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TIPS やがて彼と彼女は邂逅する 後編 その1

「なあなあ」

 不良の一人、ベリーショートヘアの銀色のイヤーカフをつけた――無論学校では没収されないように外している――が仲間に訊いた。

「『天変チー』って、どんなルールなん?」

「はあ!? オマエ、今まで何も知らねーでてくちゃんのプレイ見てたのか!?」

「あっははは、そうとも言うのん」

「いや、そうとしか言わねーからっ!」


 ソイツ――黒縁眼鏡をかけた男はため息を吐きながら解説した。


「『天変チー』ってーのは、いわゆる落ち物パズルってジャンルだ」

「え、あれってパズルなん?」

「ああ、落ち物パズルは名前の通り、パズルゲームの一種だ。落ちてきたブロックを決まった形に置いて消し、置いて消しを繰り返して、耐久時間を競うのがもっともオーソドックスなルールってーこと。さすがにオマエも『テトリス』ぐらいは知ってんだろ?」

「あの四角くていろんな形のを平らに置いて消していくヤツ?」

「ああ。その『テトリス』が落ち物パズルの元祖がんそってーわけ」

「へえ」

「そこから様々な派生作品が作られてったのさ。特に『コラムス』ってーゲームは一つのブロックを消すことでまた他のブロックが消えると得点が加算される、『連鎖』という概念を生み出したんだ。これは画期的なシステムとして人々に受け入れられ、のちの作品に大きな影響を与えてるってーこと」


 相槌あいづちを打って聞いていたイヤーカフは、話が終わると同時に黒縁眼鏡に言った。

「なんか詳しいなん?」

「こんぐらい、一般常識の範疇じゃねーの?」

 スチャッと眼鏡を軽く持ち上げた彼の鼻は、若干膨らんでいた。


「じゃあ『天変チー』もブロックを消していけばいいん?」

「ところがそー単純じゃねー」

 黒縁眼鏡が筐体きょうたいを指す。

 すでに対戦は開始され、画面にはゲームの様子が表示されていた。


「落ち物パズルってーのは一つのフィールドでパズルを完成させていくんだが、『天変チー』は一人のプレイヤーに対して三つ与えられているのが基本だ。設定で数は変えられるけどな」


「え、じゃあ三つの場所でパズルできるん?」

「そーゆーこった」

「三つもあるの、何か意味あるん?」

「もちろんある。フィールドの状態はさ、プレイしてないもんもいつでも確認できるようになってんだろ? ほら、見比べてみろよ」


 イヤーカフは言われた通り、手久井の肩越しに三つのステージを見比べてみた。

「……あれ、なんか背景の街の……天気? が違うん」

「そーだな。んで、ブロックはどんなデザインだぁ」

「太陽とか、傘とか雲に、雪だるま……天気予報みたいなんな」

「それぞれの天気に適した場所で消せば、より高いポイントが稼げるってーわけ」

「ポイントを稼ぐとどうなるん?」

「ポイントを稼いだ時点で、その得点に応じたオジャ魔天使を相手が操作してるフィールドに送ることができるってーシステムさ」

 と黒縁眼鏡が言うと同時に、片方のフィールドに意地悪そうな顔の天使のブロックが一気に振ってきた。


「あれが天使なん?」

「ああ……、てくちゃんヤベーな」

「ええっ!? てくちゃんって、強いんじゃないん!?」

「世界ランクにも上の方にいるぐらいの猛者だ、そこらのカジュアル勢にはぜってー負けるはずがねえ」

「かじゅ……?」

「とにかくめっちゃツエーんだよ」

「じゃあ、なんで押されてるん?」

「そりゃー……」


 一瞬、黒縁眼鏡は唇をぎゅっと強く噛んだ。その先を口にすることをこばむように。


 その直後、仲間達がどよめきの声を上げた。

「はぁあああああっ!? うっ、ウッソだろぉおおおおお!?」

「てっ、てくちゃんがカッコよく一本取られちまっただとぉおおおおおッ!?!?!?」

「ないわぁー、こんなのありえんわぁー」


 ぽかんとした顔のイヤーカフが黒縁眼鏡に言う。

「……てくちゃん、負けちゃったん?」

「まだ一本残ってるさ。対戦は終わっっちゃーない」

 しかし黒縁眼鏡の表情は曇天どんてんのようだった。


 初見のイヤーカフにも、誰がどのフィールドで操作しているかさえわかれば、小夏と手久井のどちらが優勢で、また劣勢なのかは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


 圧倒的にブロックを積み上げるスピードが違うのだ。

 いや、画面でなくとも操作する手元を見ても実力の差は歴然だ。


 手久井がガチャガチャとレバーとボタンを荒々しく操作しているのに対し。

 小夏は目にも止まらぬ素早い操作ながらも、音はかすかに響くに過ぎないどれだけの力を込めれば、画面上の結果を己がままにできるかを完璧に理解しているゆえのプレイングだ、そう黒縁眼鏡は推測した。


 ふいに周囲のゲーム音に軽快な音楽が一つ混じる。


「あ、ごめんなさいですの。電話がかかってきたようですわ」

 そう言いつつ小夏は片手・・でレバーとボタンを操作しながら、空いた手でポケットからワイヤレスイヤホンをポシェットから取り出して耳につけた。それ等は並行して行われており、どちらも慣れた手つきでごく自然な動作だった。


 その間、小夏のフィールドはほぼ乱れなく今まで通りブロックが積み上げられ、パズルの完成――正しくは『連鎖を組む』という、相手への攻撃を整える準備――を進めていた。


 ゲームを続行したまま、小夏は電話に出た。

「どちらさまでしょうか? ……あ、海翔かいとさま。すみません、今ちょっと手が離せなくて――え、大体察したと? さすがですね。いえ、決してバカにしてるわけでは……今の時間?」


 小夏は上体をひねりつつ壁掛け時計の方を見やり。

あろうことか、ゲーム画面から完全に――目を離した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この物語はフィクションです。

あなたの有する知識のいくつかはこの世界では禁忌に触れるアイテムとなります。

また、ここで得た知識は半分以上がガラクタです。

現実で使用する際はあらかじめ性能をお確かめのうえ、ご使用ください。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


イヤーカフ「なんでうち等がここにいるん?」

黒縁眼鏡「メインキャラばかり出してると、ネタが尽きっからだろ?」

イヤーカフ「名前すら決まってないぽっと出のキャラに次回予告を任せるとか、人望なさすぎるんな」

黒縁眼鏡「しかも後編で終わらせるって言っときながら『その1』だもんなー。3までには終わらせるっつーぅてるけど、怪しいもんだ」


イヤーカフ「次回、TIPS やがて彼と彼女は邂逅する 後編 その2(予定)なのな」


黒縁眼鏡「つーか作者のヤツ、ノーナイプロットがぶっ壊れてきてるせいで今回のTIPSのサブタイを変えるとか言いだしてやがったぞ」

イヤーカフ「救いようがないのんな……」

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