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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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難病に効く薬

ビアと華紫亜(かしあ)の承諾を得たホワリは、すぐに鍋に向き直ると呪文を唱えながら秘薬作りを再開した。

「ハムニカアリリア⋯⋯。」


 わたしは、ビアと華紫亜(かしあ)が見守る中、制作中だった秘薬を作り続けた。

 数分後、わたしは最後の魔術を唱えた。


「アニファルサンニカイルラン ハムニカアリリアホーリー ユウカサフリアンミューラー!!!」


 ナベの中が眩しく光り輝いた。それは一瞬だった。


「今、ナベの中が光りましたね。」

「あぁ。」


 ナベから出た光で部屋が一瞬明るくなると、2人は光の強さに驚いているようだった。


「⋯⋯できた⋯⋯。」


 わたしが呟くと、華紫亜がナベに近寄ってきた。


「何を作ったのですか?」

「⋯⋯薬。」

「薬ですか?」

「そう。⋯⋯これは、わたしのお母様が担当している患者さんのためだけに作った薬。」


 わたしは瓶に薬を流しながら、患者さんの話をした。

 その患者さんは、80代のおじいさんだった一一



 数ヶ月前、おじいさんは緊急搬送されてきた。

 顔に血の気はなく、手足も動かなければ話すことも出来ないおじいさんを担当したのがわたしのお母様だった。


 お母様が診察をした結果、誰もが知っていて恐れられている病名ではなく、『トリパスジハイン』という謎の病名が挙げられた。

 『トリパスジハイン』は、全ての内臓が何らかの影響を受けて結合されてしまうという病気だった。

 その病気は今まで症例が1つもなかったため、薬もなければ治療法も見つからなかった。


 そんな難病にかかったおじいさんが今も生きていられてるのは、まだ心臓が結合されていないからだった。

 お母様曰く、心臓が結合してしまうのも時間の問題らしい。

 タイムリミットはあと2ヶ月だった。


 わたしはそのおじいさんの力になりたいと思った。

 おじいさんを助けたいとお母様に言うと、この難病に効く薬を作って欲しいと頼まれた。


 正直無謀だった。


 でも、忙しいお母様と違って時間があるわたしなら薬を作ることは出来るんじゃないかと一縷の希望にかけることにした。



 一一そして今、わたしはその薬を作り終えた。


 タイムリミットまであと3日。

 何度も試して効果がないと作り直していた。

 時間的にもこれが最後の薬となるだろう。


 わたしは瓶に詰めた薬に願った。


『おじいさんを助けられますように。この薬が効きますように⋯⋯。』


「⋯⋯じゃあ、行こう。」


 わたしは羽織っていた実験用のフード付きローブをハンガーにかけると、隣にかかっていた別のローブを羽織り、2人を連れておじいさんの元へ向かった。


 いつもはとても静かな病室の前に来ると、中から声が聞こえた。

 ちょうどお母様が検診をしている所だった。


「俺達は中へ入るわけには行かない。そこの椅子で待ってる。」


 ビアの指し示した廊下の先には、丁度2人が腰掛けられる大きさの長椅子があった。


「ホワリさんがお戻りになられるまでお待ちしております。」


 わたしはそんな2人にお辞儀をすると、早速病室へ入った。


「あら、ホワリ。どうしたの?」


 出かけると思っていたわたしがここへ来たからか、お母様は驚いているようだった。


「⋯⋯できた。」

「え?」

「おじいさんのための⋯⋯薬。」


 わたしは持っていた瓶をお母様に差し出した。


 点滴のおかげで少しだけだが話したり動くことができるようになっていたおじいさんが、ニコッと微笑んだ。


「ほんとうに⋯⋯こんなにかわいらしいおじょうさんが、つくってくれてたんだねぇ。」


 今までわたしはお母様に瓶を渡すとドアの影から見守っていたため、おじいさんと顔を合わせるのは初めてだった。


 わたしはベッドで寝ているおじいさんの隣に立った。


「初めまして⋯⋯おじいさん。⋯⋯薬、効くといいけど⋯⋯。」


 俯くわたしの手をおじいさんは優しく握った。


「だいじょうぶだよ⋯⋯おじょうさんのきもちはしっかりつたわってきているからね。ここまでくすりをつくりつづけてくれてありがとうねぇ。」


