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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
侵攻軍
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眠る街

 全員が怪我もなく無事である事を確認した後、街の中心部へ向けて進み始めていたが⋯⋯


「⋯⋯まだ心臓バクバクしてんだけど⋯⋯。」


 華紫亜(かしあ)の言葉で我に返ると「それならそうと叫んでくれたら良かったじゃないか」と半泣き状態だったグレイ。

 他の者達も想像を超えた恐怖に顔が引き攣っていた為4人で謝罪をしたものの、余程怖かったようで数名怒りが押えきれていないようだった。


「この恨みは大きいにゃーよ!!」

「⋯⋯あの恐怖は忘れられねー⋯⋯。」

「そうだそうだ!!」

「うわっ⋯⋯こんな時に団結すんなよ⋯⋯。」

「あっ!椰鶴(やづる)!その言葉、吉歌(きっか)は聞き逃さないにゃーよ!椰鶴は飛べるから吉歌達の恐怖が分からないんにゃよ!凄く怖かったにゃ!死んじゃうかと思ったにゃ!」

「マジで死にかけた⋯⋯終わったと思った⋯⋯見捨てられたと思った⋯⋯。」

「そうだそうだ!」

和倉(わくら)、お前はそれしか言えねーのか⋯⋯。」

「そうだそうだ!⋯⋯ん?」


 何故か怒りは椰鶴に集中しており、自分を囲んでいる3人の対応に追われてゲッソリとしているように見えた。


 椰鶴1人に背負わせるのは申し訳ないな⋯⋯


 4人に声を掛けようとしたが、それよりも先に俺の肩を叩く者がいた。


「ランド、何かあったか?」

「いや⋯⋯大した事じゃ無いかもしれないんだが⋯⋯。」

「構わない。」

「ここって食の街だろ?食の街は食べ物の香りがそこら中からするって華紫亜くんから聞いてたから、鼻が馬鹿にならないか少し不安だったんだ。だからこそ不思議なんだ。心配以前にそもそも何の香りもしない。食の街なのに、その面影がないくらい香りが一切ないんだ。」


 言われてみれば、ここはほぼ中心部と言っても過言では無い場所なのにも関わらず何の香りもしない。

 近くまで行かないと香りを感じないのではと俺なら考えてしまうが、1番鼻の利くランドが言うのだから無臭なのは紛れもない事実であり、おかしなことなのだろう。


「正直、どの街でもここまで香りが無いって事は有り得ない。家庭やレストランで料理を作っている限り、どこかで食品の香りを感じるはずだ。でも、それすら感じないという事は、かなり長い期間誰も屋台や店で料理を提供していないってことになる。食の街でその現象が起きるのは⋯⋯オスクリタの影響としか思えないんだ。」

「話しているところごめんね。ちょっといいかな?」


 話に入ってきたのは、最後尾を歩いていた鴇鮫(ときさめ)だ。


「2人の会話が気になって、近くを見てみたんだ。」

「近くって⋯⋯目の前にいないと思考を読み取れないんじゃ⋯⋯。」

「そうだね。レガロだと、ビアの言う通り目の前に対象者がいる必要がある。でも、俺は元からちょっと人と違った体質でね。普段隠してる目からなら、目の前に居なくてもそこまで遠くない範囲内なら思考を読み取れるんだ。」


 サラッと語った為、ランドが関心しながら「凄いな」と呟いていた。


「それで、ここは周りが建物に囲まれているし、きっとどこかに誰かがいるだろうって思って見てみたんだけど⋯⋯ここにいるみんな意外の思考は全く読み取れなかったんだ。」

「どういう事かしら。」


 鴇鮫の隣を歩いていたミオラが即座に指摘をした。

 きっと俺達の話は初めから全て聞いていたのだろう。


「匂いもしない、思考も読み取れないだなんて、この街に誰もいないみたいじゃない。」


 答えるよりも先に、鋭い考察が返ってきた。

 それに対し、鴇鮫は真剣に頷いた。


「ミオラちゃんの言ってる事はあながち間違いじゃないと思う。この強い力でも思考が読み取れない原因は、2つのパターンしか有り得ないんだ。1つは、この街に誰もいない場合。もう1つは、意識がここに無い場合だよ。」

