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2話 転生

(はっ! 今のは……?)


 包丁に刺されたはずの僕は、突然訪れた頭の痛みに耐え切れず、大声で泣き喚いた。


 な、何だ!? 僕はこんなに堪え性がなかったのか?

 というか、何も見えない!?


「■■、■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■■■。■■■■■■!」

「■■■■■■■■■、■■■■■■■■■!」


 そんな僕の周りで、三人の女性の嬉しそうな声が聞こえた。マネージャーの声はない。

 というか、日本語じゃない……?


 誰かが僕を持ち上げる。


 は? 僕は180cm近くあるんだぞ。こんなひょいと持ち上げられるはずなんて……。

 というか、涙が止まらないし、不安でしょうがない!


 そんな疑問に答えられるわけもなく、僕は誰かから誰かに渡された。

 すると、さっきまであった不安が薄れ、逆に安心感が僕を包んだ。


「■■、■■■■■■レイン。■■■■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■■■■■■■レインフォード。■■■■■■■■■■■■」


 どこか安心感のある男性と女性の声が聞こえる。

 聞きなれない言語だが、“レイン”“レインフォード”という言葉はなぜか鮮明に聞こえた。


 僕は、謎の安心感に包まれたまま、泣き疲れたのか、眠ってしまった。


◇◇◇


 はい。そういうわけで、赤ちゃんに転生してました。

 あっはっはっは。こんなことあるんだね。あっはっはっは。


 ……どうすればいいの?

 知らない人ばかりで、すごい寂しいんだけど。いずれは慣れるんだろうけどさ!


 自分が赤ちゃんだと気づけたのは、目が見えるようになってからだ。鏡を見て愕然とした。


「■■。■■■■■■■■■■~」


 前世で言うメイド服を着た女性が、おねしょをしてしまった僕のおむつを取り替えてくれる。泣くほど気持ち悪かったからありがたい。

 ちなみにこのメイドさんの名前は知らない。なんせここの言葉がわからないからね。日本語じゃないことは確かだろうけど。


「レインフォード■■、■■■■■■■■■」


 そんな中でわかったことが三つある。


 一つ目は、僕の名前がレインフォードで愛称がレインだということ。

 みんな、僕に語り掛けてくるときにそう言ってくる。


 二つ目は、僕の家は裕福だということ。

 まずメイドと執事がいるし、まだハイハイもできないので全部を見たわけではないが家の内装も非常に格式高いものだ。


「あい!」


 メイドさんにお礼を述べる。まだ発声がちゃんとしていない。


「レイン■■■■■■■!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■■■■■■。■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■」


