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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
侵攻軍
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時計探し

 (はく)(ごく)に選ばれたのが俺と牡丹(ぼたん)だと全員に伝えた後すぐに、2人によって開催されたゲームをクリアする為に策が練られた。


 ゲームクリアの条件は『「クロック」を過去に戻している元凶の時計を見つけて壊すこと』だ。


 時計を探すには街に繰り出す必要がある。

 しかし現在街は俺達を敵視している街の人達で溢れかえっている。

 全員でいれば悪目立ちしゲームどころでは無くなってしまう。

 その為、街の人々に紛れ込むチームと、ヒショウのレガロで姿を見えないようにするチームに分かれることとなった。


 紛れ込む方法だが⋯⋯


「それでは、僕のレガロと鴇鮫(ときさめ)さんのレガロを使用するのはいかがでしょうか。」


 そんな華紫亜(かしあ)の提案により、鴇鮫、華紫亜、ヒショウを筆頭にグループ分けを行った。


 結果、上空部隊に鴇鮫・ホワリ・椰鶴(やづる)・ビア・シュロの5人。捜索部隊は、華紫亜・吉歌(きっか)・牡丹・ミオラ・和倉(わくら)の5人グループと、ヒショウ・椿(つばき)・ランド・メロウ・俺の5人グループとなった。


 初めは、

 鴇鮫の「アトラクトアイズ」(他の人や物に成り代わっているように見せる)と、

 華紫亜の「篝火狐鳴(こうかこめい)」(思い通りに化けさせる)

 を使って捜索する予定だった。


 しかし、上空が1番全体を把握し指示を出すことが可能であるという点から、

 上空部隊に鴇鮫の「コロ・ルーイン」(離れた相手にも情報を伝えられる)