「意識がないって⋯⋯気絶してるって事か?」

「そうだね。気絶してる可能性も有り得るし、寝ていたり、何かしらに意識を別世界に持ってかれてしまっている場合もそれに値するかな。」

「へぇ。凄いね。」

「一一っ!?」

「誰!?」


 突然背後から聞こえてきた知らない声。

 勢いよく振り返ると、少し離れた場所の壁に寄りかかるように立つ、緑の前下がりの髪にキラッと光る黄色の瞳を持つ背の高い青年が目に入った。


「君、百目だね。百目はそんな事まで分かるのか。凄いね。」


 先程まで誰もいないと鴇鮫が言っていたにも関わらず、突然現れた微笑む青年。

 ヒスイと同じようにローブを着用している彼は、間違いなくオスクリタの関係者だろう。


「ビア!どうした⋯⋯って、お前誰!?」


 既に路地から抜け出し街の様子を見ていたグレイ達が引き返して来たようだ。

 俺達の見つめる先に知らない青年がいた為、すぐに身構えていた。


「そうだね。ご挨拶がまだだったね。」


 壁から離れた青年は、とても丁寧にお辞儀をした。


「俺はバッサ。君達が「ルジュエ」で会ったヒスイと同じ組織に所属しています。どうぞよろしく。」

「ボウ・アンド・スクレープ⋯⋯。」

「ボウ⋯⋯?」


 俺達の背後から和倉の呟きが聞こえてきた。ミオラの発した単語を初めて聞いたのだろう。

 ミオラは視線をバッサから外すこと無くその疑問に答えた。


「さっきのお辞儀の名前よ。それが出来るなんて、貴方どこかの名家の方?」

「初めまして、お姉さん。よく知ってるね。あぁ⋯⋯「サーペント」のお姫様なら当たり前の知識かな?でも、残念。俺はただの一般市民だよ。」


 節々に見え隠れするとても丁寧な素振りは、一般市民という言葉を疑うのに十分なくらいの判断材料だったが、本人がそういうのであればそれ以上追求しても仕方がない。

 それに、今彼が名家の者かどうかは後回しだ。


「ヒスイと同じって事はオスクリタだな。」

「その通りだよ、ビアさん。」


 名前まで把握してるのか。先程もミオラを「サーペント」の姫だと断言していた。

 俺達の情報は既にオスクリタに把握されてると思っていた方がいいな。


「俺達が今わざわざ此処に現れている理由は、きっとヒスイから聞いてるよね。時間も勿体ないから説明は省いて本題に入ろうと思うけど、その前に。後ろのお兄さん達、そんなに身構えないで。今は戦うつもりないってヒスイから聞いたでしょ?」


