表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
侵攻軍
69/77

忘れない

「ねぇねぇ、ツァルトさん!」


 強い視線を向けていたのはシュロだったようだ。

 みんなの間を縫ってきたシュロは何かを聞きたそうにうずうずしていた。


「何か聞きたいことがあるのかい?」

「そう!いいかな?」

「何でも聞いてくれて構わない。なんだい?」


 良い返答を得られたからだろう。

 嬉しそうに笑うと、壁に飾られたいくつもの写真に視線を向けた。


「ここにある写真、みんな奥さんとの思い出だよね!」

「そうだなぁ。改めて見ると、婆さんとの写真ばかりだな。」

「どの写真も、2人共素敵な笑顔で写ってるでしょ?ツァルトさん、奥さんとラブラブだったんだろうなーって♪」


 言われてみれば2人の写真ばかりだ。

 様々な街へ旅行へ行ったのだろう。若い頃から年代を超えて多くの写真が飾ってあった。


「それでね、こんなにラブラブで愛に溢れた2人を見てたら、どうやって出会ったのかなって気になっちゃって!知りたいな〜⋯⋯なんて。」

「流石、シュロさんはサキュバスなだけあって、人一倍愛を大切にしてらっしゃる。構わんよ。吾輩の話で良ければ何でもしよう。」

「本当!?教えて教えて!」


 シュロのハツラツとした様子に、いつの間にかみんなも耳を傾けていたようだ。

 ツァルトさんは壁に掛けられた1番大きな写真。結婚式の写真を見上げながら話を始めた。


「吾輩は若い頃からただひたすら兵隊として生きてきた。女性と出会う場などなく、色恋など考えたこともなかった。ある時戦場に1人の子どもが迷い込んだことがあった。ちょうど敵襲と吾輩達の軍が銃撃戦をしている間を泣きながら歩いていた。このままでは死んでしまう。そう思ったら体が勝手に動いていてな。子どもを抱きかかえたのは良かったが、そこは見通しのいい場所。自ら身を捧げているのと同義だった。だが、この子どもだけでも守らなければならん。吾輩はその場で子どもに覆いかぶさった。その瞬間だ。吾輩の周りを黒い何かが覆った。それは付近の森の中から伸びていた。その黒い何かはドーム型になっていて、周りの様子は分からないものの安全が確保された通路のようだった。何が何だか分からなかったが、とにかくこのチャンスを生かさなくてはならん。子どもを脇に抱えて森まで黒い何かの中を全力で走った。そして森の中に入るとその何かが何なのか一瞬で判明した。それは日本人形の女の子の髪の毛だった。吾輩達が無事に森へ逃げ込んだのを確認すると、女の子の髪がシュルシュルと勢いよく戻ってきて短くなった。先程まで驚くほど長かった髪が、肩の長さまで縮んだんだ。呆気に取られているとその女の子は吾輩を正気に戻そうとしたのか頬を思いっきり叩いた。「しっかりしな!その子を元の場所へ返すんだろ!?ここにいたらこの子も私も死ぬ!早く行くよ!」そう吾輩を鼓舞すると駆け出した。⋯⋯それが婆さんとの出会いだ。」


 写真からは想像出来ない性格と強さに空いた口が塞がらずに居ると、ツァルトさんは照れくさそうに続けた。


「最終的に婆さんからプロポーズされてな。「あんたには私が必要だ」とさ。最後まで婆さんには頭が上がらなかった。芯の通ったカッコイイ婆さんだったよ。」

「素敵〜!!!奥さん、こんなに可愛いのにカッコイイだなんて罪な女だね!」


 目を輝かせたシュロはツァルトさんの話を噛み締めているようだった。


「でも、凄いね!出会いの事もプロポーズも、その時の映像が今目の前で流れてると思っちゃうくらい、しっかりと記憶に残ってる!やっぱり大好きな奥さんだからかな?」

「そうだなぁ。それは間違いないな。ただ⋯⋯。」


 シュロと目を合わせたツァルトさんの目は、先程までの照れくさそうな表情とは一変し、何かを見据えているような目つきになった。


「吾輩は、何があっても婆さんの事を忘れたりなどしない。それは家族だからか?愛する者だからか?それはもちろんだが、それだけではない。吾輩の生活を幸せで染めてくれた⋯⋯吾輩に生きる意味を与えてくれた者だからだ。それは婆さんだけではない。今まで吾輩に手を差し伸べてくれた者や吾輩を慕ってくれた者、様々な者達と出会ってきたが、吾輩は1度たりとも忘れたことはない。吾輩にとって人生を明るく照らしてくれた者達は、全員が大切な人だ。死んでも忘れないだろう。⋯⋯ビアさんは、どう思う?」


 隣にいるツァルトさんが俺に顔を向けた。

 まさか話を振られるとは思っていなかった為ドキッとしたが、隠す必要もない。

 話を聞いていて感じたことをそのまま伝えることにした。


「そうですね。俺は今まで1度も亡くなった両親の事を忘れたことはありません。両親の代わりに育ててくれたファニアス様やサーグブルグ⋯⋯城の方々のことも、街を離れてから1度も忘れたことはありません。皆俺を支えてくれた大切な人達だからです。それはここにいるガーディアン全員にも当てはまると思っています。まだ出会って日は浅いですが⋯⋯俺にとってかけがえのない仲間であることに変わりはありません。この先どんなことが起きても、俺はみんなのことを忘れないし、どこへでも助けに行くでしょう。」

