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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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チャンスをもう一度


 「丁度良い子がいる」

 そうして呼ばれて来たのは扉の前で狼狽えているシュロだった。

 話の内容から「もしかして」という空気が流れたが、それでも俺達も1度断った相手であるシュロが呼ばれたことに動揺を隠せなかった。


「シュロ?どうかした?」

「え!?ううん!なんでもないよ!」


 元気よく答えニッコリと笑顔を見せると、扉を閉めてBERU(ベル)に続き中へ入ってきた。

 部屋に入ってきてから1度も視線が交わらない。何となく避けられているような気がした。

 シュロはEveleasE(イヴリース)の後ろ、EveleasEの面々が振り返らないとシュロの表情を確認する事ができない位置に立った。硬い表情の上、視線はずっと机の上にある。


 それに気がつかない様子のBERUは、再度ソファーの中央に腰を掛け直すと話を始めた。


「この子が俺達の言ってたアイドルの女の子だよ。シュロっていうんだ。シュロはかなりの努力家で、なかなかの実力の持ち主だから俺が推薦してガーディアンの補佐をしてもらってたんだ。だから戦力になるはずだよ。」


 ガーディアンの推薦した補佐ということは、ガーディアンに匹敵するほどの実力を持っているということだろう。


 なるほど⋯⋯そんな子だったのか。


 俺達がすぐに反応を返さなかったこともあり、BERUは不思議そうにしていた。


「⋯⋯何か不満があるかな?」

「いや⋯⋯不満があるわけじゃないんだ。」


 俺達全員の表情を観察するようにジッと見たBERU。


「やっぱりねぇ。なんかあると思ったんだ。」


 予想外の返答に全員の視線は必然的にBERUに集まる。

 BERUは俺と視線を交わらせたまま言った。


「シュロ。」

「え!?私!?」

「シュロ、ビアさん達と会ったことあるよね。」

「えっ⋯⋯なんで?」


 全てを見透かしているようにBERUは笑う。

 EveleasEの面々は、「出た、探偵BERU!」「キタキタ〜!」と楽しそうにしている。


「この部屋に入ってから、シュロはずっと俺達EveleasEから見えない位置に立ってるよね。その上、シュロはずっと浮かない顔をしていた。俺には笑顔を向けるけど、ガーディアンの皆様とは絶対に顔を合わせないようにしていた。」


 見えていないはずなのに、的確に当ててくる。


「初めて会う方にそんな表情、シュロは見せないだろう。なのに、ガーディアンの皆様から見える位置にいるシュロがそんな表情をしていたら、面識があるとしか思えない。」

「⋯⋯どうして⋯⋯。」

「忘れちゃった?俺はベルゼブブだよ。」


 ベルゼブブ⋯⋯


「あぁ、そうか。」


 突然の俺の呟きに、ずっと目が合っていたBERUはニッコリと微笑んだ。


「そうかって、なんか分かったのか?」


 グレイと同じ疑問をEveleasE以外の全員が感じていたようで、それぞれ頷いたりこちらに視線を向けていた。


「ベルゼブブは元から360°見渡せる能力がある。だから、ここに来た時からずっとシュロの様子はお見通しだったんだ。」

「その通りだよ、ビアさん。」


 BERUがこの部屋に来てから初めて振り返りシュロと目を合わせた。

 目が合ったからだろうか。シュロは一瞬体をビクつかせたように見えたが、すぐに口を開いた。


「元からって⋯⋯じゃあレガロは?」

「そうだね。俺はその能力に似たレガロを持ってる。でもそれは正確には『360°見渡せるレガロ』じゃなくて、『半径2キロを見渡せるレガロ』なんだ。元々から360°見渡せるからね。その範囲が広がるだけなんだ。」

「そう⋯⋯だったんだ。」


 BERUの目を見つめていた視線がスっと床へと落ちた。

 同時にすぐにソファーから立ち上がったBERUは、シュロの目の前にしゃがんで目を合わせると、シュロの手を優しく握った。


「シュロ。」


 驚く程に優しく甘い声で呼びかける。


「何があったのかは聞かないよ。それに、このお願いは俺のワガママだから嫌なら断ってくれて構わない。オスクリタと戦うってことは、命に関わってくる可能性だってあるからね。ただ、今のシュロには良い環境になるんじゃないかって思う。シュロの力は、アイドルや俺の補佐だけに留めるのは凄く勿体ないよ。新しい環境で、自分の力を最大限に発揮してみたらどうかな? 」


