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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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気づかぬうちに


 俺達は「サーペント」での戦いの後、ミオラの案内の元猫の街「ガット」へ来た。

 「ガット」の中でも一番賑わっているという大通りには、飲食店や雑貨屋など、様々な種類のお店が所狭しと並んでいる。


 すると、どこからかとても元気で明るい呼び込みの声が聞こえて来た。


「いらっしゃいませだにゃあ〜!あっ、そこのお兄さんぜひぜひ寄って行ってほしいにゃあ〜♡お姉さん超可愛いにゃっ!ホントにゃあ〜!そっちはカレシさんにゃ?カレシさんもイケメンにゃっ!いいカップルにゃあ〜!ほらほら皆さんっ!どんどん寄って行ってほしいにゃっ!美味しいご飯も用意してるにゃっ!みんなで美味しいものいっぱい食べて元気になるにゃあ〜!!」


 少し離れたところにある飲食店の前で女の子が楽しそうにお客さんに声をかけていた。


「あの子凄く元気だな。」

「にゃーにゃーうるせーけど、客寄せは上手いな。」

「⋯⋯お客さん、いっぱいお店に入ってるよね。」

「そりゃあそうよ。花明(かめい)亭店の看板娘だから。」


 俺達3人の話を聞いていたミオラがハッキリと言った。


「看板娘か⋯⋯そりゃ客寄せも上手だろうな。でも、なんでミオラはその事を知ってるんだ?」

「あぁ、それは一一」


 ミオラが何か言いかけた時、先程から話題に上がっている元気な看板娘の女の子がこちらに向かって大きな声を出した。


「あぁ!!ミオラだにゃあ!ミオラ〜〜!」


 かなり嬉しそうにジャンプしながら手を振る女の子。跳ねる動きに合わせてオーカー色の短い髪が嬉しさを表すように、ふわふわとなびいていた。

 それに対し、ミオラも笑顔で手を振り返している。


「おい、ミオラ。お前あいつと知り合いか?」

「えぇ。というより、知り合いもなにもあの子が吉歌(きっか)ちゃんよ。」


 グレイが女の子を指さしながらミオラに質問すると、ミオラは女の子から目線を外さないままグレイの質問に答えた。

 その予想外の答えに俺達はもちろん驚きを隠せる訳もなく⋯⋯


「マジかよ!こんなにすぐに見つかるのかよ!」

「え、あの子が⋯⋯あんなに元気な子が⋯⋯?」

「あの女の子がガーディアンの子なのか?」

「昔から仲良くしてるんだからすぐに見つかるに決まってるじゃない。あの子がガーディアンよ。」


 いきなり明かされたその事実を受け入れることに俺達は必死だった。


 すると、女の子は何を思ったのかこちら目がけて思いっきり走ってきた。


「ひぃ!こっちに向かってくる⋯⋯!」


 ヒショウは恐怖のあまり俺とグレイの後ろにすぐさま隠れた。


 そして女の子はというと⋯⋯


「ミオラ〜〜♡」


 勢いづいたままミオラに抱きついた。

 かなりの勢いだったのだろう。抱きつかれた瞬間、ミオラが小さな声で「うっ」と言ったのが聞こえた。


「ミオラ!久しぶりだにゃあ〜!」

「ひ、久しぶり。吉歌ちゃん。もう少し優しく抱きついてくれると嬉しいわ。」

「ごめんだにゃ!でも、ずっとミオラに会いたかったから気持ちが抑えられなかったにゃ!」


 女の子はとても嬉しそうにミオラに擦り寄っている。

 一一流石化け猫。その様子は猫そのものにしか見えない。


 ずっとミオラにしか目がなかった女の子だったが、視界に俺達が入ったらしい。

 こちらを向くと不思議そうな顔をした。


「ミオラ。そっちのイケメン3人は誰にゃ?知り合いにゃ?」


 それを聞いたミオラが俺達を紹介しようと口を開いた瞬間だった。


「あぁ!分かったにゃ〜!分かっちゃったにゃ〜!」


 ニヤニヤしながら女の子が衝撃発言という名の爆弾を投下した。


「ミオラ〜、モテモテにゃ〜ね〜!3股ってやつにゃ〜ね〜!」


 多分この女の子にとっては全く悪気はないのだろうが、その発言はミオラの逆鱗に触れたらしい。


「⋯⋯吉歌ちゃん?⋯⋯今なんて言った?」

「だ〜か〜ら〜、3股ってやつにゃ〜!」

「吉歌ちゃん。覚悟なさい。」


