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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
侵攻軍
68/77

正義

 19:00を回った頃。

 掃除や調理を終えた俺達は、リビングの大きなテーブルを囲むようにそれぞれ席に着いた。

 既にテーブルの上には様々な地域の料理が所狭しと並んでいた。

 見た事の無い料理も多く興味が湧く。


「皆さん、本当にお疲れ様。吾輩の我儘に付き合ってくれて本当にありがとう。それじゃあ、早速いただこうか。」


 ツァルトさんの声掛けで食事を始めようとそれぞれがカトラリーを手に取った。

 そんな中、「いただきます」という言葉が部屋に響いた。

 何事かというような表情で固まるシュロやホワリ達。

 俺は旅を始めてから各々が発するこの言葉を数回聞いていた。

 ただ今回は、ミオラ・吉歌(きっか)椿(つばき)牡丹(ぼたん)鴇鮫(ときさめ)椰鶴(やづる)和倉(わくら)華紫亜(かしあ)の8人が一斉に放った為、何となく違和感を覚えたのだろう。

 呆気に取られている者がいる中、グレイが動いた。


「なぁ。ずっと思ってたんだけど、それ何?」


 隣にいた吉歌は首を傾げた。


「それって何のことにゃ?」

「いただきますってやつ。吉歌も、ミオラも、今声出した奴全員食事の度にそれ言ってるよな。なんなんだ?呪文?」


 そんなグレイの言葉に反応したのは先程「いただきます」と言った8人ではなく、シュロだった。


「え!?ご飯の時いつも言ってたの!?気が付かなかったんだけど!」

「まぁ、こんなハッキリ聞いたのは俺も初めてだし、気が付かなくても仕方ねーんじゃねーか?」

「いつもはそれぞれのタイミングで言ってるからな。」

「お!ビアも気がついてたか!」

「気にはなってたが、街のしきたりか何かだと思って特に追求しなかったな。」


 俺達の言葉に、華紫亜がなるほどと呟いた。

 そんな華紫亜に自然と視線が集まる。


「「いただきます」という言葉は、我々怪物が人間界と共存していた頃、ある東洋の国から受け継いだものだと耳にした事がございます。その国と関わりのあった怪物達の住む街では、今でも食事の前にこの言葉を使用する習慣が残っているのですよ。」

「へー。そんな習慣があったんだな!俺の街では見た事無いから新鮮だわ!」


 納得するグレイ。

 食事の前に挨拶をするという習慣は俺の住む街にも無い為、グレイと同じように新鮮な気持ちになった。

 それはヒショウ、ランド、ホワリ、シュロ、メロウも同様だったようで各々頷く等納得した様子を見せていた。


 しかし、それに対し何かコソコソと話す椰鶴と華紫亜。

 どうしたのかと聞く前に、華紫亜がある方向に体を向けた。


「時にミオラさん。」

「なにかしら?」

「ミオラさんは確かメデューサだとお聞き致しましたが、何故この習慣をご存知なのでしょうか。」

「⋯⋯どういうことかしら?」


 その言葉に全員が口を噤んだ。

 何を言いたいのかが分かった訳では無い。ただ、華紫亜の話し方からその言葉に何かが含まれているという事を各々感じとったのだろう。

 部屋が静まり返った。


「「ルナール」の全ての学び舎では、「ハロウィン」の歴史だけではなく、今はほぼ関わりのない人間界の歴史や現状も学ぶという教育課程がございます。その中で、近代『「いただきます」という言葉を食事の前に使用する国があるという事が世界的に知られ始めている』という事実を学びました。その話は椰鶴さんもご存知だそうです。話を戻しますが、まだ人間と共存していた時代、メデューサは西洋に住んでいたはずです。何故西洋に住む怪物が、その習慣をご存知なのかと不思議に思いまして⋯⋯。今現在も我々怪物が人間界と関わりが深くあるのであれば納得がいくのですが、共存していた時代はまだこの習慣は西洋まで伝わっていなかったはずです。」