 おじいさんはわたしが来てからずっと微笑んでいる。

 辛いのはおじいさんなのに⋯⋯。


 わたしはおじいさんに負けず口角を上げた。


「おじいさん⋯⋯この薬を飲んでください。絶対に効きます。」


 お母様はわたしから受け取った瓶の蓋を開けると、おじいさんのベッドを起こし、おじいさんに少しずつ飲ませた。


 薬を飲み切ったおじいさんのベッドを元に戻すと、お母様はカルテに何かを書き込んだ。


「3時間後に検査を行いますので、それまでベッドで安静にしていてくださいね。」


 お母様はわたしの顔を見た。


「ホワリはどうする?」


 きっと、検査結果が出るまで残るのか、それとも旅へ出るのかの選択を聞いているのだろう。


 わたしの考えは変わらなかった。


「⋯⋯待ってる。」

「そう、分かったわ。待合室で待っててね。結果が出たら伝えに行くわ。」


 わたしがおじいさんにお辞儀をすると、おじいさんはニッコリと笑った。

 わたしはビアと華紫亜の元へと向かった。


 2人は談笑していたようだが、病室からわたしが出てくるとすぐに気が付き椅子から立ち上がった。


「どうだった?」

「⋯⋯検査を始めるのが3時間後って言ってた。ちゃんと結果が出るまでは4時間くらいかかると思う。わたしは結果を知りたいから、それまでは⋯⋯。」

「あぁ、それなら大丈夫だ。」

「結果が出るまで待ちましょう。」


 言いにくかったわたしに対して2人は優しく微笑んだ。


 わたしはあまり人と話すのが得意じゃないけれど、こんな2人となら旅も怖くないかもしれないと思った。


「ビアさん。」

「どうした?」

「今から4時間待つのであれば、僕達は一旦ランド達の元へ戻ってこの事をお伝えすべきかもしれませんね。」

「あぁ、そうだな。心配かける前に伝えた方がいいだろう。」


 そっか。そうだよね。

 他にも仲間が待ってるんだよね。


「ホワリさんはどうされますか?」

「え⋯⋯わたし?」

「あぁ。4時間ここで待っているのもいいが、もしホワリが嫌じゃなければ、みんなと1回会ってみないか?」


 おじいさんの検査結果が出るまでまだまだ時間がかかる。

 本当はここで待ってるつもりだったけど⋯⋯2人の言う通り、1回気分転換に仲間になる人達に会いに行ってもいいかもしれない。


「⋯⋯着いて行っていい?」


 わたしの言葉に2人はニコッと笑った。


「もちろんだ。」

「ホワリさんに会うことが出来て皆さんも喜びますよ。」


 わたしは2人の後に続いて病院を出た。


 病院前の大階段を降りていた時。

 前を歩く2人がヒソヒソと話を始めた。

 何やら良くない話をしているようだ。


「⋯⋯どうしたの?」

「あぁ⋯⋯階段の下で待ってるはずなんだが⋯⋯。」

「周囲を見渡しても見当たらないので何処へ行ってしまわれたのかと⋯⋯。」

「⋯⋯いなくなっちゃったの?」

「勝手にどこかへ行くような奴らじゃないんだがな⋯⋯。」

「何かに巻き込まれたのでしょうか⋯⋯。」


 困っている様子の2人。

 待っているはずの仲間が全員いなくなっていたら誰でも2人のような反応をするだろう。


 わたしはビアと華紫亜の2人しか顔を知らないから探すに探せない。

 協力をしたところで、全く力になれないだろう。


 探す時間は充分あるけど⋯⋯


「あてもないんだよね⋯⋯?」

「残念だが⋯⋯。」

「僕達もここへ来たばかりですからね。どこへ行ったか予測する事も正直厳しいです。」


 そっか⋯⋯。


 仲間になる人達にすぐに会うことが出来なくて少し残念だが、その場にいないなら仕方がない。


 とりあえず時間までは2人について行こう。


 わたし達が階段を降りきった時だった。

 華紫亜が突然しゃがみ何かを手に取った。


「⋯⋯これ、何でしょうか?」


 華紫亜は1枚のカードを持っていた。

 わたしはそのカードを見て絶望した。


「HDF⋯⋯!?」


 わたしが突然声を上げたからか、2人が驚いた表情でこちらを見た。


 わたしは震えが止まらなかった。


 「HappyDreamFantasia」通称HDF。

 観覧車のイラストにHDFという名が刻まれたこのカードは「HappyDreamFantasia」からの招待状だ。

 しかもただの招待状じゃない。

 人を飲み込む招待状だ。


 これが落ちているということは、もう既にあちらの世界へ招待されている人達がいるということ。


 まさか「HappyDreamFantasia」に直接関わることになるなんて⋯⋯。