 が必要だという結論に至った。


 その為、鴇鮫を上空部隊、ヒショウを捜索部隊に変更した。




「すっげー⋯⋯本当にバレねーもんだな⋯⋯。」

「こんなに近くにいるのに、全然気が付かれてないよね。」


 俺は今、ヒショウのレガロによって周りから姿が見えない状況になっていた。

 脇道に逸れてメインストリートの様子を伺っているだけとはいえ、5人も集まってたら、本来ならすぐバレて追いかけ回されていたことだろう。


「やっぱりヒショウのレガロ、すげーな!」

「そうかな?ありがとう!」


 嬉しそうに笑うヒショウ。

 俺達のグループにはメロウがいるが、女子が1人だけだからかヒショウはいつもより落ち着いて行動出来ているように見えた。


「⋯⋯で、この後どうする?」


 後ろから俺達の様子を見守っていたランドの言葉に、メインストリートを覗いていた俺達は少し離れた場所へと移動し、話しやすいように円になった。


「どうせ見えないんだし、堂々と探し回ろうぜ。」

「あっ、待って。」


 俺の提案に待ったをかけたのはレガロを使用している張本人のヒショウだ。


「確かに姿は見えないようになってるけど、ぶつかったり攻撃を受けると効果無くなっちゃうから、それだけは気をつけて。」

「そしたら、慎重に動かないといけないってことだね。」

「目立った行動⋯⋯いや、人混みに紛れた行動は命取りになりかねないな。」

「じゃあやっぱ裏路地捜索かー?」


 現在街の人達が総出で俺達を探している。

 「クロック」を過去に戻している元凶の時計は裏路地に隠されている可能性があるとはいえ、唯一無二のこの状況を上手く使えないのはむず痒い。


「⋯⋯ミオラ達が⋯⋯」


 捜索範囲に悩んでいる中声を上げたのはメロウだった。


「ミオラ達が街の中に紛れ込んでいる今、私達がやるべき事は表立った事じゃなくて、「姿が見えない」特性を活かした行動ってことになるよね?」

「そうだな!」

「それなら一一」




「じゃあ、行ってくるね。」

「おう!」

「よろしくね。」

「困ったらすぐ戻ってこい。」

「頑張って。」


 ヒショウは裏路地にあった扉をすり抜け壁の中へ消えていった。


「⋯⋯メロウは、随分とヒショウを評価してるんだな。」


 ランドの言葉にメロウは微笑んだ。


「うん。だって、女性恐怖症なのに、あの日私を必死に説得してくれたんだよ。それに比べたらきっと簡単だよ。」


 メロウの作戦はこうだった。



『裏路地探索だけじゃなくて、お店の中に忍び込んだ捜索もするのはどう?』

『店の中ぁ?透明になってるっつったって、物は普通に触れんだし、すり抜けられるわけじゃねーぞ?どうやって入んだ?』

『大丈夫。ヒショウなら出来るよね?』

『あ、う、うん、できるよ。』


 突然真っ直ぐ目を合わせてきたメロウに、分かりやすく狼狽えるヒショウ。だが、どこかミオラ達と話してる時よりは怖がり度合いが低いように感じた。


『やっぱりできるよね。ヒショウは、私の出したハイヤーパンプキン、抜けられてたもんね。』

『確かに、みんなが飛んで壁を越えてたのに、飛べないヒショウもあっち側に行けてたってことは、すり抜けたってことになるもんね。』

『そう。それに、みんな壊してたから知ってると思うけど、ハイヤーパンプキンは防壁としての役割を持ってるからこそかなり分厚く出来てる。それを抜けられるんだから、家の壁くらい簡単なんじゃない?』


 家の壁くらいって⋯⋯


『すっげー信頼度⋯⋯てかヒショウ、実際どうなんだ?家ぐらい簡単?』

『簡単って言うと、なんか犯罪者みたいだけど⋯⋯正直メロウの言う通りかな。流石に、メロウのハイヤーパンプキンは普段より体力使ったけど、家ならそんなことも無いから探索は簡単に出来るよ。』

『ヒショウならではの能力だな。じゃあ、俺達が中に入れるように、ヒショウには鍵を開けるのをお願いする形で大丈夫か?』

『大丈夫だよ。任せて!』

『分かった。そしたら、この裏路地なら人とすれ違うことも少ないし、このまま裏路地を散策しながらお店や公共の施設をメインに中に忍び込んで捜査しよう。目的の時計が外にあるとは限らない。ただ、上空から散策しているビア達も中までは探せない。華紫亜くん達は変化しているとはいえ行動に限界がある。そこは俺たちがカバーしよう。』


 やっぱりランドの統率力はすっげーな。


『探索する場所、公共の場所とかお店だけに絞っちゃっていいの?それこそ不法侵入になりかねないけど、一般家庭とかは捜索から外しても問題ないかな?』


 確かに椿の言う通りだよな。

 時間も限られてるし、探せる場所を絞るに越したことはねーけど。万が一ってこともあったりしないのか?


『多分、一般家庭に隠すなんて面倒な事はあいつらもしないだろう。あいつらにとって闇喰ってやつはリーダーであり恐怖の対象らしいしな。ゲーム程度にやりすぎたことはしないはずだ。』

