5章Side Story 『ザ・ランセ』イベント後 ~夢咲和花 & 明智まな子~ その2
「おっと、そろそろ今宵の宴の終焉を迎える時が来たようだな」
「あ、本当デスネ。では、名残惜しいデスガお別れのお時間デス。お相手はミルクと」
「冥界の王、魔光!」
「デシター」
「また紅の夜に会おうぞ!」
「バイバイデス!」
配信ソフトを停止させ、夢咲はほっと息を吐いた。
「ふー、お疲れ様デス」
「ククク、我と和花女史ならば生配信の一つや二つ、小国を亡ぼすよりも容易いわ」
「そりゃまあ、戦争よりはよっぽど楽デスヨ。あ、あとミーは平和主義なので」
「謙遜せずともよい、王国・ミルクメロンの国王よ」
「あのー、勝手に国王にしないでもらえマスカ? せめて女王様で……」
「我が盟友が、安穏とした日々に満足できるわけなかろう」
「いえいえ。ミーは毎年初詣と七夕の日には、『今年も世界が平和でありますように』と『チャンネル登録者が100万人増えますように』って願ってるんデスヨ?」
「100万人だと? ククク、足りぬな。その程度の贄では我の飢えと渇きは満たされぬぞ!」
「確かまな子サンのチャンネル登録者って、配下っていう設定じゃありマセンデシタッケ?」
「設定とか言うなあ!!」
「HAHAHA! あ、お風呂沸かしておいたので、一緒に入りマセンカ?」
「フッ、いいだろう。盟友同士、互いに背中の穢れを流し合うのもまた一興よ」
「あと魔光サンのフルーツがどれぐらい熟したかも見たいデスシ」
「わっ、わわわわわっ、我の豊穣なる丘陵などどうでもよかろうっ!?」
「ンフフー、恥ずかしがる姿も可愛いデスヨ」
「や、やめろぉ……、指をくねくねさせながら迫ってくるなあ」
「大丈夫デス、怖くないデスヨー。天井のシミを数えてる間に終わりマスカラ」
「あ、ううっ、それ、ダメなのだぁ……。変になるからぁ……」
「いざっ、お覚悟デス!」
「やっ、やぁっ……ああぁあああああアアアアアアンンンッッッ!!」
防音室の中。まな子の甘い絶叫と、夢咲の活き活きした声がしばらくの間、響き渡った。
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カポーン。
まな子は涙目になって胸を押さえ、弱々しい声で漏らした。
「ううっ、もうお嫁にいけない……」
「まな子サンは冥王なんだから、元から嫁ぎはしないデショウ」
と言って夢咲は桶に溜めたお湯をまな子にかけた。
目を閉じたまな子の顔上部を、髪が覆う。
「前髪、結構伸びてマスヨ。そろそろ切った方がいいんじゃないデスカ?」
「フッ、髪は魔力の源であるからな。王たる者、できうる限り伸ばして力を蓄えねばならんのだ」
「髪さえ伸ばせば強くなれるなんて、魔力の神髄が聞いて呆れマスヨ……」
「何を言う。人間なぞ髪に命が宿ると信じておるではないか」
「いえそれ女性限定デスシ。そもそも事実無根で過言、単なる美容の妄信者の戯言でしかないデスカラ」
「そう申す割には、和花女史の髪はきれいではないか」
振り向いたまな子は夢咲の髪を梳くように触る。
「だ、だって、イベントとか出る時に不潔だっていう印象を持たれたくないじゃないデスカ」
「そなた、地毛でほとんど手入れなどしておらぬのだろう? 羨ましい限りだ」
「まな子サン、梅雨とか大嫌いデスもんね」
「雷鳴や雨音は好ましいのだが、いかんせん髪にかかった呪いがな……。遺伝ゆえに諦めろと父上と母上は言うが、子々孫々の呪いを背負わせるとは神が憎らしくて仕方ないわ」
「……もしかして神を目の敵にしてるのって、それが原因デスカ?」
「バカ者。我がそのようなくだらぬ理由だけで戦を仕掛けるわけがなかろう」
「動機の一つにはなってるんじゃないデスカ……」
「神を捕らえた暁には、髪の呪いを解き、サラサラヘアーとやらを我が物にするのだ!!」
