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3話 一日

遅くなり申し訳ございません。

 今日から剣術のお稽古が始まる。

 本当は来年、僕が四歳になった時に始める予定だったのだが、想像以上に勉強のスピードが早いらしいので、父上に頼んで早くしてもらったのだ。前世もちな分、勉強に対する意欲は高いし、理解度も高い。


 どっちかというと魔法の方を習いたかったのだが、魔法は10歳になる年の“女神の誕生日”という祝日に教会で儀式を行うことで使えるようになるらしい。

 つまり、それまで魔法はおあずけなのだ。


 というわけで剣術を習うことになった。貴族は領民を護れるようにならないといけないので、男子にとって剣は必修科目の一つらしい。


「というわけで早速、剣の稽古を始めましょう」

「うん。よろしくお願いします、アンドリュー」


 剣を教えてくれるのは、僕の護衛を務めるアンドリューだ。

 ナイスダンディなアンドリューは、アルブム家の私設兵――憲兵隊で部隊長を任されるほどの実力だ。そんな彼に教えてもらえるのなら、僕も不満はない。


「剣といってもたくさんありますが、どんな剣を扱うかはまた今度で構いません。まずはこれで基本的な動きを学びましょう」


 そう言って渡してくれたのは木の棒だ。うどんとかを作る時に使う麺棒や太鼓のばちに似ている。


「剣じゃないの?」

「まだ体ができていませんので」

「……む~」


 剣を使えると思っていたからちょっと不満だ。文句を言うほどわがままじゃないけど。


「ご不満ですか?」

「少しだけ……」


 僕の表情で察したのか、アンドリューが聞いてくる。

 僕の返答を聞いた彼は少し笑った後に、「少しお待ちください」と言って館の中に戻った。

 ちなみに僕がいるところは庭に設置されている第二修練場だ。ここは普段は使われていない施設で、僕のような令息もしくは令嬢専用なのだ。憲兵隊の訓練は、本邸にあるここの三倍は大きい第一修練場で行われる。

 ……アルブム家の本邸めちゃくちゃ広い。そら、どこもかしこも侍従や侍女がいたわけだ。


 これは豆知識だが、この世界では執事のことを侍従、メイドのことを侍女と呼ぶ。執事、メイドは昔の呼称らしい。

 ちょっと面倒くさい。


 そんなことを考えていたら、アンドリューが戻ってきた。

 その手には、鞘に収められた短剣と木製の剣が握られていた。


「まずはこれを振ってみてください。ちきんと刃を落としているので危険はありません」


 アンドリューから短剣を受け取る。

 言われた通りに短剣を振ってみる。が、すっぽ抜けてしまった。


「あれ?」


 首を傾げる。全力で握ったはずなのに。


「次はこっちを振ってみてください」


 短剣を鞘に戻したアンドリューは、今度は木製の剣をくれる。

 木剣は短剣よりも長いが、最初に用意されていた棒と同じくらいの長さだ。


 さっきよりも気持ち強めに握って、素振りしようとする。

 すると、今度は後ろに倒れてしまった。前に持っていくこともできなかった。


「わかりましたか。レインフォード様が一番しなければいけないことは体作りです」


 アンドリューの講義が始まる。


「今のレインフォード様では、木でできた剣で素振りすることすらできません。握力が足りませんし、重心の動かし方も十分にできていません。なので、最初はこの棒で修行しましょう。そうすれば体力も握力も身に付きますし、剣を持った時の動き方も理解できます」


 確かにアンドリューの言うことは最もだ。僕は、ハイハイや歩くことで体力の向上を狙っていたが、それも微々たるものだし。後悔はしてないけど。


「では始めましょうか」

「はい!」


 そうして、僕はアンドリューとのチャンバラごっこに精を出した。

 非常に楽しかった。


◇◇◇


 初めての剣術の稽古の次の日、全身筋肉痛の僕は家庭教師のデイジーと勉強をした。

 まあ、勉強と言っても本格的なものではない。まだ三歳だしね。


 まずはこの世界の文字の書き取りだ。この世界はすべての国が同じ言語を使用しているらしい。不思議だが、文字は神に与えられたものだと教えてもらって納得した。魔法があるようなファンタジーなんだから、神様の存在が確認されていてもおかしくない。同様の理由で通貨も同じらしい。

 文字の書き取りはそろそろマスターしたと言えるだろう。まだミミズみたいな字だが、何とか読めるレベルになった。


 それと簡単な足し算引き算だけど、これは一瞬でマスターした。というか、数字と記号が日本のと同じだったのだ。

 天才だと騒がれた時は気分が結構よかった。前世ではそんなに頭がよくなかった……というか、俳優業が忙しくて、どうしても授業の出席率が低かったから、勉強でほめられたことがなかったのだ。


 あとは歴史という名の絵本の読み聞かせと礼節だ。


「というわけで、聖女と勇者は魔神を封じたと言われてるザマス」


 この国で昔あったという伝説が記された絵本の読み聞かせが終わる。


 ちなみにデイジーの不思議な語尾は、ここファイカーラ王国一の高等学校のカリスマ講師のマネらしい。


「さて、今日の歴史の講義はこれで終わりザマス。次は礼節ザマスよ」

「はい」


 教科書(絵本)を片付け、部屋を移動する。


 着いたのは応接室だ。


「では、私を身分が高い人として仮定して、どうすればいいか考えるでザマス。侍従の働きは行われたとするザマス」

「わかりました」


 えーと……まずは侍従もしくは侍女が部屋に案内してくるから、それを部屋で待つ。

 それから、自分が扉から遠い方、相手が扉から近い方になるように座る。これは、身分が高い方がすぐに扉から逃げられるようにするためだ。

 そして、相手が座ったのを確認してこちらも座る、と。


「正解ザマス。これが基本的な形ザマス。あとは、一番身分が高い人よりも多くを食べないや、淑女はトイレに行くのを他の言葉で言い換えることも覚えておくといいザマスよ。お花を摘みに行くが一般的ザマスね。もちろん、淑女だけではなく紳士も直接的に言ったらダメザマス」

「はい。ご指導ありがとうございます」


 礼を言う。こういう一つ一つの礼儀も自分の品、ひいてはアルブム家の格にかかわってくるらしい。


「今日の授業はここまでザマス。まだ基本的なことしかしてないザマスけど、予習復習は忘れないように」


 こうして、朝から晩まで続いた勉強を終えたのだった。

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