『確かに!なら大丈夫だな!』




 そうこうしている内に、ヒショウが鍵を開けるのに成功したのだろう。

 カチャっと鍵が回った音がすると、直ぐに扉が開いた。


「ここの店の人、外出中みたい。今なら探し放題だよ!」

「流石ヒショウ!そこまで確認してくるなんてな!」

「でしょ〜!ほら、早く探しちゃお!」


 ヒショウに手招かれ中へと入る。

 裏口から入ったから分からなかったが、ここはかなり大きなレストランらしい。

 店内は外にいた俺達からは想像ができない程に不気味に静まり返っており、窓は分厚いカーテンが覆っておりかなり暗い。

 ただ、カーテンもところどころ隙間があったた為、そこから入り込む外の光が部屋を照らしていた。


 ⋯⋯急いで閉めて外に向かったって感じだな。


「みんなわざわざお店閉めてまで私達のこと探してるんだね。」

「あの2人の言葉を聞くだけでこれだけ行動するんだから、短期間でこの街の信頼を得たのが真実なのが分かるね。」


 間違いない。こんな大きな店だ。

 開店してたらそれ相応の人数は来店するはず。

 休業日でもない限り、店を閉めるなんて判断を下すことはないだろう。


「俺達を捕まえること。ただそれだけが今のこの街の人達の今日を生きる目的になってるんだろうな。」

「なんつーか⋯⋯怖いな。」

「本当だよね。本気で俺達を探してるのが伝わってくるもんね。」

「捕まりたくねーー!!」


 俺が近場にあったカウンターにもたれ掛かっていると、椿が俺の横に手を伸ばしてきた。


「うぉ!どした?」

「あ、ごめん。グレイの後ろに時計があったから確認しようと思って。」

「マジか!悪ぃな!」

「ううん。大丈夫。」


 椿が手に取ったのは小さな茶色の置時計だった。


「うーん⋯⋯普通の時計かな?」

「あー、そうだな。っていうか、あいつら「クロック」を過去に戻している元凶の時計を探せとか言ってたけど、見た目とかどんな感じとか全く説明してくれなかったよな!」

「そうなんだよね。⋯⋯分からないけど、やっぱりこの時計は違う気がする。」


 椿は元の位置に置時計を戻した。


 俺が見ても至って普通のどこにでもありそうな時計だ。

 ただ、説明されてないから正直絶対この時計がハズレだとは言いきれない。


「時計っつったって、そもそもが時計でまみれた街なのに、どうやって見つけ出すんだよー。」

「正解の時計が分からないからもどかしいよね。」


 項垂れる俺を見て困ったように笑うヒショウと、眉を下げる3人。

 俺と組んだやつ、本当に全員心優しいやつだよな。


「とりあえず、見渡した感じだとこのお店にはこの時計とそこの大きな掛け時計しかないみたいだ。あの掛け時計はメロウが確認してきてくれたが、やはり違和感はないらしい。時間も有限だし、同じ場所に留まり続けるのも良くない。一旦この店からは離れて他を探そう。」


 ランドの指示に従い、俺達は店を出て裏路地に戻った。


 そのまま裏路地を歩きながらも、扉を見つける度にヒショウが中へ入り鍵を開け、全員で散策をした。

 確証がないため、どの時計も怪しく思えるが、至って普通の時計の為疑いを残しながらもその場を後にするという状況が続いていた。


 そんな時、上空部隊の鴇鮫から全員に一報が入った。


 『煌びやかな時計を持った子どもが裏路地に連れ込まれ、建物の中へと入って行った。』との事だった。


 煌びやかな時計と聞き、今まで出会った時計と異なりかなり目立つ時計なのではないかと予想が着いた。

 よくよく聞いてみると、その子どもは服装が珀と圀に類似しているという点から先にミオラのチームが見つけて追いかけていたが、人混みで見失っていたらしい。


 上空部隊が見たところ、その建物に近いのは俺達裏路地チームだということが判明した為、俺達は指示に従いながら急ぎつつも慎重に建物へと向かった。



「この建物だな。」

『間違いないよ。それと、最後にもう一つ。中まではどうしても見ることが出来ないからハッキリとは言えないけれど、連れ去った時にいたのは大人の男性が3人。確実に中に3人はいる。それ以上もいる可能性を含めて、気をつけて捜索してね。』

