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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
侵攻軍
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壊れたオモチャ

 俺達はかぼちゃの街「キュルビス」の隣街である、おもちゃの街「ルジュエ」に辿り着いた。


 「ルジュエ」は建造物が様々な建築様式で色彩輝き、ハロウィンの中でも特に異彩を放つ街だ。

 どこの街よりもおもちゃ屋が発展しており、アルカイックな高値のつくおもちゃから、最新式のおもちゃまで揃っている。

 全世代が楽しめるおもちゃが多く、他の街からは子どもだけでなく大人までがショッピングを楽しみに集まってくるとても賑わった街だ。

 

 それは本来の「ルジュエ」の話であり、現在目の前に広がっている光景は賑わいなど皆無であった。


 普段の「ルジュエ」を表すのには相応しくない『廃れた街』という言葉がピッタリな程、今の「ルジュエ」は煌びやかな建造物が無惨にも破壊され、以前の面影は消え失せていた。


 争いが起きたということが一目で分かった。


 そんな廃れた街の中を徘徊している人達がいた。

 「ルジュエ」に住む人達だ。

 傷だらけで力のない歩き方はまるでゾンビのようであった。


「なんなのよ⋯⋯これ⋯⋯。」

「酷すぎるにゃ⋯⋯。」


 ゾンビのようになってしまった人々の目に光は一切宿っていない。きっとその目に俺達は映っていないのだろう。

 俺達の傍を通り過ぎる人々は一点を見つめ続けており、こちらを振り向くことはなかった。


「壁の向こうがこんなことになってるなんて⋯⋯。壁がなかったら、私達の街も⋯⋯。」


 メロウは絶望したような表情を浮かべながらも、恐怖からか小さく震えていた。


「これも全部、オスクリタの仕業なのか⋯⋯?」


 想像していたよりも何十倍も悲惨な状況に言葉を失っていた時だった。


「悲惨だね⋯⋯悲惨すぎるよ!アハハハハッ!!」


 突然何処からか響き渡る、高らかに笑う声。

 声のする方を振り向くと、壊れかけたロマネスクの屋根の上でローブを着た水色の髪の幼い男の子がお腹を抱えて笑っていた。

 見たところ、「ルジュエ」の人ではなさそうだ。


「誰だ。」


 俺が声をかけたからか、男の子は笑いながら流していた涙を拭い笑顔を浮かべた。


「誰って、もしかして僕に言ってる?僕はヒスイだよっ!オスクリタの進行軍!ガーディアンのみんな、よろしくねっ!」

「オスクリタ!?」


 俺達はヒスイを前に身構えた。


 まさかこんなにあっさり目の前に現れるとは思わなかった。

 ただ、『進行軍』なのだからこんな小さな男の子1人のはずがない。


「他の仲間はどうした。」

「ん?仲間?」


 何の話だろうといったように首を傾げるヒスイ。


「進行軍が君だけのはずがないだろ?」

「あぁ、そういうことね!」


 ヒスイは俺の言葉の意味を理解したようだ。


「僕しかいない理由なんて簡単だよ!君達相手なら僕1人で十分ってことだよねっ!」

「はぁ!?喧嘩売ってんのか!?」


 ケラケラと笑うヒスイに対し、苛立ちを隠せないグレイ達。


 僕1人で十分?

 もしもそれが本当なら、かなりの実力者ということになるが⋯⋯。


 そんな俺達を見て笑いが止まらない様子のヒスイ。


「嘘嘘っ!冗談だよ〜!怒らないで、フランケンさんっ!」


 笑いを必死に堪え話しているようだ。


「進行軍はもちろん僕だけじゃないよっ!でも、今回は挨拶に来ただけだから僕だけなの!」

「挨拶ってどういうことだ?」

「僕達のリーダーがね、狩りを行う時は事前に必ず狩る対象にご挨拶に行くのがマナーだって言ってたの!それで、順番に挨拶回りに行くことになって、その1番手がこの僕ってことっ!」


