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プロローグ

【―突如、星が降り注いだ。


強い閃光と爆発的な衝撃波が一帯を襲い、美しい街は軒並み破壊され、人口の半数以上が死に追いやられた。


しかし、悲劇はそこで終わらない。

寧ろ、ここからが始まりだ。


少数ながら生き残った人々は皆、狂気に染まり、全てを憎悪し、抱いた欲求と本能に従って周囲を襲う獣へと変貌を遂げた。


崩れた煉瓦を、持ち主が不明となった斧斤を、富豪の蒐集物であった宝剣を、武器として手に取り、壊れた感情の赴くままに、


瓦礫と燻る炎と死体を足場にして、


それらは動いた。


何が彼らをそうさせたのか、原因が解明されることは無かった。


生存者がいなくなる世界まで、後■■■日。】



* * *



誕生日を1週間後に控えた2月22日。

レイナが通う貴族学園女子初等部は、普段とは異なる雰囲気に包まれていた。


「おはよ、レイナ!ね、聞いた?」


教室に入るなり駆け寄って来たのは、レイナと同じ平民上がりで友達のクライネだ。


「おはよう、どうしたの?」


いつもより賑やかなクラスを見る限り、何かがあったのだろう。

荷物を置きながら続きを促すと、クライネは興奮したまま話し始めた。


「転校生だって!今日、このクラスに!」


転校生。決して大きな行事(イベント)ではないが、日常に刺激の少ない学生ならば誰もが盛り上がる出来事。

それが自分達に直接関係してくるともなれば、尚更だ。


「珍しいね、こんな時期に。どんな子なの?名前は?」


「わかんない。妹さんがいて、2人共来るって言ってたけど…どっちなのかは、誰も知らないって」


この学園に通う生徒には、2種類ある。

初めから壁の内側に住み、支配する側として教育されて来た貴族の子か。

彼女達に身分と社会を学ばせるのと同時に、外側の学力の水準を引き上げる為に連れて来られた、支配される側の平民の子。


レイナとクライネを含むクラスの数名は後者という訳だ。


「そっか。でも、〈黒〉ってことはないでしょ?このクラスにはメローネがいるんだから」


「うん。誰も知らないって事は〈灰〉なのかな」


無意識に胸元のブローチを指先で弄りながら、憶測を口にする。


「転校生が来たら、案内係って言うのを決めるらしいけど、誰になるんだろう…?」


「んー、どうだろうね」


首を傾げた所で、キーンコーンカーンコーンと間延びした鐘の音が鳴り響いた。

朝礼を知らせるチャイムだ。


「わわっ、また後でね」


教室中に散っていたクラスメイト達が、バタバタと各々の席に戻る。

程なくして、先生が入って来た。


「おはようございます」


「「「おはようございます!」」」


挨拶がいつもより揃っていた。

転校生はどこだと、生徒全員が前をしっかりと見ているため、約30の視線で先生に穴が開きそうだ。


「もう知っていると思いますが、今日は転校生を紹介します。入りなさい」


開いたままの扉から、1人の可愛いらしい女の子が姿を見せた。

制服のスカートと長い黒髪を揺らし、鞄と帽子を手に持った少女が黒板の前に立つ。


「自己紹介を」


先生の声に、こくりと頷いてから口を開いた。


「ティナです、初めまして。こちらには来たばかりで迷惑をかけてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします」


パチパチパチ…


拍手の音に隠れる、小さな会話があちこちで生まれた。


「見た?あの子、〈無色〉じゃない」


「平民が来るなんて…」


その言葉の通り、ティナという少女の胸で揺れるのは色のついていないガラス玉、透明のブローチだ。レイナと同じ…


「ティナに聞きたいことがある人は手を挙げてください」


ちらほらと手が挙がる。

平民でも、珍しい転校生であることに変わりはなく、好奇心の対象のままなのだ。


「じゃあ、メローネ」


「ティナの趣味はなぁに?」


侮蔑の籠もった、品定めをする様な目付きでティナの全身を一瞥しながらの質問。


「読書です」


当事者でなくても不愉快になる視線に、ティナは動じなかった。


「クライネ」


「はい。好きな食べ物は何ですか?」


「特に嫌いな物がないので…強いて言うなら、果物です」


「カンネ」


「はーい、えっとぉ…」


特技や好きな教科等、様々な質問が出て来る。

その数が10を超えた所で、先生が静止をかけた。


「1時間目が始まるので、次で最後にします。セレン」


「…誕生日はいつですか?」


意外と出ていなかった、ありふれた質問をしたのは、レイナ達と同じ、平民上がりのセレンだ。


「2月29日です」


4年に1度しかない、うるう日生まれ。


「あら、このクラスには確か…レイナも同じ日ではなかった?」


珍しいからか、先生の記憶に残っていた様だ。

突然の指名にレイナが慌てて返事をする。


「はい、そうです」


「それなら折角だし、ティナの案内係はレイナに任せましょう」


「わ、私がですか!?」


驚いたが、同じ身分の生徒に任せた方が良いという考えなのだろう。

面倒な役職(それも相手は平民)になりたくなかった貴族達が、一斉に手を鳴らした。


パチパチパチ…


再度の拍手に押され、自信無さげにレイナがティナに目をやる。

2人の目が合い、よろしくねと言う様にティナが微笑んだ。

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