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第7話



「いんえん、がぁ!」


「いんえんじゃない……って、え?この洞窟?」



眼前に広がったのは、そこそこ広い洞窟だった。しかも奥には湧き水まで湧いている。


しかしそこに人間の姿は無かった。生活感のある内装だったが人の気配が全くなかったのだ。



「えっと…ここって人間が住んでるんだよね?」


「がぁおう!」



私が自分を指差して寝る、食べるのジェスチャーをして人が住んでいるのかと伝えると、とても良い笑顔が返ってきた。……ほんとに分かってる?


すると少年は全裸のままで洞窟に入っていった。



……勝手に入ってもいいのかな……?



「お…お邪魔してもいい……?」


「がぁお!」



手招きをしてくれている。どうやら入れてくれるらしい。


私は恐る恐る中に入ると、少年は洞窟に座り込み、先程捕らえた妖精の入れ物に湧き水を入れている。ちょっと!逃がしたらダメだからねっ!?


少年は光の速さで水を入れ、同じ速度で蓋を閉めた。あ…妖精の羽が挟まってる……



終わると少年はそれを適当に床に置き寝転がった。その姿はさながら家主のよう。



…………ねぇ……もしかして、ここって……少年の家じゃない……?



どう見ても他に誰か暮らしている様子がない。どうやら少年は集落ではなく自分が住んでいる洞窟へ私を案内してくれたようだ。


いや!確かに人は住んでるけどさ!!違うよ少年!!私は命の危機の無い、人がたくさん住んでる人間の町を言ってたんだよ!



「がう、がるぅぐぁ」



私が己のジェスチャーのレパートリーの少なさを嘆いていると、少年はいつの間にか先程の妖精を入れた木の実の入れ物を持って私の前に立っていた。



「え?何?どうしたの」


「ぐるぅ!」



私が1歩下がり問うと、少年は私の目の前で入れ物を開封しだした!えっ!?何してるの!それに妖精入ってないでしょうね!?


いつでも逃げれるようにスタートダッシュの体制で入れ物をガン見していると、それは開かれた。



中には妖精―……ではなく、何やら金色をした液体が入っていた。


……え?何これ……はちみつに、似てるけど……


どうやら先程の妖精を入れた入れ物とは違う入れ物だったようだ。私はわずかに込めていた肩の力を抜いた。



「がぁう!」



さあ!とでも言うように私に近付ける少年。


いやちょっと!何するためのやつか分かんないです!!薬ですか!?それとも食べ物ですか!?


目をうろうろさせて首を傾げてみる。……助けてくれた少年が差し出してきてくれた物だから変な物では無いと思うんだけど……


暫く「うー?」と言って首を傾げていた少年だったが、ようやく気付いたのか突然指でそれを手に取ると舐め始めた。



「………がぁ!がぁおう!」



満面の笑みで何か言ってくれてる。多分「美味しいよ!」的な意味だと私は解釈した。だってさらにずいっと私に押し付けてくるし。


えー何この子めっちゃいい子!!毒見までしてくれて!私の14歳の頃はこんないい子じゃなかったぞ!なんて心の成長に良い異世界!!


私は少年にありがとうを言ってその液体を入れ物ごと頂いた。

一応指で掬ってみる……うん。とろみが完全にはちみつ。

ぺろりと舐め取ってみると衝撃に目を見開いた!



「!!桃だっ!これ桃の味がするよ少年!!」



まさに桃の味だった。とろとろした桃!私があの種が這い出たフルーツに求めていた味はまさにこれだ!!


私は飲む勢いでそれを食べた。舐めた瞬間急激にお腹が減ったのだ。


たかが液体の物を飲んだからといってそんなにお腹は満たされないと思っていた私だったがこの数日で胃袋が小さくなっていたのか、あっという間にお腹がいっぱいになった。



「はぁ~!!ごちそうさまっ!美味しかった!!」


「がぁお!」



少年は満足そうに私を見た後、一声上げると床に広げていた葉っぱを弄りだした。



……えっと…ど…どうしよう……。



食ったなら帰れと言われてもしょうがないが、先程の妖精の後にこの森を1人で歩き回れる人間がいれば、それは人間ではない。


ハッキリ言って出て行ったら一瞬で死ぬ。断言できる。現代人なら私でなくとも1週間生きれるかも怪しいレベルの場所で現地の人間(しかも優しい)を見つけたら本能が逃がすなと叫ぶだろう。現に今私の本能が叫んでいる。


という訳で死んでも動きたくないのが心情だ。だが年下であろう少年にそんな負担をかけるのも心苦しい……一体どうしたものか……



私が入り口付近で居心地悪そうにもじもじしていると少年が何かがうがうと言っている。……え?どうしたんだろう?


