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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
侵攻軍
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記憶の中の


 ハルアとビスカが魔法陣の中に消えてからすぐ、俺達はレガロが解けたであろう街の様子を伺う為に林を抜けようとしていた。


「ムカつくにゃーーー!!!」

「ホント、失礼な子だよね!!」


 怒りを露にしているのは吉歌(きっか)とシュロ。

 余程ビスカの態度が気に入らなかったようだ。


「しかも吉歌がビスカと戦わなきゃ行けないにゃ!最悪にゃ!」

「いっそあの場で捕まえちゃえば良かった!」

「そうにゃよね!ハルアが止めて来たからそれさえ出来なかったにゃ!」


 元々話すのが好きな2人。

 今は特に意気投合しているからか、勢いが収まる様子が見られなかった。

 そんな2人の傍に近寄る者がいた。


「2人とも落ち着きなさい。」


 穏やかに、かつハッキリとした声色で話に割って入ったのはミオラだった。


「そもそも戦闘なんてしない方がいいのよ。」

「「でもー!」」


 困ったように眉をしかめたミオラは、自分を見上げる怒り心頭の2人の頭を撫でた。


「私達がこうやって旅をしている目的は何?失礼な2人を捕まえて叩きのめすこと?違うわよね。オスクリタの支配下になってしまった街を救うこと。そして危機に直面しているこの国を守ること。それだけよ。」


 ミオラの言葉を聞いて気持ちが落ち着いたのか、吉歌とシュロは口を噤み静かに話を聞いていた。


「戦闘なんかせず和解できるのなら⋯⋯それが1番誰も傷つかなくていいのよ。」

「⋯⋯ごめんなさいにゃ。」

「ごめんね、ミオラちゃん。」

「謝らないで。2人の気持ちが落ち着いたならそれでいいわ。怒りたくなる気持ちは、分からなくもないもの。」


 包み込むような優しさを漂わせるミオラ。

 そして、その様子を後ろから見ていることしか出来なかった俺達は⋯⋯


「流石、お姫様!考えが大人だよね!」

「俺達の中だと1番年上だもんね。」

「私達にとっての、お姉様ですから。見習わないとですね。」


 改めてこの旅の目的を再確認させられたと同時に、ミオラのその姿勢に感服していた。


「ま、とりあえずその話は終わりにしようぜ。ほら、見てみろよ。」


 グレイの視線の先⋯⋯すぐ目の前の広場では笑顔で過ごす街の人達の姿を確認することが出来た。


「みんな問題なくいつも通りの日常を取り戻せてるみたいだし、俺達もクヨクヨしてねーで早く行こうぜ!次の街のやつらも早く助けてやんねーと。」


 気を利かせてくれたのだろうか。

 いつも以上に明るく振る舞うグレイのおかげで、怒りを顕にしていた吉歌達にも笑顔が戻ってきたようだった。




 林を抜けるとすぐに広場に出た。

 林側は芝生になっており、子ども達が寝そべったり家族がピクニックをしていた。

 広場の中央にある大きな噴水は、夕日を映しオレンジに輝いており、広場に入る前から視線を奪われてしまうほど見事なものだった。


「「「キャー!」」」

「何事だ?」


 穏やかな空気に一息ついたその瞬間、広場に面した大通りの方から叫び声が上がった。

 初めオスクリタが現れたのかと警戒態勢に入ったが、直ぐに叫び声ではなく歓声だったことに気がついた。


「ビア、あれ何?」

「パレードだろうな。」

「パレード?」


 ヒショウが不思議そうに見つめる先では、ゆっくりと進む大型車に乗った人達が沿道や広場の反対側に立つ建物から手を振ったり歓声を送る人達へ向けて手を振り返していた。


「あの人達はアイドル?」

「いや、あれはユピテルだ。」

「ユピテルって⋯⋯さっきの!?」

「だな。」


 そう。大型車に乗っているのは、つい先程レガロによって子どもの姿にさせられていたあの人達だ。

 本来の姿は衛星放送で観たことがあったから間違いない。


 丁度、ファニアス様から命を受ける少し前に、ユピテルが優勝したと放送されていた。時期を考慮すると、その後すぐに「ハルス」がオスクリタに支配され、パレードを行うことが出来なかったと推測できる。


 あの時会ったユピテルの様子だと、見た目だけではなく記憶も子どもに戻されていたように思えた。

 レガロにかかっていた最中の記憶が引き継がれているのかは定かでは無いが、どちらにせよ、支配前に開催出来なかった優勝パレードを今代わりに行っている事に間違いは無さそうだ。