 後ろ⋯⋯きっとバッサは俺・ミオラ・鴇鮫・ランドの後ろにいる者達に告げているのだろう。

 背後へ視線を動かすと、そこには今にもレガロを発動しそうな面々がいた。


「ほら、俺は何もしないからさ。」


 そうバッサは両手を挙げるが、誰1人として構えた拳を降ろさない。オスクリタを前にしている以上、甘い言葉を囁かれたとて警戒を解かないのは当たり前だ。


 手を挙げたまま困ったように「うーん⋯⋯」と唸っていたが、何か閃いたようで俺と視線を交わらせた。


「ビアさん、今は本当に戦うつもりなんてない。ただ、警戒されたままだと話が出来ないから、許して欲しい。」


 話し終えたバッサは視線を俺の後方へ移動させると微笑んだ。


「ペポリッター!」

「シュラフリーベ。」


 バッサの口元が動き出すよりも先に、背後からメロウの声が聞こえた。

 その声と同時にスクトゥムを持ったかぼちゃ頭の騎士が目の前に4体現れたが、バッサが言葉を発し終えると同時に靄になって消え、後方からはドサドサと鈍い音が響き渡った。

 そちらを振り向かずとも、バッサが何をしたかなんて想像がついていた。


「おい、戦うつもりないんじゃなかったのか?」


 鴇鮫とミオラが倒れたみんなに気を取られた中、視線を逸らすことなく冷静に切り込んだのはランドだった。


「華紫亜くん達に限らず俺達だってお前の事は警戒している。戦うつもりないって言いながらも大切な仲間に対してそんな行動取られたら、お前の事は更に信じられなくなる。」


 ランドは静かに拳を握りしめた。


「貴方は確かランロークの総長だよね。そんな素晴らしい方を驚かせてしまったなら、謝罪すべきだよね。ごめんね、お兄さん。」


 ランドに向けて頭を下げたバッサだが、すぐに頭を上げると続けた。


「でも大丈夫。まだ殺すつもりはないし、戦うつもりもないのは嘘じゃない。ただ、話しづらかったから少しだけ眠ってもらっただけだよ。本題を話し終えたらちゃんと起こすから安心して。ここで永遠に眠ってもらう事もできるけど、余計に手を出したら俺が殺されちゃうよ。」


 今の俺達には目の前で微笑むバッサの言葉を信じる事なんて出来なかった。

 そもそもオスクリタの言葉なんて信じられるわけが無い。ただ、ヒスイも同じ事を言い手を出してこなかったことを踏まえると、嘘じゃないのかもしれないと少しだけ思っていた。

 しかし、実際に仲間に対してレガロを放たれたとなれば話は別だ。


 ランドに続き身構える俺達。

 俺たちの様子を見ると、バッサは眉を下げた。


「あー⋯⋯余計な事したかなー⋯⋯ただ、ヒスイと同じようにご挨拶に来ただけだったんだけどね。ビアさん達について闇喰(あんく)から聞いた時に、少し気になった子がいたから話が聞けたらと思ったんだけど、難しいかな一一」

「あぁぁあぁああ!!!」


 バッサの話を遮るように、静かな街に突然響いた叫び声。

 俺達はそれが誰の叫び声なのかすぐに分かった。


「「メロウちゃん!?」」


 鴇鮫とミオラが駆け出した先には、息を荒くしながら体をゆっくりと起こそうとしているメロウの姿があった。

 駆け寄った2人がメロウを支えたことで、メロウは何とか地面に座る形をとれているようだった。


「大丈夫よ。ゆっくり深呼吸しなさい。」


 苦痛の表情を浮かべていたメロウだったが、ミオラの一言で少し落ち着きを取り戻したようだった。


「何があったの?」


 優しく鴇鮫が問い掛けると、メロウは息を整えながらゆっくりと口を開いた。


「ペポリッター⋯⋯消えたよね?」

「さっきの騎士よね。メロウちゃんが倒れた時に一緒に消えたわ。」

「そうだよね⋯⋯。実は、夢の中でハッキリ意識があったから、ペポリッターが消えたのもすぐ予想がついた。意識を失う前、ミオラ達の様子が視界に入ったんだけどレガロにかかってなさそうだったから、どうにかして早く起きないといけないって思ったんだ。皆は私より強いけど⋯⋯私は皆を守る為にここにいるんだから、夢の中でゆっくりしてる場合じゃないって。そこで思いついたのが自分を痛めつけることだったから、全力でレガロを出したんだ。」


 自分を痛め付けるレガロ⋯⋯ハーデンスの事だろうか。


 メロウの話を聞きながらも、この間にアクションを起こされるかもしれないと、俺とランドはバッサを警戒し続けていた。

 しかし、バッサは突然起き上がったメロウに釘付けになっており、俺達の事は既に眼中にないようだった。


「最初は上手くいかなかったけど⋯⋯夢の中だから、自我を保てれば自分の思い通りにできるみたいで、何とか出せたんだ。でも⋯⋯加減が上手くいかなくて、やり過ぎたみたい。」

