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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
侵攻軍
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ハイレン

 路地から出ると、中心街の一角に高くそびえ立つカボチャの壁を発見した。

 付近では、ホワリが街の人々を魔法で浮かせながら、箒で壁の向こう側へ移動しているのが見えた。


「メロウちゃんが安全地帯を作ったのね。」

「街に住む人の数もかなり多い。回復させたり人々を守るには路地や建物じゃ確実に場所が足りないからあれは正解だな。」

「いい判断よね。ということは、あの壁の向こう側では回復班が働いているということかしら。」


 街の中でレガロを放っているメンバーを見た限りだと、この場にいないのは、ヒショウ・椿(つばき)牡丹(ぼたん)・ホワリ・華紫亜(かしあ)の5人。

 ホワリが運送係を受け持っているという事は、残りの4人が回復班だろう。

 

「あの4人なら、完全に任せても問題ないだろう。」

「そうね。とりあえず私達は攻撃側に回って、こちら側が必要なくなったらホワリちゃん達の手伝いへ回りましょう。」


 俺とミオラはそれぞれ分かれ、グレイ達の援護へと向かった。




 数十分後、街の中が随分と落ち着いて来たため、俺・シュロは人々の運送班に、椰鶴(やづる)は回復班に回っていた。

 それに反して街が落ち着いて来た分、壁の反対側は人々で混雑していた。


 椰鶴が加わった上にヒショウ達の回復能力が高かったおかげで大半が回復し安静にしている状況だ。

 しかし、回復能力は体力を消耗しやすい。これからまだまだ大勢の人々が運ばれてくるため、疲労回復する時間も必要だろう。


「ヒショウ達も一旦休憩したらどうだ?」

「ありがとう!でも、大丈夫!まだまだやれるよ!」

「ビア達だって疲れてるでしょ?俺達だけ休むわけにはいかないし、体力は十分あるから心配しないで。」

「これくらいでへこたれていてはガーディアンは務まりませんから。」

「僕達は僕達にしか出来ないことをさせて頂いております。休憩は不要ですよ。」

「それに、椰鶴が『紅葉傘(もみじがさ)』で全体に回復を掛けてくれてるから、俺達は細かい手当や重傷者の手当に回れてるし問題ないよ!」


 動かす手を止めずに微笑む4人。

 椰鶴は人々の中心で扇から巨大なモミジガサを出し、広範囲にいる人々を回復させているようだった。

 俺の頭上にもモミジガサがかかっているため、俺の体力も回復しているように感じる。


 ほんの少しモミジガサの範囲に入っただけでこれだけの効果を得られるなら、4人の体力回復にも繋がるだろう。

 確かにヒショウ達の言う通り、街の人々全員の回復処置も何とかなりそうだ。


「分かった。くれぐれも無理はするなよ。」

「お言葉感謝致します。」

「ビア達も無理しないでね!」

「倒れない程度に。」

「疲れたらここへ来てくださいね。」

「あぁ。ありがとう。」


 声を掛けに行った俺が逆に励まされてしまった。


 4人には頭が上がらないな。


 俺は壁を越えシュロ達の元へ戻ると、早速残りの街の人々を運送しようとした。


「⋯⋯てくれ⋯⋯。」


 ほんの一瞬だが、微かに声が聞こえてきた。


 まさか⋯⋯


「助けてくれ⋯⋯。」


 この声はくるみ割り人形のおじいさんの声だ。

 これは、駆け付ける為に足を使っていては間に合わないかもしれない。

 そう感じた俺は羽根を大きく広げると、くるみ割り人形のおじいさんのいる路地裏に急いで向かった。


「おじいさん!!」


 おじいさんはゾンビ化したブリキの人形の青年に襲われていた。

 襲われた際に、所持していた銃で防御をしたのだろう。

 青年は、銃を口にくわえながらも無我夢中でおじいさんの肩を掴んでいた。


 おじいさんと青年の距離があれだけ近いと、出せるレガロが限られてくる。


 おじいさんに被害のないレガロ⋯⋯これしかない。


「カリブテナ!!」


 青年の背後に突然現れた漆黒に赤い模様の入った棺。

 棺の蓋が開くと、青年は勢いよくおじいさんから離れ棺の中へと吸い込まれていった。

 青年が完全に中へ入ると棺の蓋は自動的に閉まった。


「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。」

「おじいさん!大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。」


 呼吸を整えたおじいさんは笑った。


「本当に来てくれるとは⋯⋯さすがヴァンパイアだな。」


 俺はそんなおじいさんの笑顔に安堵した。


「気がつくのが遅くなってしまってすみません。」

「いやいや、そんな事は無い。吾輩が助けを呼んだらすぐに来てくれたじゃないか。」

「そのお言葉、光栄です。」

「そういや⋯⋯。」


 おじいさんは棺の方へ視界を移した。


「そっちの若いのはどうなったんだ?」


 そっちの若いの⋯⋯青年の事だろう。


「あの棺は、中に入った者の体力を奪います。直接的な攻撃をする訳ではない為、正直ゾンビ化が解けたかどうかは定かではありません。ただ体力が奪われる為、出てきてもすぐレガロを放ち刺激を与えれば大丈夫かと。」


 説明をしていると、丁度青年の入った棺の蓋が開いた。

 中にいた青年が棺から外へ崩れ落ちると同時に棺は消えた。


 おじいさんの時と異なり状態が分からない為、安易に近づく事が出来ない。


 離れた所から様子を伺っていると⋯⋯


「んんっ⋯⋯。」


 青年は頭を抑えながらゆっくりと起き上がった。

 こちらを見るブリキの人形の目には光が宿っていた。


 ゾンビ化が解けたと確信した俺はすぐさまブリキの人形の元へ駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「え、えぇ⋯⋯頭がクラクラしますが、何とか。」


