月
溜まり場のメインホールに戻ってきた俺達。
戻ってくるなり、メリゴとカンラだけでなく幹部達総出で感謝を告げられた。
「俺達は何もしてない。ただそこに居ただけで何も出来なかったからな。感謝されてはいけない。寧ろ俺達が感謝をしなければならない。」
「ビアの言う通りよ。私達は貴方達に感謝をする立場だから。それに、協力出来たのは華紫亜くらいよ。もし感謝を伝えたいのなら華紫亜だけでいいわ。」
「滅相も御座いません。僕は何の役にも立ってはおりませんから。ビアさんとミオラさんの仰る通りです。皆さんのおかげで、ランドは僕達の仲間に入ろうと決意をしてくれた。皆さんには頭が上がりません。心より感謝申し上げます。」
丁寧に頭を下げ感謝を告げた華紫亜に続いて俺達も頭を下げると、ランドが頭を下げた時のように幹部達は狼狽えた。
お互いに頭を下げ合う状況がツボに入ったらしい和倉が吹き出すと、その場は和やかな雰囲気に包まれた。
そして、後からそこへ合流してきたランドはその雰囲気に首を傾げていた。
その後ランドに促された俺達はソファーに座った。
ランドに何かを耳打ちされたメリゴとカンラは俺達が座ったのを見届けるとどこかへ行ってしまった。
「そういや、名前聞いてないな。俺はランド。ランロークの総長をしている。」
「俺はビア。「ヴァンパイア」のガーディアンだ。」
「「クラルテ」でガーディアンをしてるヒショウです!」
「フランケンのグレイ。「スティッチ」のガーディアンだ!よろしく!」
「私はミオラよ。見ての通りメデューサ。「サーペント」でガーディアンをしてるわ。」
「吉歌にゃ!「ガット」のガーディアンにゃ!」
「椿。「ネーヴェ」でガーディアンをしてる。牡丹の双子の兄だ。」
「牡丹です。お兄様と一緒にガーディアンをしています。私達は雪男と雪女です。」
「俺は「オープス」のガーディアン、鴇鮫だよ。よろしくね。」
「和倉だ!「オーガ」でガーディアンをやってる!よろしくな!!」
「椰鶴。「ロージ」のガーディアン。」
ランドの知り合いの華紫亜以外全員が自己紹介を終えると、丁度席を外していたメリゴとカンラが全員分の温かいお茶とお茶菓子を準備し戻ってきた。
2人はそれを配り終えランドの隣に腰をかけた。
「もうこんな時間だし、出発するなら明日がいいだろ。今日は泊まって行け。」
「⋯⋯だが、そんなに長居したら迷惑だろ?」
確かにもういい時間だ。宿探しのことを考えるととても有難い提案だが、この人数だ。流石に迷惑をかけてしまうだろう。
そう考えていたのは俺だけではなかったようだ。
しかし、考え込む俺達を見た3人は笑った。
「全く迷惑じゃないっすよ!」
「泊まって頂けたら嬉しいです。」
「それに、泊まらないって言われたらアイツらが悲しむ。」
ランドは目線を俺達の後ろへ移動させた。
「全力でもてなしたいらしい。」
振り返ると、扉の先には笑顔で野菜や調理器具、掃除用具を持つランロークの面々が居た。
その様子に俺達は笑いが止まらなかった。
「そうか。それじゃあ、よろしく頼む。」
「うぉっしゃーー!!宴だー!」
「ガーディアン様をもてなすぞー!」
「「おーーー!!」」
ランロークの面々は声を張り上げると、慌ただしく動き始めた。
「準備が出来るまでここで待ってろ。出来たら声をかけに来る。」
ランドはそれだけ言うと、メリゴとカンラを引き連れてメインホールを出て行った。
数十分後、ランドに呼ばれた俺達はランドの後に続いてメインホールを出ると廊下を出た先にある部屋へと向かった。
ランドが扉を開けると、賑やかな部屋の中には豪勢な食事が並んでいた。
立食形式で自由に食べられるようになっていた。
「お疲れ様です!」
