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第8話

すると5分程度で土が他より黒い場所に到着した。どうやら少年のお目当てはこの場所だったようだ。


少年はそこにしゃがみ込むと、一部盛り上がった土を掘り返した。



「……?…な、何か埋めてるの?」


「がう」



私に理解できる返事が返って来る訳でもないが聞いてしまう。だってまんまる太った芋虫だったら私卒倒するよ?

しかし少年はがうと一言発してずっと私に背を向けて掘っている。

少年は一心不乱に盛り上がった場所を掘り進めるので、そこに何が埋まっているのか分かっているようだ。


やはりお墓でも作って何か埋めているのかも知れない…いや、でもこんな野性味溢れる少年が、わざわざお墓なんて作るだろうか?


………何で埋めたのかも掘り返してるのかも分かんないけど、せめて掘り返すなら人型じゃない未知の生物にして…人型のミイラなんて見せられても反応に困る。


手を合わせて懸命に祈る。最悪、ここがお前の墓だよパターンもあるかも知れないけれど、それは考えない事にしておく。



「いんえん!ぐぅお!」



いんえんとはつまり私の事だ。呼ばれている…行かねば…


意を決して少年に近づく。すると少年は何かを隠すように掌で挟んで私を待ち構えていた!何という小悪魔!!


最悪のパターンではなかった事に安心はしたが、未だ見ぬ少年の手に包まれた物が何かを知るまでは安心など出来ない、と私はびくびくしながら少年が手を開くのを待った。


今まであんなに良くしてくれた少年がそんな悪い事をするはずがないとは思うが、この世界自体は信用していない。なので少年の掌から私を狙う得体の知れない化け物系が飛び出したらと思うと過呼吸で死にそうだ。


はあっ!はあっ!と私の呼吸が走ってもいないのに荒れだした頃、それは突然掛け声とともに開かれた。



「がぁ!」


「ひぃっ………え……う、ウインナー…?」



なんと少年の手にはでっぷりと太ったフランクフルトの短い版のようなウインナーが収まっていた。

芋虫ではない。本当に見た目はウインナーだ。噛めばパリッと弾けそう…だが…土の中からどうしてウインナーが…


しばらく見ていたが、少年が私の反応を窺っていたので思考を中断し褒めておいた。少年はそれに満足そうに何かがうがう喋り、先程の穴に今度はムカデを埋めた。



「え……ひ、肥料にするの?それは…」


「いおー?うがっ、がるる」



ごめん分かんない。ただ少年にとっては当たり前の行動なのか、手慣れた動きでムカデを丸めて埋めているので私が心配する事ではないのかも知れない。


少年はその後もいくつかウインナーを掘り当てて、私を連れ洞窟に帰った。





そして現在、私は恐怖に襲われている。



「がうっ!!いんえん!!がるる…」


「いやいや!!それは無理だって!!開けちゃダメだってば少年っ!!」



なんと少年が私に向けて昨日の妖精入りの入れ物を開封しようとしだしたのだ!


私は少年に向かって飛んで行き、少年の手に持つ入れ物を力の限り押さえた。



「ほんとダメだって少年!!何入れたか忘れたの!?ほらっ!ここ、羽が挟まってるじゃんっ!!騙されないからね!?」


「ぐるる…」



私は一生懸命説得した。少年よ、分かってくれと。


しかし無情にも少年は私に唸り声を出し、威嚇してきた。少年を味方だと思ってた私はかなり大きなショックを受け、手を放し後ずさる。


そして私は泣いた。



「な…何なの~!?少年のバカぁっ!!わっ、私っそれに食べられそうになったのに…!!もっもしかしてっ私、妖精の餌として連れてこられたのぉ!?肥えさせて食べさせる気だったんでしょおぉ!?」


「ぐぅ…」



とうとう命の終わりが来たと泣く私に少年は情けない声を出した。


少年が私を捕まえようとしたのか、手を伸ばしてきたので逃げると少年は再び「ぐぅ…」と呻いた。


いやもうほんと助けて。そもそもトイレだってそろそろ行きたいよ。ほんとは漏らしそうなのに勘弁してよ…。


妖精は排泄物も食べるのかなぁ…と半ば諦め状態で震えていると、少年は無言で木の実の入れ物を開けた!!せめて一声かけてよ!!



「いやあああぁぁ!!今度こそ死ぬぅぅぅっ!!やだぁぁぁああ!!」


「がる!!ぐぅあ!ぎゃうがぁ!!」



私が体を丸め、頭を守っていると少年が無理やり顔を上げさせようとする。やめて!!食べられる所見る趣味は無いの!!


しかしその瞬間、どこかで匂った事のある香りが鼻を掠めた。



「がう!いんえん、ぐぁう!」


「いんえんじゃないよっ!バカチンめがっ!!叶じゃい!!一度もちゃんとした名前で呼ばずに殺すなんて本物の悪魔だな!少年!!おまけに私よりもかわいい香りを振りまきやがって!!桃か!?その匂いは!!どこから………………は…………?………」



あまりに良い香りがするので顔を上げると、私の目には未だ全裸で少し怒った顔をした少年と、妖精の入った入れ物……………の中に………昨日の桃味の液体がたんまり入っているのが見えた。………………は?





