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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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可愛い勇者


 俺達は「デビル」を出ると、リストに残った最後の街であるかぼちゃの街「キュルビス」へ向かった。


 通過点である幾つかの街で休息を挟みながら、体力の限り歩き続けた。


 そして「デビル」を出て2日後の今、俺達は遂に「キュルビス」へ到着した。


「⋯⋯大きい壁⋯⋯。」


 普段余計な事に口を出さないタイプのホワリが呟くのも無理はない。

 越えるのには体力を使いそうな、どこまでも続く高くそびえ立った壁が目の前に現れたのだ。


「「キュルビス」って、壁で囲われてたかしら?」

「いえ⋯⋯壁で囲われている街は存在しておりますが、そこに「キュルビス」が含まれているという事実は一度も耳にした事がございません。」


 華紫亜(かしあ)の言う通り、そんな話は聞いた事がない。


 これはどういう事なのだろうか。


 そんな俺達の疑問に答えるかのように、離れた所から透き通る女性の声が聞こえてきた。


「「キュルビス」へ御用でしょうか!」


 声のする方を見ると、少し離れたところに門番らしい装いの女性が立っていた。


「国王様の命令で、こちらの街のガーディアン様に会いに来ました。」


 俺の声を聞いたらしく、屈強な男性門番も女性の背後から現れた。

 女性門番が男性門番に何か伝えると、男性門番は死角へ消えた。


「左様でございますか!現在「キュルビス」では、検問を行っております!こちらで検問を受けるよう、お願い致します!」

「検問か!カッコイイな!」

「カッコイイだなんて、和倉(わくら)くんらしいね。」

鴇鮫(ときさめ)、そいつを甘やかすな。調子に乗る。」


 カッコイイかはさて置き⋯⋯門番がいるとは、「キュルビス」はかなり徹底しているようだ。


 俺達が門番の元へ近づくと、女性の背後から先程の男性だけではなく、複数の男女が現れた。


「今から検問を行う!危険な物を持ち合わせていないか、目的が嘘偽りないか確認をする!違和感が少しでも見られた場合、即刻退去してもらう!退去しない場合はそれ相応の対処をさせてもらう!検問始め!」


