終演
「今回はみんな一緒のようね。」
視界の歪みにふらつき、酔いそうになったわたしは目を瞑っていた。「いつになったら目を開いても大丈夫な状況になるのか」なんて予想もつかずにいたが、メデューサさんが声を発した事で、わたしはやっと目を開けることが出来た。
嫌な空気だ。
劇場から一変したこの部屋は薄暗く、ジメジメと湿った空気が漂っている。
天井から床、壁までが全て木でできているようだ。
わたし達以外には何も無いこの部屋。
唯一あるのは、たった1枚だけ取り付けられた古めかしく所々から木片が出ている扉だ。
「今回は⋯⋯って?」
「あぁ、そうよね。さっきの学校では、初め全員が違った場所に飛ばされていたのよ。危険を犯して探さないといけなかったから、手間が省けて良かったわ。」
確かに、仲間を探すのに危険が伴うのは、レガロが使えない状態のわたし達にとっては最も避けたい状況。
元から仲間が近くにいれば、1人で戦うよりもまだ安心感がある。
「服は⋯⋯また変わってるわね。今回は幽霊屋敷がテーマだから逃げやすい服ってことかしら。」
メデューサさんはサイズの大きいダボッとした赤いTシャツとパンツスタイル。わたしは黄色のつなぎを着用していた。
「ところで、貴方の名前を聞いていなかったわね。私はミオラ。「サーペント」のガーディアンでメデューサよ。貴方は?」
「ホワリ。「マジック」のガーディアン。」
「ホワリちゃんね。初めて会うのがこんな所だなんて思いもしなかったけれど、会えて良かったわ。これからよろしくね。」
「うん。」
「あっちの2人にも自己紹介してもらいましょう⋯⋯いや、ダメね。」
2人⋯⋯グレイ達の方を見ると、2人は何故か1歩も動かず立ちすくんでいた。
「⋯⋯どうしたの?」
「あの2人、幽霊とかお化けの類が苦手なのよ。私達ガーディアンの中で怖がりのトップを争う2人がまさかこんな所に連れてこられるとは、災難よね。」
ミオラの話によると、以前「オーガ」で一悶着会った時、2人は幽霊のいる世界に飛ばされ散々な目にあってしまったらしい。
それ以前に、2人共元から幽霊の事は苦手意識を持っているようで、『自分達も人間から恐れられる者だが、幽霊は違う。あれは実態がない。亡き者の思念体程怖いものは無い。』との言い分だそうだ。
さっきの劇場で次のステージが発表された時、2人ともあまり良くない反応を示していたのは「幽霊」という単語が原因だったのか。
「一旦私から紹介するわね。青いつなぎを着ているのがグレイ。「スティッチ」のガーディアンでフランケン。隣の紫のTシャツを着ているのがヒショウ。「クラルテ」のガーディアンよ。」
ミオラからの紹介で1つだけ疑問が浮かんだ。先程劇場に戻った時に、唯一どこの街出身なのかが外見では判断できなかったヒショウについてだ。
「ヒショウは⋯⋯透明人間なの?」
「えぇ。初めは不思議に感じるわよね。でも、それに関しては余裕がある時に本人から⋯⋯そうね、通訳を使いつつ直接聞いてみるといいわ。私が勝手に話していい事ではないから。」
「⋯⋯そう。」
通訳?どうして通訳が必要なのか、そしてなぜ今答えられないのかがかなり気になるけれど、今はそれどころでは無い。無事に元の世界へ戻れたら、その時は絶対に聞いてみよう。
