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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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私だって

突如現れた盗賊3人の前に1人残ったミオラ。

いつもと異なり従者のいない中、ミオラは己の中に眠る野心を奮い立たせていた。


「デゼルトバッラーレ!」


 サルバードが第一声を発すると同時にスヴェルとリージィも動き出した。


「アフアーウィスパー。」


 一瞬で私の横に来ていたスヴェルは私の耳元でそう囁いた。

 囁かれた直後視界が奪われ、目の前が真っ暗になった。


 何も見えないわ⋯⋯。


「リアンズバンケット。」


 リージィの声と笛の音が聞こえたかと思うと、何かに体が締め付けられるような感覚に陥った。

 感覚⋯⋯ではなく実際に締め付けられているような気がする。


「くっ⋯⋯。」


 徐々に視界が晴れてくると何が起きているのか一目瞭然だった。

 私の体には無数の蛇が絡みついていた。リージィの蛇だろう。


 蛇に体を締め付けられている上に、サルバードのレガロにより裏道全体が砂漠と化しているため足が砂に取られてとても動きにくい。


 その場で出来る限りの抵抗をした方が体力も奪われなくていいかもしれないわね。


「スネークバイター!」


 声を張り上げると、私の髪に住みつく可愛い蛇達が私の体を締め付ける蛇達に勢いよく噛み付いた。


 噛み付くと同時に大量の毒を流し込むため、リージィの蛇達はもがき苦しみながら消えた。


「あっれぇ〜?これで殺れると思ったんだけどなぁ〜?」

「殺しちゃダメなんだよ。あくまでネックレスを奪うだけだ。」

「我らの街の姫様を傷つけることなど許されぬ。」

「あら。そんなこと言う割にはやってる事が矛盾しているわよ。」


 本当にふざけたことを言う人達ね。自由すぎて羨ましいくらいだわ。


「サルバード。」

「うむ。承知した。」


 リージィが指示を送ると、サルバードが両手を胸の前で合わせた。


「デゼルトアート!」


 サルバードがレガロを唱えた途端、足元の砂が渦を巻き始めた。


 これが『蛇地獄』⋯⋯!?


「⋯⋯まずいわね。」


 動きにくいからとその場に居続けたのが凶と出てしまった。

 このままでは渦に飲み込まれてしまうと悟った私は、蛇達を最大限に伸ばし後ろに飛び退いた。


「逃げても無駄である。」


 落ち着いた様子で私を見ているサルバードと笑っている2人。

 嫌な予感がしたけれど、飛び退いてしまったため足を地面につけるしかない私は砂の上に着地した。


「!?」


 その瞬間、私の足元の砂はあっさりと崩れさり蛇地獄と化してしまった。


「サルバードのデゼルトアートから抜け出せたやつは今まで誰もいない。」

「姫さんもここでおしまいだなぁ〜!」

「姫様の大切な物を頂戴すること、許して欲しい。」

「行くぞ、スヴェル。」

「言われなくても行くよぉ!」


 リージィが笛で先程とは異なる音色を奏で始めると、スヴェルが砂地獄の手前で高く飛び上がった。


「リアンズピティエ。」

「アフアーダンス!!」


 砂漠から無数の蛇が顔を出すと、私の足の先から登ってきた。

 スヴェルはもう私の上まで飛んできている。


 初手から砂漠に囲まれ足元をすくわれ、今は砂漠の渦に飲み込まれた上に蛇に襲われ、上空からはスヴェルがこちらに向かっている。

 この状況、一見蛇使いと蛇の子で構成された盗賊達の方が優勢に思えるかもしれない。


 でもね一一


 私も『蛇』だってこと⋯⋯忘れてないかしら?


「ペトロケミストリー!」


 私が声を張り上げた途端、私の頭の真上まで来ていたスヴェルと笛を奏でていたリージィ、様子を伺っていたサルバードが動きを止めた。

 動きを止めたというよりは、『石化した』という表現の方が正しいだろう。


 3人が石化したため、私の腹部まで登ってきていた蛇達や砂漠は消えていった。


「これで一安心ね。」


 私は石化した3人の目を1人ずつ見ながら言った。


「私はメデューサ。この街の中でも上位の種族よ。姫という位置づけにいるけれど、そこら辺の姫と違ってか弱い女じゃないの。守られるだけじゃない。私だって、戦えるわ。⋯⋯姫だからって舐めてもらっちゃ困るのよ。まぁ、石化した貴方達に言っても無駄でしょうけど。」