「そう。でも、上手くいかなかったのが逆に良かったのかもしれないわ。私達の為にありがとう。戻ってきてくれて嬉しいわ。」


 突然背筋が凍った。

 メロウがどうして戻ってこれたのかを2人に話した直後、バッサが口角を上げた。

 それは、今までの穏やかな姿からは想像出来ない、虎が獲物を見つけた時のような表情だった。

 あれだけ優しく笑う彼も、間違いなくオスクリタの一員なのだと改めて感じた。


 そして彼は口元を手で抑えると肩を震わせた。


「ふふっ⋯⋯あはっ、あはははははは!!」


 建物に反響する高笑いに、全員の視線が1箇所に集中した。


「今まで自ら目覚めた者なんて1人もいなかったのにそれを成し遂げてしまうなんて流石だよ、メロウ・ウォードさん!」


 フルネームで呼ばれたからだろう。

 メロウに視線を移すと、目を見開き驚いた様子を見せていた。


「あぁ、やっぱり君を選んで正解だったよ!先に挨拶に行く許可をくれた闇喰に感謝しなければいけないね!」


 君を選んでって⋯⋯まさか⋯⋯


「改めて、メロウ・ウォードさん。是非、俺と一戦を混じえて欲しい。いいかな?」


 ホワリに引き続き、年齢の若い者から選ばれていく。

 例えガーディアンと言えど、俺よりは遥かにこの世界で生きている時間が違う為不安があった。

 だが、そんな心配は無用だったようだ。


「いいも何も⋯⋯私の使命は貴方達オスクリタを壊滅させてハロウィンを取り戻す事。相手が誰であろうと関係ない。選んでくれるなら喜んで相手する。」


 そんなとても強い言葉にバッサは嬉しそうに笑うと、


「ありがとう、メロウさん。」

 

 とても丁寧にお辞儀をした。


「それじゃあご挨拶も出来た事だし、そろそろここを去るとするよ。ビアさん達も気をつけて来てね。俺達と戦う時まで、くれぐれも死なないように。」

「おい、待て。」


 引き止めたのはランドだった。


「華紫亜くん達や街の住人をそのまま寝かせておくつもりか?起こすって言っただろ。」

「あぁ、眠ってるお兄さん達は俺が起こさなくてもそろそろ起きると思うよ。それに、街の人達ももう起きる時間だね。この街は元々魅纚(みり)が支配してたんだけど、俺が突如このタイミングでご挨拶する許可を貰ったから、闇喰に協力してもらって代わりに俺がさっき使ったレガロをこの街全体にかけたんだ。このレガロは大して強くないし、俺がご挨拶を終えた頃に解除されるように調節して軽くかけたから安心して。」

「本当か?」

「そうだね。信じて貰えないかもしれないけど事実だよ。ここで自分の命捨ててまでみんなの事を食い止めようとは思わないかな。」


 もうすぐ起きるなんて簡単には信じられないが、後半の発言を聞く限りは嘘は言ってないのだろう。


「そういう言い方するってことは、本当に戦うつもりは無いのね。」

「そうだね。さっき言った通りだよ。俺が今戦うつもりがないのは嘘じゃない。だから、用が無いこの場所に俺が残り続ける意味はないし、このままレガロで眠らせておく必要もない。そもそもビアさん達がこちらに攻めてくるのが怖かったら、挨拶なんてしないで「ルジュエ」の時点でビアさん達と戦って全員潰してたよ。」


 潰していたと物騒な言葉を吐くバッサは、相変わらずニコニコと笑顔を崩さなかった。


「俺達はオスクリタの侵攻軍。挨拶に行くのに必要な数の街をビアさん達に攻め込まれた所で、何の問題もない。俺達を舐めてもらっちゃ困るよ。⋯⋯とまぁ、話はここまでにしよう。あんまり長居してると怒られちゃうからね。それじゃあ、またね。」


 微笑みながらこちらにヒラヒラと手を振ったバッサは、壁に出現した魔法陣の中へと消えていった。


「メロウちゃん大丈夫?体調あまり良くないかな?」


 鴇鮫がメロウに声をかけた。

 メロウは力が抜けたような、どことなく疲れているような表情を浮かべていた。


「喧嘩を売るような事言ったのは初めてだったから、ちょっと緊張しちゃって⋯⋯。」

「あら、とってもカッコよかったわよ。」

「元々から芯の通った子だと思っていたけど、想像以上にカッコイイところが見れて驚いちゃったよね。」

「⋯⋯そうかな。」


 2人の言葉に照れくさそうな笑顔を見せる。


 あぁ。あんなにしっかりとした物言いだったから忘れていたが、やっぱりまだ15歳の女の子なんだな。


 そう感じたのは俺だけではなかったようだ。


「そういえば、メロウはまだ15歳だったな。俺が15の時なんてただのガキだったから忘れてた。」

「しっかりしてるよな。」

「そうだな。メロウに限らずホワリも吉歌も、グレイにシュロ、双子も、みんな俺より年下なのに驚く程にしっかりしている。ガーディアンだからなのかもしれないが⋯⋯すげーよ。」