 言われてみればその通りだ。

 ただ、ミオラは出会ってすぐから毎回食事の時には吉歌と共に「いただきます」と言っていた。

 吉歌とは以前から関わりがあったと聞いているから、その真似をしている可能性も充分に有り得る話ではあるが、実際どうなのだろう。


 視線がミオラに集まりだした。

 ミオラは表情を変えずに華紫亜を見ていた。


「何故ミオラさんはこの習慣をご存知なのでしょうか?」


 再度問い掛けられたミオラは、口角を上げ微笑んだ。


「本当に華紫亜は何でも知ってるのね。凄いわ。全て正解よ。華紫亜の言う通り、メデューサという種族は西洋で暮らしていた。「いただきます」という言葉を使う国とは無縁よ。ただ、かつて人間と共存していた頃、メデューサは人間ととても仲が良く人間を好んでいたという話を聞いたことがあるわ。あくまでも私の予想にはなるけれど、仲が良かったからこそ、どこかでその言葉を聞いたことがあったんじゃないかしら。私は幼少期からこの言葉を食事の前に必ず使用するし、それは両親や家族にも言える話よ。きっとご先祖様でこの言葉に感銘を受けた方がいて、その方から受け継いで今に至るんじゃないかしら。」

「なるほど。丁寧なご説明感謝申し上げます。僕の知識不足だったようですね。大変失礼いたしました。」

「他の街だもの、知らなくて当たり前よ。華紫亜が謝罪する必要なんてないわ。ほら頭を上げて。私が悪者に見えてしまうでしょう?」


 その言葉に「ミオラが華紫亜を悲しませた」「怖い怖い」と悪ノリしたグレイと和倉。

 蛇がうねり出し、ミオラがニッコリと微笑んだのが何を意味しているかは言うまでもない。


「大変申し訳ございませんでしたー!」

「ごめんなさい!怒らないで!俺が悪かったから!」

「あら、何も言ってないのにどうしたの?気にしなくていいのよ。」


 3人の様子に食卓に笑いが起きた。

 何となく、2人の悪ノリは空気を変えてくれたような気がした。


「そ、そうそう!「いただきます」?だっけ?なんか面白いし、俺も真似していいか?」

「あ、それいいね〜!私もやろっかな〜!」

「素敵な言葉だよね!俺もやろう!」


 グレイを始め、シュロとヒショウが続いて真似をしだした為8人から笑いが起きた。

 何となく「いただきます」をする流れになり、俺とランド・ホワリ・メロウもその言葉を続けた。


「⋯⋯久しぶりにその言葉を聞いたな。」


 ツァルトさんは棚の上の写真を見ていた。


「婆さんが東洋の国に関わりのあるドールだったからな。吾輩も、婆さんに促されて毎日この言葉を使っていた。あぁ⋯⋯懐かしい。」


 ツァルトさんは奥さんの写真を見る時、必ず穏やかな表情になる。

 奥さんの事を今もずっと心から愛しているのが伝わってきた。


 思いを馳せているツァルトさんの様子に目が離せなくなっていると、突然見開かれた目に俺は肩をびくつかせた。


「懐かしんでいる場合では無いな。皆さんが腕によりをかけて作ってくれた豪華な夕飯が冷めてしまう。温かいうちにいただこう。」


 ツァルトさんが手を合わせた。俺達も自然とそれに続く。


「いただきます。」

「いただきます!!」


 全員で挨拶をすると、各々談笑しながら食事を始めた。




 所狭しと並んでいたお皿は重ねられ、広々としたテーブルには緑色のプリンの上に凍った果物が乗ったデザートが運ばれてきた。


「これは?」

「これは、椰鶴さんが作ってくださった抹茶のプリンです。その上に乗ってるのは、私が凍らせた果物の生アイスです。味は保証します。」


 笑顔で皿を並べる牡丹。

 見た目だけでもこのデザートが絶対に美味しいというのが伝わってくる。


 目の前に運ばれた者から食べ始めていたようでそこら中から「美味しい」という絶賛の声を聞くことが出来た。

 実際にスプーンで掬って口へ運ぶ。

 口へ入れる直前に抹茶の香りを感じた。良い抹茶を使っているのが分かった。

 そして、牡丹の作った生アイスが良いアクセントになる。

 もちろんそれぞれだけでも美味しいだろう。だが、2人の合作になった事でお互いを引き立てているのが分かった。


「凄く美味しい。」

「ありがとうございます!」


 嬉しそうな牡丹と、一見平然としている椰鶴。

 「椰鶴も嬉しいって!」と和倉が耳打ちした。どうしてそう思ったのか聞くと、「目が優しいから」だそうだ。