 女性の掛け声で、門番と思われる複数の男女が俺達の持ち物の検査や事実確認を始めた。

 俺達のこの街へ来た理由が通常ではなかなか聞くことの無い物だからか、かなり警戒されているようだった。

 俺の元には、初めに現れた男性門番がやってきた。


「貴殿は、どこの街の者だ。名を名乗れ。」

「俺は「ヴァンパイア」でガーディアンをしているビア⋯⋯ビア・エヴァンズだ。」

「ビア。先程申していた事は事実か。」


 先程⋯⋯というのは、この街へ来た理由に関してだろう。


「あぁ。事実だ。国王直々に命令を受けた。」

「嘘偽りが無いと言いきれるか。」

「あぁ。信じ難いのであれば、国王に聞いてくれて構わない。ここにいる全員に関する証言を得ることが出来るだろう。」

「そうか。」


 俺の強気の発言に男性は女性の方を振り返る。

 女性は頷くと、インカムに向かってこちらに聞こえないくらいの小さな声で何かを呟いた。


 その間、男性は右手の槍を今にも振りかぶりそうな程力強く握り締めていた。


 十数秒後、女性がインカムに手を当て頷いた。

 インカムで繋がっている先から情報を貰ったのだろう。


 女性が右手に持った槍の柄を地面にトンッと叩き付けた。

 その音を聞いた男女の門番は、俺達を囲うように俺達の背後へとまわった。


「大変長らくお待たせしてすまなかった!国王から直々に貴殿らの情報を頂くことができた!貴殿らを心から迎え入れる!」


 その言葉を聞いた門番達は、俺達の横をサッと駆けると女性の背後に整列した。


「ガーディアン様!我が「キュルビス」へ、ようこそお越し下さいました!ごゆっくりおくつろぎ下さいませ!」


 女性が敬礼をすると、門番全員が一斉に敬礼をした。


 俺達は突然の敬礼に驚き言葉がでなかった。


 そんな俺達を見た女性は頬を緩めた。


「さぁ、中へお入り下さい。」


 そう言いながら女性が巨大な門扉を軽く押すと、ゆっくりと自動で開いた。


「⋯⋯凄い。」


 なかなか見ない光景に釘付けになる俺達は、女性の案内で中へと歩を進めた。


 中へ1歩踏み出すと、そこには賑わっている商店街が広がっていた。


「うわ!あれ美味そう!」

「ほんとにゃ!食べたいにゃ!」

「甘くて美味しそ〜!」

「でも顔あるよ?まぁ食べられれば関係ないか!」


 街へ入ったばかりだと言うのに食欲旺盛な4人。


 カボチャを見ては食べられるかどうか盛り上がっているグレイ・吉歌(きっか)・シュロ・和倉の後ろでは、


「⋯⋯あれって飾りだよね。」

「どう考えても飾りだろ。」

「あいつら、食べることしか考えてないな。」

「好奇心旺盛組が集まるとこういうことになるのね。」


 ヒショウ・椰鶴(やづる)・ランド・ミオラが冷静にツッコミを入れていた。


 ランドはツッコミを入れるタイプなのか⋯⋯。

 まぁ、そういう奴が多い方が助かるから構わないが意外だったな。


 前を歩く8人とは対象に、俺・牡丹(ぼたん)椿(つばき)・鴇鮫・華紫亜・ホワリは後ろでガーディアンについてを話し合いつつ8人を眺めながら歩いていた。


「私達のように他の街から来た人は目立ちますね。」

「そうですね。特に僕達は観光客の方々と違って様々な街の出身者が集まっておりますから、余計に目立ってしまっているようですね。」

「目立っているからこそグレイ達が店員さんに絡まれちゃうんだろうね。」


 鴇鮫の言う通り、1番先頭を歩いていた4人は行く先々で店員さんに声をかけられていた。

 喜んで着いていきそうな4人を、後ろを歩いているツッコミ担当の4人が毎回制止していた。


「⋯⋯ミオラ達⋯⋯大変そう。」

「あの4人、グレイ達の後ろを歩いてただけで散々な目にあって可哀想だね。」

「⋯⋯椿の言う通りだな。」


 たまたま後ろを歩いていただけで先頭4人のお守りをする羽目になったヒショウ・ミオラ・椰鶴・ランドは既に疲れ切った顔をしていた。


 ⋯⋯本当に可哀想すぎる。


 俺達6人が哀れみの目で4人を見ていた時だった。

 俺達の通り過ぎた店の方で、女の子の大きな声が聞こえてきた。


「そこのお兄さん達。何してるんですか?」


 声のする方を振り返ると、ジャック・オ・ランタンの女の子だろうか。

 黄色のメッシュが入ったオレンジ色のボブヘアの女の子が狼の少年2人に話しかけていた。

 周りの人達は3人の様子を静かに見守っているようだった。


「何してるって⋯⋯なんのこと?」

「俺ら何かしたか?」


 少年2人はケラケラと笑っている。

 しかし、女の子は一切笑わずに言った。


「しらを切るつもりですか?私が見てなかったとでもいいたいんですか?私ちゃんと見てましたよ?そこの雑貨屋さんの商品を盗んだところ。」

「へぇ。俺らの事犯罪者扱いかよ。」

「勝手に犯罪者に仕立てあげないでもらえるかな?」


 反抗し続ける少年達に対し、女の子はため息をついた。


「分かりました。なら、貴方達が何を盗んだのか当ててみせましょう。貴方の持っている黒いバックの1番大きなポケットの中に、ディーパさん特製ランタンの期間限定色であるユニコーンとオーロラを1つずつ入れましたよね?」