 ゾンビ化していた事、そして「カリブテナ」で体力が奪われた事による副作用だろう。


「そうですか⋯⋯とにかく、意識が戻ったようで何よりです。」

「そうだな。元の君に戻れたなら安心だ。」


 おじいさんも青年の様子に微笑んでいる。

 例え自分の事を襲ってきた相手だとしても寛容な心で迎える姿は、流石兵隊と言ったところだろう。


「お2人共、立てますか?」

「吾輩は休息を頂いてたからな。歩行くらいなら可能だ。」

「それは良かったです。貴方は?」


 青年に目をやると、青年は地面に手を付き力を込めているようだった。


「んっ⋯⋯はぁ⋯⋯すみません。ちょっと力が出なくて⋯⋯。」

「きっと俺のレガロのせいです。すみません。」

「いえ、いいんです。貴方は僕を元に戻してくれた恩人ですから。」


 ニッコリと微笑む青年。


 俺はそんな青年の目の前にしゃがみ、回復班のいる所まで背負う事を伝えた。

 初めは恥ずかしそうに首を振っていた青年だったが、おじいさんに促されたこともあり、恥ずかしがりながらも俺の首に腕を回した。




 おじいさんと青年を回復班まで無事に輸送し終えた俺は、ゾンビ化している者や負傷者が潜んでいないかを確認する為に街を見て回ることにした。


 壊れた住宅の中、瓦礫の周り。

 人々は潜んでおらず、街の人全員を正気に戻せた事と、全員を回復班のいる場所まで輸送できた事を確認することができた。


 とりあえず、一安心だな。


 壁の向こう側が混雑しており軽傷者は壁の手前側で待っている状態だった為、俺は確認した事実を伝えに行った。

 それを聞いたメロウは壁を消し軽傷者を合流させ、攻撃班も加わり全員で回復処置を開始した。


 そして、街の人々からは安堵の声や歓声が上がった。




 一一数刻後。

 回復処置を施された者達が続々と自宅へ帰る中、家屋の崩壊により居場所のない人々がいるため救援・保護要請を出したところ、その要請を聞いた国側が要員を派遣してきた。

 街の人々の回復を一通り終えた俺達は、その旨を伝え引き継ぎを行った。


「ガーディアン様。誠にありがとうございました。こちらは我々で引き受けますので、ガーディアン様は次に向けゆっくりとお休みくださいませ。」

「あぁ。ありがとう。」


 そうは言っても、この街で宿探しを行うのは厳しい。


「なぁ、ビア。どっか休めるとこ、あると思うか?」


 グレイが死にそうな表情をしている。

 他のみんなもかなり疲れているようだった。


 しかし⋯⋯


「他の街へ向かうか、野宿をするしかないな。」

「そうね。ただ、他の街はリスクが高いわ。仕方がないけれど、野宿が一番体が休まるんじゃないかしら。」

「あー⋯⋯やっぱそうなるかー⋯⋯だよなー⋯⋯。」


 グレイも元々から予想が着いていたようだ。

 更に死にそうになりながら項垂れるグレイに何か言葉をかけられないか考えていた時だった。


「あぁ、いたいた。」


 その聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはくるみ割り人形のおじいさんがいた。


「おじいさん、どうなさいましたか?」

「ビアさん達にどうしても伝えたいことがあってな。」


 歩みを止めた俺達は、おじいさんの伝えたい事を聞く為に耳を傾けた。


「ビアさん。そして皆さん。街の皆を元に戻してくれて本当にありがとう。皆さんがいなかったら、この街はもう再起しなかったかもしれん。吾輩達も操られたまま死ぬ事になっていたかもしれん。本当にありがとう。」


 深々と頭を下げるおじいさん。

 そんなおじいさんに対し、俺達は自然と言葉が溢れた。


「俺達は当たり前の事をしたまでです。」

「オスクリタの壊滅は、私達の義務でもあるわ。」

「それに、ガーディアンが街や国を守るのは当たり前だろ!」

「和倉の言う通りだ。気にすんなよ!じいさん!」


 俺達の言葉を聞き頭を上げたおじいさんは、優しく微笑んだ。


「流石ガーディアン様方だ。しかし、(いち)街人の感謝の言葉だけでは足りん。受けた恩に見合ってないからな。それに、吾輩達以上に皆さんはお疲れだろう?よかったら家で休んでいかないか?」

「え!?いいのk痛い!!」


 流石素直代表和倉。

 休めるという事実が嬉しすぎたらしい。すぐさま反応してきた。

 それに対し椰鶴は、和倉の方を見もせずに思いっきり頭を引っぱたいた。

 和倉の嬉しそうな笑顔は一変し、苦痛に満ちた表情になっている。


 そんな2人の様子に、おじいさんは「はっはっはっ!」と笑った。


「いいんだ。喜んでくれて嬉しいよ。吾輩にはそれくらいしか皆さんに与えることが出来ないからな。命の恩人達に吾輩にもできることをさせてはくれないか?年寄りのワガママだと思って、この通りだ。」


 再度頭を下げるおじいさん。

 そこまで言われ、頭を下げられたら誰だって断れない。

 それに、 正直に言うとかなり有難い話だ。


「おじいさん。俺達は見ての通り人数がかなり多いです。おじいさんの家の場所を取ってしまうと思います。それでも大丈夫なのでしょうか?」

「あぁ、もちろん。」


 これは申し出を受けてもバチは当たらないだろう。


「それじゃあ。是非、よろしくお願いします。」


 俺が頭を下げると、続けてみんなも頭を下げた。


 おじいさんは嬉しそうに笑った。


「こちらこそ。」

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