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TIPS やがて彼と彼女は邂逅する 中編

「大勢で寄ってたかって……。恥ずかしくないんですの?」

 ワンピースとパーティドレスを組み合わせたような、不思議な格好をした女の子がいた。

 栗色の髪にツーサイドアップ。脳天からぴょんと突き出たアホ毛が、クーラーの風に揺られている。


 腕を組んで仁王立ちしている姿は怒りの意思表示かもしれない。

 しかし悲しいかな、そこには迫力や威圧感の欠片もない。

 なぜなら。


「……え、中学生か?」

「いや、下手したら小学生かもしれねえぞ」

 ものすごく小柄だったからだ。


 呆気あっけにとられた不良の内の一人が我に返り、へらへらした様子で女の子に話しかけた。

「よぉ、お嬢ちゃん。子供は五時になったら帰らなきゃダメじゃねえかよぉ」

「なっ……!? こっ、子供じゃないですの! 小夏は立派なレディですのッ!!」

「はぁ、レディ? ぶぁっはっはっはっ、冗談はその髪だけにしとけよ!」

「そうだぜぇ、ベイビー。おうちに帰っておふくろのおっぱいでも吸わせてもらうんだな」

 手久井の言葉に不良達が一斉に笑い出す。


 散々バカにされた女の子――小夏の顔がみるみる赤くなり、脳天から蒸気を盛んに吹き出し始める。

「もーっ、怒ったですの! 勝負ですわ、勝負なさいなこの無礼者共!!」

 大人の小指程の人差し指を小夏は手久井に突きつける。

 いきなりの勝負の申し込みに、手久井はぶはははっ吹き出す。

「勝負ぅ? オレ様とお嬢ちゃんが?」

「ええ、そう申しましたの」

「おいおい、オレ様とお嬢ちゃんが何を競うってんだよ? おはじきか、しりとりか?」

「いい加減にしなさいな! 小夏はこう見えても20歳なんですのよ!」

「ギャーッハッハッハ! 20歳ぃ? 見えねえ、見えねーよッ!!」

「むっきー! 絶対に、絶対にコテンパンにしてさしあげますわっ!!」

「だからさぁ、お嬢ちゃんがオレ様に勝てることなんてあるわけねーだろ」

「ところがどっこい、ございますのよ」


 小夏が手久井の背後を指差す。

 そこには彼がさっきまでやっていたゲームの筐体きょうたいがあった。

「『天変チー』――そのゲームで勝負なさいな!」

「……あ? オメェ、マジで言ってんの?」

 トサカに来たのか、手久井の声がマジトーンになる。

 しかし小夏は一向に動じる気配もなく。

「ええ、マジですわ」

 泰然とした様子で応じる。

 手久井の額に青筋がピキリと入った。

「へー……。面白ぇじゃねーの。いいぜ、やってやらぁ」


 手久井の一言に、にわかに彼等の仲間が沸き立った。

「おいおいおいおいぃいいいいい、マジかよてくちゃんッ! そんなJSにマジんなっちゃあさすがに大人気ねえぜぇえええええ!!」

「バーカ、小娘相手でもマジになれる、そういうキョージ? 持ってからテクちゃんはかっけぇええええええんだよッ!」

「うわぁー、可哀想だわぁー。マジなてくちゃん相手じゃ

「もういい加減、そこの方々は少し黙っていてくださる? 話が進まないので」

 にっこりと笑って――しかし声に静謐な怒りを滲ませ――小夏は手久井の仲間達にお願い・・・をした。


その瞬間。

手久井は心臓を氷の矢で射止められたかのように、一瞬生きている心地を失った。


 ……何かいる・・。確信を抱いた。

 小夏の背後、そこに何か……。


 だが手久井の目には何も映っておらず、言うまでもなく彼等は違法な薬物には触れたことすらない。

 しかし感じた。

 それは肉食獣のように思えた。

 牙を剥き、鋭い視線で獲物を捉え、隙を見せた瞬間に一撃で仕留める……猛獣。


 なおも小夏を揶揄しようとする仲間を手久井は手で制した。

「……わかった、勝負を受けようじゃねぇか」

 一転して神妙な態度になった手久井に、仲間は怪訝な表情を浮かべる。


 そんな彼に、小夏は手を合わせて頬にやり、にこりと笑って言った。

「はい。何戦勝負にいたしましょうか?」

「一本だ」

 マジな顔をした手久井は、指を一本立てて念を押して告げた。

「恨みっこなしの、一本勝負。これに勝ったヤツが、負けたヤツになんでも命令できるってのはどうだ?」

 それを聞いた仲間の一人が、手久井に問う。