 その推測は的中していたらしい。

 少年2人は顔をしかめた。少年のうち1人は小さな声で「バレたか」と言っているのが聞こえてきた。


「今商品を返してくれれば見逃してあげます。」


 ジャック・オ・ランタンの女の子は笑顔で言うが、少年2人がそれに応じるわけがない。


「ちっ⋯⋯。」


 舌打ちをすると、一目散に走って逃げようとした。


「あっ!こら!待ちなさい!⋯⋯もう⋯⋯貴方達が悪いんだからね。」


 女の子は追いかけていた脚を止めると、緑の目をキラリと光らせ、持っていたステッキを少年2人に向けた。


「パンプキンパイ!!」


 女の子が叫んだ途端、少年2人の目の前には大きなパンプキンパイが現れた。

 もちろん全速力で走っていた2人は止まる事ができなかった。


「はぁ!?」

「うわああああ!!!」


 見ているこっちが気持ちいいくらい思いっきりパンプキンパイに突っ込んで行った。

 突っ込んでいって動きが鈍ったのを確認した女の子は、今度はステッキの先についたジャックで空中にクルッと円をかきながら先程とは違う言葉を放った。


「ハーデンス!!」


 オレンジの輪が少年2人の体の周りに現れたかと思うと、その輪が小さくなりギュッと2人を縛り付けた。


「痛たたた!!なんだよこれ!!」

「早くとれよ!死んじまうだろ!?」


 叫び出す少年2人に対し、女の子は近づくと静かに言った。


「貴方達が逃げるのが悪いんでしょう。盗みを働かせてこの街から無事に帰れるとお思いで?盗みや悪さをした奴は私が許さない。反省しなさい。」


 静かだがとても重い威圧に負けた少年達は言った。


「⋯⋯くっそ⋯⋯悪かったよ⋯⋯。」

「⋯⋯もうしねーよ⋯⋯。」


 2人の反省の言葉を聞いた女の子は一瞬でコロッと笑顔になった。


「うんうん!それでいいよ!盗みはいけないことだよね。どうして盗んだりしたの?」

「⋯⋯金がねぇんだよ⋯⋯。」

「そっか。お金ね⋯⋯。じゃあ、わかった!盗んででもこのランタンが欲しいならこれあげるっ!」


 女の子は二人の掌にコインを乗せた。


「は?」

「いや⋯⋯これ⋯⋯。」

「それで、雑貨屋で盗んだ物を今度はちゃんと購入して。そしたらポリシアンには言わないよ。その代わり、お店の店主であるディーパさんには謝ること!反省すること!もう絶対にこういう事しないって約束すること!⋯⋯わかった?」


 そう笑顔で言う女の子に2人は負けたらしい。


「俺らも情けねーな。こんな事して、しまいには女の子に金をもらうなんてな⋯⋯。」

「本当に悪かった。もう絶対にやらねぇ。⋯⋯年下の女にこんなにされてまで悪事を続けようとは思わねぇからな。」

「うん。絶対だよ。」


 女の子はステッキを先程とは反対にクルッと回して二人を縛っていた輪を消した。

 少年2人は約束通り雑貨屋に戻り謝ったあと、女の子からもらったお金を渡した。

 店主は、「メロウちゃんに免じて許してやる。」と笑顔で2人に言った。

 その後2人はもう一度女の子に頭を下げた後、ここを去って行った。


「すげー⋯⋯。」

「申し訳ない⋯⋯。」


 グレイが目の前で起きた光景を凝視したまま呟くグレイに対し、ランドは自分の街の出身者が目の前で悪事を起こしたことに頭を抱えていた。


「勇気があって凄いにゃ!」

「少年2人にあんな風に対応できるなんてかっこいいですね。」

「あの子笑顔がとても素敵ね。街の人達からも信頼されているみたい。」

「⋯⋯わたしには、真似出来ない⋯⋯。」

「同じ女の子なのに凄いなぁ!可愛い勇者さんだ!」


 女子達は女の子の行動をずっと賞賛していた。


 ミオラ達にべた褒めされている女の子に、俺は声をかけた。


「君、強いんだな。」

「ありがとうございます。」


 俺が後ろから声をかけたため、女の子は俺の方を振り向いた。

 その瞬間⋯⋯


「あっ⋯⋯。」


 俺達一人一人の顔を見ると、女の子は表情も動きも固まってしまった。


「どうかしたか?」

「い、いえ!なんでもないです!」

「そうか。それなら良かった。」

「はい!心配させてしまいすみません!え、えっと⋯⋯なにかご用ですか?」


 何か急いでいるような、逃げようとしているような様子の女の子。

 何かあったのだろうか。


 一旦俺は、オスクリタの件やこの街に来た経緯を簡単に説明した。


「君は、この街のガーディアンが誰か知らないか?」


 俺がガーディアンという単語を発した途端、ビクッと身体を震わせた後に笑顔を引きつらせた。


「⋯⋯ご、ごめんなさい⋯⋯私、分かんないです。」

「そうか。」

「⋯⋯えっと⋯⋯あの⋯⋯少し急いでいるので、失礼してもいいですか?」

「あぁ。引き止めて悪かったな。」


 女の子は「すみません」とだけ言うと、足早に道を戻って行った。


 また別な人に聞き込みをするか。

 そう考えていた時だった。


「あの子、逃がしちゃダメ。」


 声のした先を振り返ると、鴇鮫が走っている女の子の背中を見つめながら真剣な表情で言った。


「あの子、嘘ついてる。あの子はガーディアンを知っている。いや、知っているも何もあの子がガーディアンだよ。」


 それを聞き、全員が鴇鮫を見た。


「え!?千里眼的なのでガーディアン探すの難しいって言ってなかったか!?」

「うん。不特定多数の人間を視るのは難しいんだ。でも、今は特定の女の子のみだから視れた。本当はやりたくなかったんだけど、様子がおかしかったから軽く視させてもらったんだ。理由は分からないけど、あの子俺達から逃げようとしてる。」


