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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
侵攻軍
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止まった時間

目の前から消えた2人に牡丹(ぼたん)は困惑しつつも、仲間達の様子を慎重に伺っていた。


『選ばれた2人に直接聞いてみなよ。』


 そのような無責任な言葉を残し、2人は魔法陣の中へと消えていってしまった。

 みんなが戸惑っている様子が伺える。

 その時、突然広場にざわめきが戻った。


「レガロが解除されたのね。」


 ミオラさんの言う通りだろう。先程まで静まり返っていた光景が嘘だったかのように一瞬で街の人達が元の世界へと引き戻されてきた。

 そしてそれは、ゲームの始まりをも意味していた。


 街の人々の敵意の視線が全て、こちらへ向けられたのがハッキリと分かった。


 みんな、誰が選ばれたのかという謎に思考を巡らせたい所でしょう。ですが⋯⋯


 『聞いてみな』といいながらも、そのような暇など2人は与えてはくれなかった。

 ざわめきの中、体格の良い屈強な者達が一斉に駆け出し階段へと向かってくる。


「待って待って!こっち来てる!」

「両側から来てるにゃ!どうするにゃ!?このままじゃ捕まっちゃうにゃー!」


 シュロさんの言葉を聞き吉歌(きっか)さんが取り乱してしまった。

 それはそうだろう。化け猫は翼がない為空を飛んで逃げることが出来ないのだから。

 とはいえ、ジャンプ力は私達よりもあるだろう。万が一は飛び降りることができる。しかし、飛び降りた所で街の人達に囲まれるのが目に見えている為、翼を持たない者はここから動く事が出来ないのが安易に想像できた。


 このまま捕まってしまうのでしょうか⋯⋯。


 不安からお兄様の着物の袖をギュッと握ったと同時に、予想外の出来事が起きた。


「消えた!?」


 そのような大勢の声と共に、広場がざわめきに包まれた。

 階段を駆け上がっていた者達も足を止め目を見開いている。


「みんな聞いて。」


 何が起きているか分からない私達と対称的にヒショウさんはとても冷静だった。


 そう。ヒショウさんが、お持ちのレガロ「ヴァニッシュ」で、私達の姿が街の人達に視認されないよう透明化してくれていたのだ。


「今は透明化してるけど、階段から街の人達が登ってきたら次期にここにいるのがバレちゃうと思う。だからここから早く移動しないと。ただ、俺から一定距離以上離れると効果が消えちゃうから⋯⋯。」

「なるほど。そしたら、一旦ヒショウを中心に、全員であの建物の屋上へ移動しよう。移動後に作戦を立てる。」


 ヒショウさんの話を聞いてすぐに解決策を編み出してくれるだなんて⋯⋯流石ビアさんです。


 ビアさんの素早い指示により、シュロさんがメロウさんを、椰鶴(やづる)さんがお兄様を、ビアさんがヒショウさんを、そして和倉さんはご自分で移動をすることになった。

 そして、私を含む残った者はホワリさんがレガロで運んでくれることになった。


 それぞれが移動する準備を終える頃、恐る恐る階段を登り始める者達の姿が視界に入った。

 その様子を見た私達はその者達が頂上到着する前にと、一斉に柵を飛び越え対面に立つマンションの屋上へと飛び立った。


 空を飛んで数秒後、後ろから「いないぞ」と叫ぶ声が聞こえた。ほんの少し振り返ると、頂上でウロウロ彷徨う者や私達を探し出す為に広場から走り出す者の姿が見て取れた。


 ⋯⋯こんなに大勢の方々が私達を敵視している状況に、恐怖からか手が震えた。

 必死の形相を浮かべる街の人達は、悪事を働いた悪者ではない。ただの善良な一般市民だ。

 ゲームを終わらせる為、万が一この後街の人達と戦わなければならなくなってしまったら⋯⋯私は街の人達を傷つけずに対処できるだろうか。


 震える手と手を合わせていると、そんな私の手の上にポンと少し大きな手が置かれた。

 手の主の方を向くと、そこには横を飛んでいたグレイさんがいた。


「大丈夫だ。」


 私にだけ聴こえる声でそう言ったグレイさんは、ニカッと笑みを浮かべた。


 いつもはお兄様が同じことをしてくれるけれど、今お兄様は離れた場所で椰鶴さんの腕に抱えられている。

 もしかしたら、グレイさんはそれを見ていたのかもしれない。だからこそ今、お兄様の代わりに同じ行動をしてくれたのだろう。


 グレイさんの笑顔を見てすぐに私の手の震えは止まった。


 あぁ、なんて優しい方なのだろう。


 グレイさんは、屋上に到着するまで私の手をギュッと握りしめてくれていた。




「作戦を立てたいところだが、それよりも先に(はく)達に選ばれた者が誰なのか⋯⋯そちらを解決してしまおう。」


 屋上にたどり着いた私達は円になりお互いの顔が見えるように座ると、ビアさんに指示を仰いだ。

 ビアさんの提案は「珀さん達に選ばれた人が誰なのかを把握してから作戦を立てる」だった。

 気になることが残ったまま作戦立ててゲームをクリアしようと奮闘しても、きっと気がかりになっている状態がマイナスに作用して上手く立ち回れない可能性がある。

 