 声高らかに宣言するヒスイ。

 ヒスイの言うことが真実なのであれば、残りの進行軍もこの後俺達の前に現れるということになる。


 挨拶回りだなんて⋯⋯きっとヒスイ達にとってはお遊びの一環のようなものなのだろう。


 ニコニコとこちらを眺め続けるヒスイ。

 そんなヒスイを見てふつふつと怒りが沸き起こり始めた時、ヒスイは「おっ!」と声を出し嬉しそうに笑った。


「魔女さんだぁ!」

「⋯⋯何?」


 突然魔女と言われ、ホワリは怪訝そうな表情を浮かべた。

 ヒスイはそんなホワリの事を一切気に留めていないようだ。


「やっぱり僕の指名すべきは僕の街のガーディアンである魔女さんかな?」

「僕の街ってことは、魔法使いなのかな?」

「流石百目さん!そうだよ!大正解!」


 ヒスイは嬉しそうに屋根の上でくるくる回り始めた。髪の毛がふわふわと舞っている。


 そんなヒスイを見て、ホワリは不満そうな表情のまま問いかけた。


「⋯⋯貴方が魔法使いだとして、どうして同じ街のガーディアンである私なの?」

「魔女さんはガーディアンなんでしょ?てことは、「マジック」で1番強いってことだよね?自分の街のガーディアンを倒せるなんて最高だよねっ!」

「⋯⋯趣味悪い。」


 ホワリは表情こそ変えないものの、声のトーンは少し落ちていた。


 自分と同じ街に住む者がガーディアンである自分を狙ってくることはよくあることだ。

 しかし、それがオスクリタの一員として国を脅かしている者達の1人であるとしたら、気が気でないだろう。


 ヒスイが笑い続けている中、街の人々を見続けていた椰鶴(やづる)が口を開いた。


「これ、お前の仕業?」


 街の人々から眼を離さない椰鶴に対し、笑いを止めたヒスイはそちらを見た。


「街の人達のこと?それはね〜⋯⋯あっ!!!」


 突然ヒスイが目を見開いた。

 何故かもの凄く焦っているように見える。


「そろそろ戻らなきゃ!闇喰(あんく)に怒られちゃう!」


 戻る?いや、それは困る。


「待て!話の続きは」

「ごめんね吸血鬼さん!それどころじゃなくなっちゃった!」


 テヘッと舌を出しながら笑うと、ヒスイは足元に魔法陣を出した。


「1つ言えることは、ゾンビ化させたのは僕じゃないってことかな!ってことで、魔女さんと戦えるの楽しみにしてるねっ!それじゃあ、バイバ〜イ!」


 両手を大きく振ると、魔法陣の中へ消えていった。


「⋯⋯無責任すぎてむかつく⋯⋯。」


 ホワリはヒスイのいた場所を睨んだ。


 突然現れた進行軍の魔法使いに一方的に戦いを申し込まれたのだから苛立ちや不満を露わにするのも無理はない。


「なぁビア、どうすんだ?街の人達のこと放っておいて進行軍を探す訳にも行かねーだろーし⋯⋯。」


 グレイの言う通りだ。

 俺達は国を守るためにオスクリタを探している。街の人達を守ることは大前提だ。

 それは分かりきったことであり、もちろんこのまま先へ進もうとは毛頭思っていない。


 だが⋯⋯


「ゾンビ化している街の人達を正気に戻す方法が分からないからな⋯⋯。」


 元に戻すにはどうするべきなのだろうか。


「シュロは何か知らないか?」


 シュロのすむ「デビル」は隣街がゾンビの街「アンデッド」だ。

 正直「デビル」が「アンデッド」の住民達と抗争になったなんて話は聞いたことがない。また、「アンデッド」の住民達と異なり、意思疎通のとれないゾンビになってしまった人に出会った確率も低いだろう。ただ、もしかしたらと一縷の望みにかけた。


「うーん⋯⋯流石に私も分からないかなぁ。」

「そうだよな。ありがとう、シュロ。」

「お役に立てずごめんね。」


 シュロも知らないということは、情報が一切ないということだ。

 何か策はないかと思考を巡らせている時だった。


 ビュンッ!