幽霊屋敷にいることを忘れるくらいほのぼのした空気が漂い出していた時、それを一瞬で壊す叫び声が部屋中に響き出した。
「もー無理!!なんで幽霊屋敷なの!?辛すぎる⋯⋯。」
その場に頭を抱えながら座り込んでしまったヒショウ。
「あー最悪⋯⋯ありえねー⋯⋯。」
虚空を見つめてブツブツと呟くグレイ。
震えてしまっているヒショウと、かろうじて立っているものの顔面蒼白のグレイ。2人に幽霊退治を期待するのは無茶な事だ。
幽霊は見たことないけれど⋯⋯今の所恐怖を感じていないわたしと、冷静沈着なミオラ。何が起こるか予想もつかないこの部屋の中で現在動くことが出来るのはわたし達だ。
なんとか2人を守らなければ。
「今の所何も無いけど、もし何か現れるとしたらご丁寧に取り付けられてるあの扉かしら。」
「そうだと思う。」
いや、そうとしか思えない。
そうでなければ、わざわざ扉が取り付けられている意味が分からない。
エスケープなんて用意されてないだろうし⋯⋯きっとあそこから幽霊が出てくるんじゃないだろうか。
扉へ意識を向けてどれくらい経っただろうか。待てども一向に何かが現れる様子はない。
幽霊屋敷だから⋯⋯もしかして、わたし達の目に写っていないだけでこの場には存在しているのかな⋯⋯。
ミオラに確認するよりも先に、深いため息が耳に届いた。
「なんだよ。なんも起こらねーじゃねーかよ。ビビらせんなよ⋯⋯。」
グレイがヒショウの隣に座り込むと、同じ高さで目の合ったヒショウは強ばっていた頬をゆるめた。
「ホントだよね。幽霊屋敷なんて言うから、怖いことばっかり想像してたよ。」
怖がっていた2人の様子が幻だったのではないかと思ってしまう程の笑顔を見せるからか、遠目で見ていたミオラがふふっと笑った。
「⋯⋯どうしたの?」
「さっきまで余裕が無さそうだったのにこんなに笑うなんて⋯⋯2人共、余程安心したのね。」
「⋯⋯うん。そうだね。」
「でも不思議よね。ビットはあれだけ勝ち誇った顔をしてたのに。何も起こらないなんてバグかしら?」
「やっぱりそう思うよな!!」
2人の世界に浸っていたグレイがミオラの言葉に反応を示した。
「幽霊屋敷って言うからには、血塗れの幽霊とか、顔とか四肢が取れてる幽霊とか、そういうのが現れるもんだと思ってたが、これなら楽勝だよな!」
そんなグレイの言葉を皮切りに、今まで微動打にしなかった扉が「キィ⋯⋯」と奇妙な音を立て、ゆっくりとこちら側に開き始めた。
開いた扉の先には暗闇が広がっていた。
その不気味さが、さらに恐怖心を掻き立てた。
突然の変化に言葉を失い驚きを隠せないわたし達は、ただただ扉を見続けることしかできない。
そんなわたし達の目の前に、今にでも呪いを掛けてきそうな雰囲気の血塗れの幽霊や顔や四肢の無い幽霊、変な方向に関節が曲がってしまっている幽霊など、待ってましたと言わんばかりの数の様々な幽霊達が暗闇の中から部屋の中へ流れ込んできた。
「「ぎゃああああ!!!」」
部屋にこだまするヒショウとグレイの悲鳴と、幽霊達のうめき声や奇声。
今まで固まって動く事さえままならなかったヒショウとグレイが、物凄い勢いでこちらに走ってきた。
火事場の馬鹿力とはこういうことを言うのだな、と関心。
ヒショウはミオラの後ろに隠れ、グレイはわたしを抱きかかえた。
⋯⋯なぜ?
