戦ではそう上手くはやれないのだが。
セレーネ「リジェネの槍は誰仕込み? 家庭教師とかかな」
リジェネ「それもありますけど、槍ならアルラート兄さんにも教えて貰いました」
リーヴェ「ルー兄は魔法だけでなく槍も使えたからな。たまに怖い時もあるが……」
リジェネ「あはは、フェラーノ兄さんと違って大変でした」
自然とラソンの兄弟の話も交え、それぞれに家族との思い出を語らった。ただ修行するだけでなく、芝居を交えて練習すると案外楽しいものである。
ラソンとイセスがよくやったのは英雄にちなんだごっこ遊びや逃走劇だったか。時には城下の子供達も巻き込んで遊んだものだ。
その時、王子達の護衛を務めた兵士達が大変な思いをしたのは2人が知る由もない事である。
ラソン「やっぱり兄弟で修行とか楽しいよな」
リーヴェ「幼い頃は遊んでいるようなものだったからな」
リジェネ「へへ、そうですね」
セレーネ「いいなぁ~」
クローデリア「本当に羨ましいですぅ」
今まで傍で静聴していたクローデリアも頷いている。そういえば彼女に兄弟はいるのか、と問いかけようとして皆黙り込んだ。精霊人に家族がいるのか、どうやって生まれるのか自体が彼らには謎である。
しかし、この疑問に関してはまた今度聞く事にした。
リーヴェ「休憩もこのくらいにして行こうか」
リーヴェのひと声で再び川越えを再開する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ達は何もなかった行き止まりを後にし、来た道を引き返して別の道を試す。正解の道順は左の道だった。
その後も数度の戦闘を繰り返したが、40近いレベルはそうそう上がらない。リジェネがLv37になったくらいである。
宝箱は最後の三叉路を左に進んだ行き止まりの端っこにあった。中身は金銭と交換できる換金アイテム。先人が隠してそのままになっていた品のようだった。素人目でも相当に古い物とわかる。
再び引き返して別の道を進んだ結果、中央の道が先に続いていた。結局、最後まで足場の浮き沈みに翻弄されたリーヴェ達。
ようやく川を越えた一行。意外と長い道のりだった。純粋な長さというより、道が入り組んでいて行ったり来たりを繰り返した結果である。
ニクス「すまないが、俺はここまでだ」
リーヴェ「そうか。またどこかで会えると良いな」
リジェネ「道中、お気をつけて」
アズゥルードを越えてすぐにニクスが別行動を切り出す。
途中で分かれる事は想像がついていたので、素直に別れを告げて彼を送り出した。ニクスは気持ちは急ぎつつ、平常通りを装って歩き去って行く。ニクスがパーティから外れる。
ニクスを見送ったリーヴェ達は、香水の都コロに向けて歩きだした。
コロまでの道中を進むリーヴェ達。魔物とは相変わらず遭遇と戦闘を繰り返す。装備効果で経験値を少々盛ったラソンがLv38になった。
ある夜更けに、セレーネはエルピスとふたりでこっそりと野営地を抜け出した。現在の見張り当番はリジェネだ。
あまり遠くへは行かないが、人目につかない場所を選んで自主練をする。エルピスは自主練に参加したり傍観したりと気まぐれだ。
セレーネ「はあっ、えいっ、せやぁっ」
エルピス『ぐあぁぁぁ……』
セレーネ「ちょっとエルピスも協力してよ」
エルピス『ガルルゥ、ガウ』
エルピスは「焦っても意味がない」と言わんばかりにセレーネを嗜めている。ある程度の余裕を保つ妖精と、焦りを覚えてひたすら鍛錬に励むセレーネ。
別にエルピスも鍛錬が嫌いとか、そういう訳ではない。休める時に、休むことも大切だと思っているだけだ。焦った所で新しい閃きが浮かぶ訳でもあるまいし。
エルピスは程々にしろよと言う思いで、伏せた体勢で尾を左右に振った。
セレーネ「もう、いいもん。あたし1人でやる!」
エルピス『グルルル……』
セレーネはスキルの組み合わせをいろいろと試す。綺麗に繋がるかだけでなく、連携速度も意識しながら身体を動かした。今の限界はどの程度だろうか。どれくらい技を繋げられる?