「ホワリ、何か知ってるのか?」

「ホワリさん。大丈夫ですか?」


 突然口を噤んだわたしの様子を見かねた2人が心配をして声をかけてくれた。


 2人の声で正気を取り戻したわたしは、2人にこの招待状について簡単に説明をした。


 その説明を聞きながら青ざめる2人。

 そりゃそうだ。まだ確証は得ていないものの、招待されたのが仲間かもしれない可能性があるから。


 HDFに招待された者は「心を破壊され帰還する」もしくは「死者として帰還する」のどちらかの運命しか選べない。

 招待されたら終わりの世界だ。


 HDFは実際に世界へ行った者しか正体を知らない。

 普段はただただ大道芸を披露しているサーカス団だから。


 「マジック」には様々な大道芸人やサーカス団がいる。それを全て取り締まるには時間がかかり過ぎる。

 帰還した者に話を聞こうにも、恐怖で話せなかったりフラッシュバックが起きそれどころではなくなってしまう。

 無理やり聞き出すなどそのような無謀な事はできない為、今まで集められた情報も、使用していたレガロの様子と、どこからか「HappyDreamFantasia」という声が聞こえたかと思えばいつの間にか異なる世界に飛ばされていたという事実程度。

 レガロも全て把握出来ている訳では無い。素性は全く分からなかった。

 だからこそ、ポリシアンも取り締まれず苦戦しているのだ。


「このカードがここに落ちてたってことは、ヒショウ達とは限らないとしても、少なくとも誰かが別世界へ招待されているってことだよな。」

「⋯⋯そういうこと。」

「招待された方々を救う手段は無いのでしょうか?」


 救う手段⋯⋯1つだけあるけれど⋯⋯


「カードに厳重にかかった魔法⋯⋯これを解けば⋯⋯。」

「ホワリはその魔法を解くことはできるのか?」


 分からない。


 かなり厳重にかけてある為簡単に解くのは不可能だろう。

 ただ⋯⋯シールドの封筒のマークを作ったのはわたしだ。誰にも解除不可能な特殊魔法を作り出したわたしになら、解けるかもしれない。


「やってみないと⋯⋯わたしの知ってる魔法で解けるかどうか⋯⋯。」

「試して頂くことは可能でしょうか?」

「⋯⋯やってみるけど⋯⋯。」


 噂だからどこまでが真実か分からないけど、このカードって魔法が解けたらすぐに世界へ行かないとまた鍵がかかると聞いたことがある。


「もし解けたら、すぐあっちへ行かないといけないから⋯⋯。」

「あぁ、そうか。ホワリはおじいさんの件があるからな。」

「そうですよね。それでしたら、もしホワリさんが魔法を解いて下さるのであれば、僕とビアさんの2人であちらの世界へ向かうことも可能ですよ。」

「そうだな。」


 魔法を解くのは構わないけど⋯⋯ここで2人だけを行かせていいのだろうか。

 私はHDFの正体を知らないけれど、HDFの使うレガロや世界の事情は多少把握している。


 心を破壊され帰還した人が精神病院で検査を受けたり入院をしている。

 リハビリによって少しだけだが回復した人に話を聞いたことがある。


 フラッシュバックの発作を起こす前に頂いた情報だけになるが、それでも知っている事があるのなら、2人の手助けをすべきじゃないだろうか。


 2人を見送り、おじいさんの検査結果を聞いた後、もし2人が戻って来なかったら?

 わたしは着いて行かなかった事を絶対に後悔する。


 後悔はしたくない。


「わたしも⋯⋯一緒に行く。」

 

 2人はわたしの返答が意外だったようで、目を丸くしていた。


「来てくれるのは凄く有難い。だが、おじいさんの事はどうするんだ?」

「ホワリさんにとっておじいさんの検査結果を知る事の方が重要ではありませんか?」


 自分達が有益になる事より、わたしの事を尊重してくれるなんて⋯⋯


 2人の優しさに触れ、わたしがすべきは2人の手助けだと確信した。


「⋯⋯わたしは医者の娘。目の前に救える命があるなら、何がなんでもわたしはそれを救う。」


 おじいさんの事はもちろん気になる。

 3時間〜4時間後に確実に戻って来れるかなんて分からない。

 あっちの世界へ行ってしまったら、ここに戻って来れる保証もない。


 でも⋯⋯


「⋯⋯見捨てられない。2人の仲間が居なくなった上にこの招待状を見つけてしまったからには見捨てる事は出来ない。例え招待されたのが2人の仲間じゃなかったとしても⋯⋯誰かが招待されてる事に変わりはない。⋯⋯助けなきゃ。」