「うわっ!あっぶねー!!!」


 風を切る音と共にグレイが叫んだ。

 グレイの目の前には、ゾンビ化したロボットが立っていた。


「な、なんだよ、お前⋯⋯。」

「グガァアアアア!!!!!」


 グレイが目の前のロボットに声をかけたと同時に、ロボットが天に向かって雄叫びを上げた。


「うわっ!!何!?」

「何事でしょうか⋯⋯。」

「おかしくなっちまったんじゃ⋯⋯。」


 突然の出来事に誰もが驚きを隠せなかった。

 グレイの隣にいた和倉(わくら)は勢いよく椰鶴の方へ飛び退き、少し離れた所にいた牡丹(ぼたん)やランド達は動向を静かに見守っていた。


 ロボットの雄叫びの後、時間が止まってしまったかのようにゾンビ化した街の人達は動きを止めた。


 そして数秒後⋯⋯


「にゃぁ!!!!」


 吉歌(きっか)が驚くのも無理はない。

 街の人達が一斉に俺達の方に向きを変えたのだ。


 俺達はゾンビ化した街の人達に囲まれている形になった。


 ⋯⋯嫌な予感がする。


 そして、嫌な予感というものは大抵的中してしまうのだ。


「ウガァアアアア!!」


 街の人達は一斉に雄叫びを上げると、勢いよく俺達目がけて走ってきた。


 俺達は街の人達から逃げるように全員が散り散りになると、ただただ必死に逃げ続けた。

 本来であれば敵対するはずのなかった「ルジュエ」の人々に対して攻撃を仕掛けることなど、ガーディアンという立ち位置である俺達には出来るはずがなかった。

 策がない以上、攻撃を避け逃げることしかできない。


 街の人々は策を練る暇も与えないかのように、続け様に攻撃を仕掛けてきた。


 このままじゃあ体力が削られて行くだけで良い結果は生まない。

 どうしたらいい⋯⋯?


 この状況への対処法に頭を悩ませていると、


「きゃあ!!」


 少し離れたところから悲鳴が聞こえてきた。

 振り返ると、くるみ割り人形のおじいさんがミオラの髪の蛇を掴み、銃口をミオラの頭に突きつけようとしていた。


「ウウェーゾ!」


 俺は咄嗟にレガロを放った。

 おじいさんの足元から現れた無数の手がおじいさんに取り憑くと気を失わせた。


「ミオラ!怪我はないか!?」

「えぇ。大丈夫よ。ありがとう、ビア。助かったわ。」


 微笑むミオラを見て俺は安堵した。


「それよりも⋯⋯」


 表情を一変させ、おじいさんの方を見るミオラ。

 それに釣られて俺もそちらを振り返った。


「あの人は大丈夫かしら⋯⋯。」


 ミオラは、俺の後ろで倒れているおじいさんの事が気がかりなようであった。


 このレガロは死に至るものではない。

 しかし、咄嗟に出したレガロなだけあり力の加減をしていないため不安を覚えた俺は、ミオラを起こすと急いでおじいさんの元へ駆け寄った。


「すみません、大丈夫ですか?」


 倒れていたおじいさんの肩を叩き声を掛ける。

 少しの間動かなかったおじいさんだったが、声をかけ続けているとゆっくりと動き出し目を開けた。

 おじいさんはまだ放心状態のようだが、ゾンビ化していた時とは異なり目に光が戻っていた。


「俺の声が、聞こえますか?」


 もう1度声をかけると、おじいさんは目線を俺に移した。


「⋯⋯君⋯⋯は?」

「俺は「ヴァンパイア」でガーディアンをやらせて頂いています、ビアです。魔術が解けたようですね。無事で良かった。」


 俺の言葉にハッとするおじいさん。


「あぁ、そうだ⋯⋯。吾輩はオスクリタに⋯⋯。君、ありがとう。本当に、ありがとう。」


 おじいさんはゆっくりと起き上がると、俺の手を握り涙を流しながら礼をした。

 俺はその手を優しく握り返した。


「怪我がないみたいで良かったわ。」


 ミオラはおじいさんの目線に合わせるように屈み微笑んだ。


「⋯⋯お嬢さんは?」

「私はミオラ。サーペントのガーディアンよ。」

「あぁ⋯⋯そうでしたか⋯⋯。魔術にかかっている間の記憶は曖昧だが、吾輩がお嬢さんに無礼を働いたことだけは何となくだが分かる。兵隊なのに味方を傷つける等御法度だ。自分を制御できないなんて情けない。大変申し訳ないことをした⋯⋯。」