 長年一緒にいる和倉が言うのだから間違いないのだろう。


 冷たい内に食べてしまった方がいいだろう。本人よりも嬉しそうな和倉の様子を見ながらスプーンを口に運ぼうとした時、 ふと浮かない様子のメロウが視界に入ってきた。


 きっと、先程の話をいつするか悩んでいるのだろう。デザートを食べる手が止まっていた。


 賑やかな席の中、俺は小さな声でメロウの名前を呼んだ。それは耳に届いたようで、メロウと目が合う。


 「俺から先に話そうか?」


 という俺の口の動きを見て悩んだ様子を見せたが、直ぐにメロウは首を縦に振った。

 俺はその答えに頷き返し、賑やかな雰囲気の中ツァルトさんに届くように声を張った。


「ツァルトさん。」

 

 それはもちろんこの場にいた全員に聞こえており、俺の言葉の雰囲気から察したものがあったようで、直ぐにその場は静まり返った。


「お食事の席でこのような事をお聞きするのがタブーだと言うことは十分承知しております。ですが、月明かりが差し込む時間帯になりましたので、もしツァルトさんがよろしければ、この場をお借りして進行軍に関する情報をお聞きできたらと考えているのですがいかがでしょうか?」


 何でもいい。些細なことでいい。

 進行軍とこれから関わる事になるのは間違いないからこそ、進行軍に関する情報や知識を0から1にしたかった。


 ツァルトさんは兵隊だ。

 食事の場でのこのような話は好まない可能性が高い。

 断られてしまうのではないかというマイナスの考えを抱いていると、それはただの思い込みだった事をすぐに思い知らされた。


「はっはっは。なぁに、そんなかしこまらなくていい。もっと気楽に頼んでくれて構わないよ。吾輩の知っている範囲で良ければ、何でも協力しよう。」

「ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」


 俺に続いてメロウが深々と頭を下げたため、みんなもつられて頭を下げていた。


「1週間程前だったか⋯⋯。」


 神妙な面持ちで、ツァルトさんは話を始めた。


「突然商店街の方から爆発音がしたんだ。それに加えて酷い地響きでな。家がガタガタと揺れたんだ。以前オモチャ工場で原因不明の爆発が起きたことがあったが、あの爆発など比ではない程の爆音と揺れだった。吾輩は慌てて外へ出た。この家の周りは背の高い木が多い。商店街の様子を直接見ることは出来ない。だが、その高い木の間から空に向けて煙が上がっているのが見えたんだ。初めての光景だ。ただ事じゃない。吾輩は急いで商店街へ向かった。目の当たりにした風景に吾輩は絶句する事になった。もうそこはいつもの賑わう「ルジュエ」じゃなかった。ゾンビ化した街の民が逃げ回る街の民を襲っていたんだ。その時だった。建物の上に黒いローブを着て大きな鎌を持った者が立っているのを見つけた。確実にこの街の者ではなかった。まさかオスクリタなんじゃないか⋯⋯。最近はオスクリタの進行が早まっていると聞いていたからこそ、すぐに嫌な予感が頭をよぎった。その者を見つめていたからだろう。吾輩の存在に気がついたようで、目が合ってしまった。よく見ると、透き通った白髪で赤い目の綺麗な少年だった。その少年が突然ニッコリと微笑むと、それが合図だったかのように突然街の民が襲いかかってきた。老体に鞭打って何とかみんなを正気に戻そうとしたが、もうこんな歳だ。若い頃のようにはいかん。大勢と戦ったからだろう。数分もすると体が思うように動かなくなってしまった。それに気がついた時にはもう遅くてな。いつの間にか背後を取られていた。⋯⋯吾輩が覚えているのはそこまでだ。」


 ツァルトさんは、ふうっと息を吐きながら目を瞑った。

 ツァルトさんが話を終えたことで空気の音が響き出した室内だったが、すぐに沈黙は破られた。


「ツァルトさん。」


 全員の視線が声の主に集まる。

 視線の先では、メロウがツァルトさんをしっかりと見据えていた。


「ツァルトさんの家は、街から少し離れたところにあります。だからこそ、この家に留まっていればゾンビ化を免れたかもしれません。なのに、どうして自分がゾンビ化するリスクを侵してまで街へ向かったんですか?ゾンビ化する事が分からなくても、普段見えないはずの煙が見えたのなら⋯⋯ツァルトさんなら直ぐに危険だって気がついたはずです。」