 そんな言葉に初めは戸惑いが見られたが、すぐに頷くとBERUの横に立った。

 その表情は先程「仲間に入れて欲しい」と言ってきた時とは異なり、今から俺達に伝えようとしている気持ちが心の底からのものだとすぐに判断できた。


「さっきはごめんなさい!あの時マネージャー達から逃げてて、アイドルなんて辞めてやるって思ってた時にみんなに出会って。理由を聞いた時、旅に出たらこの状況から逃げられるんじゃないかって思った。だから、私が邪な考えで仲間に入れて欲しいって言ったのは間違いないよ。本当にごめんなさい。ただ、例え国を守るためだとしても、みんなと一緒に旅に出たら楽しそうだって思った気持ちは嘘じゃないの!それに、私の能力がみんなの役に立てるかもしれないと思ったのも嘘じゃない。⋯⋯1度軽い気持ちで仲間に入れてって頼んじゃったから、断られても、信じて貰えなくても仕方ないって思う。それでも!私が今みんなの力になりたいって思ってる気持ちは嘘じゃないから!だから⋯⋯その⋯⋯。」


 口ごもってしまうシュロ。

 そんなシュロの様子に、EveleasE全員が傍によるとBERUが肩に手を置いた。

 それがシュロの背中を押したのだろう。

 

「私を仲間に入れてください!お願いします!」


 勢いよくこちらへと頭を下げた。

 優しい瞳でシュロを見ていたBERUの瞳は、俺達の方へ動いた途端に真剣な眼差しに変わった。


「シュロのことは俺が責任を持って送り出すから。何かあってからじゃあ遅いのはもちろん重々承知しているけど⋯⋯もしも何かあった時は推薦をした俺が責任をとる。だから、俺の代わりに「デビル」の代表としてシュロを連れて行ってほしい。」


 シュロの深々とお辞儀をした謝罪から始まった気持ちのこもった言葉に対し、きっとみんな同じ考えを抱いたのではないだろうか。

 それに、推薦をしたBERUだけでなく、話を聞いていたEveleasE全員がこちらに頭を下げている。


 この状況下で断る理由などあるわけが無い。


 今回ばかりは俺だけの判断とはいかない。

 確認を取ろうとみんなの様子を伺うと、順々に視線が交わった。

 その柔らかな視線から物語っている物は同じであると俺は受けとった。


「生憎だが⋯⋯。」


 俺の発した言葉に対し張り詰めた空気が漂い始め、シュロは拳をギュッと握りしめた。

 伝えるべき言葉を簡単に整理すると、しっかりとシュロの姿を見つめた。


「俺達にはシュロを断る理由が1つもない。是非俺達の力になってほしい。」


 その一言は予想外のものだったのか、顔を上げたシュロの表情は驚きに溢れていた。


「これはBERUの推薦だからという理由だけじゃない。シュロの言葉を聞いて下した決断だ。」

「⋯⋯え⋯⋯ほんとに⋯⋯?」


 BERUを伺うように見るシュロに、優しく微笑んだBERUは頭を撫でた。

 部屋の空気は穏やかなものに変わったが、俺が伝えたかったことはそれだけでは無い。


 ソファーから立ち上がると、その場にいた全員の視線が集まった。


「⋯⋯さっきは突き放して申し訳なかった。」


 逃げていたシュロを匿った後、かなりキツい言葉を使ってしまった。

 あの時事実を伝えたが、それでもそんな風に言われたままではきっとシュロは本当の姿を見せてはくれないと感じた。


 一緒に力を合わせる仲間だ。

 今俺達の間にある見えない壁は、旅に出る前に壊さなければいけない。


 そしてその気持ちはみんなにも伝染したらしい。


「私からも謝罪させてほしいわ。さっきは本当にごめんなさい。」


 立ち上がり謝罪を述べたミオラに続き、全員が静かに頭を下げた。


 俺達の一方的な力では簡単に壊れないであろうこの壁。

 謝罪だけでは壊すのに力が足りないことは分かっている。

 それでも、出来る限りのことをしたかった。

 

