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6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その4

「これでオシマイデス!」

 夢咲のキャラが魔光のキャラに攻撃を叩き込み、場外へ吹っ飛ばす。

 最後のストックを失った魔光のキャラは復活できずゲームセットとなり、リザルト画面が表示される。

「ぬぅううっ。こ、この我が敗北しただと!?」

「残念デシタネ。ミーの方が一枚上手デシタ」


「……いや、実力は拮抗してただろ。この結果はただの時の運だ」

 俺が突っ込むと、夢咲はぷくっと頬を膨らませてこっちを見やってきた。

「横槍とは、いい趣味してマスネ。人の勝利に難癖つけて楽しいデスカ?」

「俺は難癖つけたのは結果じゃなくて、お前の増長に対してだよ」


「そうまでコケにされては、黙っちゃいられないデス」

 夢咲は指頭しとうの先で俺をロックオンしてきた。

「勝負デス。今日こそユーの戦績に黒星をつけさせてもらいマスヨ」

「別に構わんが。魔光はそれでいいのか?」

「ふっ、敵を知り己を知れば百戦危うからず。今はそなた等の戦いを見物し、いずれつかむ白星のかてとしてやろう」

「……じゃあコントローラーを貸してくれ」

「おおう。魔光サンの謎呪文を華麗にかわしましたね」

「なっ、謎呪文言うでない!」

 我を忘れてキャンキャン吠えてる魔光はしばらく話が通じそうになかったので、その手からコントローラーを頂戴し、夢咲の横に腰を下ろした。

「さて。何本先取だ?」

「一本デス。今はノリにノってるので、その勢いのまま生流サンを倒してみせます!!」

「なるほど、まあ頑張れ」

「くっ……、その余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の態度、今に絶望に変えてやりマス!」


 かくしてキャラセレクトをし、ゲームを開始しようとした矢先。

 急に夢咲のスマホが着信音を発しだした。

「オゥ、ちょっと待っててクダサイ」

 スマホを手に取った夢咲は「ああ……」と声を出し、なぜか髪を整え始めた。


 ……なぜに電話で身だしなみを整える?

 俺はつつつっと魔光の傍に行き、小声で訊いた。

「な、なあ、夢咲って彼氏とかいるのか?」

「む? いや、そんな話は聞いたことないが……」

 こそこそと話す俺達を気にかけず、夢咲はスマホを操作し回線を繋いだようだった。


「ハイ、もしもし?」

『もしもしなのですー』

 今回はワイヤレスイヤホンを繋いでおらず、しかもスピーカーモードで電話しているようでこちらにも向こうの声が聞こえていた。

 ほわほわした可愛い女の子の声だった。小学生か中学生ぐらいだろうか? まだ成長途上の微笑ましい声音だ。

 勝手に電話の内容を聞いていいものか惑いはあったが、夢咲がわざわざ身だしなみを整えていたことが気になってしまい、この場を離れたくなかった。


『ゆめちゃんは、いまー、お時間大丈夫でしたかー?』

「そもそも実況中デシタラ、電話に出たりしマセンヨ」

『あははー、ゆめちゃんは根っからの凝り性系の実況者ですもんねー。だけどもうちょっと配信を増やしてくれたらー、みーは嬉しいのですよー?』

「ユーは他の人からもお仕事をもらってるんじゃないデスカ?」

『でもー、やっぱりみーを最初にひろってくれたゆめちゃんのおしごとをもっとしたいなーって。みーはお金のためだけじゃなくてー、大好きなゲーム実況者の方をサポートしたいなーって、このお仕事を始めたのですからー』

「そんなコイズミサンに朗報デスヨ」

『え、なんなのでしょうか?』

「ミーが弟子をとったので、今度からその方の配信もユーに任せたいのです」

 俺は思わず魔光を見やった。彼女はコクコクと二回うなずいた。


「この方が、ミーの弟子デスヨ」

 そう言って夢咲はスマホの画面をこちらに向けてきた。

 ビデオ通話していたのだろう、画面には少女が一人映っていた。


 顔立ちからは若いというより、幼さがまだ前面に出ている。見た感じからは10~14歳ぐらいの印象を受けた。

 柔和にゅうわな笑みを浮かべた日本人形みたいな女の子だ。前髪はきれいに切り揃えられていて、瞳はアーモンド状。頬はややふっくらしているが、太っているという感じはあまりしない。小顔だからだろうか。

 肌は雪のように白く、触れたら解けてしまうんじゃないかというぐらいだ。


 その子はのほほんとした調子で俺に話しかけてきた。

『こんにちはなのですー、新しい実況者さん』

「お、おう、こんにち……は?」

『あ、今はこんばんはのお時間ですねー。では改めて、こんばんはなのですー』

「……こんばんは」

 なんだろう、話してるとめっちゃ調子が狂う。この子のペースに持ってかれてしまうというか、なんというか……。


『お名前を教えてもらってもいいでしょうかー?』

「あ、えっと俺は……」

『あ、こういう時は訊いた方から名乗るのが礼儀でしたねー。申し訳ありませんなのです』

「……おう」

 やっべぇ、コイツめっちゃめんどい……。

 会話し始めて三十秒足らずで俺は疲労を感じてきていた。


『みーは、小井豆こいず 未衣みいというのですよー。気軽にコイズミと呼んでほしいのですよ』

「……りげなくニックネームを押し付けるのな」

『ふふふー、お相手との距離を詰めるテクニックなのですー』

「そうだな、テクニカルだな」

 口に出したら台無しだと思うが……。


「……俺は、えーっと」

 こういう場合、本名と実況者の名前、どっちを名乗ればいいのだろう。

 しばし考えた後、今の自分の格好を思い出した。

 男性用のパジャマを着ていて、女装していない。

 じゃあ本名の方にしておくべきだろう。コイツがどういうヤツなのかも、まだよくわかっていないんだし……。

「あ、この方はセリカサンデスヨ」

「ちょっ、おまっ!?」

『せりーかちゃん、知ってるのですよー。……でも、せりーかちゃんって女の子だったような気がするのですけどー?』

「ああ、それはこの生流サンが女装してるからデスヨ」

 光の速さで全て暴露される間、俺は衝撃のあまり意味もなく口を開閉させていた。

 やがてショックから解放された俺は、噛みつく勢いで夢咲を問い詰めた。


「なっ、なにあっさりバラしてるんだよ!?」

「いやだって、これからお世話になる方に素性を隠するのは不誠実デスヨ」

「お、お世話になるって……コイツなんなんだよ?」

『ふっふっふー、みーはですねー……』

 何やら含み笑いっぽい声を漏らし、長い長い間を置いた後。

『何をしているのでしょうかー?』

 こちらに問いかけてきた。

「……知るかよ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【次回予告】


コイズミ「どうもー、コイズミなのですー」

生流「……え、次回予告でもコイツの相手しなきゃいけないのか?」

コイズミ「うわー、そういう反応されると傷ついちゃうのですー」

生流「ならせめて、もうちょっと傷ついた風を装えよ」

コイズミ「みーは役者じゃないのですよー」


生流「……次回、『6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その5』」


コイズミ「この後、一緒に食事とかどうですかー?」

生流「勘弁してくれよ。俺がロリなお前を連れ回してたら、妙な注目を集めるだろ?」

コイズミ「せりーかちゃんになれば、万事解決なのですよー」

生流「……あと俺、お前と一緒にいて間が持つ気がしないし」

コイズミ「えー、そんなことないのですよー」

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