「たくさん食べていってくださいね。」
メリゴとカンラのお出迎えの元中へ入った俺達は、早速それぞれが好きな食べ物の置いてあるテーブルへ移動し食事を始めた。
俺も何か食べるとするか。
近くにあったテーブルに置いてあるサラダを、トングを使用し小皿に半分程盛り付けた。
それを持つと部屋の端にあるバーカウンターへと移動した。
バーカウンターにはドリンクコーナーが設置されていた。
「ブラッディ・メアリーを1つ。」
「お任せあれ!」
バーカウンターにいた幹部はとても手際が良く、ドリンクを作るのに慣れているようだった。
「お待たせしましたっス!味は保証するッスよ!」
自信たっぷりの笑顔の幹部。
俺は椅子に腰をかけ、サラダをカウンターテーブルに置くと早速ドリンクに口をつけた。
「⋯⋯うん。美味しい。」
「吸血鬼さんにそう言って頂けて光栄っス!!」
そう言い照れながら笑う幹部。
こんなに美味しいカクテルは初めてだ。
「こいつのカクテルは美味いと評判なんだ。」
声のする方を見るといつの間にか隣にはランドが立っていた。
「隣いいか?」
「あぁ、もちろん。」
ランドは俺に対し軽く会釈をすると、幹部に注文をした。
「コーヒーくれるか?」
「もちろんっス!てかもうすぐ出せるよう準備してあるっス!」
幹部はカウンターにあるコーヒーメーカーを使用しすぐにコーヒーをランドの前へ置いた。
「みんなドリンク取りに来たっスから、一旦俺も食事取りに行ってくるっス!オカワリ等要望あったら呼んでくださいっス!」
そう言うと、幹部は食事のあるテーブルの方へかけて行った。
「アイツの両親がバーを経営してる。アイツも小さい頃から両親の仕事を見てカクテル作りにハマったらしくてな。趣味の一環って言って無償で俺達に作ってくれてんだ。そこら辺のカフェより美味いから金払うって言ってんだけど、趣味にお金を払って貰う訳にはいかないって聞かなくてな。アイツにとってはただの趣味かもしれねーが、俺達にとっては十分すげー能力なんだが。」
そう微笑みながら、ランドは舎弟達と仲良く食事をしている幹部の後ろ姿を眺めている。
「確かに、これを無償提供される側も気が引けるレベルだ。」
「だろ。」
ランドは自分の事のようにニヤッと笑った。
あぁ、そうか。
ランドが幹部や舎弟達から愛されているのは、ランド自身がランローク全体を愛しているからなんだな。
幹部達のランドへの深く大きい愛の理由に納得がいった。
そういえば⋯⋯
「ランロークはいつもこんなに賑やかなのか?」
「いや、そんなことはない。」
ランドは窓の外を見上げた。
「今日は満月だろ?俺達ランロークはディアヴォルクと違って元が狼男の奴らがほとんどだから、満月の日は気持ちが昂るんだ。」
「満月か⋯⋯。満月の日は狼男に変身してしまうという昔話を読んだことがあるがそういう訳ではないんだな。」
「確かに、満月の夜に狼男や狼に変身する題材の本があるが、それはほぼ作り話だな。狼の霊が人間に憑依しやすい日ではあるが、俺達のように元から狼男や狼の奴はほとんど関係ない。だから影響力もそれくらいなんだろ。」
街の人から好かれている組とはいえ、街でトップのイブルツェルグループであることに変わりはない。
イブルツェルにしてはやたら賑やかすぎると思っていたが、満月の影響もあるのかもしれないな。
ガーディアン達と仲が良さそうに駄べりながら盛り上がっているランロークの様子に納得がいった。
微笑ましい様子に見入っていた俺だったが⋯⋯
「なぁビア。何か聞きたいことでもあるのか?」
突然のランドの言葉に俺は固まった。
確かに聞きたいことはあった。
だが、全くそういう素振りは見せていないはずだ。
なんでそう思ったんだ?