「俺、アイツらにアドバイスもらっちゃったんだよなー。」


 隣にいたグレイがパレードを眺めながら呟いた。


「まさかユピテルだとは思わなかったからなー。」

「あの時の可愛い子達が、あのカッコイイユピテルだなんて誰も思わないわよね。」


 ミオラの言うように、ビスカのレガロによるものだと知るまでは、あの子達がユピテルだなんて信じ難いものがあった。

 オスクリタによる影響を街が受けている事を認識しているとはいえ、街の人達全員が子どもにされているなんて誰が思うだろうか。


 改めて考えると、広範囲にレガロをかける事ができるだなんて、ビスカはかなりの実力を持っているということになるだろう。


 まだ出会ったのは4人。

 ちゃんとレガロを見たのはバッサとビスカのみ。


 今1度全員で対策を話し合うべきだろうか⋯⋯。


 1人頭を悩ませていた時だった。

 ある1箇所から強い視線を感じた。

 そちらへ目線を向けると、こちらを見ていた者と視線が交わった。


 煌びやかな和服に簪を複数刺した黒髪、そして下駄を履いているからか周りよりも一段背が高く見える女性。ユピテルのリーダー、飛高(ひだか)千代(ちよ)選手だった。

 千代選手の両隣には、紺色の長髪を束ねており笑顔で沿道に手を振る男性、ユピテルのサブリーダーの巫來(みこ)選手と、ベリーショートに赤いイヤリングが映える女性、ユピテルのエースの優俐(すぐり)選手がいる。


 千代選手が2人に何かを伝えると、運転席側にいた優俐選手が大型車の中へと消えていった。それと同時に巫來選手が他の選手達へ言伝をしにいく。

 その間に大型車がゆっくりと停止し、選手達が大型車の中へ順に消えていった。


 突然大型車が停止したからか、沿道で見ていた街の人達もざわめき始める。


「何かあったのか?」

「⋯⋯そうだな。」

「?ビア、どうかしたか?」

「いや⋯⋯。」


 大型車が停止する直前、千代選手がこちらを眺めておりバッチリと目が合っていたのが気にかかる。

 気のせい⋯⋯とは言い難いくらいの目力だった。

 グレイが不思議そうにこちらを覗き込むが、それが停止の理由になるかは不確かだった為、不確かな情報を伝える訳にもいかずどう反応すべきか頭を悩ませていた。


 ちょうどその時、大型車の中から選手達が出てきた。

 近くに現れた選手達の姿に、街が歓声に包まれた。


「お!ファンサービスか?⋯⋯ん?」


 始めは浮かれた様子を見せていたグレイだったが、千代選手が真っ直ぐとこちらを見据えて歩いてくる様を見て、一瞬狼狽えたのが分かった。


「え⋯⋯こっち来てるよね?絶対来てるよね!?」


 そして女性が向かってくる為、隣にいたヒショウはもの凄い勢いで1番離れた位置にいるランドと華紫亜(かしあ)の元へ走って逃げていく。

 その間にも歩いてきていた千代選手は、遂に俺達の目の前でピタッと立ち止まった。


「初めまして、旅人の皆さん。」


 先程までの表情とは一変し柔らかな笑顔を見せたからか、強ばっていたグレイの表情も和らいだように見えた。


「初めまして。千代選手からお声掛け頂けて光栄です。」

「そんな畏まらないでくれ。寧ろ突然声を掛けてしまい申し訳ない。」


 一礼した千代選手は、顔を上げるとすぐにグレイと目線を合わせた。


「貴方とどうしても話がしたいと思ったんだ。」

「え、俺!?」


 貴方と言われたのは、グレイだ。

 下駄を履いているからグレイよりも少し高い目線の為かなり圧があったのと、まさか話し掛けられるとは思いもしなかったからだろうか。

 せっかく和らいだ表情もすぐに強ばりを見せていた。


「実は昔⋯⋯私が子どもの頃、貴方にそっくりな旅人にクーバーレのアドバイスを求められたことがあるんだ。」


 千代選手の話す内容は間違いなくグレイの事だ。


「子どもの私達にアドバイスを求めてくること事態珍しいが、その相手が他の街の者だなんてそれこそ滅多にない事だ。私はあの出来事もあの方の事も忘れられずにいた。だからこそ、先程沿道を見ていた時に貴方が視界に入り、もしかして⋯⋯と思ってしまったんだ。」