思考停止したわたしがグレイの顔を見ると、グレイも予想外の行動をとったようで訳分からないといった引きつった表情を浮かべながら、
「悪ぃ!!!」
と叫んだ。
が、わたしを下ろす様子はない。
かなり動揺されてるのだろう。
「わたしは大丈夫だから。落ち着いて。」
「お、おぅ!そうだな!!!」
状況をちゃんと理解できたようで、わたしのことを床に降ろした。
何故こんなにも余裕に対応しているのか。
その答えは簡単だった。
「あそこから動かないわね。」
流れ込んできた幽霊達は扉の前に固まっていた。
こちらに向かってくるかと思っていたが、その様子も見られない。
「いい!そのままでいい!そこにいろ!」
「無理無理無理⋯⋯。」
グレイは動かない幽霊達に向かってこちらへ来ないで欲しいという気持ちをぶつけており、それに対しヒショウはミオラの影に隠れたまま幽霊達に目線を動かすことなく呟いている。
この2人が幽霊を怖がる気持ちが何となく理解出来た。
ユラユラと揺れ、怒りに満ちた表情を浮かべたり意味もなく口角を上げている。その上姿もそれぞれが気味の悪い雰囲気を醸し出している。
とても不気味だ。
近くで視界に入れたくないという気持ちが湧き上がってきた。
グレイの言う通り、こちらに近づかないで欲しい。
だが、幽霊が来る前から違和感がある。
本当にそこにいるだけだろうか。
扉が突然開いた時のように、いきなり動き出すのでは⋯⋯
何か起きた時にすぐに動けるよう予想を立て始めた途端、1番初めにこの部屋へ足を踏み入れた血塗れの幽霊が少しこちらへ移動したように感じた。
「⋯⋯ねぇ、ミオラ⋯⋯。」
「⋯⋯えぇ。」
幽霊から視線を外さず答えるミオラの様子から、ミオラもそれを感じとったのだと受け取れた。
そして、その考えは間違っていなかったようだ。
「きたきたきたきた!!!!!」
「っ!来ないで!!」
幽霊達が一斉にこちらへ向かってきた。
わたし達はそれらから逃れるように一目散に走り出した。
レガロが使えないわたし達に出来ることは、ただただ体力の続く限り走る事だった。
よく見ると幽霊達は追いかける対象が決まっているようで、大体同じ数の幽霊がそれぞれの背後についていた。
その幽霊達のスピードは想像よりも早かった。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ。」
「幽霊屋敷なら触れるのはタブーでしょう!?」
「無理無理、来ないであっち行って!」
肩を掴まれ表情の消えたグレイ、髪を引っ張られて怒っているミオラ、何とか逃げ続けているものの泣きそうなヒショウ。
『三者三様』とはまさにこの事を表すのに相応しい言葉だろう。
わたしは3人を視界から外さぬよう気をつけながらも、永遠と追いかけてくる幽霊達から逃げ続けた。
3人の様子から1つ分かったのは、捕まったり触れられたからといって、何かそこから危険な事が起こるといった様子は見られないということだ。
それに、何故かヒショウとわたしは1度も触れられていない。足が速い2人の方が何故か捕まっていた。
どうして⋯⋯
後ろが気になりチラッと振り返ると、変わらず一定距離で追いかけてくる幽霊達の姿を捉えることができた。
わたしの後ろに続いている幽霊達って、もしかして他の幽霊と比べて極端に足が遅いのかな?
そうじゃなければ、わたしが捕まっていない理由が分からない。
そう考えた瞬間だった。
⋯⋯あれ?
あからさまに、先程よりも幽霊達の足が遅くなっている。これなら追いつかれる心配等皆無だ。
それに、体力もそこまで必要としないため余裕を持って逃げることが出来る。
わたしにとってデメリットは無いためそのままの速度で一向に構わないが、突然どうして?
3人を追いかける幽霊は相変わらずで、ミオラとグレイにちょっかいを出したり一定速度でヒショウを追いかけていた。
何故こんなにも差があるのだろうか。
わたしにだけ変化が訪れた訳を、余裕のできた思考でゆっくりと考えてみる。
そういえば、ビットから突然ルールを説明されてその状況が呑み込めずにいたから言葉の意味を理解出来ずにいたけど⋯⋯あの時ビットはなんて言ってたっけ?何かヒントがあるかもしれない。
『①演技だからってあまり好き勝手にやり過ぎないように。②みんなが舞台で体験したことは現実の君達にも反映されるよ。③舞台上ではレガロは使えないから『十分に』気をつけてね。』
これらに関しては理解出来てる。
レガロが使えないことはミオラ達の言葉もあったから嫌でもスっと頭へ入ってきたし、他の2つも難しいことは言ってない。
好き勝手に関しては、そもそも追いかけ回されていてそれどころじゃない。
でも、特にそれくらいしか言ってなかった気がする。
⋯⋯いや、その前にもう1つ言ってた。
『みんなの作る物語のテーマは『幽霊屋敷』だよ。』
みんなの作る物語。
作るって言われても⋯⋯
あぁ⋯⋯そういうこと?だからわたしだけ?
