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TIPS There are two souls in the human body. ~Side : Kiyoshi~ その5

「どうかしたかね?」

 至里の声に、清心の意識は現実に引き戻された。

「あ、いえ……。えっと、源先生はつまり、二つの同一の目的を持つプログラムを同時に働かせようとするとバグが発生してしまうから、単一の方が優れているということでしょうか?」

「ああ。言い換えるなら、二国の法律を同時に守らせようとするものだな」

 偶然にも至里は清心の学生時代の友人と同じ例えを口にした。


 周囲の人間の中には首を傾げている者もいたが、至里は清心をじっと見やりながら話を続ける。

「つまり人間が人工知能に劣る――あるいは異なるタイプのを持つ――原因が、人格の数にあるかもしれない、ということだ」

「なるほど。でも、それは仮説で仮説を組み立てただけですよね?」

「そうだ。しかし仮説を延々と数珠じゅず繋ぎにしていくことで、真実を得られる可能性もある」


 清心はその様を妄想のキャンバスにえがいてみた。

 仮説を一本の細い糸に通していく。その糸の正体は判然としないが、切れることなく確かにそこにある。

 やがてそれがきれいなネックレスにでもなれば、確かに見てくれはいいかもしれないと彼は思った。


「もう一つの根拠を話そう」

 と言うと同時に、スクリーン上の紙が次のものに取り換えられた。合図を送っている様子はなかった。段々と係官もタイミングが飲みこめてきたのかもしれないと清心は考えたが、すぐに意識は紙面の方へ奪われた。


 そこに描かれていたものは数学のグラフのような整合性はなく、かといって芸術性があるかと言われれば素直にうなずけない。

 どうにか言葉を尽くして表現するなら、それは気象予報図と魔法陣を足して二で割ったようなものだった。

 使われている言語はドイツ語だ。何やら記号のようなものが用いられているが、それが廃屋の壁を伝うつたのようにあちこちに好き勝手に伸びていってる。その軌跡が魔法陣的な紋様を描いているように見えなくもない。


 至里が喉の調子を整えるように咳払いをすると、清心はビクッと肩を跳ねさせて意識をステージ上に戻した。

「これだけでは何がなんだか、よくわからないだろう。もう少しマクロな視点から見てみるとする」

 すかさず係官が紙を取り換える。今度は一目で何かわかった。人体の全身だ。その中を埋めるように、さっきの予報図+魔法陣がところ狭しと描かれている。


「今はまだ理解できないかもしれない。しかしこの紙面に描かれているものは医学の世界に革命を起こす貴重な資料である。別に見たことを光栄に思う必要はない。だが頭の片隅にでもとどめておくべきだと私は思う。精神医学の世界に骨の一片でもうずめるつもりがあるのなら」


 誰もが唾を飲みこむなり、息を呑むなりした。

 清心も例外ではなく、ゾクゾクと何かが皮膚の裏から這い出して来るのを感じた。


「君達は誰一人例外なく、行動主義心理学という言葉を知っているだろう。中には専門に研究している者もいるかもしれない」

 清心がぎこちない作り笑いを浮かべていると、横で球磨川がため息を吐き、挙手しながら至里に訊いた。

「確かアメリカの心理学者であるジョン・ワトソンが創始した学問で、抽象的な意識ではなくて客観的に見ることのできる行動を観察し、それを予測、よい方向へと導くことを目的としている――でしたかね?」

「ああ。近年ではマーケティング業界や、各国の警察組織などがプロファイリング操作に応用しているものだ


 至里は球磨川の方を見やり、無感動な声で訊いた。

「ところで君は?」

「オレ……あ、いや、私は球磨川くまがわ 修造しゅうぞうです。詩貝うたがいメンタルクリニックの所長代理をしております」


 途端、会場内の空気が一変した。

清心は自分と球磨川に、針のような視線を向けられているような気がした。

わざとらしいひそひそ声で会場内が占められていく。


「おい、詩貝メンタルって……」

「4月にニュースになってたところだよな?」

「確か患者を薬で……」


 その好機と嫌悪が入り混じった空気に清心が耐え切れなくなった頃、至里は「ああ」と呟いて言った。

「そうか、ミソラ君のところか」

「ご存じで?」

「大学時代の後輩だった。なかなか優秀で、私も色々と学ばせてもらったものだ。最近は連絡が取れていないが、そうか。病院を開いていたのか」


 会場内が一気に静まり返る。

「……あの、もしかして所長の近況、まったく知らないんですか?」

 呆気にとられた様子で清心が訊くと、あっさりと至里はうなずいた。

「大学を出てから色々と忙しくてな。まあ、わざわざアメリカに来て飛び級で大学に入るほど意欲的で勤勉だった彼女のことだ。何も心配する必要はないと思っていたし、それは正しかったようだ」

 聴衆の目が白いものになったり、嘲笑するような視線を向けられていたが、至里はまったく気づいた様子もなく一人でうなずいていた。


 ふいに投影機の前の係官が立ち上がり、至里に向かって自身のつけている腕時計を指してみせた。

 それを見た至里はうなずいて、聴衆に向かって言った。

「時間が迫ってきたようだ。まだ真理の一端を明かしたに過ぎないが、そろそろ今回の題目の結論に話を進めたいと思う」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この物語はフィクションです。

実際の医学・科学的な根拠に基づいて書かれているわけではないことをご承知ください。


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魔光「クックック。我が覇道を阻む天の使いをこの魔の力によって打ち砕かん!」

宇折井「……え、あの、な、なんで拙者と明智嬢が次回予告のた、担当なんでござるか?」

まな子「コラ、忍者の者! 我を真名まなで呼ぶでない! 表記まで変わってしまったでないか!!」


宇折井「え、えっと。次回、TIPS There are two souls in the human body. ~Side : Kiyoshi~ その6」


まな子「我は冥界の王、魔光であるぞ! 早く戻すのだ!!」

宇折井「せ、拙者に言われてもこまっ、困るでござる~!」

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