私を見て言っているので何か私に用がある事は明白。なので私は疑問も持たずに少年の座る洞窟の奥の方に向かった。



「えっと……どうしたの?」


「ぐぅ、がぁおぐぁ!」



じゃーん!と効果音が付きそうな動作で少年は葉っぱを……もとい葉っぱを1つに纏めたような1枚の風呂敷みたいになった物を広げてみせた。



「す、すごいね!体に巻くの?」



大変言いづらいが少年の今の姿はあまり褒められたものではない。全裸だ。


助けてもらっておいてあまりな言いぐさだが、正直目のやり場に困る。兄は居たが、兄は風呂上りにはすぐ服を着る派なのでご無沙汰のいちもつだ。


少年が後ろを向いてもぷりんとした玉のような尻を見せびらかされて反応に困る。なのでそれを巻き付けてくれると私の精神上非常にありがたい。



「ぐるる!」



なのに少年はそれを私に押し付けてきた。

そしてそのまま私を座らせるとポンポンとリズム良く私の体を叩いた。



……え…ね、寝かしつけようとしてる……?



微妙に温かい目で私を見て叩き続ける少年。その姿は母だ。どうやら渡された風呂敷のような葉っぱは布団だったようだ。


どうやらお泊りも許可されているらしい。少年が自分の体に巻いてくれなかったのは少々不満だが、居ても良いと言ってくれているようで私はひどく安心した。



「ぐるる~がう~ぅがぁ~」



心なしか子守唄的なものも歌ってくれている……


少年から伝わる振動で緊張していた体は徐々にほぐれていき、いつの間にか私は自分も知らないうちに眠りに落ちていた―…













「ピピピピピピピ」


「うーん…うるさぁーい……」



目覚ましが朝を告げる。そうだった…今日学校じゃん……やだなぁ……ずる休みしたい……


でもバイト先で学校の生徒とかに会ったら面倒な事になるので早く起きる。お金はいるのでバイトは休めないのだ。

私は目覚ましに手を伸ばしアラームを……



「ピピピ!?ピピピピピピピピ」


「何でこんな細い……はぁ?……ぎっ!?ぎゃあああああっっ!?」



目覚ましが細くうねるので薄目を開けてスイッチを探そうとした私の目に飛び込んできたのは、かわいい声で鳴くムカデだった!!


ムカデは私の腕を伝い制服の裾から中に入ろうとしてきた!!



「ちょっ!?やだ気持ち悪いっっ!!ひいいいいっ!でてけぇっ!!」



毒を持ってて噛まれたら怖いので体を大きく動かすだけで決して掴もうとはしない。だからかムカデは容赦なく私の服の中に入ってきた!


私は泣いた。もうこれはムカデに体を任せるしかない。せめてムカデが人喰いではなければと考え、私はただただ無言で暴れまわった。



「……!!……!……!?………………!!」


「ぐぁお?ぐぅがう」



その時、私の異変を察知した様子の少年が声をかけてきた。私はそれを知るや否や、先程の孤独な闘いに精神をやられたのか、年下である少年に泣いて縋った。



「少年!助けてぇっ!!むか、ムカデがっ!!」


「!」



私が指をさしてムカデが入っていった事を伝えると、少年は助けに来てくれた!



「少年!ここ!ここから………ぎゃあっ!?」


「がう?ぐるる…」



何と少年は私の脇から腕を突っ込んでムカデを探し出した!!


あっ!やめて!そこには私の慎ましい胸が!!……す、素通りされた……



軽く私が絶望しているのも知らず少年は懸命にムカデを追いかけてくれている。



……いや…少年は良い判断をしたよ。ここで私の胸に触れようものなら、きっと私が強制わいせつの疑いで書類送検されていた所だ。


私が示談金を考えている間に少年は私の体を這っていたムカデを捕らえたようで、一息に抜き取ったムカデが私の脇から抜けていった。



「うー!!がう!」


「ありがとう少年……助かったよ……」



色んな意味で。


気を付けなければ私は「体をムカデが這っているから捕って」と言って青少年に性的暴行を働いたという罪に問われる所だった。本当にありがとう。


少年は誇らしげにムカデを掲げて眩しい笑顔を私に向けた。そして「あいおと!」と言葉を返してくれた。どうやらありがとうの意味を理解してくれたようだ。



「ピピピピピピピ」



少年の掲げるムカデが鳴き声を上げる。ムカデはショッキングピンクをしていて、どう考えても食べてはいけない色をしている。


…でも、どうなんだろう……少年は野生児っぽいし…主食だったりするのかな…虫。


私がムカデをじっと見ているのが気になったのか、少年は「どうしたの?」とでも言うようにムカデと私を見比べる。


なので私は食べる動作をして食すのかを聞いてみた。すると少年は一声上げて私に手招きして歩き出した。



…ついて来いってやつかな。



とりあえず素直に少年の後をついて行った。このまま妖精入りの入れ物と2人きりになるより、少年と外の方がどう考えても安全だ。



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