 この提案が最善だと誰もが思ったのだろう。

 意見に反対する者はおらず、全員が首を縦に振った。


「早速だが、2人に選ばれた者は、あの時何があったのか教えて欲しいんだが⋯⋯誰が選ばれたんだろうか。」


 その言葉に即座に反応を示したのはただ1人⋯⋯


「俺だ。」


 私の隣にあぐらをかいて座っていたグレイさんだった。


「まぁ、分かってると思うけど、選ばれたのは俺だけじゃない。」


 そういうグレイさんは、左隣にいる私に視線を落とす。

 そう。珀さんと(ごく)さんの2人いたのだから、選ばれたのがグレイさんだけの訳がなかった。

 視線の交わった私に対し、グレイさんは軽く頷いた。


 私もそれに対し頷き返すと、みんなの方へと視線を移した。


「もう1人は私です。」

「嘘⋯⋯。」


 私の言葉に分かりやすく狼狽えたのはお兄様だ。


「なんで⋯⋯なんで牡丹(ぼたん)が⋯⋯。」

椿(つばき)、落ち着いて。まずは2人の話を聞こう。」


 私を見つめ震えるお兄様の肩を優しく抱き寄せたのは、鴇鮫(ときさめ)さんだ。

 鴇鮫さんの顔を見上げたお兄様は目線を落とすと静かにうずくまった。


 そんなお兄様の様子を眉を下げ見ていたグレイさんだったが、みんなの視線が自分に戻ったのを確認すると、表情を変え言葉を紡ぎ始めた。


「あれは、珀がゲームの説明を終えた時だ。」




「ただ、例え数日でもここまで築いた俺達の新しい「クロック」の世界を簡単に壊せるかな?」


 珀さんが腹黒さが透ける笑みを見せた直後だった。


「さてと。説明はほどほどにして本題に移ろうか。本来の目的を果たさないと、それこそ姫君の怒りを買ってしまう。」

「はぁ?本来の目的ぃ?」

「うん。⋯⋯あれ?知らない?俺達が君達の元にわざわざ足を運んでる理由。」


 「おかしいな。今までもそうしてきてるはずだけど。」と顎に手をあて考え込む珀さん。

 そんな珀さんに対し、圀さんがボソッと呟いた。


「理解力足りてないのか?」

「はぁ!?」


 先程会ったばかりの者に自分を下げる発言をされたのだからそれは怒りが込み上げるだろう。

 ワナワナと肩を震わせるグレイさん。


 私はそんなグレイさんと2人の様子を伺いながらも、ある違和感を抱き始めていた。


 なぜ、こんなにも静かなのだろう。

 あのような発言を敵である圀さんにされたら、グレイさんに負けないくらい素早く反応を示す方が私の仲間にはいるはずなのに。


 どうしてこんなにも冷静なのだろう。


 私はそっと和倉(わくら)さんのいる方に視線を動かした。


「えっ⋯⋯。」


 咄嗟に出てしまった言葉に私は口を抑える。


 私が突然声を出したからだろう。グレイさんがこちらを振り返った。

 そして、振り返ったと同時に視界に入り込んだであろう私以外の仲間達。


 振り返ったことで自分の意思とは関係なくこの異様な光景を目にしてしまったからだろう。

 目を丸くしたグレイさんはその場で動きを止め固まってしまった。


 そのような反応になっても仕方がないだろう。私達は突然ある事実を知ってしまったのだ。


「あれ?2人共、気がついてなかったんだね。」

「そんなに気づくのが遅いだなんて⋯⋯よくそれでガーディアンなんかやってるな。」


 私達の表情を見てふふっと笑う珀さんと、目線を逸らしため息をつく圀さん。


 私達はそんな2人の発言に応えることは出来なかった。

 目の前で起きている状況を理解することで精一杯だった。


 だって⋯⋯


「⋯⋯っ!おい、ビア!ヒショウ!目を覚ませって!」


 私とグレイさん以外、時間を止められてしまっていたのだから。


「あんまり揺らさないであげなよ。時間が止まってる間に受けた刺激はレガロが解けた時に一気に襲いかかる。それ以上ヒショウさんのこと揺らすと、反動で首痛めるよ?」


 珀さんの忠告にハッとしたグレイさんは、ヒショウさんの肩から手を退けると、改めて2人の方へ向き直った。


「なんで俺と牡丹以外の時間を止めた?」

「挨拶するのに必要のない人達だからね。邪魔者はいない方が話がスムーズに進む。違うかな?」

「邪魔者⋯⋯。」


 大好きなお兄様と鴇鮫さんを、そして大切な仲間を『邪魔者』扱いされ、私は怒りがふつふつと湧き上がった。


「当事者同士なら話がスムーズなのはその通りかもしれません。でも、お兄様達を邪魔者だなんて⋯⋯許せません!」

