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6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その10

 パーティ系のミニゲームは基本的に駆け引きよりは、覚えゲーの側面が強い。少しやり込めば初心者相手なら簡単に無双できる。

 シンプルなゲーム性のものが多いため、自然とそうなってしまうのだ。

 だからいくら格ゲーの腕がいささか未熟なまな子が相手とはいえ、さすがに勝つのは難しいと思っていたのだが……。


「……ストレート負けってお前。もしかして初心者だったのか?」

「我は三十時間プレイしているのだぞ! その発言はただちに取り消せ!!」

「そうか……。すまんな」

 憐憫れんびんの情がいてしまい、頭まで下げてしまった。

「そんな素直に謝るでないーっ! 我が可哀想な子みたいであろうが!!」

「うんまあ、ぶっちゃけそう思った」

「もう一戦だっ! もう一戦するぞっ!!」

「えー……。もう眠いんだが」

「ククク。逃げるか、卑怯者め」

「はあ、わかったよ。あと一回だけな」

 どうやら『フォーク・ガイド』には色々な種類のミニゲームがあるようだ。もしかしたら今までプレイしたものは、たまたままな子が苦手なものだったのかもしれない。再戦したら多少は骨があるのではないか。

 そんな淡い期待を抱きつつ、俺は第二ラウンドに臨むのだった。




「なぜだ……、なぜ勝てぬっ!?」

 ショックを受けているまな子の手からコントローラーが滑り落ちていく。

「……5勝0敗。ミニゲーム総数だと15対0か?」

「言われなくてもわかっておるわ!」

 まな子の頭ににょっきり角が生えるのを幻視した。

「もういいだろう。いい加減疲れた」

 俺もコントローラーを地面に置いた。

「ぬ~っ……、やはり老いた身ではかなわぬ相手だったか。あと十年若ければまた違う結果になったやもしれぬ」

「いや、俺とさほど年齢変わらないだろ?」

「だったら、コントローラーが悪かったのであろう」

「はいはい、そうだな。コントローラーが悪かったんだよな」

「その言い方、我の黒魔力を暴走させるぞっ!」

 右手の手首をつかみ、口で「ゴォオオオオオ!」と擬音をつける様はまさしく中二。というか下手すれば小学生にすら見えた。やや幼い外見も相まって。

「……そうか。お前のファンはいつもこういう微笑ましい気分になってるんだな。そりゃ人気出るよな」

「くっ、屈辱が……、屈辱が我をさいなむっ!」

 そこでなぜ頭を押さえる……と突っ込んだらまた話が長くなりそうだ。己を突き動かそうとする衝動をぐっと抑制する。


「あー、なんか汗かいちゃったな。俺、もう一度風呂行ってくるわ」

「別に汗臭くはないぞ?」

 言いつつまな子のヤツが四つん這いになり、鼻を近づけてきてすんすんと鳴らした。

 ふわりと彼女の髪からシャンプーの香りが漂ってきた……じゃなくて!?