「それを言われたら、俺にとってはランド達もだいぶ大人びてると思うがな。」

「まぁ、確かに華紫亜くんはもちろん、椰鶴も和倉も本当に同い年か疑うくらい大人っぽいよな。」


 あぁ⋯⋯ランドは総長をやっているというだけあり、本当に他者を良く評価するな。

 そういうところが大人びてるんだよな。


「ランド。俺が言った中にはもちろんランドも含まれてるからな。」


 少し驚いたような様子を見せたが、すぐに頬を緩め笑った。


「ははっ。そっか。」



 たわいも無い話をしていると、バッサの言っていた通りにみんなが眠りから覚め始めた。

 それと同時に街の人々も目を覚ましたようで、少しずつ街に活気が溢れていった。


 眠っている間はそれぞれが夢を見ていたらしい。楽しい夢だったり怖い夢だったりとそれぞれ夢の話を聞かせてくれた。

 ただ、夢の中でも現実でバッサに眠らされたことを思い出すことが出来た者は、メロウ同様自我を保ちどうにか眠りから覚める方法はないかと健闘していたようだった。


 全員が目覚め、気持ちが落ち着いたのが確認できると、俺達は近くにあった大きなレストランに入った。そこでは一旦休憩をしながら聞き込みを行うことにした。


 それぞれ数人ずつ別れ注文をすると、全員で動くと迷惑になってしまう為、俺と鴇鮫で聞き込みを始めた。

 その聞き込みの中では誰もが口を揃えて「突然眠くなった」と答えた。そして、「1度目が覚めた気がするが、またすぐに寝てしまった」とも言っていた。

 バッサの発言を思い出すと、街の人々の供述と一致する事が判明した。


 「ルジュエ」の時のように街の人々の正気を戻す必要があったり街に危害が加えられてる様子も全く見受けられなかった為、一旦席へ戻りみんなへこの事を伝えた。


「街のみんなが怪我してなかったのは本当に良かったよね!」

「そうだね。建物に被害もないみたいだから、早めに次の街に行けるといいね。」


 俺の言葉を聞いたシュロと椿(つばき)が安堵した様子を見せた反面、牡丹(ぼたん)は眉をひそめていた。


「バッサさんはオスクリタに所属している方ですが、敵である私達に対して嘘1つつかなかったんですね。」

「信じられないだろ?」

「はい。何故そんな方がオスクリタ側にいるのでしょうか。戦闘時は嘘も1つの策略になります。ましてや敵である私達が目の前にいるのにも関わらずそのような対応をしたのが不思議で⋯⋯。」


 牡丹がバッサの存在に疑問を感じるのも無理は無い。

 所属先がオスクリタという国を支配しようと目論んでいるような大きなグループなのだから。


「確かにそうだよね。」


 話に加わってきたのは椿だった。


「敵を前にして嘘もつかず、手出しもせず安全に解放してくれた。確かに不思議な話だと思う。でも、嘘をつかないという事も1つの策略かもしれない。嘘をつかず、相手を信用させる事で隙を作ろうとしてる可能性もある。」


 牡丹は兄の一言にとても納得したように頷いた。


「何にせよ、実際に俺もみんなも街の人達も、全員が何事もなく無事に目を覚ますことができた。今はそれだけで十分じゃない?この街の人達が支配下から解放された事が俺達にとって1番の成果だから。」

「お兄様の言う通りですね。街の人達が無事かどうかが重要ですよね。不思議すぎて、バッサさんに気持ちを持っていかれてしまう所でした。」


 失礼しましたと頭を下げた牡丹。その姿にシュロは驚いたようで、勢いよく立ち上がった。


「謝る必要なんてないよ!凄い気づきじゃん!私なんてそんなもんなんだなって考えしかなかったし⋯⋯牡丹ちゃんは周りをよく見てて凄いよ!もちろん椿も!ね、ビア!」

「そうだな。牡丹も椿もしっかりと周りを見ているからこそ、それぞれの考えを持ってるんだろう。それは素晴らしい事だ。謝罪することじゃない。誇っていい。」


 シュロが大きく頷くと、2人は顔を見合せ照れくさそうに笑った。

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