 そして三つ目。それは、今部屋にやってきた銀髪の美丈夫と鶯色の髪の美女が僕の両親だということだ。

 この二人だが、とんでもなく顔が整っている。長年芸能界にいた僕も見たことがないほどだ。


「あう! パパ、ママ!」


 二人を見た瞬間、心が歓喜で満たされる。二人は仕事が忙しいのか、こちらに来る頻度はそんなに多くない。特に父が来るのなんて本当にまれだ。


「■■! ■■■■■■!」


 父が駆け寄ってくる。母はそんな父の様子に呆れながらも、嬉しそうに歩み寄ってきてくれた。


「■■■。■■■■■」

「きゃっ、きゃっ」


 父が高い高いしてくれた。

 魂の7割以上は赤ちゃんであるレインの僕は、それはもう楽しんだ。


◇◇◇


 ハイハイできるようになった。

 今の僕の目標は、できるだけハイハイして、体力の基礎作りをすることだ。


 前世である白原優也は、子役の養成所に通って一年ぐらいは稽古をサボっていた。

 それで後にめちゃくちゃ後悔したので、僕は思いつく限りのできる努力はやっていこうと思っている。

 それに転生っていうことは、ワンチャン何かチート能力を持っている可能性もあるしね。


 あ、ちなみにこの世界は地球じゃない。なんせ魔法があるのだ。

 昔、父が母には内緒だよと悪戯めいた表情で見せてくれた。あれはすごかった。

 その後、母にばれた父が怒られたのも気にならないくらい、僕は夢中になった。


「ハイハイ、ここまでちまちょうね~」

「あい! ぐれーす、ぐれーす」

「まあ。もう私の名前を覚えてくださったのですか。レインフォード様は天才でちゅね~」


 僕が乳幼児の頃から育ててくれたメイドのグレースの所までハイハイする。


 ちなみに言葉はある程度理解できるようになってきた。やっぱり前世の記憶がある分、理解度がその辺の子どもとは違う。


「もっと、もっと」

「はいはい。その前にお昼ご飯を食べまちょうね~」

「あい!」


 お昼ご飯は、まだ僕が乳幼児のためかぐちゃぐちゃなものだけど、これが案外おいしいのだ。

 精神年齢は肉体年齢に左右されるのかもね。


「ごちとーたま」


 食べ終わったら、日本で言う「ごちそうさま」の言葉を発する。まだ舌足らずだ。


「はいはい」

「フフフ。相変わらず好きですね」


 グレースが食器を他のメイドに下げさせる。彼女はメイドの中でも高い位置にいるっぽい。


 この後、結構な時間ハイハイした僕は、充足感の後に眠りについた。


◇◇◇


 三歳になった。


 前世では知るよしもなかったが、三歳児はできることが意外と多い。おむつじゃないし、喋れるし、歩けるし、一人で食事もできる。


 そんな僕は、久しぶりに出会う父に挨拶をしていた。


「ちちうえ、ほんじちゅはおひ……おひがらもよく」


 これはこの二年の間で知ったことだが、僕の家は貴族らしい。それも侯爵家だ。……王族の次の次に偉いって言ってたから侯爵であってるよね?

 それを聞いた時、僕は本気で勉強を頑張ろうと思った。その一貫……というか、最重要項目として、礼節がある。

 侯爵家嫡男たる僕は、たとえ一時でも礼を欠いてはいけないのだ。


 面倒だと思うかもしれないが、権力を維持するためと思えば苦痛ではない。

 あ~、権力最高~。


「ああ! 僕の可愛い可愛いエンジェルレイン! もうおひがらなんて言葉がわかるのかい!?」


 そう、侯爵家たるもの決して父上のように、人前で息子に抱き着いたりしてはいけないのだ。


「ちちうえ。こうしゃくがこんなはしたないことを……」


 父上を注意する。父上もお爺様も曾爺様もどうしてこんな感じなんだろ……まるで、僕の前世の白原優也みたいだ。


「大丈夫、大丈夫。ここには身内しかいないし。何よりも一か月ぶりの我が子なんだし、ちょっとぐらいはいいでしょ」

「む~」


 そう言って、めっちゃ頬にキスしてくる。


 父上の仕事は忙しいらしく、アルブム領と王都を行き来しているらしい。

 我がアルブム侯爵領は王国の貿易の中心地であり、曾爺様――オーランド・アルブムが市場を仕切っているとはいえ、父上――アーノルド・アルブムはその補佐で曾爺様の仕事を勉強している。ちなみにお爺様は世界中を旅している。


「ウフフ。アーノルドも我慢してたんだし、少しぐらい許してあげなさい」


 僕ら親子の様子を楽し気に見守っているのは、母上――オリヴィア・アルブムだ。


「ははうえ……ですが、それだとエマにしめしが」


 そんな母上は一年前に女の子を出産していた。

 女の子の名前はエマだ。僕の父上譲りの銀髪とは違い、母上譲りの鶯色の髪をしている。

 天使のように可愛い。


「まあまあ。エマはまだ一歳ですよ」

「そうですけど……」


 母上の言うことは最もだが、エマも僕と同じように前世の記憶があるかもしれないし……。

 だが、そんな説明をするわけにもいかない。侯爵家嫡男の僕がおかしくなったなんていう醜聞を流すわけにはいかないのだ。


「エマー!」


 父上が大喜びで母上に抱きかかえられたエマに駆け寄るが、その大声にびっくりしたのかエマが泣いてしまう。


「おお、よしよし。あなたもそろそろ落ち着きましょうね?」

「……はい」


 怒った母上は怖い。

 笑顔で怒る母上に、父上は素直に返事をする。


 この後、勉強の結果を父上に褒めてもらったり、一緒に料理を食べたりと暖かいひと時を過ごした。


 案外、転生も楽しいものなのかもしれない。うん、大丈夫。

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