「あれ?君はお兄さんの後ろに隠れてるような大人しいタイプかなって思ってたんだけど、案外気が強いんだね。ふふっ。気に入った。」


 珀さんは笑みを浮かべながらこちらへと歩みを進めてきた。


 何かされるかもしれない。


 何が起きても即対応できるよう、拳に力を込めた時だった。


「おい。それ以上近づくな。」


 私と珀さんの軌道上に入り込んで来たのはグレイさんだった。

 グレイさんの大きく頼もしい背中が私の視界から2人を消す。


「おっと。それは失礼。でも安心して。別に何もしないよ。挨拶ついでに握手でもと思っただけ。」

「握手だぁ?触ろうとしてる時点で危険だろーが。安心しろなんて言われたって、信じられるかよ。」

「あらら。君は思ったより慎重派なんだね。なら尚更圀の相手にピッタリだ。ね、圀。」

「そうだな。」


 名前を呼ばれた圀さんが、落ち着いた声でそれに応える。

 グレイさんの背中で表情は分からないが、きっと先程までと変わらないのだろうと予想出来た。


「圀の相手⋯⋯ってことは、俺が戦うのはお前ってことか。」

「そう言ってんだろ。」

「なぁ、さっきから喧嘩売ってんのか?」

「はあ?」


 グレイさんがイラついてるのが言葉の節々から感じとれる。

 それに対し全くこちらに興味がなさそうな圀さん。静かに流れる時の中、ふふっと小さな笑い声が聞こえた。

 この声は⋯⋯


「まぁまぁ。2人共落ち着いてよ。」


 珀さんだった。


「君達は俺達がここに来た目的を知ってるだろう?今は戦いたくてここにいる訳じゃない。挨拶とゲームの説明をしたら帰るだけ。それ以上のことはまだ求めてないんだ。」


 どんな様子なのか気になった私はグレイさんの背中から珀さんの方を覗いた。

 丁度珀さんと目が合った。珀さんはニコッと微笑む。


「あっ、やっと顔が見えた。俺の相手は君だよ。よろしくね。」

「⋯⋯分かりました。」

「ふふっ。もっと砕けてくれていいのに。」


 そう笑った珀さんは、圀さんに何か耳打ちをする。それに対し頷いた圀さんは、珀さんと共にほんの少しだけ後ろに下がった。


「ところで、グレイさん。最初にいた場所に戻ってくれるかな?」

「はぁ?」

「今から時を戻す。戻した時に君がそこにいたらみんな驚くだろう?」

「え?あ、あぁ⋯⋯。」


 言われるがままいそいそと元の場所に戻ったグレイさん。


 そして一一




「んで、その直後にビア達の時間が進み始めたって感じだ。」

「なるほど。そんなことが起きていたのか。」


 静かに話を聞いていたみんな。

 自分達の時間が知らぬ間に止められていた事に、そして、その間私とグレイさんだけが珀さんと圀さんと共に時間を過ごしていたことに驚いている様子が伺えた。


「時を操れるレガロ⋯⋯かなり厄介だな。」

「そうなんだよ!俺、そんな奴相手にまともに戦える気がしねーんだけど。」


 圀さんの前では強気だったグレイさんが、2人のいない今ガックリと肩を落とした。


「いつ時間止められたのか全くわかんねーし。その間に攻撃なんかされたら俺終わりなんだけど!最悪だ!」


 グレイさんの言う通りだ。時を止められたら、私達はもう何も出来ない。やられるだけ。


 話を聞いていると、時間操作に対抗できる手札を持ち合わせていない私に恐怖が襲いかかってきた。


 ⋯⋯私も何も出来ずに終わってしまうのだろうか。


 俯き考え込んでいた時だった。


「でもよ!」


 隣からそう大きな声が聞こえたかと思うと、突然私の右手が握られ、自分の意思に反して前に突き出された。


「俺も牡丹もガーディアンだ!あいつらと戦うまでの間に、ぜってー策を見つけてやる。な!牡丹!」


 あぁ⋯⋯本当に、この方はなんて頼もしいんだろう。


「はい!絶対負けません!」

「おっ!良い意気込みじゃねーか!」


 ケラケラと笑うグレイさん。

 そんなグレイさんを見ていると自然と笑顔が溢れた。


 そうだった。

 まだ戦ってもいないのに、戦うまで時間があるのに、今から弱気でどうする。

 そんなんじゃ、お母様とお父様に顔向けなどできない。


 私は素敵でかっこいいお母様とお父様の娘。そして、とっても強いお兄様の妹。


 グレイさんと一緒に、2人に勝つ為の策を絶対探し出すんだ。


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