「分かった。」


 ランドの返事を最後に、鴇鮫との通信が途切れた。


「じゃあ、俺、行ってくる。」


 ヒショウが壁に手を当てると、その身体がすうっと溶けるように建物の中へと入り込んだ。すでに何度も繰り返してきた動作だが、そのたびに俺たちは息を飲む。


 数秒後——「カチャッ」と鍵の開く音。


「開いたよ、今なら大丈夫。」

「ナイス、ヒショウ!」


 俺たちは素早く中へと滑り込む。中は薄暗く、カーテンは閉め切られ、空気は重苦しい。


 ふと前を見ると、通路の奥で蝋燭の炎がゆらゆらと揺れていた。


「——いる。」


 ランドが囁くように言った。静寂の中、蝋燭の揺らぎが3つの影を照らす。男が3人、壁に背を預けるようにして何かを話している。


「……でも、子どもがいねえ。」


 俺が言うと、椿が目を細めてあたりを見渡した。


「音……下からしない?」

「……地下か。」


 椿とランドの視線の先、ランドが指差したのは、床の奥にあった木製の小さな扉。まるで隠されていたかのような場所に。


「行こう。」


 俺たちはできるだけ音を立てないようにして、その扉を開けた。ギィ、と鈍い音が響いたとき、男たちの会話が一瞬止まったが、すぐにまた始まった。バレてはいない。


 階段を下りると、そこは小さな石造りの地下室だった。


「……!」


 その中央に、小さな体が膝を抱えていた。


「おい、大丈夫か!?」


 俺が声を出すと、ヒショウが全員のレガロを解いた。突然誰もいなかった場所から俺達が現れたからか、その子は驚いた表情で顔を上げた。


「……誰?君たち……」

「安心しろ、助けに来た。名前は?」

「……ライ。僕、気づいたらこの街にいて、知らない大人たちに囲まれて、ここの中に——」

「……なんで捕まった?」

「服が珍しいって……あと、この時計が“高そう”だって……」


 ライが胸元を握ると、そこには煌びやかな時計が見えた。


「え⋯⋯ぜってーこれじゃね?」

「⋯⋯確実にそうだろうな。」

「答えですと言わんばかりの輝きだよね。」

「輝きすぎじゃない?」

「この子が閉じ込められてる限り、外では見つけられなかったよ。」


 時計に目を奪われたが、その後すぐにライの服に目がとまった。


 着ている服が珍しいと言われたと言っていたが……それはそうだろう。

 ライの着ている服はこの時代の物じゃない。

 俺達が生きている本当の時間軸の物だった。


「この子、珀達のレガロに巻き込まれたんだね。」

「ミオラ達の話は本当だったってわけだな。」

「とりあえず、一旦ここから出た方がいいよね?」


 椿の言葉に全員が頷くと、俺がライを抱き起こした。

 その瞬間だった——


「……何をしている?」


 静かな声が、背後から響いた。


「……ッ!」


 俺が振り返ると、そこにはいつの間にか地下室に降りてきていた男のひとりが立っていた。


 目が合った瞬間、世界が止まったように思えた。


「くそっ……!」


 その瞬間、男がポケットに手を入れかけた——


「下がって!!ハイヤーパンプキン!」


 ——ドゴォンッ!


 咄嗟にメロウが叫び、俺たちと男の間に巨大なカボチャの壁が出現した。


「逃げ道できたよ!今のうちに!」

「ライ、掴まれ!」


 俺たちは一斉に階段を駆け上がり、建物の裏口から裏路地へと飛び出した。


「いたぞ!!」


 路地の別方向からも男たちの仲間らしき人物が姿を見せ始めた。

 

「追ってくるぞ!」

「ごめん、私のせいかも!!」


 メロウが振り返りほんの少し上を向きながら謝罪をした。


 その視線の先を見て俺は叫んだ。


「あれは!!あれはバレる!!」


 ハイヤーパンプキンが建物を貫いていた。


「本当にごめんなさい!!」

「謝るな。あいつから守ってくれたんだ。」

「逃げればいいだけだよね。」


 全力で謝罪するメロウに対し、ランドと椿がフォローを入れた時前からも追っ手が現れた。


「っくそ、囲まれる——」


 その瞬間、ランドが静かに呟いた。


「……ホーリングウルフ。」


 パキッと小さな空気が割れるような音がした。地面が波打ち、まるで時が滲むように周囲の人々の動きが鈍る。


「10秒だ。」


 ランドの瞳が獣のように鋭く光った。


「逃げろッ!!」


 俺たちは全力で走り出す。建物の隙間を縫うように、風を切って裏路地を駆け抜ける。


 ——9秒、8秒、7秒。


 だが、街の人々が気付き始めた。


「いたぞ!」「捕まえろっ!」


 再び通常速度に戻った人々が、四方八方から追ってくる。


「やばい、こっち!」


 椿が叫び、俺たちは路地を曲がった。


「行き止まり——!?」


 壁だった。完全な行き止まり。振り返ると、男たちと街の住人たちが、ぞろぞろとこちらへ迫ってくる。


「……終わりか。」

「くっそおおおお……!」


 その時だった——


「動くな!!ポリシアンだ!!」


 怒鳴り声と共に、長い棒を持った五人の男たちが突如現れ、住民達と男たちの間に割って入った。


「……!?何だ……?」


 住民達は困惑しつつも、「ポリシアン」の威圧に後退する。


「珀様、圀様の命で我々はオスクリタの面々を捕獲することとなっている。ここからは我々が受け持つ。さぁ、残りの10人を見つけ出すんだ!」


 建物に反響するポリシアンの言葉を聞いた住民達は「他の連中を探せ!」という声と共にそそくさと散っていった。


「……助かったのか?」


 俺が呆然と呟いた時、ランドが静かに口を開いた。


「……華紫亜くん。」

「——っ!?」


 その名前に、全員が振り返った。


 次の瞬間、「ポリシアン」の中から、ふわりと姿を変えた4人が現れる。


 ——変化していたのは、華紫亜達だった。


「……お前ら、ほんと、最高のタイミングだな!」

「ふふ、間一髪…といったところでしょうか。」


 華紫亜が笑みを浮かべると、ライは安堵の表情を見せ、ヒショウもふぅっと肩の力を抜いた。


「……でも、これで終わりじゃない。」


 ランドの声が再び空気を締める。


「この時計——“元凶”の可能性が高い。それをどう扱うか……ここからが本番だ。」

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