使命感
「ハムニカホーリー!!」
「ユウリリアント!」
魔法の街「マジック」についてからというものの、そこら中で聞こえる魔法を詠唱する声。
魔法陣が空中や壁、地面に現れるとそこから様々な物が出たり入ったりしていた。
お腹がすいていた俺達は近くにあった定食屋に入店した。どこのお店も混んでいたため、1番手前にあった店を選んだ。
お店の店員達は魔法で物を操ったりご飯を作っているようだった。
厨房に1人、ホールに2人しかいない店だが、回転がとても早い。
この街の店が繁盛しているのも回転の速さが関係していそうだ。
「すごいね⋯⋯。」
「さすがマジックだな。」
マジックは女性も多く存在している街のため、ヒショウは俺の後ろに隠れながらも興味津々で辺りを見渡していた。
俺達はご飯を食べ終えると、早速聞き込みを始めることにした。
「ルナール」ではそれぞれグループに分かれて捜索をしたが、今回はそこら中にある魔方陣や道に迷いそうな街であるという点から全員揃って捜索を開始することにした。
捜索を開始して数十分が経過した。
俺達は良い情報を全く得られなかった。
街の人達はガーディアンが誰なのかハッキリと知らない人の方が多かった。
聞いたところによると、医者や警察等の地位の高い仕事に就いているため暗殺等の対象にならないようにするため誰がガーディアンなのか公開されていないのではないかという意見が多かった。
「くっそー!誰がガーディアンなんだよ!」
「こんなに手こずるとは思わなかったな。」
俺達の中にも疲れが見え始めた時、ランドが動いた。
「⋯⋯あいつらに聞いてくる。」
そう言い行ったのはなんと幼い少年達のところだった。
「⋯⋯あいつ何してんだ?」
椰鶴がランドの様子に疑問を抱き呟いた。
「いちばんつよいひとぉ?」
「おれじゃん!」
「ちがうでしょっ。」
子ども達の大きな声が聞こえてきたため、ランドが何を聞いたのかが一瞬で把握出来た。
まさか子どもにガーディアンの情報を聞くとは⋯⋯。
予想だにしなかった事態に、少しの不安が頭をよぎる。
もちろん信頼していない訳では無い。ただ、実際に子どもと関わる姿を見るのは初めてということもあり、気が気でなかった。
そんな俺達の様子を見て華紫亜が笑った。
「皆さん、ご心配なさらなくても問題ございませんよ。ランドは、皆さんが考えている以上にお子様と関わることが上手ですから。」
想像できない姿に頭を悩ませていると、1人の少年が笑顔をうかべた。
「ぼくがーでぃあんってひとしってるよ。」
「そうか。名前分かるか?」
「まほーだいいちびょーいんのおいしゃさんのむすめだよ。」
「そうそう!びょういんのひと!!」
「へぇ。第一病院ね。教えてくれてありがとな。」
「だいじょうぶだよ〜。」
「おにいさんがんばってね。」
「ありがとう。そうだ。これやるよ。」
「え!いいの!?」
「教えてもらったんだ。お礼が必要だろ。」
「うわぁい!やったぁ!」
「おにいさんいいひと!」
「ありがとうおにいさん!」
「こっちこそありがとな。」
子ども達はランドにお礼を言うと、飴を舐めながらどこかへ走って行ってしまった。
目の前で起きた状況を飲み込めずにいる俺達に対し、平然とした表情でこちらに向かってくるランド。
ランドは俺達の異様な雰囲気に顔をしかめた。
「⋯⋯なんかあったか?」
「い、いや。何も無い。」
「そうそうそう!!!子どもから聞き出せるなんてスゲーなって思ってただけだ!」
「⋯⋯ふーん。」
真意を探ろうとしているランドを見た俺は、すぐに話題を変えた。
「ところでランド。子ども達から良い情報は聞き出せたのか?」
「あぁ。あいつら曰く。魔法第一病院の医者の娘がガーディアンらしい。」
「本当にその情報合ってんのか?」