「なっ、おまっ、ななな!?」

 俺は反射的に跳びのき、無様ぶざまにも尻もちをついた。

 心臓がバクバク音を立てている。

 まな子がきょとんとした顔で首をかしいだ。

「どうした、いきなりひっくり返ったカエルのようになって?」

「おまっ、そっ、そんな無防備なっ」

「ククク。今のそなた、あのしのびの者のようになっているぞ?」

「だっ、だって、そりゃ……。っていうか少しは恥じらいを持てよな!?」

「さっきから何をうろたえておるのだ。仮にもこの冥王を破ったのだから、少しは泰然たいぜんとした態度を心掛けてもらいたいものだな」

 コイツ、まるで危機感がねえ……。本当、絶望的なまでに。


 俺はどうにか自分を落ち着けつつ、噛んで含めるように言い聞かせた。

「なあ、まな子。とりあえず現状を正しく理解しよう」

「む、なんだ改まった調子で」

「今、この防音の密室・・には二人の人間がいる。俺とまな子だ」

 強調した一つの単語――説明するほどに羞恥心を掻き立てられていくから、できればこの時点で俺の思いをみ取ってほしいのだが。

「クローズド・サークルか。ククク、なかなか探偵小説的な空気が漂ってきたな」

「……微妙に意味が違うぞ」

 まな子に婉曲えんきょく的な言い方を解する知的能力はないらしい。俺の賢さの数値が二ぐらい上昇した。


「俺とまな子は、若い男女だ。年も近い」

「そうだな。酒をみ交わして一番楽しい相手であろう」

「ジェネレーションギャップもないしな。ただ残念なことに、俺は酒を飲まない」

「やはりカエルであったか……」

「動物談義は置いておいて。お前の行動は、四つん這いになって俺に近づいてきたというものだ」

「うむ、そうだな」

「四つん這いとは無防備な状態である。手足を床についているからだ。SMものではよく服従のポーズとして使われる」

「SM、服従……ハッ!?」

 ようやく合点がいったのだろう。彼女は弾かれたように肩を跳ねさせ、みるみる顔を赤らめていく。

「……なななっ、何を考えておるそなたは!?」

「いや、多分そこまでハードなことは考えてないけど……。でも、そのだな、ちょっとアレなことだって考えちゃうだろ! 状況的に!!」

「ちょっとアレとはなんだ! わ、我のことをそんな目で見ておったのかそなたは!!」

「仕方ないだろっ、可愛い女の子がふ、二人きりの状況で近づいてきたら……!!」

「な、かっ、かわっ……!?」

 ……ヤバイ予感がした。

このまま論争を繰り広げていったら、どんどんドツボにハマっていくという。


「ふっ、風呂入ってくるな! お前も早く自分の部屋に戻れよっ!!」

 俺はまな子の返事も聞かず、大急ぎで部屋を飛び出した。

 一息吐き、汗で濡れた額を拭う。これは今の問答でかいたものだ。


 やれやれ。

 どうして俺はもうちょっと、言葉を選べなかったのか。いやまあ、どんな言い方をしても気まずい空気になったと思うが。


 ……冷たいシャワーでも浴びて頭を冷やそう。

 そう決めて俺は風呂場へ向かった。




 脱衣所から出てきた俺は、すっかり目が冴えてしまっていた。

 こりゃ寝れそうにない。

 規則正しい生活が好きらしい夢咲には怒られそうな気もするが、このまま朝までゲームをしようか。実況をってもいいかもしれない。ストックはまあ、あるに越したことはないからな。


 そんなことを考えて、部屋の戸を開けた瞬間。

「テメェコラッ、どうして我のことをつかみやがったッ!? そうやって人の足を引っ張ることしか考えてねぇヤツがいるとクソゲーになんだよ放せやゴルァッッッ!!!!!!」

 すさまじい怒声がドアの隙間から肌を刺すように響いてきた。

 ……邪魔をしない方がよさそうだ。

 俺はそっとドアを閉じ、居間へと向かった。

 今日はソファで寝よう。夏だし、風邪かぜをひくこともないだろう。


 触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近寄らず。

 時には義務教育で教わる知識も役に立つものである。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【次回予告】


ハルネ「ハルネね、駅弁って好きなんだ」

生流「地域ごとに特色があって、美味いヤツも多いもんな」

ハルネ「だよね! だからね、いつかね、駅弁食べ歩きの旅とかしたいなって」

生流「そりゃ楽しそうだな。まあ俺はあんまり大食漢たいしょくかんじゃないから、一日三色が限界だけど……」

ハルネ「大丈夫だよ! ハルネが食べてあげるから」

生流「……え? 俺も一緒に行くのか?」

ハルネ「え、あ、その……。ダメ、かな?」

生流「いや、別に構わないぞ。ハルネと旅に出るのも楽しそうだ」

ハルネ「うんっ、うん! 一緒にお出かけしようね!」


生流「次回、『6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その11』」

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