そして、技を連続で出した時の問題点。
セレーネ「はぁ……あたしもリジェネみたいにマナを取り込めたらなぁ」
技を連続して出すのは強力な分燃費が悪い。アイテムにも限りがある。自分で少しでもMP回復できれば、上手く組み込んで息切れを抑えながら戦えるのに。
しかし残念ながら、地上人に直接マナを吸収する術はない。食事やアイテム、休息によっての回復を待つ他はなかった。
属性の付与は妖精がやってくれる。魔法が使えないのも、直接操ったり別の力に変換したりできないからだ。身体に備わっていないのだからマネできるものでもない。
セレーネ(もっと一気に叩き込めたらな)
セレーネ「それにあたしの連続攻撃って、隙が出る割にあまりダメージ与えられないんだよね」
今覚えている連続攻撃は、敵の防御を崩すのに重点をおいている技なので一撃の火力は控えめだ。単発技と違って使用後の僅かな隙も連携に響く。
他のメンバーから見れば十分凄い事だが、彼女自身は満足していなかった。でも、今はそれより……。
セレーネ「やっぱ、あたしも技閃きたい!」
エルピス『ガウ、ガウッ』
戦闘中、ぶっつけ本番で新技が出るのがめっちゃカッコイイんだもん。アレやりたい。エルピスもこれには賛成だった。相棒がここ一番でカッコよく見えるのは気分がいい。
エルピスはゆっくりと立ち上がり歩み寄る。
セレーネ「ん、何? え、ちょっとだけ手伝ってやるって」
エルピス『ガウッ、ガルゥゥーン』
セレーネ「お、やる気だな。良いよ、やろう!」
エルピス『ガルルル、ガウ、ガウッ』
セレーネ「わかった。一戦やったら今日は休むよ……行くよっ」
互いに構え、気合いで開始の合図を読み取って両者とも地を蹴った。
翌日、セレーネが密かに大あくびを掻いていたが皆気づかぬフリをする。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ達は「香水の都 コロ」に辿り着いた。
この町はキルファン同様の建築物の中に、お洒落な街灯型に並ぶ。街灯はガス灯に似た外観だが、ガスを燃料とはしておらずマナ結晶を発光させているものだ。建物の配色は落ち着いた色合いを中心に色とりどりの花壇が至る所にある。
リーヴェ「ここが香水の都か」
リジェネ「いろんな香りがしますね」
セレーネ「でも全然匂いが混ざってないのが不思議だわ」
香水の都と言うだけあって東西南北でそれぞれ香りの種類が異なり、東は花、南は果実、西は樹木、北は石鹸の香りが区画全体を包んでいた。香りのするシャボン玉が常に浮遊しているのも特徴的だ。
香水や匂い袋、アロマに洗剤など、香りと繋がりの深い商品を取り扱う店が多い。これらを求めて遥々訪れる客も少なくなかった。町の各所に描かれた絵は、花を描いたものが多い。
町の中心に立つ時計塔の前まで来た一行。塔の壁面には一番大きな絵が描かれている。
クローデリア「わぁ、見て下さい。綺麗な絵がありますよ~」
リーヴェ「本当だ。これも妖精、か?」
ラソン「コイツは英雄譚に出て来る花の妖精だな」
セレーネ「ラソンが話してくれた、英雄と一緒に旅をしたっていう妖精ね」
一番の目玉となる大きな絵にはラジアスの花畑を背景に花の妖精が描かれていた。花の妖精は小人に蝶に似た美しい羽をもち、頭には綿毛に似た飾りをつけ、花の衣を纏って紛水アクリアの入った透明な壺を持っている。
粉水とは、水でありながら粉のようになっている不思議なモノ。割れると液体らしさを取り戻す粒は怪物を退ける力があるとされる。
花の妖精は「ラジアスの花園」に住んでいると言われるが、その姿を誰も見たことがない。ただ、はるか昔に英雄とともに旅をした存在だと多くのおとぎ話で語られている。
ちなみに花の妖精の力を浴びて育った「ラジアスの花」は、湿原の怪物を退ける際に用いた花粉球の原料だったりするぞ。
リーヴェは名所「花の妖精の壁画」を図鑑に記録した。