グレイは子どもの言うことだから間違ってるのではと心配しているらしい。
そんなグレイの思いを察したからか、鴇鮫が言った。
「大丈夫。その情報間違ってないみたいだよ。」
「⋯⋯マジで?」
「うん。確実だから安心して。」
そう微笑む百目の鴇鮫の発言は、真実を伝えてくれているようだった。
「それより、よく子どもに聞き出そうと思ったわね。」
ミオラの言葉に大きく頷く吉歌。
「何であの子達だったにゃ?ランドが声掛けたのはあの子達だけにゃよね?」
そう。ランドはあの子達に声をかけるまでの間、1度も街の人に声をかけなかった。
後ろをついて歩いているだけだったランドが、何故子どもに声をかけたのか。しかも、1発で情報を聞き出せたのかが不思議で仕方がなかった。
しかし、ランドの答えに俺は納得することになった。
「匂いだ。」
「⋯⋯匂いにゃ?」
「あぁ。あの子どもからは、そこら辺を歩いている大人よりも強い匂いがした。良い所の育ちでいい教育を受けてるのか、それとも知能指数の高さが尋常じゃないかのどちらかだろうが⋯⋯。とにかくあの子どもなら確実に情報を掴んでるって感じたから声を掛けただけだ。」
ランロークの溜まり場にいた時、ランドから感情を匂いで判断できるという話を聞いていた。
感情の強さでそこまで判断できる事に俺は驚いたが、それ以上に自分達の予想を上回る回答を聞いた吉歌達は興奮を隠せていないようだった。
ランドの凄さを改めて感じながらも、俺達は早速子ども達に教えてもらった魔法第一病院へと向かった。
「それじゃあ中へ入ろうと思う。ただ、病院だからこの人数が一斉に入ると患者さん達に迷惑がかかる。ここは、俺と⋯⋯そうだな。華紫亜、一緒に行ってくれるか?」
「はい、もちろんですよ。」
俺は、礼儀正しく万人受けしそうな華紫亜を連れて院内に入ることにした。
「第一病院のお医者様の娘さんという話でしたよね?」
「あぁ。そうらしい。」
「お医者様の名前までは教えていただけておりませんから、少し時間がかかる可能性がございますね。」
「そうだな。」
とても大きな病院のため、相当な数の医者がいることが考えられる。
娘のいる医者は果たして何人いるのだろうか。
考えれば考える程重い気持ちになるが、気を引き締めていかなければならない。
外で待っている仲間達のためにもこの国のためにも、できるだけ早く娘さんを探さなければならない。
俺と華紫亜は受付に行き看護師に事情を説明した。
「娘のいるお医者様ですか?それだったらリズ先生ですね。」
「えっと⋯⋯他の先生方は?」
特定して名前を出してきたため俺達は顔を見合わせてしまった。
「たまたまですが、他のお医者様達は皆さん独身かお子様がいても息子さんでして、お子様が娘さんなのはリズ先生だけなんです。あ、リズ先生は本日2階の外科1にいらっしゃいますよ。事情は伝えておきますのでそのまま外科1の部屋に向かってください。」
「お手数おかけ致します。」
「よろしくお願いします。」
俺達は看護師が教えてくれた部屋へ早速向かった。
「娘さんのいるお医者様がたった1人だなんて⋯⋯こんなにも広い病院ですから信じ難いですが、それが本当なのであればとても運が良いですね。」
「そうだな。見つけやすくて助かった。」
華紫亜の言う通り、この病院はかなり広い。
そんな中で娘がいる医者がたった一人だなんて、奇跡としか言いようがなかった。
コンコンコンッ
「失礼します。」
外科1に到着したため早速扉を開けると、美しい女性の外科医がいた。
「あら。他の街の子が来るなんて珍しいわ。話は聞いていたけど他の街の子達だったのね。」
おしとやかなリズ先生は俺達を見てからずっとニコニコしていた。
「ほら、中へ入って。この椅子も貸してあげるから2人共座りなさい。」
リズ先生が魔方陣を地面に出現させると、中から椅子がゆっくりと出てきた。
