8話 初めての王都
今回、途中で視点が変わります。
ついに七歳になった僕は、数回のお茶会を経て、王宮で開かれるパーティーに参加する。
「わぁ~」
「ふふ。王都は凄いでしょ?」
「はい!」
「パーティーが終わったら、一緒にお買い物しましょうね」
「はい!!」
遠路はるばるやってきた王都は、貿易都市アルブムよりも賑わっていた。
馬車の窓から色とりどりの建物が覗ける。
アルブムも地面にゴミ一つない綺麗さだが、王都はそれ以上だ。
「この国はね、魔導学の研究が進んでいるんだ。パーティーが終わったら、開発途中の魔導鉄道を見学しようか」
「はい。楽しみです」
父上の言う魔導学とは、地球の科学に魔法を足したようなやつのことだ。魔道具が主な成果である。
確か、今は鉄道や飛行船といった長距離移動用の乗り物の開発に力を注いでいるはずだ。
「それよりもレインは、ティーセットの方がいいんじゃない? 貴族御用達のお店が集まる第四地区には茶器専門店がたくさんあるわよ」
「本当ですか!?」
おおおおおお!!
母上の言葉で僕の宝石のような瞳が輝く。
僕は最近、経済学の授業で得たお金でティーセットを買うのがマイブームだ。
この世には食器なんてどれでも同じだと考える人も信じられないことにいるらしいが、僕はそういうことに拘っていくべきだと思うよ。同じもやしでも、いいお皿に盛りつけられたもやしは普通よりも満足感が違う。
「ぜひ行きましょう!!」
そう言うと、父上と母上がクスクスと笑った。
「ちゃんとパーティーを乗り切ったら、一つだけ買ってあげるよ」
「ありがとうございます!」
やったぁ。頑張ろう。
そんな会話をしながら王都を馬車で走る。
この時の僕は思っていなかった。
今回のパーティーで僕はかけがえのない仲間と出会うなんて。
◇◇◇
待ち時間が長い。
お城に着いた僕たちは、馬車の中で手続きを受けていた。
「僕たちが本物であるかの確認もそうだけど、それ以上に、ローガンやグレースのような護衛や使用人が悪い人ではないのを確認しないといけないからね」
とはいえ、父上の言うことは最もだ。
僕たちのような一貴族のお茶会でも身元の確認はしてたし、お城ではもっと確認するのはしょうがない。
「それに侯爵家は早い方さ」
こういうのは爵位順らしい。
爵位は六つあって、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵の順で位が高い。
ちなみに、騎士爵は今日はこないらしい。
この爵位は偉大な功績を打ち立てた平民に贈られる一代限りのものだ。
「それにしても、貴族ってたくさんいるんですね」
爵位は色々あるけれど、もっと数自体は少ないと思っていたわ。
「まあね。領地がない貴族も含めたら相当な数だよ」
「へー」
窓から外を見る。
そこには数多くの家紋の旗があった。大体動物だ。
ちなみにアルブム家の家紋は白い狐だ。この色はその家の遺伝色、つまり髪の色によって決まる。
僕は銀髪だが、白という扱いになるらしい。
まあ、王家の金髪も黄色という扱いになるらしいって父上も言ってたし。
「いっぱいいるんですねぇ」
……あれが王家の黄色の竜、聖女の実家と言われるプラティナ家の黄色の獅子、あとは……緑の鷹に黒い鮫、青い蛙に黒の蠍、赤い熊と赤い狼、青い梟、緑の羊。
なぜか、この10個の家紋が目に留まった。
いや、あと一つ。それは目に留まるというよりも目を盗まれると言った方がいいかもしれない。何故だか、目を離せないのだ。
「……白い兎、白い蛇」
「あれはシルキー伯爵家とパーラ騎士爵家だね」
「今日は騎士爵は来ないのでは?」
「彼女らは特別。なんせあそこは王国一の商会であるローゼリア商会だからね。多額の寄付の代わりに、パーティーに参加はできないけど、契約を結ぶためなら来てもいいって許可をもらってるんだよ。かくいう私もそのうちの一人だし」
「ああ。今日はほとんどすべての貴族が来てますから。これほどいい機会はなさそうですもんね」
成程、納得だ。
……でもなんだろう。
シルキー、パーラ……何故か、あの二つの旗から目が離せない。何故か胸が暖かくなり、懐かしさもこみあげてきて……背筋が凍りついた。
「どうしたんだい?」
「……い、いえ。なんでもありません」
「冷や汗が尋常じゃないよ」
不思議だが、まあいいか。
そう考えた僕は、父上と母上との談笑を再開した。
◇◇◇◇◇◇
私の名前はコーデリア・シルキー。
前世では銀条心愛という名前の女子高生だったんだよ。
大好きな幼馴染である優也くんは愛っていうあだ名で呼んでくれるの。
あの当てう……アイドルのくせに優也くんを誑かそうとする(まあ、私の優也くんがあんなのに誑かされるわけないけど)灯華っていう女もあだ名で呼ばれてないし、私の一番の自慢だったの。
でも、彼との握手が終わった直後、彼が刺されてしまってそれに駆けつけちゃって巻き込まれて死んじゃったの。
そうして私は、所謂異世界転生というものをしました。
生まれた家はなんと伯爵家で、私は幼少期から厳しい教育を受けました。
と、言っても、私には前世の記憶があります。……そんなに頭良くなかったけど。
やる気が違いますし、一番頭がよくなると言われている10歳以下で17歳並みの知能を持っていたら、普通に天才扱いされます。
あんまり目立たないようにしようと思っていたけど、少し抜けているけど頼りになるお父様、冷たいように見えて暖かいお母様、そして優しいみんな。前世では、彼以外くれなかった暖かい気持ちをくれるみんなのために頑張りました。
そんな私は王子様のパーティーにやってきました。
そこには多くの貴族が来ており、その家紋の旗を見ているだけで楽しいです。
その中でも特に金、黒、赤、緑、青二つずつの家紋が気になり……そして、白い狐の旗からは目が離せませんでした。
その白い狐を見ていると……どこか心が暖かくなるのです。会いたいと願う彼と同じように。
◆◆◆
かくして、この世界の運命を動かす13人の少年少女は一堂に会した。
その運命の天秤が善に傾くか、悪に傾くか、それを知っているのは今は誰一人としていない。