わたしの強い意志が2人にも伝わったようだった。


「分かった。それじゃあ、魔法の解除をお願いしてもいいか?」

「⋯⋯やってみる。ただ、魔法が解除される時間も有限だから⋯⋯。解除されたらすぐに手をカードにかざして。そして、一緒に「HappyDreamFantasia」って叫ぶの。噂だからそれで入れるか分からないけど⋯⋯できる?」

「あぁ。もちろん。」

「お任せ下さい。」


 2人の返事を聞き、わたしは早速解除に取り掛かった。


 持ち得る知識を捻り出し、初期魔法から特殊魔法、古代魔法等様々な解除魔法を唱えた。


 2人は静かにそれを見守る。


 しかし、厳重にかかった魔法なだけあり簡単に解くことが出来ない。


 組み合わせ⋯⋯なのだろうか。

 もしそうだとしたら時間が足りない。4時間じゃ解けないだろう。


 わたしは組み合わせではないことを祈りながら、なかなか知られていないような魔法を必死に唱えた。


 すると、突然カードがキラキラと輝き出した。


 古代魔法の中でも特に古い魔法。魔法書には乗っていない、学校でも教えてもらえない解除魔法。

 これを唱え始めた瞬間だった。


 これは当たりかもしれない。


 解除魔法を最後まで唱えると、カードから光が放たれた。


 それは初め天高くまで光を放ったが、少しずつ弱まってきていた。


 すぐさまわたしが手をかざすと、2人も手を重ねた。

 わたしの目を見て頷いた2人。


 すぅ⋯⋯


 わたしが息を吸い込むと、2人もタイミングを合わせ叫んだ。


「「「HappyDreamFantasia!!」」」


 とても眩しい光が放たれる。

 わたしは咄嗟に目を閉じた。


 そして、目を開けた時には遊園地に辿り着いていた。


「無事に来れたな。」

「そのようですね。」


 無事に辿り着けたのを確認した私は安堵した。しかし、一息つく暇などない。


「⋯⋯ここにはいくつかのアトラクションがある。その中の、ミラールーム・巨大迷路・劇場の3つがHDFのメイン拠点になってる。」

「周りにある建物だな。」

「⋯⋯うん。」


 わたし達から見えるもの。

 大きな観覧車、メリーゴーランド、ジェットコースター、小さな売店、そして3つの建物。

 3つの建物が拠点で間違いないだろう。

 1つだけ少し奥まった場所に立っているが、どの建物もほとんど同じくらいの距離に位置している。

 


「それでは早速建物に向かった方が良さそうですね。誰がどこへ向かいましょうか?」

「そうだな⋯⋯。俺達それぞれに合った施設が分かればそれに向かうのが1番効率が良いんだが⋯⋯。」

「それなら。」


 食い気味に反応したわたしを見る2人。

 わたしはそれぞれの建物にいるであろう人がどんなレガロを使うのかを何となく知っている。


 わたしが特性を説明すると、それぞれがどんな能力を使えるかと自分が合うであろう施設を提案してきた。

 2人が言うなら、きっとそれで間違いない。

 

「じゃあ、華紫亜はミラールーム⋯⋯ビアは巨大迷路へ。⋯⋯わたしは、あの劇場に行く。⋯⋯絶対に⋯⋯絶対に、生きて会おう。」


 わたしの言葉に2人は頷いた。


「承知致しました。」

「健闘を祈る。」


 わたし達はすぐにそれぞれの建物へ向かった。


 まだ間に合うといいけれど⋯⋯






「⋯⋯おかしいわ。ご招待していないお客様が来ているみたい。」

「あれ、ホワリだよね。招待状の解読に成功したんだね。」

「今まで見つからずに過ごしてたのに⋯⋯ガーディアンを巻き込んだのがいけなかったの?」

「大丈夫だよ、アリシャ。ここでは俺達がルールだ。途中参加のお客さんが来ても、やることは変わらない。」

「⋯⋯ここは私達の世界。誰にも邪魔させたりしないわ。」

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