 何度も3股という言葉を口にするため怒りが収まらないらしい。

 髪の毛の蛇がうねうねと動き始めると、女の子に向かって徐々に伸びて行った。


 それを見た女の子はまずいことを言ってしまったということにやっと気がついたらしい。


「う、嘘にゃ!!嘘に決まってるにゃ!!冗談というやつにゃぁよ!?」


 女の子が必死に弁解を始めた。

 すると、それを見たミオラはニッコリと笑った。


「そう。それならいいのよ。私の勘違いかしら。早まってごめんなさいね。」


 その言葉と共にミオラの蛇は元に戻っていく。


「か、勘違いさせるようなこと言った吉歌が悪いにゃ!ごめんなさいにゃあ!!許してくださいにゃあ!!」

「何言ってるの?私、怒ってないわよ?」


 いや、怒ってないわけが無い。確実に怒ってる。

 そう思ったのは俺だけではなかったようだ。


「ミ、ミオラちゃん⋯⋯こ、怖くない!?」

「あぁ⋯⋯あれはやべぇ⋯⋯ガチギレしてる⋯⋯」


 ヒショウとグレイは顔を引きつらせながらミオラを見ていた。


 このままだと女の子の命が危ういのではないかとこちらは心配していたが、そんな心配とは裏腹に女の子は怒ってないことを受け入れたのか安堵の表情を浮かべていた。


「本当に怒ってないにゃよね?」

「えぇ。もちろんでしょう?」

「よかったにゃ!本当にごめんなさいにゃ!もう言わないにゃ!」


 女の子はミオラに抱きついた。怒ってないという言葉が相当嬉しかったのか、尻尾を動かしている。

 ミオラの表情はまだ怒っているように見えるが、当人がそれでいいなら俺達が口出しをする必要はないだろう。


 ミオラに抱きつけた事に満足したのか、女の子は改めて俺達3人の方に向き直った。


「えっと⋯⋯それでこの3人は誰なのかにゃ?皆違う街から来たみたいにゃけど⋯⋯何かあったにゃ?」

「あら。いつにも増して勘が鋭いのね。ちょっと用があって一緒にいるのよ。詳しい説明は私じゃなくてビアがした方が良さそうかしら。」


 ミオラが俺の顔を見ると、女の子もつられて俺の顔を見上げた。黄緑色の大きな瞳が俺を捉える。


「あぁ。俺から話をさせてもらう。」

「ありがとう。それじゃあ、吉歌ちゃん。この吸血鬼のお兄さんのお話を聞いてもらってもいいかしら?」

「分かったにゃ!あっ!ここで話してると足が痛くなっちゃうから、吉歌のお店に来るといいにゃ!」


 女の子の提案から、俺達は女の子のお店で話をすることにした。


 お店に着くと、そこは思ってた以上の大盛況で席がほとんど埋まっていた。

 甘味処かと思ったがそうでも無いらしい。様々な食事をしている人がたくさんいた。


「いらっしゃ〜い!おや、ミオラちゃんじゃないか!そっちのお兄さん方も吉歌のお客さんかい?」


 俺達が女の子に連れられ中へ入ると、店員さんに声をかけられた。


「そうにゃ!今からお話するにゃ!少しだけ席を借りてもいいにゃ?」

「あぁ、そうだなぁ⋯⋯ちょっと今お客様が多くてそこのテーブルしか空いてないんだ。もっと広い席がいいよなぁ⋯⋯。」


 店員さんの指差す先にある空いていた席は、店の角にある円テーブルで3人がけの席だった。


「大丈夫にゃ!今から吉歌が椅子を持ってくるにゃ!」

「いやぁ、椅子は予備があるが⋯⋯狭くないかい?」


 店員さんは、男が3人いるため座りにくくはないかと心配してくれているのだろう。


「大丈夫ですよ。狭くても座れますから。急に来たのに席を用意して下さってありがとうございます。」

「そうかい?それなら吸血鬼さんの言葉に甘えさせてもらおうかな。いい席を準備できなくて申し訳なかったね。気にせず座ってゆっくりしていっていいからね。」


 店員さんが俺達を席に案内すると女の子が椅子を2つ持って現れた。

 俺とグレイの間にヒショウが座り、俺の隣に女の子が座った。


「それじゃあ早速だが、君は今のこの国の状況のことを知ってるか?」

「この国って言うと、オスクリタのことにゃ?」


 オスクリタの名前が簡単に出てくるということは、オスクリタの侵略が国の存続に関わることだからこそ話が浸透しているということだろう。


「オスクリタを知ってるなら話が早いだろう。今、俺は国王であるファニアス様からの命令で指定された街をまわっているところなんだ。そこで、街のガーディアンを探さなければならないんだ。」