 実際に3人と戦うことになったのはこれが初めてだったため、情報はあれど少し苦戦してしまった。


 ビア達を待たせすぎたかしら。


「おい!大丈夫か!?」


 グレイの声が空から聞こえてきたため見上げると、建物の上からビア、ヒショウ、グレイが覗いていた。


「あら。そんな所にいたのね。消えてしまったからどこへ行ったのかと思ってたわ。」

「ヒショウとビアのおかげでここにいんだ!」

「ミオラ、大丈夫なのか?」

「け、怪我⋯⋯してない?」


 3人が不安そうな表情でこちらを見ているのが遠くからでも分かる。


「えぇ、大丈夫よ。⋯⋯とりあえず、私をそこまで連れて行ってくれないかしら?」


 それを聞くと、すぐにビアが私の元まで降りてきた。


「上まで行っていいのか?」


 リージィ達の方に視線をやるビア。


 この3人のことが気になるのかしら。


「えぇ。上までお願いするわ。この人達のことは気にしなくて結構よ。」

「⋯⋯そうか。」


 ビアは私のことを軽々と抱き上げると飛び上がった。

 普段はマントで見えない大きな羽が今はマントから飛び出ている。


 そうね⋯⋯ビアは吸血鬼だったわね。


 建物の上に辿り着くと、ゆっくりと私を降ろしてくれた。


「怪我はねーのか?」

「えぇ。問題ないわ。あの3人の目的はネックレスを奪うことだから、私を怪我をさせる気はなかったみたいよ。」

「締め付けられてたけど⋯⋯。」

「大丈夫。もう痛みはないわ。」


 痛みがないということを聞いて、ヒショウは安堵の表情を浮かべた。


「ところで、盗賊達は今どういう状況なんだ?」


 ビアが建物の下の方に視線を送ると、ヒショウとグレイもつられて下を見た。


「石化したのよ。」

「石化?」

「そう。私の目が赤く光った時にその目を見た者は全員石化するわ。私、メデューサだから。」


 それを聞いたグレイが眉をひそめた。


「俺、ちょっと気になることがあんだけど⋯⋯あの石化した奴らってどうなるんだ?」

「時間が経てば元に戻るわ。そろそろ戻ると思うから様子を見ましょう。ヒショウ、私も一緒に透明化してもらってもいいかしら?」

「あ、うん。分かった。」


 ヒショウはすぐに私達を透明化してくれた。


 なるほど。透明化しても本人には何も影響はないのね。


 初めての透明化に興味を抱いていると、下が騒がしくなった。


「あれぇ!?姫さんがいない〜!!!」

「リージィの蛇と我の砂漠も消えておるな。」

「⋯⋯ちっ。逃げられたか。」

「今回は盗めたと思ったのになぁ〜!!」

「仕方がない。また機会を伺うしかないであろう。」

「面倒だが、そうするしかないな。」


 リージィ達はネックレスを一旦諦めたらしい。裏道を去っていった。


「ミオラのレガロ、すっげーな!石化できるなら誰にも負けねーじゃねーか!」

「そうね。石化が効くならこうやって逃げることもできるわね。」


 グレイがとても楽しそうにしている。


 背は大きいけれどやっぱり子どもね。笑った顔が可愛らしいわ。


 グレイとは対象的に、ヒショウは不思議そうな表情を浮かべていた。


「ヒショウ。どうかしたのかしら?」

「え!?あ、いや⋯⋯その⋯⋯。」

「聞きたいことがあるなら何でも言ってちょうだい。」

「いや⋯⋯あの⋯⋯例えばなんだけど⋯⋯。」


 話し始めたヒショウに視線が集まる。

 私以外は男だけれど一気に視線が集まったからいつもより緊張しているように見える。


「も、もし、石化した人を破壊したら⋯⋯元に戻った時どうなるの?」


 ⋯⋯なるほど。石化した人は時間が経てば戻るってことが分かったからこその質問ね。


 誰だって気になるわよね。

 でも、流石に全て話したら気味悪がられそうだから、ここは⋯⋯。


「ふふっ、そうね。ご想像にお任せ⋯⋯といったところかしら。」


 私の言葉を聞いたグレイは、「マジかよ⋯⋯。」と顔を引きつらせていた。隣にいたヒショウも青ざめているようだった。


 石化した人を破壊したら元に戻った時どうなっているのか⋯⋯それはどんな風に思ってくれても結構よ。


 でも、蛇はねちっこく執着する生き物ってことは知ってるかしら。

 メデューサである私もそうよ。

 ヒショウ達の脳裏をよぎったような残酷なことをしてまで簡単に殺したりなんてしないわ。

 簡単に殺してしまったら可哀想でしょう?


 だから相手と対等に戦いながらも、最後まで私の掌の上で踊らせてあげるの。


 そうしている時が、一番楽しいのよ。

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