TIPS There are two souls in the human body. ~Side : Kiyoshi~ その7
学会後の打ち上げが終わり、清心と球磨川は飲み屋から夜の街に出た。
ネオンの明かり、酔っぱらい、あらゆる店の客引き。
この三つで構成された区画。そこが彼等のいる場所だ。
アルコールのせいでふらつく足取りで、彼等はその場から去る。
客引きは球磨川の巨体が放つ威圧感のおかげで寄ってこない。一度ぶつかってきた酔っぱらいがケンカを吹っ掛けようとしてきたが、いかつい顔つきを見た瞬間に一気に顔を青ざめさせて脱兎のごとく逃げていった。せっかく金を払って酔い心地を楽しんでいただろうに悪いことをしたな、と球磨川は頭を掻いた。
しかしそれ等全ての事象が、今の清心にとってはどうでもいいことだった。
学会で聞いた二つの魂、二つの人格、体の内にいるかもしれない正体不明の存在……。
それに、明日からはまた仕事が始まる。
いつも通りの毎日。
「……先輩」
「ん、なんだ?」
「明日は、お客さん来るべかな?」
なんだかんだ言って酔っぱらっていた清心は、ろれつの回らない口調、しかもタメで先輩に訊く。
球磨川は特に気にすることもなく答える。
「さあな」
幅広い肩を竦めた彼の表情は、ネオンの明かりでも照らせないぐらいに暗かった。
その顔を見た清心は酔いで赤らんだ顔を俯けた。
「……もう、無理じゃねえべか」
「なら辞めればいいい」
そっけない返答に、清心は耳まで真っ赤に染めて言った。
「辞められるわけねえべ! 所長に後は任せろって言ったんだべからなッ!!」
「明日がどうなるかもわからん職場だ。辞めたところで誰も責めやしねえよ」
「だとしてもっ、オラァぜってぇやめねえだ! こんな爪弾きモンを拾ってくれたんあん人のためにも……!!」
球磨川は懸命にまくし立てる清心には取り合わず、都会のくすんだ夜空を見上げて独り言ちるように呟いた。
「……今日の源先生の話は衝撃的だった」
「えっと……ああ、まあな」
急な話題転換に戸惑いつつも、清心はうなずいて相槌を打った。
球磨川は視線を空の何か――雲がかった月か、それとも雲そのものか、あるいはぼやけた星か――を見つつ続ける。
「人格が二つ……あるいはそれ以上を誰もが有している。つまり文字通り、急に人が変わってもおかしくないわけだ」
「……何が言いたいんだべか?」
空から清心へと、闇を吸ったかのような眼を向けて、球磨川は言った。
「たとえば普段は温厚な人が、急に殺人衝動を抱いてもおかしくないってことだよ」
清心はさっと空に帳が落ちるように顔を青ざめさせ、ひん剥いた瞳で球磨川を見やった。
「おっ、おまんまさか……、所長を疑っとるべか!?」
「あくまでも、可能性の話だ。しかし考えてもみろ」
球磨川はソーセージのようにぶっとい指を三本伸ばし、強調するような声のトーンで切り出した。
「四ヶ月だぞ。四ヶ月も調査したにもかかわらず、あの子の無実を証明する証拠が一切見つかっていない。日本の警察は世間では散々叩かれているが、そこまでバカじゃない。捜査上の見落としや見当違いは世界的に見ても比較的少ない方だ。真面目で勤勉な国民性を象徴するようにな」
「なあ、先輩」
清心は瞳に疑念を浮かべ、ギロリと睨むような目つきになり言った。
「所長を黒だと睨んだうえで、病院さ継いだか?」
「……どういうことだ?」
「もしかして、警察さに頼まれたんでねえか? 所長を犯人だって決定づける証拠を病院に潜り込んで探し出せって」
球磨川は否定も肯定もせず、黙り込んでいる。
清心は人差し指を彼に突きつけ、がなり立てた。
「所長さ疑ってんなら、あんたの方こそどっか行っちまえ! 詩貝メンタルはオラァ一人で守ってみせらぁ!!」
周囲の喧騒がぴたりとやむ。酔っぱらいのケンカだと思って見物していた者も、ただならぬ空気を感じてそそくさと立ち去って行った。
周囲の状況の変化など気にも留めず、清心は球磨川を睨み続ける。
球磨川はその目の奥に、燃ゆる魂を象徴する熱意を見て取った。
やがて彼はふっと表情を和らげて、肩から力を抜いた。
「……認めよう」
「あ……?」
「オマエは、オレの相棒にふさわしいってな」
清心は怪訝な表情で首を傾げる。
「相棒って……」
「決まってるだろう。詩貝メンタルを守るための、相棒だよ」
「……ああ、そういうことべか。最初から、そう言ってくれりゃよかったべよ」
「それぐらい会話の流れでわかりそうなもんだが」
「んな読心術があんなら精神科医なんていらねえべさ」
「ふっ、言われてみればそうだな」
球磨川はうんと伸びをした。爽やかな目覚めの時のように、思い切り。
「なんか海行きてえな」
「海? なんでべよ」
「人目をはばからずに思いっきり何か叫びたい気分なんだよ」
清心は悪代官のように笑って、声を潜めて言った。
「あるべよ」
「んあ?」
「この近くにちょうど、うってつけの場所が」
「……そうなのか?」
驚いた顔の球磨川に、清心は特異そうにうなずいてみせる。
「ああ。オラァ大学さこの近くだったから知ってんだ」
「そりゃいい。教えてくれねえか?」
「ほい来た。任せるべ」
二人はそのうってつけの場所とやらへと向かい始めた。
都会の汚れた空。
それにも負けじと己の姿をそのままに保ち続ける、白衣の月が、二人の姿を見降ろしていた。
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この物語はフィクションです。
あなたの有する知識のいくつかはこの世界では禁忌に触れるアイテムとなります。
また、ここで得た知識は半分以上がガラクタです。
現実で使用する際はあらかじめ性能をお確かめのうえ、ご使用ください。
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夢咲「実況者の中には独自の挨拶を持っている人がいるんデスヨ」
生流「ああ、あれだろ。オーソドックスなのだと、『どうも○○です』とか『ご視聴ありがとうございました。チャンネル登録とツキッターのフォローお願いします』ってやつ」
夢咲「最初、次回予告の挨拶をそれ系のものにしようと思ったけどやめたみたいデス」
生流「投稿サイトの規約にひっかかるからか?」
夢咲「いえ。作者サン、T●itterで小説の宣伝してないから……」
生流「ああ……」
夢咲「次回、TIPS 月夜の下で機械仕掛けの少女は笑う ~Side :Kaito~(仮題)デス」
生流「いい加減、それぐらいの宣伝はすればいいのにな」
夢咲「本当デスヨネ」




