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5章EX かつての仲間と、プロゲーマー時代の己が土俵で対決する その2

 セリカとしてTPSを実況プレイしていて、少しいつもとプレイスタイルが変化してるなと思う部分があった。

 ゲーム実況しているから当たり前と言えば当たり前なのだが、どうも見せ場を作ろうと意識してしまうのだ。


 例えば、いつもなら真っ先に捨てるハンドガンを温存したり、相手が射撃しているところにわざわざ突っ込んで行ったり、車で連続キルに挑戦したり。


 バカげたことをしている。どれも上手く切り抜けられれば奇跡、それだけで実況者によっては動画一本分のネタになるものだ。

 ところが俺はさっきからほとんどのチャレンジを成功させていた。

 レクリエーションモードゆえに他のプレイヤーが気が緩んでいるのは、あると思う。

 それでも中には本気でプレイに来ている猛者もいる。成功率約80%は以上だ。


 加えてさっきから妙な感覚を覚えていた。

 相手の行動がいつもより少しだけ正確に予測できるような気がしていた。

 未来が見える、というレベルのものではない。

 しかしそれに限りなく近い読みができている。


 卓球は徒競走をしながらチェスをしているようなものだ、というのを聞いたことがある。

 シューティングゲームや格ゲーもそれに近いものがある。

 予測できぬアクシデントは日常茶飯事。その起きた事態にどう対応するかという部分でプレイヤーの腕が問われる。

 言うなればアクティブな頭脳戦。

 それに勝ち抜くためには、地頭のよさと共に柔軟性や反射神経、指先の運動能力。あとは運が求められる。


 様々な要素を絶えず複合して活用するため、大抵のプレイヤーは読みを無意識化で行っている場合が多い。言い換えるならば、自分の思考を言語化せず反射的に行動を決定しているというわけだ。


 いちいち真面目に考えていては、間に合わない。

 特に凄腕の相手との交戦中に浮かぶ言葉などせいぜい「ヤバッ」とか「チクショウ」とか「よっしゃあ!」が関の山である。語彙力はマイナスに振り切り、感嘆詞の大量生産工場と化している。

自分と同等、それ以上の相手だった場合は言葉すら浮かばない。全神経を集中力の抽出に一極化してしまっている。


 しかし今は、全ての思考が言語以上の明瞭な映像となって頭に浮かぶ。

 次の展開が容易に想像でき、そのためにどう行動すればいいかほぼ一瞬で結論を出すことができる。それに自然と指がついてくる。

 そんなチート的な脳内に反して、見られることを意識して体がオーバーなアクションを取りたがる。レーシングゲームでつい体を傾けてしまう人のように。


 かなり不思議な状態だと自分でも思う。

 だけどかつてないスーパープレイの連続で心が浮き立ち、その原因究明はしなくてもいいかなと思った。


 ただまあ失敗する時はド派手に失敗するし、単に運がいいだけなのかもしれない。

 すっかり夢中になってプレイしている内に大分時間が過ぎていた。

 まさかこの状態で一時間もプレイしてしまうとは思わなかった。

 純粋にシューティングゲームをプレイするだけなら二十四時間耐久でもどうにかやり切れそうな気がするが、しゃべりながらだと喉がキツイ。砂漠にでもなったかのようにからっからだ。


「そろそろ時間なので、最後にレート戦をして終わりたいと思います」


 レート戦とは、高い順位でゲームを終えることで、レートというポイントを増やしていくモードである。順位が低ければ、逆に減ってしまう。

 ゆえにレートの数値を見れば、そのプレイヤーがどのぐらい強いのかが大体わかる。

 このゲームに命を懸けているようなプロゲーマーおよびアマチュアプレイヤーはレートのカンスト、およびその維持のために日々ゲームをプレイしている。


 『PONN』は判断力とエイム力が問われる実力ゲーよりだが、運の介入要素もある。

 ゆえにレートを上げたり維持し続けるのはかなり難しい。

 だが今の超人的な人読みのできる状態なら、もしかしたら楽に勝利を収めることができるかもしれない。そうなれば、またどこかでプロゲーマーとして活動することも……。


 ……いやいや、何を考えてるんだ。

 俺はもう、ゲーム実況者として生きていくと決めたんだ。いつまでも未練たらしく過去にしがみついてるなんて、それこそ女々(めめ)しすぎる。


「じゃあ今回は、ソロでやっていきましょうか。つまりチームを組まずに一匹狼で戦っていくってことですね」


 ソロのマッチングボタンを押すとローディング画面に切り替わる。

 少しして待機ロビーが映され、自分のキャラを中心に他プレイヤーのキャラが表示される。

 タイマーを見ると、あと50秒後にゲームが開始されるらしい。

「うーっ、やっぱり待機画面はいつも少し緊張しちゃいますね。ゲームがはじまるまで時間がありますし、ちょっと皆さんに、ご挨拶でも……、って、えっ?」


 我が目を疑った。

 他キャラの頭上にはプレイヤーネームが表示されている。ゲーム開始時に『あなたのお名前を教えてください』で入力するあれだ。

 その中の一つに、見覚えのある者を見つけた。


『卍小路』


 もしも俺の記憶通りアイツのキャラなら、『まんじこみち』と読むはずだ。そう本人が言っていた。

 これは万路佳代――『エデン』の仲間だったアイツが普段練習や配信で使っていたプレイヤーネームだった。


 ……まさか、本人のはずがない。


 そう思い込もうとしても不安は治まらず。

 俺は震える指でキーボードを打鍵し、チャットで訊いてみた。


『Serika >>卍小路 あの、もしかしてあなたは『エデン』の佳代さんですか?』


 返信を待っている時間は1秒が何十倍にもなったかのように、すごく長く感じた。

 だがゲームが始まる前に、メッセージは返ってきた。


 俺は天井を仰いだ。

 ついでに神様なんてもんの存在を信じていたなら、唾を吐いていたかもしれない。

 画面には今も、変わらず文字が映っていることだろう。


『卍小路 >>Serika えっ、マジマジ? おねーさん、あーしのこと知ってんの?』


「……マジかよ」




 女装ゲーム実況者として、俺は。

 かつての仲間と戦うことになった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【次回予告!】


愛衣「レート戦は沼なのだ……」

宇折井「わ、わかるでござる。あれが下がると気分まで落ち込みそうになって、ついつい元に戻るまでやり込もうとしてしまうのでござる」

愛衣「それでもっと下がっちゃうとすっごくショックで、立ち直るのが大変なのだ」

夢咲「ふっふっふ、お困りのようデスネ」

宇折井「そ、その声は――!?」

愛衣「いや、もう名前表記に出てるのだ」

夢咲「負けて落ち込む――? そんなの強者のすることデス! ミーはそんなの慣れっこデスカラ、今更ランクの一つや二つ落ち込んだところで全然へっちゃらなのデス!!」

宇折井「……まあ、ほどほどが一番でござるな」

愛衣「そ、そうだな」

夢咲「なっ、なんで目を逸らすんデスカーッ!?」


愛衣「次回、『5章EX かつての仲間と、プロゲーマー時代の己が土俵で対決する その3』なのだ」

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