 俺達の気持ちはシュロの元へと届いただろうか。


 静かに頭を下げ続ける俺達に対しシュロがどんな様子を見せているのかは検討もつかなかった。

 そのはずなのに、何故だろうか。壊れるはずのなかった壁にヒビが入ったような気がした。


「みんな、謝らないで。」


 それはシュロの声だった。


「私だって勝手なことしたんだから、みんなが謝る必要は無いよ。みんなは当たり前のことをしただけ。ね!だから、顔を上げて!」


 俺達の気持ちは、ちゃんと壁の向こうのシュロへとちゃんと届いていたようだった。


「これから、よろしくお願いします!!」


 まだ出会って間もない俺達でも、今目の前にいるシュロの笑顔が『アイドルのシュロ』ではなく本来のシュロの心からの笑顔だと感じ取ることが出来た。

 こちらからだけでは決して壊れる事の無かったであろう壁を、シュロが反対側から押し壊してくれたようだった。


「あぁ。こちらこそよろしく。」


 そんな俺たちの様子を、EveleasEのメンバーは暖かく見守ってくれていた。




「BERU。シュロを紹介してくれてありがとう。」

「いえいえ。こちらこそお役に立てなくてごめんね。」


 みんなにはシュロと共に先にロビーへ降りるよう伝えたため、現在この部屋には俺とEveleasEのみが残っていた。


「兼業は大変だろう。」

「あははっ。そうだねぇ。でも、その忙しさが俺の生きがいでもあるかな。それに、シュロが手伝ってくれてたからビアやみんなよりも仕事は楽だったかもしれない。」


 その言葉から、シュロを本当に信頼しているということが伝わってきた。

 ふと見上げた壁には、先程聞いた合同ライブのポスターが貼ってあった。


「「デウス」のアイドルとの合同ライブだったな。素人に言われてもって感じかもしれないが⋯⋯応援してる。」


 アイドルに関して詳しくない俺だが、それでもこうやって良くしてくれたEveleasEには、頑張って欲しいという気持ちが芽生えていた。


「ありがとな!ビア!応援してもらえるなんて感激だな!」

Priêre(プリエール)になんか絶対負けないから!」

「僕達もビア達のこと、心から応援してるよ。」

「帰還の暁には勝利の美酒を交わそうじゃないか...!」

「ファイトなの。」

「無事に帰ってくることをお祈りしていますよ。」

「シュロやビア達が帰ってきた時、俺達史上最高のライブに招待できるよう、合同ライブは精一杯戦ってくるから楽しみにしておいてね。」


 俺は手を振るEveleasEに見送られながらエレベーターに乗り込みロビーへと向かった。




「おっ!ビアが来た!」


 ロビーからエレベーターホールまで響き渡ってくるこの声は和倉(わくら)だな。

 エレベーターの扉が開いたばかりでみんなの顔は見えていない位置にいるが、一瞬で誰なのか把握出来た。

 何せ⋯⋯


「いったーい!そんな強く叩かなくてもいいでしょー!」

「その声が煩いって言ってんだよ。」

「酷い!辛辣!そんな椰鶴(やづる)も大好きっ!」

「寄るな。」


 一際大きな声で聞き覚えのある漫才が繰り広げられたからだ。

 そして、全員の賑やかな笑い声も聞こえてきた。


 ホールの角を曲がると広いロビーに出た。

 シュロを含め、椰鶴と和倉を中心に楽しそうな様子を見ることが出来た。


 良かった。


 たった一言だけが、頭を過った。


「あ!」


 俺の姿を一段と早く捉えたのはシュロだった。

 輪の中から抜けると、俺の元へと足早に駆けてきた。


「ビアくん!私のこと仲間に入れてくれて本当にありがとう!まだ全員とはお話出来てないけど、でもみんな凄くいい人ってことは分かるし、笑顔がいっぱいで一緒にいて凄く楽しい!仲間になれて本当に嬉しいよ。ありがとう!」

「こちらこそ、俺達を受け入れてくれてありがとう。」

「えー!そんな事言わないでよ!みんなが優しく受け入れてくれたのが大きいよ!私なんて全然っ!!」


 思いっきり首と手を横に振る。

 そんなに謙遜しなくてもいいのに。


 余りの謙遜具合に込み上げてきた笑いをこらえることが出来なかった。


「ははっ。」

「えっ!笑われた!?というか、ビアくん笑うんだね!クールな感じかなって思ってたから笑顔見られて嬉しいっ!」

「は!?ビアが笑った!?」

「待って!なかなか見られないよそれ!いつも微笑むだけなんだから!」


 シュロの声がみんなの元へと届いたのだろう。

 グレイと和倉が爆速で俺の元へ来た。


「もしかして私、レアな姿拝めた感じ?え〜!超ラッキーじゃ〜ん!」

「来て早々ずりぃぞ!」

「やっぱりアイドルの力かなっ?」

「えー!俺もアイドルになったらビアが笑ってるの見られるかな?」

「いや、お前はアイドルじゃなくてヒーローになりてぇんだろ?」

「ヒーローじゃ笑わせられない!」


 俺の目の前で楽しそうに絡む3人。

 それを遠巻きに見ていたミオラと鴇鮫(ときさめ)がこちらへと歩いてきた。


「はいはい、そこまでよ。いい加減になさい。」

「お姉さん達に迷惑かかっちゃうから、そろそろ外に行こうか?」


 受付嬢の方を見ると、こちらをニコニコと微笑んで見ていたようだった。


 俺達はそんな受付嬢へお辞儀をすると建物の外へ出た。


「シュロと無事に出会う事が出来たから、すぐに最後の街へ向かいましょう。」

「そうだね。ここからは少し遠いから、途中で休憩を挟みながら向かおうか。」

「あぁ。シュロは体調大丈夫か?」

「うん!もちろん!長旅の準備万端だよ!」

「それなら心強いな。」


 1人ずつ、時には一気に2人も仲間が増え、遂に14人になった。

 そして、今から最後の仲間を探しに「キュルビス」へ向かう。

 「キュルビス」の隣街はもう既にオスクリタの支配下になっていると聞いた。今の俺達に出来ることは、「キュルビス」の無事を祈りガーディアンと合流する事だ。


 そして、一刻も早くオスクリタの進行を阻止し、ハロウィン全体に幸せと笑顔を届けなければ。

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