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TIPS やがて彼と彼女は邂逅する 前編

 半分の顔を隠した月が見降ろす、夜の街。

 繁華街から少し外れたところにある、少し古びた個人経営のゲームセンター。普段は地元の人々が学校や仕事帰りに寄っていく、繁盛はしていないが閑古鳥とも無縁な場所だ。

 名は『エイコーン』。

 店主の桐森きりもり 長栄ながえは今年で還暦を迎えたがまだまだ元気で、生涯現役の四字をモットーに毎日働いている。


 店のゲームの品ぞろえは店舗の大きさもさほど広くないこともあり、そこまで種類は豊富ではない。だが定番ものと古き良きものをそろえていて、チェーン店では遊べない機体とも出会うことができる。店内は禁煙で桐森が常に掃除を欠かさないため清潔で、いつ来ても気持ちいい空間で遊ぶことができる。ゆえに常連はこの店を愛し、また長栄も彼等がゲームに夢中になっている姿を見るのが好きだった。


 しかし、今日はいつもと様子が違った。


「ギャーッハッハッハ! どうよオレ様のテクはッ!!」

 店内に『エイコーン』らしかぬ下品な笑い声が響く。それに続いて大勢の男女がやかましさを競うように奇声を上げる。

「ぉおおおおっ、スッゲェエエエエエすよぉっ、手久井てくいの兄貴ッッッ!! さぁっすが全国91位ッ!!」

「かっけぇえええええ、てくちゃんチョォオオオオオかっけぇえええええ!」

「やっぱいかすわぁー。てくちゃんいかしちゃってるわぁーッ!」

「いやぁ、それほどでも――あるぜッ!!」

 拍手喝采に口笛と、あらゆる人体の発する音という音が彼等の間で飛び交う。


 今時こんなヤツいんのかよとツッコミたくなるような不良が十人弱。

 学ラン不良がブレザーの制服に着替えたらこうなるだろうという感じの連中。髪型は妙にこざっぱりしている。もしも黙って立っていたら、こんなノリのヤツ等だとはきっと思われない。普段は真面目な生徒に擬態しているのだろう――と桐森は思った。


 手久井は巨体から立ち上がり、向かい側へとまわった。

「今のは、えーっと店内対戦だから……、お、めっちゃカワイコじゃねえか」

 そこにはセーラー服の少女がビクッと体を震わせる。金髪ツインテに碧眼と、西洋人形のようなという例えがぴったりの容姿だった。

 手久井の顔がたちまちニヤついていく。


「よぉ、カワイコちゃんよぉ」

「……なに?」

 キッと睨みつける少女。


 予想だにしなかった反応に手久井はちょっと面食らったが、すぐに立ち直って元のチャラいノリで話しかける。

「キミ強いねえ。しかも可愛いし、オレ様、今ケッコーときめいちゃってるぜ」

「お生憎あいにく様。ジブンは今、すごく不快なので」

「そりゃまあ、負けてゴキゲンになるやつぁそうそういないだろ。でもそんなイヤな気分、オレ様がきれいさっぱり忘れさせてやるぜ」

「おっ、手久井の兄貴、まさかのプロポーズ!?」

「やーん、てくちゃんにはあーしがいるじゃんよぉ!」

「バーカ、オマエなんかキープに決まってんだろ」


 勝手に盛り上がっている手久井共を睥睨へいげいし、少女は鼻を鳴らした。

 そして鞄を手に持ち、立ち去ろうとする。その行く先を手久井がはばむ。

「待てよ」

「なに?」

「勝手にどっか行くんじゃねーよ。アンタぁ今、オレ様のもんなんだからよ」

「……は?」

 眉根を寄せる少女に顔を近づけ、手久井は低い声で言う。

「アンタぁ、オレ様に負けたんだからよ。もうオレ様の所有物なのよぉ」

「バッカじゃない? ゲームの勝敗でそんなこと決まるわけないでしょ」


 押し通ろうとする少女を手久井が力づくで捕まえる。

「ちょっ、放してよ!」

「あんま逆らうんじゃねえぞ。オレ様のオヤジは、国会議員やってんだぜ。しかもオレ様はツキッターのフォロワーが1万人いるんだ。晒されたら困るんじゃねーの?」

「そうだぜぇええ、てくちゃんはスッゲェんだからよぉッ!」

「ゲームも強いし、かっけぇええええええんだぜっ、てくちゃんはよぉおお!!」

「大人しくてくちゃんのもんになっちゃえよぉー、そうすりゃ楽になれるし気持ちよくなれるよぉー」

「だっ、誰がこんなヤツのものなんかに……」


 言いかけた少女の顎を、ぐいっと手久井が持ち上げる。

「やっぱカワイイなあ、オメェ」

「にゃっ、にゃにお……」

 頬を押さえつけられた少女は、上手く言葉を発することができない。

 その様を周囲のヤツ等がゲラゲラと声を上げて笑う。カッ、と少女の顔が赤らんでいく。


 手久井は少女の顔をじっと見つめ、唇を舐めて口角を釣り上げる。

「なっ、カワイコちゃんよぉ。キスって知ってっか?」

「きっ、きふ!?」

「その様子じゃあ、初めてのようだな」

 手久井は唇を割って歯を覗かせ。

「オレ様がプレゼントしてやるぜ、ファーストキスをなぁ!」

「やっ、やふぁっ、やめっ……」

 涙目で首を振ろうとする少女の顔を固定し、手久井が顔を近づけていく――


 その時。


「――おやめさないですの」

 やんわりとした――しかし確固とした意志の通っている――声。


「ああん?」

 手久井は興が削がれたように冷めた表情になり、顔を上げた。

 そこには――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この物語はフィクションです。

あなたの有する知識のいくつかはこの世界では禁忌に触れるアイテムとなります。

また、ここで得た知識は半分以上がガラクタです。

現実で使用する際はあらかじめ性能をお確かめのうえ、ご使用ください。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


愛衣「前編って、初めてなのだ」

真古都「作者はん、前回の清心はんのTIPSが長くなりすぎたんをえらく反省したみたいでな。今度は同じてつを踏まんようにって自戒の意味で前編にしたみたいや」

愛衣「じゃあ、もし後編で終わらなかったらどうするのだ?」

真古都「……さらっといつものナンバリングに戻すんやないかな」

愛衣「相変わらず計画性がないのだ……」


真古都「次回、TIPS やがて彼と彼女は邂逅する 後編(予定)」


愛衣「あたしもまたお話に出たいぞ」

真古都「うちよりよっぽど出番もらっとるやないの」

愛衣「うっ……。な、なんかごめんなのだ」

真古都「ええんよ、気にせんとき……。ふふ……」

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