 メロウが掃除中に抱いた疑問。

 ツァルトさんの話からはハッキリとした理由は分からなかった。

 メロウの疑問に、先程まで固い表情だったツァルトさんは表情を弛めた。


「そうだな。それは間違いない。ただ、兵隊の頃からの正義感が恐怖心に勝ってしまったんだろうな。昔からの癖だろう。結果的に吾輩も街の民もゾンビ化してしまい皆さんに助けてもらうことになってしまった。だが吾輩は後悔など一切していない。行動せずここに留まって行く末を見守っていたら、それこそなぜ行動しなかったのかと今頃思い悩んだだろう。結果がどうあれ⋯⋯な。」


 ツァルトさんの目を見て真剣に話を聞いていたメロウだったが、突然視線を落とした。


「⋯⋯正義って、他人(ひと)の為になるんでしょうか。ただの自己満足になってしまうんじゃ⋯⋯。」

「うーん、それは難しい話だ。⋯⋯確かに今回の件はメロウさんの言う通り、自己満足にすぎない。良い結果に導く事が出来なかったからな。ただ、正義を発揮する時は結果がどちらに転ぶか等吾輩達には分からないだろう?最初から諦めてしまえば、変えられるかもしれない未来は閉ざされてしまう。だが、正義を発揮すれば、良い未来が見える事も少なからず存在している。例え0.1%でもその希望が見えるなら、吾輩はその正義を発揮する。自己満足だと言われてしまえばそれまでだが、それでもいいから吾輩は自分の正義を信じて生きていく。街の民を救うことができるなら、吾輩はそれで良い。」


 和倉が身を乗り出して話を聞き始めた。他の者達も真剣に受け止めている様子だった。

 それに対し、やはりメロウは浮かない顔をしていた。


「⋯⋯私は、防御系のレガロしか使えません。でも、それで守れるものがあると思って⋯⋯大切な友人を守りたくて私なりの正義を発揮した事があります。結果、私はイジメを受けました。私は邪魔者だったみたいです。⋯⋯私の正義は間違ってたのでしょうか。」


 メロウと出会った時、俺達と旅をするのを全力で避けた理由が分かった。

 あの時、何故そこまで自分の能力を卑下するのかと疑問だったが、過去を聞いてあの時の行動の理由と結びついた気がした。


 なんと声をかけるのが正解なのか⋯⋯何も言えずにいる俺達とは異なり、ツァルトさんはメロウの傍で跪くと手を優しく握った。


「間違ってなんかいない。確かにメロウさんにとって辛く悲しい結果になってしまったかもしれん。だが、それはメロウさんの勇敢な姿に嫉妬して導かれた結果だろう。自分では出来なかった事を成し遂げ、自分を盾にしてでも他人を救った。他人がなかなか出来ないことを軽々とやってのけた。それが羨ましかったんだろう。自分には出来ないと分かっているから、傷つけるというやり方でしかメロウさんに勝つことが出来なかった。でも、メロウさんは傷つけてきた者達を傷つけ返すことは無かったのだろう?」


 静かに頷くと、ツァルトさんはうんうんと何度も首を縦に振った。


「ならば結果的にメロウさんの勝ちだ。自分の中にある正義を誇りに思っていい。メロウさんの正義は無闇矢鱈に振りかざされた剣なんかじゃない。相手の事を考えて振りかざされた優しい剣だ。その友人にとって、メロウさんは一筋の光だっただろう。」


 メロウが顔を上げた。救われたような、そんな表情をしていた。


「それに、誰だって全員から好かれるなんて出来ない。吾輩の事が嫌いな街の民だって数え切れないほどいるだろう。だからといって気にする事はない。自分を信じてやり通せばいいんだ。それを見ていてくれる者は絶対にいるし、手を差し伸べてくれる者もいる。辛い時こそ自分の意見と違う者が悪目立ちしがちだが、よく見れば必ず味方はいる。大丈夫。メロウさんは何も間違ってなんかいない。その素敵な正義を貫いてくだされ。」