ただ、この説を立証するには他の人の脳内を知る必要がある。
今みんなが何を考えているのか。
でも、無闇に声を掛けて怪我をさせてしまっては元も子もない。
とりあえずは自分1人で試せることを試して、安全が保証されたら伝えてみよう。
『わたしを追いかけてくる幽霊達だったが、力尽きてしまったのかいつの間にか消え去ってしまっていた。わたしがそれに気がついたのは、幽霊達の様子を確認しようと振り返った時だった。そしてわたしは⋯⋯』
わたしは走るペースは落とさずにバッと振り返った。
やっぱり。
わたしは足を止める。そして必死に幽霊達に抵抗をし、周りに気がついてない様子の3人に向かって精一杯声を張り上げた。
「みんな!!」
その一言に3人は動きを止めずにこちらを見た。全員わたしの姿に驚いているのが一目で確認できた。
「この世界は自分の思った通りになる!だから!」
『そしてわたしは、元の姿に戻り、レガロも使えるようになった。』
「ルールに囚われないで!みんながこの物語を作るんだよ!」
わたしの言葉足らずな内容を聞いただけでは何を言っているかなんてすぐには理解出来なかっただろう。
だが、今のわたしの姿を見たのなら話は違う。
きっと3人はすぐに意味を理解してくれるはずだ。
その考えは間違ってなかったようだ。
「全員成仏なさい。」
ミオラの強い一言に、ミオラの周りを取り囲んでいた幽霊達はスゥッと消えた。
「そういう事かよ!!消えろ!!!もう二度と戻ってくんな!!」
その覇気に負けたかのように、グレイのそばに居た者から順に消えていった。
「もう俺について来ないで!!元の場所に帰って!!」
ヒショウを追いかけていた幽霊達はその場にピタッと立ち止まると、方向転換して自然と開いた扉から出て行った。
幽霊達が全員いなくなるとそれを見計らっていたかのようにゆっくりと扉が閉まった。
シーンと静まり返った室内。
3人に目を向けると、それぞれが今何を考えていたのかが一瞬で判明した。
「おぉ!本当に戻った!」
「よかったー!!」
3人同時に元の姿に戻ったのだ。
固い握手を交わし抱き合うグレイとヒショウ。
幽霊を怖がっていたからこそ、対処法が分かり安心しているのだろう。
そんな2人に対してミオラは冷静だった。
「ホワリちゃん、ありがとう。貴方のおかげで助かったわ。それにしても、よく気がついたわね。」
「わたしが『他の幽霊と比べて極端に足が遅いのかな?』って思ったら、突然わたしを追いかけてた幽霊達の足が遅くなった。⋯⋯だから分かった。」
「そうだったのね。そう言われてみれば、確かに『幽霊といえど、ビットの作りだした物だから接触してくるかもしれない』って考えてたわ。髪を掴まれた後も『いつになったら離してくれるのかしら』なんて⋯⋯。それはずっと掴んでるわよね。」
ミオラは髪を整えながらも蛇を優しく撫でていた。
蛇もミオラの元へ帰って来れて安心したのか、ピッタリとくっついていた。
「私達は劇場でのビットの言葉に惑わされてたってことね。初めに『みんなで作る』ってヒントを言われてたのに、その後の注意事項だけが頭に残ってたわ。」
「そうだよなー。注意事項があまりにも衝撃的だったから、最初に言われてた事なんて記憶になかったわ!」
「思い込みって⋯⋯怖い。」
「きっとそれもビットの作戦だったんだよね。最後に反論されても、最初にヒントをあげてたなら聞いてない俺達が悪いって言い切れるからね。」
そう語るヒショウは何故かグレイの後ろに隠れていた。
もう幽霊はいないのに、どうしたのだろうか。
「ミオラ、ヒショウはどうしt」
ボンッ!!
