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魔法の授業 その1

授業を受けて、ティナとお喋りをして、家に帰る。宿題を終わらせ、ベッドに入る。

カサティリアでの日々は、特に何かが起こる訳でもなく、淡々と過ぎていった。


だが、レイナにはもう1つの世界―魔法都市アトフィリオでの生活があり、そちらは怒涛の毎日だった。



 ◇ ◇ ◇



コンコンコン


「レイナ、起きてる?そろそろ先生の部屋に行く時間だけど…」


本を読んで、そのまま寝てしまったレイナだが、気が付けば朝になっていた。


「は、はーい!今行きます!」


扉の向こうから聞こえるのはルナの声だ。わざわざ起こしに来てくれたのだろう。

慌てて服と髪を整え―運良く皺にはなっていなかった―部屋から出た。


「おはようございます」


「おはよう。ちゃんと眠れた?朝ご飯食べるには時間が足りないから、このまま行くよ」


「はい!」



案内されたのは、絵を抜けた先にある謎の空間だった。レイナが最初に通った物とは別の絵をルナが指差す。


「先生方の塔に1番近いのはこの絵。覚えておいて」


絵は、何の抵抗もなく2人を通した。

かなり近道だった様で、出た先の廊下を歩いてすぐに、マクシーネの部屋に着いた。


「先生、ルナです。レイナを連れて来ました」


待ち構えていた様にマクシーネが顔を出す。


「ありがとう、ルナ。お疲れ様」


真正面からお礼を言われ、恐縮したルナが頭を下げる。


「いえ…レイナ、帰り方はわかる?」


「はい、道は覚えました」


複雑極まり無い学園内の道を、短かったとは言え1度通っただけで覚えてしまったレイナに、苦労した覚えのあるマクシーネとルナはとても驚いたが、口にはしなかった。


「なら良かった。また何かあれば、いつでもお申し付けください」


「頼りにしてるわ」


一礼して、ルナはその場を後にした。その畏った態度に、レイナはぽかーんと口を開けている。


「先生、もしかして、あれが普通ですか?それなら私…かなり失礼な行動を」


「あぁ、心配しなくていいわ。ルナは丁寧過ぎるくらいだから」


それなら良かったと、レイナは胸を撫で下ろした。


「立ち話はこれくらいにして、入って」


通されたのは、壁一面に本や資料が並べられた研究室みたいな部屋だった。向かい合う形で椅子に腰を下ろす。


「レイナの基礎課程は私が担当する事になったから、次もこの部屋に来てね。あ、基礎課程っていうのは…」


「『学園の構造と規則』に書いてある事でしたら、読んだのでわかりますよ?」


「なら良かったわ…え、あれをもう読んだの?全部?」


こくり、とレイナが頷くと、マクシーネが驚きを通り越して諦めた様な表情を浮かべた。強いて言葉にするなら「レイナなら何でもありか…」である。


「なら、早速魔法を使ってみましょうか。魔力は感じられた?」


「はい」


「魔法は、自分の中で何か《鍵》となる動作を決めて使うの。例えば…」


マクシーネが右手を持ち上げる。


「《風よ、吹き荒れろ》」


ひゅうっと音を立てながら、小さな竜巻がマクシーネの手の上に出現した。手を下ろすと、静かに風が止む。


「《鍵》は人によって違うわ。ただ大切なのは、間違えて発動しない様にする事よ。昔、時間短縮の為に詠唱を《風》だけにした生徒がいたんだけど、事あるごとに発動しちゃって、大変だったの」


日常会話で使いそうな言葉だけは、なるべく避けた方がいいという事か。


「もちろん、詠唱以外の動作を《鍵》にしている人もいるけど、数が増えてくると厄介だし、誤発も多くなるから、設定する時は気を付けてね」


「その、設定?はどうやってやるんですか?」


「魔力を指輪を通して外に出して、風なら風が吹くのをイメージをしながら、何度も詠唱するの。その動作をすれば自然と魔法が発動出来る様に、身体に刷り込む。練習あるのみ、よ」


儀式とかが必要なのでは無く、自分で自分に教え込ませる。マクシーネの場合は、「《風よ、吹き荒れろ》と言ってミニ竜巻を出す」練習を何度も繰り返し、イメージしなくても自然と出来る様になったのだ。


「後から《鍵》は変えられないんですか?」


「やろうと思えば出来るけど…かなり難しいから、慎重に決めた方がいいわ」


「わかりました」


日常会話に出てこない言葉で、間違えない程度には簡単な《鍵》。

中々決められないレイナを見たマクシーネが、安心させる様に笑った。


「最初は、魔力を指輪に集める所からやってみてね」


体内の魔力を、右手に集めていくイメージで動かす。レイナが思っていたより簡単に、上手くいった気がする。


―先生みたいな竜巻を思い浮かべて、


―手の平に乗せる感じ…


ごうっと風が渦を巻いた。

ぐるぐると広がり、周囲の書類を巻き込んでいく。


「うわっ!?」


驚いて竜巻のイメージを消すと、風がピタリと止んだ。バサバサと音を立てて、宙を舞っていた紙が床に落下する。


「…」


マクシーネは何も言わない。


―やっちゃった、かな?


「…えっと、強すぎました?」


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