「そうかそうか。ビアさんが同じ考えで良かった。」


 俺の話をにこやかに聞いていたツァルトさん。

 こうやって気持ちを言葉にすることは多くない為上手く伝えられるか躊躇いもあったが、話をしてみると案外すんなりと出てくるものだと感心した。

 それだけ普段からみんなに対して信頼を抱いているということなのだろう。

 改めて自分の気持ちを知ることが出来た。


 ただ、ツァルトさん以外全く反応を示さないため恐怖もありツァルトさんから視線を外せずにいると、聞いた事のない声が聞こえてきた。


「いいこと言うじゃねーか。」


 何事かと声のした方を見ると、グレイがボロボロと大粒の涙を流していた。


「あら、泣いてるの?」

「泣いてねーよ!!ただの水だ!いや汗だ!困ったもんだな!」

「目から汗だなんて大分豪快ね。病院へ行くことをオススメするわ。」

「あぁ!そうだな!」


 必死に涙を拭うグレイ。

 困ったようにため息をついたミオラはグレイにハンカチを差し出した。


「強がらなくていいじゃない。ビアは私達にとってとても嬉しい事を言ってくれたのよ。その気持ちを涙で表現したっていいじゃない。素敵な表現方法だと思うわ。私達が心の中で喜んでいるよりも、素直なグレイの気持ちの方がビアに届いているはずよ。ねぇ、ビア。」

「そうだな。グレイの心にちゃんと届いたのが伝わってきた。俺の一方的な気持ちを、そう捉えてくれたのが俺は嬉しい。ありがとう。」


 ハンカチで目を抑えていたグレイが顔を上げた。

 少し止まり始めたように見えた涙が滝のように溢れ出した。


「なんだよ⋯⋯俺の事泣かせようとしてんのか!?」

「いや⋯⋯そういう訳じゃ⋯⋯。」


 ⋯⋯また泣かせてしまった。

 ハンカチに顔を埋めるグレイに、慌てふためく俺。

 なかなか見られない様子だからか、みんなは笑いながらも俺達の周りに来て「ビア、大丈夫だよ」「グレイは優しいんだね」と声をかけてくれた。


 俺の言葉を聞いて「嬉しい」と感じてくれる人がいるという事実が、今までに経験したことのなかったその状況が、俺の心を暖かく包み込んでくれた。




 夜も更け、みんなが寝静まった頃。俺はいつものように窓辺で月を眺めていた。

 月を眺めていると、何故か身も心も浄化され、疲れも吹き飛んでしまうように感じた。

 睡眠をほとんどとらない俺にとって、毎夜空に現れる月は心の癒しとなっていた。


 ただ、カーテンを開けて月光を浴び続けていると、同部屋になったヒショウ・椿(つばき)華紫亜(かしあ)・ランド、和倉(わくら)の5人を起こしてしまう可能性があったため、気分転換も兼ねて外へと出ることにした。


 1階へ下りると、リビングからは明かりが漏れていた。

 外へ出るにはリビングを通過する必要があった為そちらへ向かうと、窓辺の椅子に座り外を眺めているツァルトさんの姿を捉えた。


 お休み中かもしれない。

 音を立てないよう気をつけなければ。


 慎重にドアを開けようとドアノブに手をかけた時だった。


「眠れないのか?」


 声を掛けてきたのはツァルトさんだった。


「起こしてしまいましたか?」

「いや⋯⋯あんな事があったからか、なかなか眠れなくてね。婆さんとの日々を思い出していた所だ。」

「そうでしたか。」

「ビアさんは?」

「吸血鬼という事もあり、元からあまり寝ないんです。部屋で起きているとみんなを起こしてしまうかもしれませんので、外へ行こうかと。」

「なるほど。吸血鬼はほとんど寝ないと聞いたことがあったが、あれは本当だったんだな。」


 ツァルトさんは小さく笑った。


「ビアさん、外へ行くと言ったな。」

「はい。少し夜風を浴びてこようと思いまして。」

「そうか。この周辺の森は空気が澄んでいるからな。オスクリタの影響で少し枯れてしまったが⋯⋯気分転換に丁度良いだろう。」


 ツァルトさんの家へ招かれたとき、街の方面が少し枯れてしまっていたのを思い出した。

 ここから見える森は綺麗な緑で染まっていた為すっかり忘れていた。


「そういや⋯⋯。」


 何かを思い出した様子を見せた為、ツァルトさんの近くへ歩みを進めた。


「30分くらい前だろうか。椰鶴(やづる)さんも森へ行ったな。」

「椰鶴が?」


 部屋が違うから全く気が付かなかった。


「どこかで会うかもしれん。風邪をひかないうちに戻ってくるよう、伝えてくだされ。」

「お気遣い感謝致します。」


 ツァルトさんへ一礼すると、早速森へと向かった。


「ツァルトさんの言った通りだな。」


 森へ入ると空気が変わった。

 新鮮な空気が身体を巡るのを感じた。


 ここへ来て正解だったな。


 見上げれば綺麗な星空が広がっている。

 オスクリタと遂に対面し、ここから長い戦いになると考えるとどうしても気持ちが緊張してしまっていた。

 だが、昨日と変わらない綺麗な星空を見ると気持ちがスっと落ち着いて来た。


 椰鶴となかなか出会わないな。

 もしかしたらいつの間にかすれ違っていて、既に戻っている可能性もあるな。

 あまり森の奥へは行かず、少し迂回だけして戻るか。


 ⋯⋯ん?


 その場に立ち止まると、森の音に神経を集中させた。


 やはり勘違いでは無い。

 確実に聞こえる。


 この森の中に、ましてやこの時間に聴こえるはずのない歌声が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