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不思議な夢

「はぁ…」


枕に突っ伏した顔から、くぐもった溜息が漏れる。

原因は、もちろん…


「私だって誕生日なのに、ティナしか言ってくれないなんて…いや、お祝いされたいとかじゃないけどさ…」


メローネを筆頭とした貴族達の態度は、慣れもありそこまで気にならない。

レイナが愚痴っているのは、自分と同じ立場の人達についてだ。


「クライネも、セレンも、何で誰も手伝ってくれないの!?いや、私1人でも出来るけどね?…クライネもクライネだよ!何で最近不機嫌な訳?私がティナと話してるから?」


ぽすぽすとベッドを叩きながら、言いたい放題口にする。

どうせ、誰も聞いていないのだ。


「一緒に帰ろうって!言おうと!したのに!聞いてくれないんじゃんっ!」


月に何度かこうして発散しないと、いずれ学園規模の大爆発を起こす、とレイナは本気で考えていた。

それを避ける為なら独り言くらい許されるだろう、とも。


「あー、もうっ!」


一言叫んでから、腕の力を抜いた。

身体がベッドに沈む。


連日準備で疲れていた事もあってか、レイナの意識はそのまま闇へ落ちていった。



 ◇ ◇ ◇



「ん…っ」


いつの間にか寝ていたらしい。

時間を確かめようと伸ばした手の先に―何も触れない。

おかしいな、とぼんやりした頭で考えながら、レイナが目を開いた。


「ーっ!?」


寝落ちしたのは、自分の家の、自分の部屋の、自分のベッドの上のはずだ。

それなら、この光景は何なのだろう?


身長の何倍もある大きな門と、どう頑張っても乗り越えられそうにない高い塀。

そして、それらを覆っているドーム型の膜の様なもの。


「…?ぇ、どこ、ここ…?」


寝ぼけているのかと頬を抓る事3回、目をギュッと瞑って開く事5回、夢かと思いその場で寝ようとする事1回。

どうやら目の前の光景は精巧な夢だと納得した。


門と膜は初めて見たが、塀に似たものなら毎日目にしている。


貴族と平民の居住区を、いや世界を隔てている壁。

貴族が優越感に浸り、平民が羨望の眼差しを向ける壁にそっくりだ。


「少し違うけど…夢かぁ」


夢なら何をしても大丈夫だろうと安心したレイナは、行動する事にした。

具体的には、塀に近付いてみた。


どうやら、塀は膜の内側を囲う様に円形に作られており、外から中を覗く事は不可能だった。


「何だろ、これ…」


膜の向こう側とこちら側では、空気が異なる様に感じる。

触れて良いのか一瞬悩んでから、なるようになれ!と手を伸ばした。

慎重に、利き手である右手の人差し指だけ。

後10cm、9cm、8、7…そして、ついに―


「痛っ!?」


パチッと軽い痛みが、膜に触れた指先から走った。

近いものに例えると、静電気だろうか。


「通るな、って事…?」


物言わぬ膜から、間違え様のない拒絶を感じ取ったレイナが肩を落とす。


「残念…夢なら早く覚めればいいのに」


何かもわからない塀を見ているだけの夢なんてつまらない。

効果は無かったが、もう1度頬を引っ張るかと手を動かした。

その時―


「貴女ですか?結界に触れたのは」


聞いた事の無い声が背後から聞こえた。

声色からして怒っている様なので、恐る恐るレイナが振り返る。


声の通り、女性だった。


白いローブに袖を通し、赤い宝石の留め具(ブローチ)を胸元で留めている女性。


「え、あ、その…」


夢でも私は怒られるのか、と言うか結界って何だ、と混乱したレイナは何を言えば良いのかわからなくなっていた。


「所属は?」


所属、というのは何の事だ。

貴族学園女子初等部5年生です、が答えで良いのだろうか?


「答えられないの?見た事ない顔だけれど」


私も貴女の顔は見た事ありませんでした、と返すのは流石に躊躇われたが、何か言わなければいけない気がしたレイナは正直に―


「その、ここはどこですか?」


と質問を返した。

それを聞いた女性は唖然とした顔になってレイナの全身に目をやり、「記憶喪失…?」と呟いた。


「自分の名前はわかる?家族は?」


「レイナです。家族は…」


レイナの父は亡くなっていて、母と2人。兄妹はいない。というのが事実だが、母に会わせろと言われたら困るので、首を傾げておいた。


「そう…危険だから、取り敢えず、思い出す迄は学園で保護するわ。ついて来なさい」


レイナの沈黙を、思い出せないのだと捉えた女性が歩き出した。


「ここの事はどれだけ覚えているの?」


「いえ、全く…」


全く知りません、と心の中で台詞を完結させた。


「なら、基本的な事から確認するわね。まず、魔力は持っている?」


「…え?」


魔力というのは、よく小説とかに出て来るあれか?それを持っているかとは、どういう…?

ただの夢にしては、ぶっ飛び過ぎじゃないか、とレイナは不安になってきた。


「魔力よ、ま、りょ、く。まさか、これも覚えてないの?」


「は、はい…」


本気で驚く女性を見る限り、魔力は、ここでは常識らしい。


「指輪も付けてないし…よっぽど何かあったのね…」


遂には、女性の目付きが警戒から可哀想な子を見るものに変わってしまった。

レイナの方は、「門に、塀に、結界に、魔力に、指輪。変な夢だなぁ」等と考えていた。


「指輪って、何ですか?」


「これよ」


女性が、右手の甲をレイナに向ける。

その中指には、宝石のはまった銀色のリングが通されていた。


「綺麗…花みたい…」


ビー玉を半分に割った様な透明な宝石の内側には、色の付いた宝石が4つ入っていた。

色も大きさも違う菱形だが、中心から花開いた様に見えるのだ。


「これは人によって違うの。レイナも後でわかるわ」


人によって違うという事は、オーダーメイドなのだろうか?もしそれまで夢が続いていれば作ってみたいな、とレイナは思った。


「そういえば、お名前は何ですか?」


「あぁ、自己紹介がまだだったわね。私は―



 ◇ ◇ ◇



カラーン、カラーン…


鐘の音が聞こえた。

1日の始まりを告げる合図に、意識が覚醒していく。


「ん…ふわぁ…」


目を開けると、見慣れた天井が飛び込んで来た。


「やっぱり夢かぁ…」


夢で見た光景は、不思議な事にしっかりと記憶に残っていて、薄れる気配はない。

頭を振って目を覚まし、ベッドから下りる。


夢の事を考えていても仕方がない。


ここは見た目は綺麗で整った街だが、裏はドロドロの陰謀や取り引きが横行する世界だ。


気を抜いたら揚げ足を取られ、落とされるのは、初等部と言えども例外ではない。



封鎖都市カサティリア 第0区 貴族街。


壁に囲まれ、物理的に封鎖された街。


貴族とほんの一部の平民が暮す場所で、庇護者を持たない道を選んだ平民(レイナ)が生き抜く為には、ひたすら目立たず、実力を付けるしかないのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章、上手くなってませんか!? 表現も素敵で、惹き込まれました。 [一言] まだ序盤なので、これからの展開に期待してます! 封鎖都市、ロマンですねー! つまり、何が言いたいかというと、好…
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