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TIPS やがて彼と彼女は邂逅する Epilogue&More 前編

 出口の前に来た小夏を、「あの」と呼び止める者がいた。

 見やると、その者は小夏がさきほどかばった少女だった。

「ありがとう、助けてくれて」

「いえ、お気になさらず。むしろ『天変チー』をプレイする口実ができてラッキーでしたわ」

「えっ、あ、そう……なの」


 戸惑う少女の顔を、小夏は覗き込み。

「ねえ。一つ訊いてもよろしくて?」

 と問いかけた。

「ええ、いいけど……」


「どうしてチミはわざわざ、あんなおっかなそうな方々に対戦を申し込んだのかしら?」

 途端、少女の顔がかっと赤くなった。

「そ、それは、その……」

「申せない理由がおありで?」

「あっ、う……、……………」

 赤面した少女は口ごもってしまう。


 小夏はすっと目を細め、少女の顔を眺め回した後。

 ふいに視線を落とし、不自然に固く膨らんだ左胸ぽけっとを見やった。


「『天変チー』の筐体は、試合を動画化してスマホに登録することができますわよね?」

 言いつつ小夏は背伸びして、少女の胸ポケットをコツンと叩いた。彼女はビクッと体を震わせる。

「失礼ながら、チミがレコードモードで先程の試合をダウンロードするのを偶然見てしまいましたの」

「そ、そう」

 少女はあからさまに目を逸らす。

 小夏は少女の視線を追いかけるように移動しつつ続ける。

「一般のプレイヤーはわざわざ負け試合をダウンロードするようなことはしませんわ。勝利の甘美な快感を味わうためにゲームをしているのですから、苦渋を思い出すことなどしたくはありませんものね」

 少女は逃げ場を失った獲物のように視線を頼りなく左右に彷徨わせる。

 そんな彼女に、小夏は嗜虐的な愉悦の笑みを浮かべた。


「そんな試合を記録するのは、よほどの負けず嫌いか、あるいはそのゲームに命を懸けているプロゲーマー。もしくは――」

 一度言葉を切り、小夏の目は少女の視線をついに捕らえ。

 彼女の頬を指先でつうっと撫でて、自身の声を相手の心に流し込もうとするかのような調子で言った。

「どんなプレイシーンをもエンターテインメントに生まれ変わらせる存在、とか」

 くすりと笑い声を零して小夏は訊いた。

「ねえ、それってどんな人かわかる?」

「……あ、アンタ、もしかして」

 少女は目を見開き、眼前の少女の顔をまじまじと見やる。

 小夏はゆるりと首を振った。


「いくらわたくしを眺めても、真実はつかめませんわ」

「……何よ、それ」

「だって。もう一人のわたくし・・・・は、この世界にはいませんもの」

 小夏は踵を地面につけ、少女に背を向けて歩き出し。

 ふと足を止めて、肩越しに振り返って。

「ねえ、チミにもそんな存在はいるかしら?」

「アタシ、は……」

 少女は暗い表情をうつむけて、黙り込む。

 小夏は目を伏せ気味にして、鼻から軽く息を吐き出した。

「認めるのは難しいですわね。ごめんなさい、不躾ぶしつけなことを訊いてしまって」

「……いえ」

「またいつか、お会いできる日が来ることを楽しみにしておりますわ」

 そう告げて小夏は前を向き、もう振り向くことなく店を出た。




 小夏が夜空の下へ出てすぐ、またぞろ声をかけてくる者がいた。

「やっぱりワレが出るまでもなかったか」

 小夏はわざとらしく肩を竦めて振り返った。

「覗き見とは趣味が悪いですわね、海翔さま」


 すすけた壁に、一人の男が背中を預けて立っていた。

 かなり大柄で、デカいサングラスをかけている。漂わせている雰囲気もかなり剣呑けんのんで、見るからにヤのつく人種に見えてしまう。

 だが着ているものはジャージにTシャツ、カーゴパンツとかなりラフだ。手には布手袋をつけている。


「今回も圧倒的な勝利だったじゃねえか」

「無駄話をしている暇はないのでしょう? 早く捜索に戻りませんこと」

「ケッ、自分がサボってクセに……。圧倒的に自分勝手なヤツだぜ」

「ふふ、ごめんなさい。きちんと息抜きできましたし、これからは真面目に探しますわ」

「ホントおどれ・・・はゲーム以外のことになるととんと集中力が続かねえな」

「海翔さまのように不眠不休で耐久出来る程、わたくしは体力ありませんので」

「あくまでも集中力がないのは認める気ねえのな……」


 ペロっと舌を出した

「さあ、参りましょう。先輩の恩義に報いるためにも」

「あっ、ちょっと待ってくれ」

 海翔は走り出そうとした小夏を止めてからワイヤレスイヤホンを耳に装着し、スマホで電話をかけた。

「もしもし、モグ姉? ……いや、まだ目的の人物は見つかってねえが、ひとまずサボってた小夏はとっ捕まえた」

「とっ捕まえたなんて、穏やかじゃない表現ですわね」

 海翔は小夏を無視して通話先の者と話を続ける。


「すまねえな。普段から口酸っぱくグループじゃなくてコミュニティだって言ってるワレ自身が、みんなを巻き込むようなことしちまって。……ああ、圧倒的感謝だ。ただ、くれぐれも女を一人で歩かせるんじゃねえぞ。……おう。先輩のことも、頼んだぞ」

 海翔は通話を切り、ワイヤレスイヤホンを外した。


「ベンザの皆さんはなんと?」

「ベンザじゃねえ、BENSベンズだ!」

「ああ、そうでしたわね」

 わざとらしくぽんと手を合わせる小夏に、海翔はいささか忌々(いまいま)しそうに息を吐いて言った。


「協力してくれるってよ。ったく、アイツ等のお人よしは圧倒的に異常だぜ」

「そう言ってる海翔さま自身が、先輩の頼みを引き受けてるお人よしのくせに」

「うっせえな。ほら、とっとと行くぞ」

「あっ、待ってくださいですの!」

 ずんずん歩き出した海人の後を、小夏は駆け足で追った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この物語はフィクションです。

あなたの有する知識のいくつかはこの世界では禁忌に触れるアイテムとなります。

また、ここで得た知識は半分以上がガラクタです。

現実で使用する際はあらかじめ性能をお確かめのうえ、ご使用ください。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


セリカ「また前編ですか……」

宇折井「こ、今回は生流殿ではなく、せ、セリカ嬢でござるのか?」

セリカ「あ、はい。よろしくお願いしますね、宇折井さん」

宇折井「ぶっふぉおおおおおっ、優しい声音が身に心に沁みわたわた渡るるるるるぅうううううううううううッ!!」

セリカ「鼻血って本当に、噴水みたいに出ることってあるんですね……」

宇折井「……せ、拙者はここまででござる。セリカ嬢、次回予告を……」


セリカ「ええと、それじゃあ。次回、TIPS やがて彼と彼女は邂逅する Epilogue&More 後編です」


宇折井「ここで命尽き果てるなら……、本望で、ござ……る」

 ――パタリ

セリカ「ダメですよ、宇折井さん。今作のお侍さん枠は、ロマンさんなんですから」

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