 グレイから目線を外すことなくしっかりと伝える千代選手。

 その言葉に嘘偽りが無いのはこの場にいる誰もが感じ取っただろう。


「違っていたら申し訳ないのだが⋯⋯貴方のご家族にクーバーレをされている方はいないだろうか。」


 なるほど。先程の出来事は、『子どもの頃の出来事』として千代選手の記憶に刻まれていたらしい。

 千代選手の記憶の中の『あの方』は実際はグレイ本人だが、この質問に対してなんて答えるのだろう。


 初めは驚いたような表情だったグレイだが、すぐに無邪気な笑顔を見せた。


「聞いたことあるぞ!俺の父ちゃんが、学生の時に「ハルス」で優秀な子達からアドバイスを貰ったって。その子達が今のユピテルなんだぞーって。凄く自慢して喜んでたな!」


 グレイが自分ではなく『父ちゃんが』と言ったからだろう。

 近くで話を聞いていたみんなは、グレイが自分だと言わなかったからか目を丸くし驚く様子を見せた者、グレイの優しさに微笑む者と様々なリアクションをしていた。


「そうか⋯⋯あれだけ大口を叩いた手前、子どもながらちゃんと役立っただろうかと不安だった。選手冥利に尽きる。ご子息にそう言って頂けて本当に良かった。お父上に、子どもの拙いアドバイスを覚えていてくださりありがとうございますと、伝えて欲しい。」

「あぁ!伝えておく!」


 グレイの明るい返答を聞いたからだろう。

 千代選手は柔らかな笑みを浮かべ頷いた。


 しかし、やはりそこは有名チームのリーダー。すぐにキリッとした表情を見せると、俺達全員を見渡せるよう少し距離を取り深々とお辞儀をした。


「それでは、良い旅を。」


 顔を上げた千代選手は少しだけ口角を上げると、羽織を翻し堂々とした足取りで大型車へと戻っていった。


 今までファンサービスを続けていたユピテルのメンバーも、自分の後ろを千代選手が通り過ぎるのを確認すると順に後に続いて戻って行った。


「自分だって言わなくてよかったのか?」


 グレイが心から優しく気を遣える子だというのは、出会ってすぐの頃から分かっていた。

 だからこそ、きっとグレイは先程のような反応を示すと思っていた。

 とはいえ、せっかく有名な選手と距離を縮められるチャンスだったのに本当に良かったのかとも少し思っていた。


「いいんだよ。わざわざ混乱させるのもって感じだし、オスクリタの被害に合ってたなんて悲しいこと思い出させない方がいいだろ。」


 俺の問に対し、グレイは遠くで沿道に手を振る千代選手の姿を眺めながらハッキリと答えた。


「忘れられてると思ったからなー。少し寂しいと思ってたけど、フランケンに教えたって記憶が残ってたなんて嬉しいよな。しかも顔まで記憶に残ってた。千代選手の記憶の中の俺と今の俺は別人だと思われてるけど、それでも記憶に残っててくれたって事実が嬉しい。⋯⋯俺、今すっげー幸せだ。」


 ⋯⋯グレイは考えが大人びていると思ってはいたが、ここまでとは思わなかった。


「俺達には好きなだけワガママ言っていいからな。」

「んお?突然どうした?」

「いや。」


 俺の言葉の真意を確かめようとしているのか顔をじっと見つめてくる。

 かなりの至近距離で。


「そんな近くで見なくても⋯⋯。」

「あはは!わりーわりー!あんまそういうこと言われたことねーからさ!」


 少し離れたグレイは俺の肩に手をポンと置いた。


「ビア、ありがとな!」


 その顔に浮かぶ表情は、年相応の子どもらしい笑顔だった。


 パレードを見送ると、沿道にいた街の人々は普段の生活へと戻っていった。

 先程までオスクリタの支配下となり、ビスカにレガロをかけられていたなんて思えない程平和な様子が見られた。


 俺達は街の人々の安全を確認すると、すぐに隣街である時計の街「クロック」へと歩みを進めた。

 「クロック」と「ハルス」の間には大きな壁や境となるものが存在しない為、街を出られればすぐに「クロック」へ足を踏み入れることが可能だ。


 だが、もう夕刻。

 パレード前に落ち始めていた日は既に地平線の先へと隠れ、金色に輝く月が雲の隙間から顔を覗かせている。


 現在歩いているこの道には街頭のみが立っており、見渡す限り野原の広がる見通しの良い道だ。

 オスクリタが現れればすぐに対処出来そうな場所とはいえ、夜中に「クロック」へ向かい、もしも「ルジュエ」のような状態だったら、明かりの少ないこの時間帯に街の人々だけでなく己の身の安全も確保しなければならないというのはかなり酷だ。


 そのため、俺達は一旦野原で休息をとることにした。

 例え見通しが良くても見張りは必要だろうという意見から、交代制で仮眠をとった。

 見張り役は、トレーニングやストレッチを行う者、少し離れた位置で剣の素振りや練習段階だというレガロの練習をする者とそれぞれが好きなことをして過ごしていた。


 夜が明け、太陽が地平線を照らし始めた頃、俺達はそれぞれ支度を済ませると「クロック」へ歩き出した。


 「クロック」でも間違いなくオスクリタが現れるだろう。例え挨拶という名目とはいえ、何を仕掛けられるか分からない。

 誰一人として欠けずに進めるよう気をつけなければ。

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