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6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その5

※前話のテキストを一部変更しました


【旧】

『みーは、小井豆こいづ 未衣みいというのですよー。気軽に未衣と呼んでほしいのですよ』


【新】

『みーは、小井豆こいず 未衣みいというのですよー。気軽にコイズミと呼んでほしいのですよ』

「……りげなくニックネームを押し付けるのな」

『ふふふー、お相手との距離を詰めるテクニックなのですー』

「そうだな、テクニカルだな」

 口に出したら台無しだと思うが……。


※他、呼び名など


※主な登場人物をアップデートしました


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「コイズミサンは、ミーのモデレーターをしてくれてるんデスヨ」

『うわー、あっさりバラしちゃうんですかー』

 不満気な声がスマホから聞こえてきた。ただ間延びした発声のせいであまり怒の感情が表に出ていない。聞いていると委縮するより眠気に誘われる。


 まあ、それはさて置き。

「……モデレーターって、なんだ?」

『え、知らないのですかー?』

「そういえばまだ教えていマセンデシタネ」

 夢咲はつまんでいたクッキーを置いて説明してくれた。


「モデレーターというのは、ゲーム実況者に限らずライブ配信に欠かせない存在なんデスヨ。視聴人数が多くなると、デスケド」

「具体的に何をしてくれるんだ?」

「主な仕事はコメントの管理デスネ。配信のコメントって、多くは動画に対してのものなんデスケド、たまに度を越した誹謗中傷や荒らしとか、アンチよりのものが流れてくることがあるんデスヨ」

「まあ、動画のコメントって匿名での発言だしな。安全圏あんぜんけんからだと態度がデカくなるヤツっているんだよな」

「そういうコメントをタイムアウトやブロックで対応したりするんデス。あとは配信のルールを定期的に書き込んだり、サムネを作成したりするんデス」

『地味だけどとっても大切なお仕事なのですよー。縁の下の力持ちなのですー』

「自分で言うなよ……」


 思わずため息を吐いた後、ふと気になって訊いた。

「なあ、お世話になるって……。俺、コイツにモデレーター任せなきゃならんのか?」

『むー、不満そうですねー』

「別に他の方を選んでもいいデスケド、ミーはコイズミサンをお勧めしマスヨ」

「……なんでだ?」

「長い間お任せしてマスケド、仕事が正確で速いんデス。コイズミサン以上のモデレーターを見つけるのはちょっと難しいと思いマスヨ」

『えへへー、ありがとうございますなのですー』

 この、のんびりを体現化したようなヤツがそんな逸材だとは思えないが……。


「まあ、夢咲が言うんだからそうなのか……」

『あ、みーにお任せしてもらえるのですかー?』

「まあ、他にアテがあるわけじゃないし。でも今のところ、配信予定はないぞ?」

『うーん、そうなのですかー。夏休み中で暇だから、もうちょっとお仕事したいんですけどねー』


「今の内に自由研究でも終わらせておけばいいんじゃないか?」

『……自由研究ー?』

 首を傾げるコイズミ。

「もう終わってるのか?」

『いえー。そんなもの最初からないですけどー』

「そうなのか。最近の小、中学校じゃ、もうそういうことしないんだな」

『……あのー、勘違いなさってるようなのですけど』

「勘違いって?」

『みーは大学生なのですよー』

 一瞬、聞いた単語の意味が理解できなかった。

 ダイガクセイ? どこの天体だろうか、と。

 しかし長いが俺に冷静さを与え、正しい理解力をもたらした。

 大学生――義務教育を終え、基本的には高校生の次になるものだっけ。

「……おいくつ?」

『女性に年齢を訊いちゃダメなのですよー』

声に出して笑われた。

 少なくともコイズミは18歳以上だろう。

 しかし見た目も声、どちらも俺からすれば小学生――少し上方修正しても中学生ぐらいにしか思えない。


「合法ロリって、本当にいるんだなあ」

『本人を前にしてそんなことをしみじみと言える神経は、逆に尊敬するのですよー』

「あ、す、すまんすまん。安心してくれ、俺はイエスロリータ、ノータッチの紳士的な精神は持ち合わせている」

『ちょっと今日の放課後、体育館裏に来てくださいなのですー』

「まっ、まさかっ、こっ、こくはっ……」

お友達・・・と一緒に待ってるのですよー』

 絶えず笑みを浮かべて言うコイズミ。

 しかしその額に青い血管が浮いているように見えた。

「……なあ、コイズミ。平和主義は尊い。そうは思わないか?」

『時には武力介入もやむなしだと思うのですよ?』

「争いは何も生まない。人が傷つき、尊い命が失われるだけだ」

『戦争によって様々な技術が生まれて、医療技術も発達したのです。昨今の兵器の擬人化やそれをモチーフにしたアニメやゲーム作品も、戦争がなければ生まれなかったのですー。というかエンタメ作品において、戦争は切っても切り離せないものではないですかー?』

 コイツ……、オタクにとって痛いところを的確に突いてきやがる――!?

「……くっ、化け狸のたぐいだったか」

『たぬちゃんは好きなのですー』

 その笑みからは勝者の余裕を感じた。俺は白旗にくるまってふて寝することにする。


『あらら、ねちゃったのですー?』

「スゴイデスネ。あの屁理屈弁舌なんでもござれの生流サンから一本とるなんて」

「俺、そんな風に思われてたのか!?」

「ククク。所詮しょせんは口先だけの男というわけか」

「……まな子お前、後でゲームでコテンパンにしてやるからな」

「そっ、その名で呼ぶでない! 我は魔光、冥界を支配――」

「あー、はいはい。わかったから」

「ぬぬぬ~っ、そっちこそ我の靴を舐めることになるぞ! せいぜい首を洗って待っておくのだな!!」

「……靴を舐めるのに首を洗うとはこれいかに?」

「普通は斬首が目的デスヨネ」

 思わず冷めた声音で夢咲と語ってしまった。

 まな子は「バカにしおってー!」と頭を噴火させている。かぶっていたフードが外れてしまうぐらいに。


『みんな、仲がいいのですねー』

 日当たりのいい縁側で茶でもしばいてそうな感じでコイズミは言った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【次回予告】


ハルネ「……痛恨のミスしちゃったよ」

真古都「でも途中まではええ内容やったで。次の大会までしっかり練習すれば、きっと今度こそ勝てるはずや」

ハルネ「うう、でも……あんなミス普段ならしないのに。もうちょっと大会前の調整をしっかりしておけば……」

生流「負のスパイラルって一度ハマると、なかなか抜け出せないよな」

真古都「そういう時って、気持ちを切り替えるんが難しいんよなあ」


ハルネ「……次回『6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その6』」


生流「それでも仕事をしっかりやり切るのは偉いな……」

真古都「プロやからねえ。さすがやわ」

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