 女の子だけでなく、ヒショウ達も真剣な顔で俺の話を聞いている。


「そして、この国を守るために15人のガーディアンでオスクリタに挑まなければならない。」

「なるほどにゃ。この街に来たということは、この街のガーディアンを探しているということにゃね。」


 女の子は腕を組んで何かを考え始めた。

 ミオラ曰くこの女の子が「ガット」のガーディアンということだから、ガーディアンとして行くことが出来るのかを考えているのだろう。


 そう思っていたが、女の子は意外な言葉を口にした。


「この街のガーディアンって誰にゃ?」

「⋯⋯え?」

「いやいやいや!お前何言ってんだよ!」

「誰って⋯⋯。」


 俺達男3人は女の子にツッコミを入れずにいられなかった。


 すると、それを聞いていたミオラが深いため息をついた。


「吉歌ちゃん、やっぱり自覚してなかったのね。そんな気がしてたわ。」

「自覚って⋯⋯何の事にゃ?」


 未だに何も理解出来てないというような表情をしている女の子に対し、ミオラはゆっくりと説明を始めた。


「吉歌ちゃん。貴方最近街の犯罪抑制のために街の見回りをしなかった?」

「したにゃ!最近はよく見回りしてるにゃ!」

「そうね。他にも、犯罪者の撃退として街の人から頻繁に呼ばれることはなかった?」

「あったにゃ!前よりも呼ばれるのが増えたにゃ!どれもちゃんと成敗できたにゃあ!」


 鼻高々に話す女の子をミオラはなんとも言えない表情で見ている。


「吉歌ちゃん。今言った仕事は誰がやるのか知ってる?」

「うーん⋯⋯ガーディアンにゃ?前はガーディアンのお兄さんがよくこの仕事をしてたにゃ!」

「そうよね。今そのお兄さんは仕事してないのかしら?」

「うんにゃ。ガーディアンは次の世代にバトンタッチしたって聞いたことがあるにゃぁ!」


 そこまで分かってるのに違和感を覚えないのだろうか。

 まだ分かっていない様子の女の子に、ミオラは確信をつく質問をした。


「前ガーディアンのお兄さんと同じ仕事を受け持ってる現世代のガーディアンは誰かしら?」


 それを聞いて女の子は動きが止まった。

 やっと気づいたのだろうか。


「誰にゃ?」


 その一言に4人は肩を落とした。

 そこまで言われても気づかないのか⋯⋯。


 その様子を仕事をしながらずっと見ていた店員さんが、女の子の傍へやってきた。


「吉歌。この街のガーディアンは吉歌だろう?」

「⋯⋯にゃ?」


 店員さんの方を見て固まる女の子。

 数秒してやっと理解することが出来たのだろう。


「にゃぁああ!?知らなかったにゃあ!!」


 いきなり立ち上がって大声を出したため、店にいるお客さん全員が驚きのあまりこちらを振り向いた。


「吉歌ちゃん!声が大きいわ!」

「おまっ、ボリューム抑えろって!耳やられただろ!」

「びびびびびっくりしたっ⋯⋯。」

「げ⋯⋯元気だな。」

「吉歌、お客さんが驚いてるだろう。」

「ご、ごめんにゃあ⋯⋯。」


 女の子はお客さんの方に頭を下げると大人しく椅子に座り直した。


「実はにゃ、おかしいと思ってたにゃよ。」

「おかしいって⋯⋯何がだ?」


 女の子は前のめりになりながら、俺達に向かって今まで疑問に思っていたということを話し始めた。