 おじいさんは深々と頭を下げた。


「謝る必要は無いわ。お互い様よ。」


 顔を上げるおじいさんにふわりと微笑むミオラ。

 おじいさんもミオラの笑顔に安堵したようだった。


 元気そうで本当によかった。


 ⋯⋯そういえば、おじいさんがこの魔術に関する情報を何かしら知っている可能性もあるな。


「すみません、お聞きしたいのですが⋯⋯。」


 俺の話を聞いたおじいさんは、「うーん⋯」と唸ると考え込んでしまった。


「正直な所、吾輩はこのレガロが何か見当もつかないんだ。いい情報を提供できず申し訳ない。」

「そうでしたか。」


 そう簡単に情報を得られるわけがないよな。


 情報に関しては諦め、とにかく策を練るしかないか⋯⋯。


 そう考え込み始めた時、おじいさんが口を開いた。


「⋯⋯ただ⋯⋯。」

「⋯⋯ただ?」

「ただ、吾輩はビアさんのレガロのおかげで意識を取り戻すことが出来た。それだけは確かな事実だ。だから、他の街の民も皆さんのレガロがあれば救われるかもしれない。」


 「俺達のレガロで救える」ということは⋯⋯


「どうか、街の民を救ってやって下さい。」


 姿勢を正し敬礼するおじいさん。

 俺とミオラは顔を見合せ頷いた。


「任せてください。」

 

 おじいさんの言葉に確信を得た俺は、深く息を吸い込み全員に聞こえるように叫んだ。


「みんな!聞こえるか!」


 逃げ続けながらも俺の方に視線を向けるみんな。ガーディアン全員に声が届いたようだ。

 それを確認すると、再度声を張り上げた。


「街の人に対してレガロを与えるんだ!」

「お前馬鹿か!?」

「そんなことできないよ!」


 俺の言葉にすぐさま反応した椰鶴、メロウの2人。


 そう思うのは当たり前だ。数分前まで俺もそう思っていた。

 でもな。


「衝撃で魔術が解けることが判明したんだ!」


 その言葉に、みんなは攻撃を避けながらも改めて俺とミオラの方を見た。

 目に映る光景に驚きが隠せない様子だが、すぐに全員が納得したような表情を見せた。


「みんな理解したようね。」

「そうだな。」


 この光景を見て理解してくれたのなら話が早い。


「出来るだけ早く、「ルジュエ」の人達を魔術から解放するぞ!」

「了解!!」


 全員の意見が一致した所で、俺とミオラは初めにおじいさんを安全な場所へ案内することにした。


「ここなら安全よ。」

「路地の中ですから、余程の事がない限り街の人達は侵入して来ないと思います。」


 建物の間の入り組んだ路地の中で人気のない場所を見つけた俺とミオラは、おじいさんをゆっくりと座らせた。


「支えてもらってすまないね。」

「街の人達を助けるのが私達の仕事だから当たり前のことよ。」

「そうか。ありがとう、2人共。」


 おじいさんの笑顔に、俺達も自然と頬が緩んだ。


「吾輩は大丈夫だから、街の民を助けてやってくれ。吾輩はここで休んでいることにするよ。」

「何かありましたら声を張り上げてください。必ず助けに来ます。」

「ありがとう、ビアさん。だが、吾輩のことは気にしなくて良い。この喧騒じゃあ吾輩の声も聞こえないだろう?」


 街の人達にレガロで対抗し始めたガーディアン達。街の至る所で衝撃音が聞こえてくる。

 おじいさんの言う通り、普通の人ならたった1人の叫び声など聴き取れないだろう。


 でも、俺は違う。


「貴方の声は聴き逃しません。ヴァンパイアですから。」


 俺は眼をしっかりと見つめてハッキリと告げた。


「そうだったな、ヴァンパイアだったな。」


 おじいさんはフッと笑うと、


「健闘を祈る。」


 真剣な眼差しで敬礼をした。

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