「野望が……、野望がささやかすぎマス」
「さて、湯船にでも浸かって英気を養うとするか」
「あっ、待ってクダサイ。そのまま入ったら、髪が湯船についちゃいマスヨ」
「むむっ、そうであったな」
「ちょっと失礼して……」
夢咲はバスタオルで手早くまな子の髪をまとめた。
「おお、相変わらず見事な早業である」
「まな子サンがよく泊まりにきてくださるので、すっかり人のをやるのも慣れちゃいマシタ」
「む? あの弟子とは背中を流し合わんのか?」
「えっと、せい――セリカサンとは、その……」
まさか男だと言えるわけもなく、夢咲は脳内ハムスターを鞭打って走らせ、回し車のカラカラという音を響かせた。
「……や、やっぱり師匠と弟子では、盟友のようにはいかないというか」
「クククククッ。なるほど、絆の結びつきが足りぬというわけだな。まあ、我と和花女史のように生涯の共闘を誓い合うよな者とはなかなか巡り合えぬよなぁ!」
上機嫌になったまな子はすっかり納得したようだった。
夢咲は密かにほっと胸を撫で下ろす。
「時に、和花女史よ」
「はっ、はい、なんデショウカ?」
「その弟子……、セリカといったか。その者は、どのような感じなのだ?」
「どのような……というと?」
「フッ、決まっておろう。電脳の宴を催す王に足る存在なのか、ということだ」
補足された説明は難解極まる暗号のようであったが、すぐさま夢咲は解して答える。
「それは、動画をご覧になればわかるのでは?」
逆質問――しかしその口ぶりを聞き、まな子は「クックック」と弾んだ声を漏らした。
「なるほど。いずれ我とも、相見える器になる、というわけか」
「どうデショウネ」
浴室に束の間の沈黙が訪れる。音もなく漂う湯気が一瞬、二人の間を遮った。
まな子は口を開いて歯を見せ、怪しく光らせた目で夢咲を見やり、言った。
「まあ、よい。いずれにせよ、再び我を楽しませてくれれば――な」
「……ええ。わたしを見つけてくれたことは、感謝してますよ」
夢咲はあらゆる感情を凝縮し、それ等をありったけ詰め込んでモザイクアートにしたような表情で――笑った。
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この物語はフィクションです。
あなたの有する知識のいくつかはこの世界では禁忌に触れるアイテムとなります。
また、ここで得た知識は半分以上がガラクタです。
現実で使用する際はあらかじめ性能をお確かめのうえ、ご使用ください。
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真古都「今日はお便りのコーナーや」
夢咲「……また架空のデスカ?」
真古都「いや、実際に届いたのやで」
夢咲「オゥ、そうなんデスカ」
真古都「6章楽しみにしてます、やって」
夢咲「……ワォ」
真古都「次回、5章Side Story 『ザ・ランセ』イベント後 ~『エデン』の少女達~」
夢咲「どうでもいいんデスケド、この手の話題の時はミーと真古都サンセットなんデスネ」
真古都「こういうのは板付いたら、なかなか変えられへんさかいね」
夢咲「まあ、真古都サンとのトークはエンジョイできマスカラ、こちらとしてはありがたいデス」
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ストーリーの予定(仮)
・5章Side Story 『ザ・ランセ』イベント後 ~『エデン』の少女達~
・5章Side Story 『ザ・ランセ』イベント後 ~宇折井 芽育~
・5章Side Story 『ザ・ランセ』イベント後 ~宇折井 芽育 & ???~
・第三部:6章 女装ゲーム実況者の俺、24時間配信に挑む(仮)