「ほら、さっきミオラが言ってたけど、ガーディアンの仕事って犯罪抑制とか犯罪者の撃退とかだと思うにゃ。今まではそんな仕事に関わることはなかったんだけど、ある時から仕事の要請が吉歌の所に沢山来るようになったにゃ。なんでかにゃ〜って思ってたにゃ。」


 仕事の要請が頻繁に来たことに対してただ疑問に思ってるだけで、仕事を受け入れ街を守ってきたのも凄いことだ。


「でも、仕事が終わると街のみんなにたくさん感謝されて凄く嬉しかったにゃ。だから、みんなと協力して街を守るのも悪くないにゃって思ってたにゃ!まぁ、吉歌がガーディアンだったのなら感謝されるのは必然的なことだったかもしれないんにゃけどね。自分がガーディアンだって気づかなかったなんて馬鹿みたいにゃね、にゃははっ。」


 女の子は笑っているものの、少し悲しそうな表情をしているようにも見えた。

 俺にはその原因が何なのかは1つしか思い浮かばなかった。


 この女の子は、ガーディアンだと今まで気づかずに過ごしていた。だが、ちゃんと今まで街を守ってきていたし、その仕事にやりがいも感じていたようだ。

 だからこそ普通であればガーディアンだと言われても「あぁそうだったのか。」と納得するだけで済む話だ。


 しかし今回に限ってはそれでは終わらない。


 ガーディアンである女の子は、今から俺達と共に国の為に戦わなくてはならないのだ。

 自分がこの街のガーディアンであるという事実を受け止めるだけでなく、同時に、国を抱えた戦に関わる重要人物であるという事実をも受け止めなければならない。


 そう考えると、女の子にとってガーディアンだという事実は重い物としてのしかかっているのだろう。


 俯いて口を閉ざしてしまった女の子に向かって、俺は提案を持ちかけることにした。


「もし、ガーディアンとして国の為に戦うことが不安だったり嫌だったら言ってほしい。その場合は新たな対処法を考える。これは本当に危険な戦いになると思うから、俺も無理に誘おうとは思わない。」


 すると、女の子の傍にいた店員さんが女の子に声をかけた。


「吉歌、今考え込んでも簡単には答えが出ないだろう。1日待ってもらったらどうだ?」

「⋯⋯え?」

「せっかくここまで皆さんが来てくれたんだ。生半可な気持ちで返事をしたら失礼だろう?今日初めてガーディアンだと気づいたんだ。心の整理をして自分と向き合ってみたらどうだ?」


 確かに、店員さんの言う通りだ。

 出来ることなら早く仲間を集めたいが、この街のガーディアンであるこの女の子の意見はしっかり聞いて受け止めたい。


「皆さん。もしよろしければ、1日だけ待ってはくれませんか。」


 その言葉を聞き3人は俺の方を見た。俺に判断を委ねているようだ。


 もちろん、ここまで頼まれて断るほど俺は悪魔ではない。


「大丈夫ですよ。ゆっくり考えてください。」


 店員さんは俺の返事に安心したようだった。


「ありがとうございます。それでは、今から宿を探すのは大変でしょうから、今夜は我々の家に泊まってください。部屋の方はご案内致しますね。」


 俺達4人は店員さんの言葉に甘えさせてもらい、この店の裏手にある家に一泊させてもらうことにした。


 あの後女の子は終始俯いていたが、大丈夫だろうか。

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