TIPS やがて彼と彼女は邂逅する Epilogue&More 後編
時刻は午後七時を過ぎ、日の長い夏とはいえすでに夜の帳は下りていた。
昼間に容赦ない太陽の光を受けていたアスファルトがむわっとした熱気を放っているため、夜になっても屋外はなお蒸し暑い。
街灯もまばらなやや暗い河川敷。
そこを海翔と小夏は並んで歩いている。二人は進行先である歩行者用道路と高水敷とを間を置き、視線を往復させている。
ふと小夏は海翔を見やり、じっとサングラスに視線を注いだ。
「海翔さまはちゃんと見えてるんですか? そんな黒いサングラスをつけていて」
「ああ。これぁ実は暗視用なんだよ」
縁を挟むように持って、上下させる海翔。心なしか鼻の穴が少し膨らんだ。
「……グラスは黒いのに?」
「もちろんだ。小夏の間抜け面もよく見えてるぞ」
「へえ、間抜けねえ」
一語一語をイヤに間延びさせるように言った後、打って変わったはきはきした調子で小夏は訊いた。
「もう一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あんだよ」
「あの方に関する手掛かりは、何かお持ちで?」
「……何もないぞ」
小夏はおおげさにため息を吐いて肩を竦めた。
「まったく、間抜けですね海翔さまは」
「いやっ、おどれもおんなじ状態だろうが!?」
「わたくしはどちらかといえば、安楽椅子な立場なので」
「……単に引きこもりがちってだけじゃね?」
「そうとも言いますね」
海翔は頭痛に耐えるように頭を押さえた。
「このまま闇雲に彷徨ったって見つかりっこないだろうし、どうすっかなあ……」
「どうしましょうか。手分けとかします?」
「バカか。夜の街を女一人で歩かせられるわけねえだろ」
「わー、海翔さまカッコイイですわー」
「おどれ、ワレのこと圧倒的にバカにしてるだろ?」
「いえいえ。海翔さまも尊敬する先輩ですから」
「ったく、圧倒的に調子がいいヤツめ……、ん?」
はたと海翔は進行先の橋の上に、人影を見つけた。二人が並んで、何かを話している。
一人は海翔よりもさらに図体のデカい、クマのような野郎。もう一人は中肉中背の男だ。
何やら二人で会話していた後。やにわに大男が身をのけぞらせたかと思うと、突然大声で叫びだした。
「大金を手に入れて、一生遊んで暮らしたぁああいッ!」
海翔達はきょとんとして思わず立ち止まってしまった。
「……なんだアレ?」
「さあ……」
それから間もなく、もう一人が橋の欄干から身を乗り出して叫んだ。
「セリカちゃんが世界で一番、大好きだべぇえええええッ!」
あまり呂律の回っていない酔っぱらいの叫びだ。
まともに聞くだけ損するのが常だが。
「……なあ、小夏。もしかして」
「まさか。ただのファンでしょう?」
海翔達は真顔になって叫んだ人物を直視していた。
「万が一ってこともあるじゃねえか。一応訊いてみようぜ」
「……そうですね」
二人はうなずき合って、男達の元へ近づいていく。
近づくにつれて、夜闇の中に男達の姿が浮かび上がってくる。
暗夜でも十分に顔が見える距離で足を止め、海翔は男達に声をかけた。
「なあ、おどれ等――」
途端、電流が走ったように男達は飛び上がって振り返った。
酔っぱらいの二人組は、清心と球磨川という男達だった。
清心は中肉中背のどことなく生真面目そうな者、球磨川は熊のような巨漢だ。
ただ、海翔も小夏も面識はない。
それは清心達も同じはずだが、それにしてはリアクションがデカすぎる。
「なっ……。せっ、せっ、先輩っ、こっ、この人って!?」
「あ、ああ、や、や、やッ……なんて言ってる場合かッ!! 逃げるぞッ!!」
「あっ、ちょっ、置いていかんでくれぇえええええッ!!」
球磨川がまず駆け出し、慌てふためいた様子の清心が後を追う。
二人の姿はあっという間に見えなくなった。
呆気にとられた様子の海翔が呟いた。