 メロウの目には涙が溜まっていた。どれだけ思い悩んだのか、どれだけ辛かったのかがそれだけでヒシヒシと伝わってきた。

 そしてそれと同時に何故か俺の横からすすり泣きが聞こえてくる気がした。

 隣に目線をやると、和倉がボロボロと涙をこぼしていた。


「わ、和倉?」

「辛かったんだなー!ごめんなー!俺、全然気が付かなかったー!」


 突然の泣きっぷりに、メロウも涙が引いてしまったようで目を丸くして和倉を見つめていた。


「メロウはさー、凄く強いだろー?芯も通ってるし、年下とは思えないくらいしっかりしてるだろー?だから、そんなに悩んでるなんて思わなくてさー!辛かったよなー!苦しかったよなー!ごめんなー!」

「⋯⋯おい、落ち着け、和倉。」


 いつもあれだけキツい言葉を吐く椰鶴でさえ困っているようだった。

 そんな空気を割ったのは、他でもない、ツァルトさんだった。


「はっはっはっ。メロウさん、貴方は素敵な仲間を持ったじゃないか。自分の事じゃないのに、あれだけ共感して泣いてくれる者、なかなかいないぞ。良かったなぁ。恵まれてるなぁ。」


 そんなツァルトさんの言葉に、メロウは笑を零した。


「そうですね。私、いつの間にか素敵な仲間に恵まれてたんですね。」

「そうだよ!私達は仲間であり、友達であり、家族なんだから!愛に溢れてるんだから!」

「うんにゃ!吉歌はメロウのこと、大大大好きにゃーよ!」

「メロウさん。もっと私達を頼ってくださいね。」

「貴方はとても強い子よ。でも1人で抱え込まずもっと遠慮なく吐き出しなさい。私達が全部受け止めるわ。そうでしょ?」


 俺達男が女性陣の輪に入り込むのを躊躇ってしまう所があるのを、ミオラは理解していたのだろう。

 ミオラが話を振ったことで意見を言いやすくなった俺達は、各々メロウに自分達の気持ちを伝えることが出来た。

 辛いことがあったらその気持ちを分け合って欲しいこと、何でも頼って欲しいこと、もっと気楽に思いをぶつけて欲しいこと。

 それをメロウは受け止めてくれたようだ。


「ありがとう、みんな。」


 ツァルトさんはメロウの笑顔を見ると満足そうに頷いた。


 メロウは涙の止まらない和倉の元まで来ると、「私の為に泣いてくれてありがとう。その気持ちが嬉しい。」と声をかけた。

 その言葉に和倉は余計に涙が止まらなくなったようでメロウを抱きしめた。


「俺達がいるからなー!仲間になってくれてありがとなー!大好きだぞー!」

「く、苦しい⋯⋯。」

「メロウが死んじゃうにゃ!」

「和倉くん!メロウちゃん女の子!潰れちゃう!」

「はぁ⋯⋯落ち着けって⋯⋯。」


 吉歌とシュロが和倉の背中を叩き椰鶴が頭を抱えている姿をみんなは微笑ましく見守っていた。


 その様子が視界に入ったのだろう、「もう私は大丈夫だから、ありがとう和倉」と笑いながら何度も繰り返した。


「皆さんのような未来ある素敵な若者達と、こうやって食卓を囲めるとは思いもしなかったな。年寄りのワガママを聞いてくれて、本当にありがとう。良い時間を過ごせた。」


 盛り上がっているみんなを眺めていると、隣に来たツァルトさんが呟いた。


「こちらこそ、こんな大人数を受け入れてくださり、誠にありがとうございます。以前よりもそれぞれが距離を縮めることが出来たようです。」

「そうよ。だからワガママだなんて事はないわ。とても贅沢な時間を過ごさせてもらったもの。私達が感謝をしなければいけないわ。」

「みんなの心からの笑顔が見られたよね。ツァルトさんのおかげです。有意義な時間を過ごさせて下さりありがとうございます。」


 俺とミオラ、鴇鮫が頭を下げると、ツァルトさんは「君達3人は本当にしっかりしているな。ビアさん達がガーディアンなら、ハロウィンの未来も明るいな。」と笑った。


 和やかな空気が漂う中、ツァルトさんを見つめる強い視線に俺達3人は気が付かずにいた。

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