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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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巨大迷路

目の前に現れた者へ警戒しながらも何が起きているのかを把握しようとしていた椰鶴(やづる)だったが、それよりも先に再度別の場へと移動させられてしまっていた。

「ここどこにゃー!!!」

「いちいちうるせーな。」

「だって!さっきは遊園地だったのに!狭い所にゃあ!!」

「少しは声小さく出来ねーのか。部屋中に響く。」

「2人共落ち着け。」


 アリシャと名乗った女が「遊ぼう」とか何とか言った途端、目の前の景色が変わった。

 今俺達がいるのは、とても狭い空間。両端を高い壁に挟まれた通路内にいた。

 ただ、少し離れた四方に壁が見えることから、ある一室に入れられていることだけは確実だった。


 それだけじゃない。


「あっ!ミオラは!?皆はぁ!?」

「っだから!少しボリューム抑えろって!!」

「落ち着けって。」


 ここにいるのは俺と吉歌(きっか)、ランドの3人だけ。

 他の奴らの姿が見当たらない。

 これだけ吉歌が大声を出しても返答がないなら、この部屋の中にはいないのだろう。


「さっきの奴らが俺達をバラけさせたんだろう。」

「さっきのって⋯⋯あの女か。」

「あぁ。」


 至って冷静なランド。


 きっとランドの言う通りなのだろう。

 俺達がこんな辺鄙な場所にいるということは、和倉(わくら)達も別のどこかへ移動させられているはずだ。


「何でこんな目にあうにゃ⋯⋯。」


 先程までとは異なり落ち込み出す吉歌。


「お前、情緒不安定だな。」

「だってぇ⋯⋯」

「和倉と同じ匂いがする。」

「え!臭うにゃ!?」

「⋯⋯そうじゃねーよ。」


 和倉本人はいないはずなのに、何故か和倉がいるような気分だ。


 ⋯⋯疲れるな。


「はぁ。」


 ため息が自然にでてしまう。


椰鶴(やづる)、大丈夫か?」

「⋯⋯あ?」

「顔が死んでる。」

「ホントにゃ!」


 ランドの言葉を聞き俺の顔を覗き込む吉歌。


「あぁ⋯⋯こいつが和倉2号に見える。」

「2号にゃ!?」


 俺がチラッと吉歌を見ると、自分が話題に上がっていると気がついた吉歌が物凄く驚いていた。

 さっきまでうねっていた尻尾がピンッと立っている。


「2人共賑やかだし、似てんのかもな。」


 そんな俺達の様子を見たからか、フォローをいれるランド。

 その言葉を聞いて反応しない訳がなく⋯⋯


「褒められたにゃ!」


 吉歌はピョンピョンと飛び跳ねていた。


 こいつ⋯⋯いちいち反応してくんな。


 俺とランドが会話をしているはずなのに、不思議と吉歌も会話に参加しているように感じてしまう。

 表情もコロコロ変わって、まさに女版和倉としか思えなくなってきた。


「はぁあ⋯⋯。」


 飛び跳ねる吉歌を見て、先程までと比べ物にならないレベルの深いため息が出てきた。


 そんな時、突然部屋中に声が響き渡った。


「ようこそ。我が巨大迷路へ。」

「誰にゃ!?」

「一一っ!?」

「⋯⋯あれだ。」


 周りを見渡す俺と吉歌に対し、すぐさま一点を指差すランド。

 指し示した先を見ると、遠目に見える周りの壁より少し高さのある塀のような場所があった。その上にアリシャと共にいた『ガスマスクをつけたヤギ耳の女』が立っていた。


「我が名はカプラ。巨大迷路の案内人の(めい)を賜っている。」

「案内人?」

「アリシャ様から受けた恩恵だ。」


 見た目といい話し方といい、大分癖が強いな。


「見ての通りここは巨大迷路の中だ。」

「迷路だったにゃ!?」

「あぁ。そうだ。」


 そりゃそういう反応になるよな。

 ただ壁に囲まれた通路にいることしか分からなかったんだから。


「今から貴様らには巨大迷路を攻略してもらう。」

「攻略ってことは、ゴールするにゃ?」

「その通りだ、猫娘。簡単だろう。」

「簡単で楽しそうにゃ!」

「だろう。貴様らに合うアトラクションをアリシャ様が御選びになったんだ。有難く思うが良い。」


 なんか⋯⋯


「態度でけーし、馬鹿にされてんのか俺ら。」

「椰鶴、癇に障るが我慢だ。」


 俺のつぶやきに即座に応えるランド。


 流石、ランロークの総長だっただけあり判断が早く落ち着いてるな。


 そんな俺達の声は全く届いていなかったようで、カプラは息を吸い込むと声を張り上げた。