「すみません。わざわざ椅子まで出していただきありがとうございます。」
「いいのよ。患者ではないけれど私に会いに来たお客さんに変わりはないですもの。お客さんは大切にしないとね。」
俺達が椅子に腰掛けると、リズ先生から話を切り出してきた。
「話があるって看護師から聞いたけれど、何かあったのかしら?」
俺と華紫亜はオスクリタの件について説明し、娘さんの力を借りたいことを伝えた。
「へぇ。それは凄く良い経験になるわね。是非ホワリを連れて行ってあげてちょうだい。ホワリはこの時間地下1階にいると思う。見つけたら連れて行って構わないわ。あの子、他人に警戒心を抱きやすい子だから最初は面倒かもしれないけれど、慣れれば人懐っこい子だから。ホワリのことをよろしくね。」
忙しい時間にこんなにも丁寧に対応してもらえると思わなかった為、俺達は時間を作って頂いたことへのお礼を伝えるとすぐに部屋を出た。
地下1階へはエスカレーターでは行く事が出来なかったため、職員用のエレベーターをお借りし地下へと向かった。
やっぱり病院の地下なだけありとても薄暗く不気味な雰囲気が漂っている。
すると、華紫亜が急に立ち止まった。
「なにか聞こえませんか?」
狐だからとても耳がいい。
しかし俺も吸血鬼⋯⋯コウモリだ。基本的に小さな音でも聞き取れる。
「あぁ、聞こえるな。人の声だろう。」
「ホワリさんかもしれません。行ってみましょう。」
声の聞こえる方へ恐る恐る進んで行った。
かなり奥まで来ると光が漏れ出ている部屋を見つけた。
「アニファルサンニカイルラン⋯⋯。」
部屋の近くで耳を済ませると、その部屋からは魔術を唱えている女の子の声が聞こえてきた。
「ここの部屋で間違いなさそうですね。」
「そうだな。開けてみよう。」
俺は扉を押した。
ギィ⋯⋯
重い扉は、軋む音共にゆっくりと開いた。
中を覗くと、壁一面の棚に所狭しと瓶が並んでいるのが視界に入った。
中央では黒ずくめの女の子が踏み台に乗りながら大きなナベで何かをかき混ぜていた。
黒いローブから覗く白く綺麗な長い髪に大きなナベの中にある何かの色が反射し、キラキラと虹色に輝いていた。
女の子はこちらに気がついたようで、扉の方を振り向いた。
「⋯⋯誰?」
こちらを見つめる大きな水色の瞳とその姿から、とても幼い少女のように見えた。
「突然訪ねてしまい申し訳ございません。俺は吸血鬼のビアです。そしてこっちが狐の華紫亜です。」
俺が紹介をすると、華紫亜は丁寧にお辞儀をした。
「俺達は国王のファニアス様の命令でここへ来ました。」
オスクリタのことも、力を借りたいことも全て伝え終えた。
「⋯⋯ファニアス様?それ⋯⋯本当?」
「あぁ。本当だ。」
すると、女の子⋯⋯ホワリは考えこんだあとに言った。
「⋯⋯ここに来ることができたってことは、お母様と会ったんでしょ⋯⋯?」
「はい。お会いしてからお邪魔させて頂きました。」
「⋯⋯了承したんだ⋯⋯。」
ホワリは小さな声で呟いた。
そして、顔を上げたホワリは突然謝罪をしてきた。
「⋯⋯ごめんなさい。」
「ごめんなさい?」
「⋯⋯ファニアス様の命令なのは分かった。オスクリタと戦うのも⋯⋯分かった。⋯⋯お母様も承諾したってことも分かった。でも⋯⋯。」
そう言いホワリはかき混ぜていた鍋をチラッと見た。
「わたしには、やらなきゃいけないことがある⋯⋯。だから⋯⋯もしもわたしを連れていきたいなら、それが終わるまでの間待っていてほしい⋯⋯。医者の娘として⋯⋯途中で投げ出せないことがある。」
真っ直ぐな眼差しで俺の目を見てきたため、俺はその「やらねばならぬこと」を待つことを承諾した。
「少しだけ時間がかかるかもしれないけれど⋯⋯待っていてくれるなら⋯⋯これが終わったら必ず協力するから⋯⋯。」




