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7話 詐欺師の末路

遅くなり申し訳ございません。

「あの詐欺師どもの様子はどうだ?」


 斜め後ろに歩くケネスに尋ねる。

 ケネスがかけているモノクルは《遠視》の魔法陣が描かれている魔道具だ。それを使うことで、屋敷内と庭ならどこでも見渡せることができる。


「未だに気絶しております」

「そうか。オリヴィア」

「なんでしょうか?」


 報告を聞くと、今度は隣に歩く我が愛しの妻オリヴィアに声をかけた。


「離れに行っておいてくれ」

「よろしいのですか?」

「ああ。グレースたちに説明しなければいけないからな。それとエマたちに僕の代わりに謝っておいてくれ」

「わかりましたわ。きっとぐずるでしょうね」

「可愛いものさ」


 あの詐欺師も面倒な時にきてくれたよ。

 本来なら今日は家族とゆっくり過ごせる至高の一日だったはずなのに……。

 狙うんだったら僕を直接狙ってほしかった。


「マルロー。オリヴィアと離れの護衛の強化を。あと冒険者ギルドに街の警備の協力を呼びかけてくれ」

「は!」


 アンドリューと同じ部隊長のマルローに命じる。


 冒険者ギルドは世界中にある何でも屋だ。

 元々は新天地を開拓する人たちが情報を共有するためにできた組合だけど、もう新大陸が少なくなってきた今は魔物の討伐、薬草の調達、商人の護衛と様々な仕事を斡旋するようになった。

 今回頼むのは、家族の護衛に回す憲兵隊の代わりに、街を守ってもらいというものだ。冒険者は大体がならず者の集まりだから、憲兵隊よりも安心感は少なくなっちゃうんだけど、背に腹は代えられない。


「イライザは他に間者がいないかを調査を頼む。他のみんなには業務を続けるように言っておいて。怪しい動きをしたやつがいたら知らせてくれ」

「かしこまりました」


 将来、息子が本邸に移ってきた時のために作ったレインの部屋の外に待機していた侍女長のイライザに命じる。

 今この場にいるのは父の代から家に仕えてくれている者たちだ。間者である可能性は低い。


「じゃあそろそろ彼女たちの所に行こうか」


 指示を出し終えると、僕はケネスとローガンを連れてあの詐欺師たちのもとに向かった。


◇◇◇


「わっぶ!」


 二人に水をかけて無理矢理起こす。

 僕たちは今、屋敷の地下にある部屋にいる。この部屋は少し特殊で、床も壁も全てが特殊な加工がされた土でできている。見た目は普通の部屋なんだけどね。


「やあ。おはよう。調子はどうかな?」

「ッ!」


 息をのむ音が聞こえた。

 詐欺師は顔を真っ赤にし、あの若い侍従は真っ青にしている。まさしく正反対だ。


「わ、私はこの女に騙されただけで……!」


 開口一番、男はそんなことを言う。


「無駄だよ。君がそこの詐欺師――元王侯貴族パウエル子爵夫人の愛人だっていう調べはついているんだからさ。ねえ、ハートン男爵の次男君」

「――――」


 僕がケネスに調べさせたことを述べると、次男君は絶句し口をパクパクさせる。


「さて、と。君たちに聞きたいことはたくさんある。できれば抵抗せずに答えてほしいな。ケネス、あれを」

「かしこまりました」


 ケネスが持ってきてくれたネックレス――あの詐欺師が使ってた魔道具を手に取って、彼女たちの前に出す。


「この魔道具には二つの魔法陣が組み込まれていた。《痛覚付与》と《認識阻害》がね」


 まったく忌々しい限りだ。


「《痛覚付与》に付いていた条件は『5歳以下にのみ有効。“白の聖女”と発音することで起動』。《認識阻害》の方は『25歳以上にのみ有効』だったよね?」


 ケネスに尋ねる。

 すると老年の執事はこくりと頷いた。


「さて、魔法陣一つでも高価なのに、この魔道具には二つの魔法陣。しかも条件を細かく付けれるほど精密なものだ」


 魔道具は魔法陣が多くなるほど使う魔核のサイズが大きくなるので値段が上がり、条件を付けるほど精密な技が必要になってそれに耐えうる質の高い魔核が必要になるので値段が上がる。


