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5章 妹の家で一夜過ごします、女装姿で その1

「もう、すっごく驚いたぞ。まさかセリカちゃんがあたしの家に遊びに来てくれるなんて」

「あ、あはは……、そうですか」

 引きつった笑いが顔に浮かぶ。

 声は意図的に高めに作った、女子風のもの。

 胸の膨らみはシリコン製の作り物で作っている。


 ここは愛衣の住むマンション。彼女の部屋である。

 つまり以前まで俺が居候いそうろうさせてもらっていた場所だ。

 本来ならこんな女装姿で来るような場所ではない。というか、来てはならないはずだった。


 にもかかわらず俺は今、セリカという女性をよそおって訪れている。

 愛衣は疑う素振りをまったく見せない。すっかり信じ込んでしまっている。

 さすが常日頃女装してるだけあって、我ながら完成度が高い。

 ……じゃなくてさあ。


「ん、どうしたのだセリカちゃん。なんか育成パーティーで難関ダンジョンに入っちゃった時のお兄ちゃんみたいな顔してるぞ?」

「い、いや、なんでもない……」

 お兄ちゃんって単語が聞こえてビビったが、感づかれたようでなくてほっとした。


 さて、なんでこんなことになっているのか。


 話は昨夜までさかのぼる。


   ●


 動画を投稿し終え、ほっと一息つける夕食の席。

 そこで夢咲は会話の途中に、何気なく言った。

「あ、生流サン。明日は家に帰っていいデスヨ」

 全身から血の気が引いていくのを感じた。手から落ちたスプーンがカレー塗れの皿の上でカランと音を立てる。

「……え。ま、まさか……破門!?」


 狼狽うろたえる俺に、夢咲は苦笑してかぶりをふった。

早合点はやがてんしないでクダサイ。『明日は』って言ったデショウ」

「……休日ってことか?」

「イエス。たまには愛衣サンとお会いしたいデショウシ」

「そうだな。もう二週間近く会ってないし……」

 すっかり夢咲との生活に慣れて、ここにいるのが当たり前だと思うようになっていた。しかし一度思い出すと、無性に愛衣に会いたくなってきた。


「あっ、帰る前に明日の分の動画は予約投稿していってクダサイネ」

「わかったよ。アップする動画は『ポシェットフェアリー』でいいか?」

「そうデスネ。『宇宙のユウギ万全』も旬でいいと思うんデスケド、新人がやるには少しインパクト不足デスカラネ。その点、『ポシェットフェアリー』は追加コンテンツもありマスシ」


「……インパクトねえ」

「女装とか暴露すれば、ものすごいインパクトがあると思うんデスケド」

「いやいや、絶対にやらないからな!?」

 夢咲は軽く舌打ちしたが、それ以上は何も言ってこなかった。


「ミーは明日、イベントの仕事が入ってるのでお見送りはできマセンガ……」

「前に言ってた、魔光って人とのか?」

「イエス。だから今日の夕飯をカツカレーにしたんデスヨ」

「……ベタだなあ」


げんかつぐのは意外と大事なんデスヨ。ゲーム実況者っていうのはメンタル勝負みたいなところありマスカラ」

「ああ、なんとなくわかる気がする。気分が暗いと、上手く声が出ないこともあるもんな」

「鬱な時の自分をそのまま動画内で曝け出したら、十中八九『なんだコイツ、つまんねえな』って視聴者に打ち切られマス。まあ、それを芸風にしちゃう実況者もいるっちゃあいるんデスケドネ」

「ダウナー系ゲーム実況者か」


「まあ、テンションの差は人によりけりデス。魔光サンもうつを使いこなすゲーム実況者の一人デスヨ。まあ、あれは鬱芸うつげいというにはキレがありすぎマスケド」

「……よくわからないが、そんなのが需要あるのか?」

「やる人がやれば面白い、デスカネ。正直この適性がある人はそうそういないと思いマスヨ。生流サンの女装みたいに」


 俺は自分の格好を見下ろして、かっと顔に火が点くのを感じた。

 ちなみに今はフリルつきのカットソーのTシャツにゆったりとしたボリューミーなロングスカートを穿いている。男性物の服では味わえない、体を締め付けない開放感があり、とても着心地がいい。


「なんか生流サンの動画って、ゲームじゃなくてファッション目的で視聴しにくる人も多いデスヨネ」

「プレイングよりもプレイヤーに注目されるのって、すっごい複雑なんだが……」

「まあ、いいじゃないデスカ。そのおかげで最近女性の視聴者が増えて、男女比は6:4なんデショウ?」

「それ、いいことなのか?」


「もちろんデス。ターゲットが増えるということは視聴者の増加に直結しマスカラ。たとえば人気のアニメとかゲームって、男性向けや女性向けとして売り出されていても、異性の方も普通に楽しんでいたりしマスヨネ?」

「確かにな。魔法少女モロハちゃんも女性ファンは多いし」

「……生流サンの基準って、なんでもかんでもモロハちゃんデスネ」

「当たり前だろ、神作品なんだから。今度、夢咲も一緒に一作目から最新作までマラソンしようぜ」

「まあ、気が向けば……」


 言葉を濁して、夢咲は立ち上がろうとする。いつの間にか彼女の食器は空になっていた。

「お前、食うの早いよな」

「生流サンは遅いデスヨネ。女の子みたいデス」

「ぐぐっ……!?」


「あ、急いで食べなくていいデスヨ。ミーもこれからデザートを食べるので」

「カレーだから無謀な冒険はしないが……、お前っていつも俺が食べ終わるの待っててくれるよな」

「食事は、一緒にした方が楽しいし美味しいデスカラ」

 心なしか、少し寂し気に夢咲は言った。


 ふと脳裏に愛衣の顔が浮かんだ。

 ……今頃アイツも、一人で夕食を食べているんだろうか。


 明日帰ったら思いっきり遊んで、話し相手になってやろう。

 俺は窓の外の夜景を見やって思った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【次回予告!】


夢咲「次回、ついにあの人が登場シマス……」

生流「あの人って?」

夢咲「今は謎のベールに包まれてるので深くは言及できマセンガ……、あの人デス」

生流「ううん……? なんかヒントぐらいくれよ」

夢咲「ヒントデスカ。……いえ、多くは語らないでおきマショウ。百聞は一見にかずと言いマスシ」


夢咲「次回、『妹の家で一夜過ごします、女装姿で その2』 デス」


生流「微妙にシリアスな流れからこのサブタイだもんなあ……」

夢咲「それは言わないお約束デスヨ」

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