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平民と貴族

「学年末の試験で不正行為が発覚したというのは本当ですか!?」


顔を真っ青に、あるいは興奮で真っ赤にしながら詰め寄って来る教師達に状況を説明しようとティナが口を開く。


「あの、先生方…」


「君が問題の生徒か。試験中に用意しておいた紙を盗み見るなんて、大胆な事をしたな」


だが、全く聞く耳を持たない。その情報だけを聞けば、疑われるのも仕方ないが―


―ここに来るまで、先生は職員室に解答用紙を置いて、試験監督の代理を頼んだだけ。


―私がいたから不正行為については予想出来たとしても、“紙を盗み見る”なんて具体的な方法まで…


「まだ決まった訳ではありません。筆跡も違いますし…」


「だが、目撃したのはロルフの子だそうではないか。疑っているのか?」


―メローネが…もう、そんな事まで広がっているの?


「1人の意見を鵜呑みにするのは間違っています。メローネもティナも、等しく学園の生徒ではありませんか」


「馬鹿な事を言うな。卑しい平民と貴族が平等な訳ないだろ―」


言いかけた台詞を、隣に立つ別の先生が軽く肘打ちをして止める。それ以上の発言は問題になりますよ、という意味を理解し、不機嫌そうな表情で黙り込んだ。


「それで、監督していたのですよね?その様な行為は本当にあったのですか?」


「いえ、私が見ていた限りありませんでした」


「物証があるではないか」


「本人が書いた物かどうかはわかりません」


話は平行線のまま、次の試験時間になった。


「ティナはここで試験を受けて下さい。私が監督します」


「不正行為を働いた者は即退学だ。試験を受ける資格等…」


―このまま受けられないのは、何としても避けないと。


疑い続ける先生達も、自力で解けるという事を見せ付ければわかってくれるだろうと信じて声を大きくする。


「わかりました!ここで解く事が出来れば、疑いは晴らして頂けますか?」



 * * *



全ての試験を終えたレイナは、応接室の扉の前に立っていた。噂によると、ここにティナと先生達がいるらしい。


―ティナ…


すぐに戻って来るだろうと思っていたのに、1日が終わっても姿を見せなかった。事は、自分が思っているよりも大きくなっているのかもしれない。


―あの後、メローネが嬉々として広めてたからなぁ…


何かと目の敵にしているティナに、不正行為の疑いがかかったのだ。メローネは謎の行動力と人脈の広さを発揮し、あっという間に噂は広まった。


―何が“これだから薄汚い平民は。試験1つ、まともに受けられないのだから”だ!ティナがそんな事する訳ないのに。


悪意のある言葉の数々を思い出しただけでも腸が煮えくり返る。自分が色々言われるのは気に留めないが、友達の悪口に平然としてはいられなかった。


―それでも、昔みたいに言い返せなかったな…


言った所で無意味だとわかってしまっているから、レイナは無視を決め込んだ。


―ごめんね、ティナ



 * * *



時は遡り、ティナが大勢に見張られながら試験を終えた直後。


「完璧でしたね。この実力では、不正をする必要はないかと」


「歴史が苦手だったという可能性も、大いにある」


―駄目だったか…


結局、信じてもらえなかった。肩を落としながら、何か身の潔白を証明する手立てはないかと思案する。


「平民の意見とロルフの子の意見ではどちらが優先されるか等、わかり切った事ではないか」


「それは学園の理念に反します。同じ生徒として扱うべき教師がそんな事を言っても良いと思っているのですか」


論点は「ティナが不正行為をしたか」から「平民と貴族のどちらの話を信じるか」に変わっていた。


―私がもし、本当の事を言ったらどうなる…?


平民と貴族だから信じないという考えで疑われているのなら、それを打開する事は出来る。

衝動的にそんな事を思って、すぐに否定した。


―それだけは出来ない。迷惑がかかってしまうし、お父様から禁じられている。


―それに、私が嫌いな身分差を使って乗り切るなんて嫌だ。


―でも、他に方法は…


「第一、彼女がこの紙を書いたのでないなら、誰が書いたというのだ!密告したロルフの子だとでも?」


「その可能性は否定出来ません」


「いえ、それはあり得ないでしょう」


これまで白熱していた2人とは別の先生が、紙を目の高さまで持ち上げながら呟いた。


「このインクは平民への支給品です。数は全て管理されていて、とても貴族が手に入れられる物ではない」


―インク?


「聞いたか!これではっきりしたな。そこの平民は―」


小躍りしそうな勢いで―恐らく、学園で不正行為が行われたという失態より、平民を減らせる喜びが勝っているのだろう―指をレイナに突き付ける。


―平民用のインク…


「ちょっと待って下さい!」


自分を嵌めたのはメローネかと思っていたティナは、インクの違いにまで気を回していなかった。もしかしたら、メローネが敢えて支給品のインクを使ったのかもしれないが、それは悪手―というより、情報収集が甘い。


「私が使っているのは、支給品のインクではありません」

暫く更新が遅くなったり、不定期になったりするかもしれませんが、よろしくお願いします。

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