「しかもこの魔核、何の魔物のだと思う?」


 この魔核は、冒険者ギルドでは魔物を討伐した証になることからわかるように、特別な魔道具を使うとどの魔物のものなのかを正確に知ることができる。

 じゃないと武器を作る時とかに困っちゃうからね。


「…………」

「…………」


 二人は無言だ。

 黙っているだけかもしれないし、本当に知らないのかもしれない。

 まあ、どっちだろうと関係ない。


「九尾の狐っていう東方の魔物だよ。知ってるかい?」


 九尾の狐は九つの尾を持つキツネ型の魔物だ。

 冒険者ギルドが提示する強さの指標であるランクはA。上から二番目だ。


「この魔物はね、幻惑系のスキルを使うんだ。だから、同じ幻惑系の《認識阻害》が通常よりも大きく強化されていた。それにさ――」


 九尾の狐がどれだけすごい魔物か説明してあげる。

 まあ、何が言いたいのかというと、


「潰された子爵家と男爵家から放逐された馬鹿ごときに手に入る代物じゃないんだよ。君たちのバックには誰がいるんだい?」


 腰に差した剣を抜いて、切っ先を二人に向ける。

 二人がごくりと唾を飲み込む。


「うっ、うぅ……」

「……ッ!」


 次男君はもう気の毒になるくらい蒼白になっているけど、元子爵夫人は流石に魑魅魍魎が住まう社交界に何年もいただけあってこちらを睨む余裕があるみたいだ。


「言わないのかい?」

「だったらどうしますの? 拷問でもする気?」

「…………」


 パウエル夫人が小馬鹿にしたように鼻で嗤う。


 この女は爵位を取られた時から何も学んでいないみたいだ。まるで、絶対に自分が正しく、自分こそがこの世の中心みたいな考えを持っている。


「だとしたら?」

「やれるものならやってみなさいよ! 主人公である私に、王の犬である貴方が王国法に背くことをできるわけが――」


 言い終わる前に女の指を一本斬り落とす。


「ぎゃあああああ!!」


 まるでゴブリンのようになく女を尻目に、今度は男の方に向いた。


「君は?」

「ひ、ひいいいい」


 男は必死に逃げようとするが、当然拘束しているので動けない。できて芋虫のように這うだけだ。


「くっ……このおおおおお!!」


 女が叫ぶ。

 そのあまりにも醜悪な叫び声に思わず顔をしかめてしまう。


「どうして! 私はこの世界の中心――主人公なのよ!! 高貴なる私にこんなひどいことをする貴方が貴族のままで、貴族としての当たり前の権利を使った私は汚らわしい身分に落とされなきゃいけないの!?」


 まるで理不尽な運命に翻弄されたかのような雰囲気だが、その言葉はどこまでも自己的で……何よりも、パウエル家が廃爵された理由を知る身としては吐き気すら覚える。


「ただちょっと、欲しいドレスがあったから平民を何人か売っただけじゃない!? それなのにどうして!?」


 女の言葉に剣を握る力が強くなる。

 しかし、次の瞬間、僕は驚愕し――さらなる怒りが心を満たした。


「アアアアアアアアアア!!」

「グ、グオオオオオオオ!!」


 二人の頭に角が生える。


 変化はそれだけ。

 しかし、それは少しでも人の心を持つ者ならば必ず怒る変化だ。

 ケネスも不快感を示し、ローガンに至ってはすぐにでもその斧で叩き切りそうな形相になっている。


「君……魔神に魂を売ったの?」

「ええ、そうよ! そもそも女神の教えがおかしいのですわ! 平民などという劣等民族をどうして貴族である私が助けてあげないといけないの!?」


 この国の国教である女神教は、『民は国のために、王侯貴族は民のために』という教義だ。

 これは、かつて邪悪なる魔神を封印した勇者と聖女……つまり貴族たちの祖先と呼ばれる二人が、旅の途中で様々な民たちに助けられ支えられたことからくる教えだ。


 つまり、


「馬鹿が。私たち貴族は勇者と聖女の血を引いているからこそ、その特権を得られているんだよ。その女神教を否定したら貴族も平民も同じ人だ」

「ごちゃごちゃとぉ!」


 女魔族が身を低くする。


「ぬかすなあ!!」


 その姿勢のまま突進してきた。


「グッ……!」


 咄嗟に剣でガードできたが勢いは殺しきれず、壁に体が激突した。

 うん。これ左手折れてるね……まあ、問題ない。


「オーホッホッホ! これが魔族の力!! 戦えない私でも、騎士としても相当な実力を持つ貴方に圧倒できるのですわ!? まさしくチート能力!!」

「す、すごい! これが魔族の力!」


 女が高らかに笑い、男はそれに希望を取り戻したように瞳を輝かせる。


「君たちわかってるの? 魔族になるということは……」

「当然わかってますわ。ですが、あのお方のおかげで大した苦労もなく集まりましたの」


 当然、魔族になるには条件がある。ただで強くなれるのならば誰も彼もが魔族になるだろう。

 その条件が忌避されるからこそ、誰も魔族になろうとしないのだ。


「多くの余命を残す子ども100の命を魔神に捧げること! たったそれだけで私が強くなれるのです!! 彼らも私の糧になれて喜んでいることでしょう!! 主人公の私に!!」