「……なんだったんだ?」
「多分、怖かったんじゃないでしょうか。海翔さまの強面が」
「んな圧倒的に失礼な……」
「人間の第一印象は見た目が九割らしいですわよ?」
「だからって、顔はどうしようもねえだろうがよ」
「どう、どう。落ち着いてください」
「おどれは火に油を注ぐ天才だな?」
二人が話し合ってるところへ、誰かが駆けてくる。
海翔達がそれに気付いて見やった途端。
彼等はほぼ同時に目を丸くした。
「……圧倒的奇跡」
「ですわね」
その人物の姿が街灯の下に照らされ、二人の目に映る。
その人物とは他でもない、田斎丹生流だった。
すっかりめかしこんで、セリカの格好になっている。所作の一つ一つも心なしか女の子っぽくなっている。
全力で走ってきたのか、息が切れかけてヘロヘロになっている。それでもなお足を止めることなく、彼は海翔達の元へ駆けてくる。
俯きかけていた顔を持ち上げた生流も、二人に気付いた。
息を弾ませて立ち止まった彼は、膝に手をついてセリカの声で尋ねた。
「あ、あの……。この近くで、わたしの、セリカの名前を呼んだ方はいらっしゃいませんでしたかっ!?」
とてつもなく必死な様子だった。まるで迷子になった子供のように。
海翔は表情を変えぬままセリカをじっと見やった後に訊いた。
「……そんなことを知ってどうする?」
「わたしのっ……、こんなわたしのことを、呼んでくださった人がいたんですッ!!」
返答ではなく、訴え――心のどん底からの必死な――だった。
しばしの沈黙。その間に生流の表情には焦燥感が滲み出てくる。
やがて海人は聞きようによっては酷く冷たい声で言った。
「おどれのやろうとしてることは、圧倒的な見当違いもいいところだ」
「見当違い……!?」
ショックとも憤りとも聞こえる叫びを上げた生流に、海人はうなずいてみせて続けた。
「ゲーム実況者ってのは、一方的にファンに励まされるような存在じゃねえだろ?」
息を呑んだ生流の顔から、焦りや怒りが一瞬の間に抜け落ちていく。
「それぐらいのこと、おどれならわかってんだろ――生流」
「どうして、俺の名前を……」
驚愕に呆然としている生流の前に進み出て、微笑を浮かべた小夏が口を開いた。
「お初目にかかります、生流さま。わたくしはゲーム実況者の――」
TO BE CONTINUED...
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この物語はフィクションです。
あなたの有する知識のいくつかはこの世界では禁忌に触れるアイテムとなります。
また、ここで得た知識は半分以上がガラクタです。
現実で使用する際はあらかじめ性能をお確かめのうえ、ご使用ください。
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小夏「みなさま、こんにちは。この度自己紹介の役目を仰せつかりました、白――」
海翔「圧倒的感謝ッッッ!!!!!!」
小夏「わっ!? ど、どうされたんですの?」
海翔「新人にこんな重大な役目を任せてくれたんだ、礼を言わんといかんだろ」
小夏「……|(別にそこまで重要なものでもないと思いますけど)」
海翔「そういや皆のモン、挨拶がまだだったな。こんチクショウ! ワレは赤――」
小夏「あっ、もう時間らしいですわ。サブタイトルお願いできます?」
海翔「忙しねえな……。次回、5章Side Story 『ザ・ランセ』イベント後 ~夢咲和花 & 明智まな子~ その1」
小夏「……次も生流さま出ないのですから、実質TIPSと変わりないのでは?」
海翔「しっ、下手なこと言ったら次出してもらえねえかもしれんだろ!?」
小夏「神経質ですわね、海翔さまは」
海翔「ったく……え、もう締め? んじゃあ皆のモン、バイ明日!」
小夏「バイバイまた明日の略らしいですわ。まあ、明日は出ませんけどね」




