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お家訪問

「へぇ、妹さん、3年生なんだ」


「そうなの。レイナはひとりっ子?」


放課後、レイナは早速ティナに話しかけていた。

敬語で話すティナに、「同級生なんだし、そんな畏まらないでいいよ」と言った事もあってか、だいぶ打ち解けてきた気がする。


「うん、妹とか羨ましいなーっ!」


「可愛いけれど、いつも比べられるし…いても大変だよ?」


「そっかぁ…ね、ティナの家って何番?」


壁の内側には、呼ばれた平民に貸し出す用の小さな一軒家が建ち並ぶ区画がある。

レイナやクライネもそこに住んでおり、似た様な家なので、それぞれに番号が振られている。


平民はそこに引っ越すのだという認識の下の、レイナの発言だったのだが、ティナは気まずそうに俯いた。


「私は…偶々、空いた家があったみたいで、そこに住んでるの」


ティナが引っ越したのは貴族の家、つまりレイナの家の何倍も豪華な造りだ。

ティナが望んでそこに住む訳ではないが、あまりにも差があるので申し訳ないと感じるのも無理はなかった。


「あ、もしかして…私の家の目の前!?」


もっとも、レイナは何も気にしていなかったが。


「家の前のお屋敷が、最近バタバタしてたんだよね。あれ、ティナだったのかなって」


「多分、私だね。お騒がせしました」


「いえいえ。誰が来るのかと楽しませて頂きました」


道を挟んで向かいが、知り合いの家になっていたとは。

面白い偶然に、自然と笑顔が浮かんだ。


「そうだ!今日、家に遊びに来ない?」


「えっ!?いやいや、いきなりは迷惑じゃ…」


知り合って初日に家を訪問とは、かなり急ぎ過ぎだろう。

しかも、相手は平民とは言え、豪邸を借りられる程のお金持ちなのだ。


「大丈夫!お母さ…んにも「友達を呼んでもいい」って言われてるから」


だが、ティナの笑顔を前に断れるはずもなく、


「わかった。じゃあ、お邪魔するね」


「うん!」



…この時は気が付かなかった。

楽しく話している2人に向けられた、好意的とは言えない視線に。



 * * *



「ただいま」


「お、お邪魔します…」


道1本隔てるだけで、こうも違うのか。

そこは、レイナにとって別世界だった。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


ティナを出迎えたのは、高級そうな家具と骨董品(?)の壺や絵画達、そして若い女性だった。


「お茶の用意をお願い…します」


「畏まりました」


頭を下げる女性の前を横切り、レイナを連れて玄関の奥へと向かう。


「て、ティナ…今の人は…?」


「えっと…お、お手伝いさん?かな」


緊張でガチガチのレイナに、ティナは何故かしどろもどろの答えを返した。


「ここが私の部屋だよ」


階段を上り、案内された扉の前には「ティナ」と書かれた札が掛かっていた。

隣の扉には「マリ」という札が掛かっているので、恐らく妹の部屋なのだろう。


「どうぞ」


「失礼します…うわぁ!」


広い。レイナの部屋の何倍も広い。

ソファとテーブルが並び、花が生けられた花瓶が置かれ、床には毛足の長いカーペットが敷かれている。

勉強机やベッドは、部屋の中にある幾つかの扉の向こうなのだろう。


驚いて足が止まってしまったレイナに笑いかけながら、ティナがソファへ誘導する。


「すごいね、この部屋」


「そう?あ、座って座って」


腰を下ろすと、思った以上に身体が沈んだ。

座り心地の良さに、寝てしまいそうだ。


コンコンコン


「失礼します」


突然のノック音と声に、うっとりしていたレイナが現実世界へ帰還を果たした。


先程の女性が、テーブルにティーカップとポット、フルーツケーキを並べていく。


「ありがとう」


「…後ほど、奥様がお会いしたいと」


「わかったわ」


一礼して出て行く女性を見送ると、ティナがカップに手を伸ばした。


「口に合うかわからないけれど…」


「え、いいの?」


レイナが自分の前にも置かれたケーキを見て目を瞬かせた。


「もちろん」


「い、いただきます…!」


フォークを手に取り、柔らかなスポンジ生地に刺し入れ、口に運ぶ。

程良い甘さのクリームと、フルーツの酸味が合わさった極上の味が口の中で広がった。


「ふわぁぁ…美味しぃ…」


これはあれだ、何十年もの修行を重ねた菓子職人が、原材料の砂糖とか卵とかから拘り、魂を込めて作った、なんか凄いケーキだ。


上手く言葉に出来ない、自分の語彙の貧弱さにレイナは静かに落ち込んだ。


「ね、レイナ。この後お母さんに紹介したいんだけど、いいかな?」


「へっ!?」


カップを傾け、香りを充分に楽しんだお茶を飲もうとした矢先の提案に、レイナは危うく溢して火傷をする所だった。


「あ、その初めて出来た友達だし、転校する事、お母さん凄く心配してたから…」


突然過ぎたと思ったティナが慌てて理由を上げていく。


「うん、いいよ。私でいいなら」


緊張するが、特に断る理由もないかと思ったレイナが了承の返事をした。


「ありがとう!」


友達、と面と向かって言われた事が嬉しかったというのもあるのだが。



 * * *



和やかに紹介は終わった。

内容は「娘をよろしく」「こちらこそ」なので、何かが起こるはずもないのだが。


話の流れで、これから一緒に登校することになったのは2人にとって予想外だが、案内係の仕事の内とも取れるし、家が向かいなのだから当然なのかもしれない。


そして翌朝―


「おはよー!ごめん、待った?」


「ううん、行こっか」


待ち合わせ場所を決めなくても、自然に会える。

今まで朝は1人だったレイナは、仲間が出来る事を純粋に喜んでいた。


「あ、その…」


一方のティナは喜びつつも、何か言いたそうにレイナを引き留めた。


「どうしたの?」


「言ってなくて申し訳ないんだけど…」


振り返り、自分の家の方に向かって手招きをする。玄関前から小さな影が飛び出し、駆け寄って来た。


「紹介するね、私の妹のマリ」


「初めまして!」


女の子が帽子に付けた紫の花を揺らして、ぴょこんと頭を下げた。


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