 醜悪。あまりにも醜悪だ。

 本能も理性も告げる。この女を生かしておけないと。


「アハハハハ!! まずはお前からだ。王国一の斧使いか何かは知らないけど……死ねえ!!」


 男魔族がローガンにとびかかる。

 その速度はとても戦いの心得を持っていない人間のものとは思えない。


「オーホッホッホ! いいわよ、やってやりなさい!!」


 女の声援に応えるかのように男はその鋭利に尖った爪で切り裂こうとし――


「……下種が」


 吐き捨てるように紡がれた言葉とともに振り落ろされた斧によって両断された。


「…………へ?」


 女がぱちくりと目を瞬く。


「な、なななな、な――!」

「ねえ」

「ひっ!」


 声をかけると、女は情けなく悲鳴を漏らす。


「そ、その手で、な、何ができる――」

「知らないのかい? アルブムにとって骨折はね」


 あらぬ方向に曲がった左手を元の形になるように無理矢理動かす。


「――怪我でも何でもないんだよ」


 すると、僕の左手は完治した。

 彼女も元貴族なら知っているだろうに。護家と呼ばれる特殊な一族の一つであるアルブムの力を。


「ふ、ふふふふ、ふざけるな! この化け物どもめ! 貴様ら護家はどいつも――」

「……ふざけるな、だと?」

「神によって転生した主人公である私に逆らうなんて――ふざけるな!」


 ああ、駄目だ。

 貴族たるもの常に落ち着かないといけないと習ったのに。


「それはこちらのセリフだ」


 怒りでどうにかなってしまいそうだ。


「誇り高き勇者と聖女の血を引く貴族として――」


 剣を鞘に戻す。

 僕は剣じゃなくて、こっちの方が得意だからね。


「そして何よりも、君に痛みつけられた子の親として――」


 女を見据える。


「僕は君を許さない」

「な、舐めるなぁ!!」


 女が突撃してくるが……もう関係ない。


「アースウォール」

「――げぺ」


 呪文を唱えると、床と天井から壁が生え女の下半身を圧し潰した。


「この部屋はね、アルブム家の家系属性である土魔法の練習部屋なんだよ。床も天井も壁も全て魔法で固くした土でできてるんだ」

「グ……ウオオオオオオオオオオオオ!!」


 アースウォールを解除する。

 当然女は地面に落ちて、まるで這いつくばる虫のような姿になった。


「ア、アア……転生し、チートも得た私が何故こんな目に……」

「話してくれる気になった?」

「だ、誰が……」

「そう? それは残念。アースニードル」


 指をパチンと鳴らす。

 すると、女が倒れている床から大きな針がたくさん生えた。


「ギャアアアアアア!!」

「喋る気がないんだったら仕方ない。できるだけ苦しめて殺すよ」

「ま、待って。待ってちょうだい!」


 次はどうしてやろうかと考えていたら、女が制止の声をかけてきた。


「は、話す! 話すから!!」


 うわ、泣いちゃったよ。

 昔は社交界のマドンナの一人って言われてたらしいけど、今の姿からは想像できないな。


「……ふーん、そう。じゃあ、あの方って誰?」

「あ、あの方は――」

「? どうしたの……?」


 肝心の情報を聞けるという瞬間、女の動きが突如として止まった。


「ア、アガ、アガガガガガガガ」

「! アーノルド様、私の後ろに!!」


 止まったかと思うと、今度は大きく痙攣し始める。


 流石に何かあると思って、ローガンが前に出た。

 ……ケネスはちゃんと避難しているな。


「アガペ!」

「うわ……」


 思わず顔をしかめて、声を出しちゃったけど仕方ないと思う。

 そう考えるくらいには、目の前で起こった光景はショッキングだった。


 突然痙攣した女が破裂したのだ。それはもう文字通りに。

 部屋の至る所に内臓だったものがまき散らかされている。


「これまた厄介な。ローガン、大丈夫かい?」

「はい。ご心配をおかけして申し訳ございません」

「良い。それからケネス。すぐに女神教の高位神官を手配してくれ。この部屋……いや、この屋敷のものすべてに浄化してもらおう。無論、僕も君たちもだ」

「はっ!」

「かしこまりました」


 二人が走っていくのを見届けながら、二人の魔族の服を見る。

 何か手掛かりがあればいいんだけど……何もないか。


「浄化が終わったら、王と父上に手紙を書かないと」


 ハア、僕の天使たちの顔を思い出して癒されよう。


 ……う~ん。最高!


「しかし、魔族……魔神か」


 やっぱりレインたちは……いや、今考えても仕方ないか。


 そう結論付けるが、考えは止まらない。


「レインやギルバート殿下たちが生まれた年の“女神の誕生日”に、女神が降臨するというアトランティスの山で発生した光。そしてレインのような神童が、あの子含めて13人。しかも王家と護家が。……これが何か悪いことの予兆じゃなかったらいいけど」


 心底そう思う。


 ……ああ、でも、こういう時の悪い予感って大抵当たるんだよなあ。

ちょっとストックの関係で少しの間、四日に一度の投稿にシフトします。

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