「お、おいおい。いいのかよぉ、てくちゃん。『天変チー』は運要素もあるんだぜぇええ?」

「だからこそ、いいわけよ」

「……へ?」


 手久井は直感的に感じ取っていた。

 小夏――この自称合法ロリが、マジでヤバいヤツだと。


 手久井の焦燥を感じ取ったのか、小夏はくすりと笑って言った。

「よろしいですわ。では、早速始めましょうか」

「ああ……」

 彼は額に油汗をびっしりと浮かべていた。

 すでに勝負の結果は、予感していた。

 ――オレ様は、この小娘に負ける。


 しかしだからといって、逃げるわけにもいかない。

 卑怯な策をろうするわけにもいかない。

 手久井という男もまた、一人のゲーマーだからである。


「わたくしはここの席を使わせていただきますね」

 店内に『天変チー』の筐体は三つある。この決して広いとは言えない店内に三つもあることから、このゲームが優遇されていることがうかがえる。

 二つは手久井達がいる側に、もう一つはついさっき彼に敗北した少女が使用していた向かい側である。


 小夏は手久井達のいる側の席を選んで腰かけた。

 それは試合会場の選択権を与えられているにもかかわらず、あえて相手のホームであるアウェーな場所を選ぶようなものだ。

 この時になってようやく手久井の仲間達も小夏に対して違和感を抱き始めていた。

 コイツはただの小娘じゃない。何かおかしいと。


 小夏の傍にいることに、彼等は少しずつ恐怖感を覚え始めていた。

 だが席の選択程度でギャーギャー騒いでいたら敵に舐められる。アタマである手久井の顔に泥を塗らぬためにも、彼等はぐっとその恐怖を飲みこんだ。ただ、小夏が筐体の前に座る前に、そこから少し距離を取っていた。


 代わりにさっき負けた少女が小夏の傍に寄り、話しかけた。

「……なんかごめん、迷惑かけちゃって」

「お気になさらないで。チミ(・・)のせいじゃありませんわ」

 上品な笑みを浮かべて、小夏はゆるりとかぶりを振る。

 ゆえにその二人称らしき二文字が浮いて聞こえた。

「……チミ?」

「あ、申し訳ありません。……ええと、あなた様?」

「どっちでもいいけど……」

「ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げる小夏。そんなことでお礼を言われると思っていなかったので少女は少し戸惑った。


「え、えっと。それで、勝算は?」

「まあ、万が一にも負けることはないと思いますけど」

 さらっと、自慢するでもなく平然と言ってのけた小夏は、少し表情を曇らせ。

「とはいえ、あまり時間はかけたくはないですね」

 少女から視線を外し、ある方を見やった。


 『ミラータワー』というそれなりに古いゲームの筐体――周囲が鏡張りになっていて妙に目立っている――の向こう。そこにあるシンプルなデザインの壁掛け時計を見ているのだろうと少女は見当をつけた。

 現在は午後六時四十八分。




 それから二分後の五十分に、ゲームは始まった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この物語はフィクションです。

あなたの有する知識のいくつかはこの世界では禁忌に触れるアイテムとなります。

また、ここで得た知識は半分以上がガラクタです。

現実で使用する際はあらかじめ性能をお確かめのうえ、ご使用ください。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


魔光「クックック。我にかかればいかなる料理も混沌の味と化すッ!」

佳代「へー。混沌って、どんな味するワケ?」

魔光「ふっ。ひとたび口にすれば、天にも昇る味が口の中に広がりたちまち己が理想郷へと至るだろう!」

佳代「おお、なんかめっちゃまんじって気がする!」

魔光「事実、これを口にしたある男はもう一週間以上もこの地に帰って来てないからな!」

佳代「……え、それマジヤバくね?」


魔光「次回、TIPS やがて彼と彼女は邂逅する 後編(予定)であるぞ!」


佳代「ってかさー。今回の話マジマジばっか出て、なんか芸パクられたみたいでマジムカつくんだケドー」

魔光「……そなた、関心の移り変わりが節操ないな」

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