「さぁ、早速ゲームを始めるとしよう!このステージで踊り狂うが良い!」


 ボンッ


 爆発音が響き渡ると同時に、カプラのいた場所に煙が立ち上った。

 そして煙が消えると、もうそこにはカプラの姿はなかった。


「い、いなくなったにゃ⋯⋯。」

「何でゲームなんか⋯⋯。」


 目の前で起きた出来事に理解が追いついていない吉歌と、この状況に文句をつける俺に対し、ランドはやはり冷静だった。


「ここに居ても何も変わらない。とにかく出口を探すぞ。」


 このゲームにランドがいてよかったな。

 じゃなきゃ、纏まらないし上手く進めなかった気がする。


 俺と吉歌はランドに続いて、狭い迷路を進み始めた。





「くそっ。またか。」


 探索しだしてどれくらい経っただろうか。

 大型迷路だから仕方がないが、行き止まりにぶつかる確率が高すぎてイライラしてくる。


「また戻んのか。」

「そうだな。⋯⋯案外体力使うな。」

「疲れさせる気か、アイツ。」


 何度も行き止まりに遭遇し戻るという行為を繰り返している上に、周りの風景に代わり映えも無い。

 その為俺とランドは、体力的にも精神的にも疲労が見え始めていた。


 それに対し⋯⋯


「こういう所初めてだから、ワクワクするにゃ〜!」


 疲れを知らない様子の吉歌。

 スタートしてからずっと走り回っていた。


「疲れないのか?」


 吉歌の様子を後ろからマジマジと見ていたランド。

 呟いた言葉は、俺が今まさに思っていた事だった。


 やっぱりそう思うよな。


 あれだけ歩き続けている⋯⋯いや、走り続けているのにも関わらず笑顔を絶やさない姿は正直謎だ。


「全然大丈夫にゃ!楽しいにゃ〜!」

「そうか。それは心強い。」


 ランドは吉歌の言葉に苦笑いをしていた。


 俺だったら確実にそんな答えは出てこない。

 実際に今も心の中で「ガキかよ」とツッコミを入れていたぐらいだ。


 こいつ、見かけによらず他人思いっつーか心優しいっつーか⋯⋯そんな所あるよな。


 ビアにしろランドにしろ、総長とかリーダーになるようなヤツはそれが当たり前なのか?


 俺にはない感性に疑問を抱き始めていた時だった。


「一一っ!?」


 突然ランドが鼻と口を塞いだ。


「どうした?」


 目を見開き、何かに驚いている様子のランド。

 今までなかった異常に、吉歌も不安そうな表情を浮かべていた。


 ランドは手で呼吸器を塞いだまま、かなり小さな声で呟いた。


「⋯⋯毒だ。」

「⋯⋯毒?」

「毒って⋯⋯なんの事にゃ?」


 異常事態の程度に気がつく事が出来ていない俺と吉歌は、ただひたすらにランドの返事を待つことしかできなかった。


 ランドは眉間に皺を寄せながらも、静かに冷静に言葉を紡ぐ。


「この鼻にツンッとくる刺激性のある独特の香りは、毒だ。」


 香りって⋯⋯


「匂うか?」

「うーん⋯⋯」


 俺と吉歌が匂いを確かめようとした瞬間だった。


「やめろ!嗅ぐな!鼻と口を塞げ!」


 ずっと冷静だったランドが初めて声を荒らげた。


 俺達はその声に驚き一瞬固まったが、ランドの指示に従いすぐに手で呼吸器を塞いだ。


「⋯⋯悪い。驚かせたな。」

「いや、俺達も安易だった。」

「ごめんなさいにゃ。」


 俺はしっかりと呼吸器を塞いだまま、ランドに声が聞こえるよう近づいた。


「毒って、どういう事だ?」

「⋯⋯憶測だが⋯⋯」


 吉歌も俺達の側へ寄ると耳をすましていた。


「⋯⋯この迷路、ただの迷路じゃない。どこからか微量だが毒ガスが噴射されてる。」

「⋯⋯は?」

「っ⋯⋯。」


 予想もしていなかった事実に言葉を失った。

 そんな俺達に対し、ランドはハッキリと告げた。


「早く出口を見つけないと、全員死ぬ。」

「⋯⋯そんにゃ⋯⋯。」

「⋯⋯。」


 このままだと死ぬ。

 ランドの表情から察するに、言葉に嘘偽りは無さそうだった。


「⋯⋯気が付かないよりマシだろ。毒があると分かった以上今まで通りには行かねーだろうけど、気をつけやすくなった。」

「⋯⋯そうにゃね。椰鶴の言う通りにゃ。楽しんでる場合じゃないにゃ。早くみんなで脱出するにゃ!」


 脱出しないと死ぬと言われ絶望の表情を見せていた吉歌だったが、先程までとは一変し、現在はとても頼りがいのある表情をしていた。

 狼狽えるだけかと思っていたが、ガーディアンをやっているだけあり覚悟を決めるのは早いらしい。


 少し見直した。


 先頭を進み出した吉歌に続き、俺達は鼻と口から手を離さぬよう気をつけながら、走って出口を探し始めた。

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