「は?」


「は?」



あ、それは言えるのね。と冷静に分析する私の脳。液体の事に対しての理解が追いつかないので他の事に目を向けて無視しているようだ。


その仕事をしない頭を叩き起こし、目の前の事象について考える。



………………いや分からん。確かに昨日まであの入れ物には妖精が入っていた。私はあの入れ物を警戒していたから確実に同一の入れ物だ。


おまけに妖精の羽はそのまま挟まれたままの物が蓋になったヘタの部分に張り付いている。………………え、どゆこと?



「あの………え?妖精は……?」


「おうえい?おーえい?……がうっ!うー!」



妖精?何それ…んー、何か知らんけど食え!って感じで少年は私に昨日のようにそれを差し出してきた。



……ねぇ……もしかして、私が昨日食べたのって……



胃から何かがせり上がるのを感じながら震えた声で少年に尋ねた。しかし当たり前だが少年は首を捻っているだけで答えてはくれない。


しかしその代わりに何か思い出したかのように少年は液体を指で掬って舐めだした。……まさか……



「…がぁ!がぁおう!」



私は眩暈がした。



その少年がとった行動はまさしく、初めて桃の飲み物を提供してくれた時の再現であった。あの時と同じ食べ物だと私に教えたかったらしい。


つまり私は妖精に襲われた初日に妖精を食べたという事だ。あの肉食妖精を!!



「ぐっ…!」


「がう?」



私は吐き気を催した。理解した瞬間、私があの虎を生きたまま食べたような錯覚を起こしたのだ。


しかも妖精も人型だった!液体だったといえど人型の何かを食べたという事が耐えがたい拒絶反応を起こした。


しかし液体だったので胃の中はほぼ空っぽに等しく、私がどんなにえづこうが涙しか出ては来なかった。



「がう?がう?…うー…」



少年は甲斐甲斐しく私の背中を擦ってくれる。どうやら心配してくれているらしい。


少年にはひどい事をしてしまった。きっと私が腹を空かせているだろうと貴重な食料を分けてくれようとしたのだ。…なのに私は少年の優しさを信じる事が出来ず、果ては少年は妖精とグルなのではないかという予想までした。


私は申し訳なさに泣いた。だって私だったらこんな面倒な人間拾わない。妖精に食われちまえって思う。



「ごめんね…少年……」


「うー?…ごえんえ?……がう」



私の謝罪も少年には通じなかった。ここは愛してると言ったらすぐ伝わる方が良いと言った結菜には賛同できる。謝っている事が伝わらないのはあまりにも申し訳ない。


しかし少年は気にした様子もなく、落ち着いたなら食えとでも言うように何度も妖精液を押し付けてくる。

一応お礼を言って受け取った。妖精は嫌いだが妖精液は確かに美味しかったのだ。


改めて妖精液を見てみると、やはりというか妖精感は全くなかった。赤かったりしたら血かな?とか思うけれど綺麗な金色だ。


一体原理がどうなっているのか分からないが、私もどうやったら豆が豆腐になるのか説明出来ないのでおあいこ…知らない世界あるあるとして流す事にした。


豆を煮てにがりを入れるまでは分かるんだよ。だけどそもそもにがりって何よ?成分何から出来てるのよ。そんなの、にがりに死ぬほど興味もって前もって調べてないといざという時パッと異世界で出てこないよ、スマホも使えないし。


だから妖精もさ、ビールみたいな感じでさ…たぶん妖精が発酵したんだよ、きっと。お酒みたいなもんだよきっと。



自分の世界の無害なものに当てはめて頭を無理やり理解させる。世界が変われば食べ物の成り立ちも違うよね、きっと……


昨日同様手に取り舐める。……うん、桃。やっぱり美味しい。


私はそれを半量程頂いた。残りは昨日の飢餓状態の時と違って、お腹にも余裕があるので少年に返そうと思う。



「ありがとう、少年。美味しかったよ!残りは君が食べな」



まるで自分が取って来たかのように偉そうに少年に残りを押し付ける。だって私の方が年上だからね!


そしたら少年は微妙な顔で入れ物を突き返してきた。え!何で?



「いやいや私はもう良いよ!お腹いっぱい!それより少年何も食べてないじゃない。食べなよ」


「うぅ!!がうっ!!ぎゃぐぁらう!!」


「え、ちょ、ごあっ!?ぶぼぉっ!!…や、い、いらな…ごぼぉっ!?」



拒否する私に業を煮やした少年は、私の顎を掴み無理やり妖精液を口に流し込んできた!



息が出来ない!!しかもこの入れ物硬くて口の周りがすごい痛い!!



…その地獄は私が全て飲み干すまで続いた。…私は理解した。少年から出された物は、一度手を付けたら全て完食しなければ殺されてしまう、と…


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