 そこまで言うと、俺達の方を向いた。


「捕まえなきゃ。」


 鴇鮫の一言により、俺達は急いで女の子を追いかけ始めた。


「おい!待てよ!!」

「逃げんな!!」

「お願い!待って!」

「待ってください!!」


 俺達が叫びながら追いかけるからか、女の子は一瞬だけ振り返ると走る速度を早めた。


「いやだぁああ!!!」


 女の子も叫びながら逃げ始めたため、街の人達は驚いた様子で駆け抜ける俺達を見ていた。


 女の子は速度を早めたが、俺達は走るのが遅いわけではないため少しずつ距離を縮めた。


 あと少しで追いつく。


 手を伸ばせば届きそうという距離までつめられそうになった時、女の子は振り返りながら高くジャンプしてステッキを振った。


「ハイヤーパンプキン!!!」


 初めて聞いたその言葉の意味はすぐに知ることとなった。

 目の前には雲まで届くような高さで道幅いっぱいの塀のようなカボチャの壁が現れたのだ。


「これじゃあ追いかけられないわ。」

「壊すしかねーだろ!」

「でも、きっと時間がかかりますよね?」


 ミオラ達がどうしようかと悩んでいるのを見て、俺を筆頭に数名が飛び上がった。


「ミオラ!俺達で追いかける!ここの壁を壊すのは任せた!」


 羽で飛んだり箒を使ったり⋯⋯それぞれの方法で壁を乗り越えられる者だけが先に進んだ。

 和倉に至っては、持ち前の跳躍力を使って飛び越えていた。


 少し先を走り続けていた女の子は、この状況に気がついたらしい。


「う、嘘でしょ!?何でまだ来るの!?やだぁ!!来ないでぇ!!」


 さらに速度を早め走っている女の子に負けず、俺達も急いで追いかけ始めた。


「どうして逃げるの〜!!」

「おい!止まれ!」

「俺達怖くないよー!」


 そんな俺達の叫びを聞いても女の子は止まるはずはなく⋯⋯。

 すぐにまた振り返ると、ステッキをこちらに向けて叫んだ。


「パンプキンパイ!!」

「⋯⋯嘘だろ?」


 どこからともなく現れたパンプキンパイは、止まることの出来なかった俺達全員の視界を奪っていった。


「⋯⋯くっそ⋯⋯。」

「ベトベトだよ〜。」


 そして、続けざまに女の子は叫んだ。


「ハーデンス!!」


 もちろんその言葉が表すのは⋯⋯


「痛いっ!」

「全然とれない!」

「⋯⋯逃げられちゃう⋯⋯。」


 俺達が諦めかけたその時だった。


「俺が行く。」


 声のする方を振り向くと、どこからともなくヒショウが現れた。


「⋯⋯どうしてヒショウが?」


 今飛んで追いかけていたのは俺・和倉・椰鶴・ホワリ・シュロの5人だったはず⋯⋯。

 俺達の頭の中の疑問に答えるかのようにヒショウは言った。


「⋯⋯俺、ただの透明人間じゃないから。異端児だからこそ普通の透明人間には出来ないことが出来るんだ。それがこれ。俺が透明化している時に出されたレガロは無効化することができるんだ。一定時間に限るけれど⋯⋯。だから⋯⋯まだあの子のこと追いかけられる。」


 そう言いながらパイの先を見据えるヒショウを見て、引きこもっていたヒショウがガーディアンを務めていたわけが何となく分かった気がした。


「それじゃあ⋯⋯行ってくるね!」

「あぁ!任せた!」

「いっけーヒショウ!!」

「ヒショウ頑張って〜!」

「捕まえて来いよ。」

「……頑張れ…。」


 ヒショウは透明化すると目の前にあるパイをすり抜けて行った。


 相手は女の子だが、大丈夫だろうか。

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