ミオラに質問をなげかけた途端、扉の近くで大きな破裂音がした。
話の内容など忘れ何事かとそちらを振り返ると、そこにはうさぎの被り物を被っていない状態のビットがいた。
どう見ても泣いている。
「おかしい⋯⋯おかしいよ!!!」
拳をギュッと握しりしめ、泣きすぎたからか兎のように真っ赤に染まった目でこちらを睨みつける。
「今まで誰も気が付かなかったのに!!好き勝手しないでって言ってるのに!レガロは使えないって2回も言ったのに!何でそういう事するの!!」
今までこの世界に連れてこられた人達は、ビットの話術や突然放り出された見知らぬ場に惑わされ、ヒントに気が付かずに消えていったのだろう。
実際、ミオラ達は1度「レガロが使えない」と思い込んだ状態で物語を作り恐怖を味わったからこそ、先程の幽霊屋敷でもヒントに気がつく様子は一切なかった。
わたしはビット達に招待されたのではなく、ここに自ら飛び込んできた異分子だ。
だからこそ、3人よりも冷静に物事を判断できたのかもしれない。
反対にミオラ達と同じ状況だったら、ヒントに気が付かなかっただろう。
「みんなで作る物語⋯⋯なんでしょ?」
「私達、根本的な面では間違ったことはしてないわ。」
「まぁ、注意事項は破っちまったが、ちゃんと物語作ったしな!」
「最後には幽霊がいなくなる物語。それが俺達の作った幽霊屋敷の物語だよ。」
唇を噛んで涙を堪えている様子だったビットだが、わたし達の言葉に表情が崩れた。
この一見残酷な世界を作ったビットが、どこにでもいるような年相応の少年へと変わった。
「ズルいよ!!酷いよ!!!お前らなんか、大っ嫌いだ!!!バカぁ!!!」
暴言を吐き切ると、「うわーん!!」と大きな泣き声を上げながら座り込んだ。
ビットの頬を流れる涙のように、世界が空から溶けるように劇場に変化していった。
今、わたし達に抵抗せずにただただ泣き崩れている姿と、1つ前の世界でわたしと出会った時の様子から導き出された答えがあった。
ビットは思い通りの世界を作り、そこに他者を引き込むレガロを持っているが、それ以上わたし達に攻撃出来るレガロを持っていないということだ。
だからこそ、上手い話術で自ら死へと向かうように導いていたのだろう。
それならば何も怖くない。
「パレーロップ・ハルト 。」
わたしは3人の安全を保証するためにバリアを張った⋯⋯のではなく、ビットに対して魔法を放ち、ビットの周りを球体のバリアで包んだ。
そんな事もお構い無しに、ビットは相変わらず泣き続けている。
でもそれも、もうおしまい。
「ヴォレフロート。」
「ぅわ!!」
球体のバリアごと浮き上がったビットは、流石に驚きを抑えきれなかったようで声を上げた。
何が起きているのか初めは理解で来ていないのか、キョロキョロと周りを見渡していたが、すぐにバリアを叩きながらわたしを睨んだ。
「ここから出してよ!」
「あぁ⋯⋯そんなに叩かないで⋯⋯⋯⋯バリアが壊れたら、そこから真っ逆さまに地面に落ちるよ。」
「っ!!」
脅しのような言葉に手を止めると、ビットはヘタりと座り込んだ。
わたしの出すバリアは、たった1人分ならそう簡単に壊れたりはしない。
かなり頑丈だから、叩こうが何しようが壊れることは無いため安心して欲しい。
ただ、行動を鎮めるには少しばかり脅すのが1番だと思った。
「ホワリちゃん。ビットのこと、どうするつもり?」
「⋯⋯このまま連れてく。」
「連れてくってどこにだ?」
「みんなの所。」
「み、みんな?」
「うん。」
きっと、あの2人は必ず勝って戻ってくると思うから。
もしかしたら、もうとっくに待ち合わせ場所にいるかもしれないから。
早く行かなきゃ。
「ビアと華紫亜が待ってる。」