「なんで?って顔してるな。」
ランドは俺の気持ちをピンポイントで当てると口角を上げた。
「俺、狼男だろ?匂いとかで人の感情がほんの少しだけだが分かるんだ。苦しい、寂しい、幸せ、悩み、怒り⋯⋯その程度だけどな。今はうっすらと悩んでる匂いがした。濃い匂いだと悩み事だが、薄いから聞きたいことか質問だろうなって。」
「そんなことまで分かるのか⋯⋯。狼男って凄いな。」
「そう言われたのは初めてだ。」
質問がある事まで知られている状況だ。
それなら隠す必要も無い。堂々と聞ける。
「じゃあ早速質問いいか?」
「なんでもどうぞ。」
そう微笑むランドに、俺はヒールリーフとシールドについて聞くことにした。
「まず、ヒールリーフに関してだ。今、ヒールリーフの採れる森がオスクリタの支配下になった。それが原因で材料入手が困難になり高騰している。だが、メインホールから見えた倉庫には大量にヒールリーフが保管されていた。あれは全てランロークが購入した物なのか?そうだとしたらかなりの資金を持っているということになるが。」
「なるほど、流石ガーディアンだ。重症だったにも関わらずよく周りを見てる。確かに倉庫には数えきれない程のヒールリーフの瓶が保管されている。だが、あれは俺達ランロークが購入した物だけじゃない。街の住民から貰った物がほとんどだ。」
「貰った?」
ほとんどが貰い物だという事実に衝撃を受けた。
貰い物にしても量が多い。
「ヴォルフ」は街全体でかなりの資金を持ち得ているということなのだろうか。
ランドは俺の疑問に答えるように頷いた。
「あぁ。俺達が困ってたり助けを必要としている住民に手を貸すだろ?俺はガーディアンという使命を果たしているだけ。ランロークのメンバーもやりたいからやってるだけなんだが、俺達と関わった住民が『ランロークに使って欲しい』『ランロークの皆さんが持っていた方が有効的に使ってくれる』『これを持つべきはランロークだ』ってわざわざ送ってきてくれるんだ。ビアの言った通り高騰している物だし、貰うのも申し訳ないと持ち主に返そうとしたこともあるが、『ただの一般人にはそれくらいしか協力出来ないから貰ってほしい』って言われてな。そこまで言われたら受け取るしかないだろ?」
困ったように眉を下げ笑う。
「貴族の多い街の住民からならともかく「ヴォルフ」の住民から貰うのは気が引けるんだが。」
高騰した商品をわざわざ自分の為ではなくランロークの為だけに購入するなんて⋯⋯
「街全体からもランロークは愛されてるんだな。」
俺の言葉にランドの耳が一瞬ピクっと動いた。
「そうだと有難いな。」
そう言うランドの表情は困っている⋯⋯というよりも悲しそうに見えた。
ランロークはイブルツェルグループだ。
だからこそ、メリゴやカンラにああ言われたものの、ランドは自分やランロークが街から嫌われているかもしれないという思いを捨てきれていないのだろう。
何かランドに掛けてやれる言葉はないかと思考を巡らせていたが⋯⋯
「ビア。『まず』ってことは、まだ聞きたいことがあるんだろ?」
それよりも先にランドに図星をつかれてしまった。
もう1つの方は正直聞くかどうか迷っていたのだが、ここまで来たら聞くしかないな。
「そうだな。もう1つはシールドに関してだ。」
「やっぱりそうか。」
どんな質問がされるのかランドは想像がついていたらしい。
「ガーディアンならそこを付いてくるだろうと思った。イブルツェルである俺達がシールドを所持している事に違和感があるんだろ?それは当たり前だ。」
ランドはメリゴを呼ぶと、何かを持ってくるよう伝えた。
メリゴは直ぐにマークの入った分厚い封筒を持って戻ってきた。
その封筒とマークはもしかして⋯⋯
「ガーディアンであるビアならこれが何か分かるだろ?」
「そうだな。俺は団体を持たないから実際にそれを受け取ったことは無いが、そのマークと封筒に見覚えはある。」
「だよな。これを見れば今から話すことも信じてもらえるだろ?」
「話を聞いた上で疑うつもりはなかったが、それを出されたら疑いたくても疑えない。」
そう。その専門チームのマークの入った分厚い封筒こそ、国と魔法の街「マジック」が判断した団体である証だ。
そのマークは高度な魔術を使える者でさえ解くことが不可能な特殊魔法が掛けられている為、封筒に団体の長が触れるとマークが輝き封筒が開く仕掛けになっている。
そのため偽装は困難であり、偽装をしてもすぐにバレてしまうのだ。
「俺達ランロークはビア達の知る通りイブルツェルの集まりだ。だが、俺がガーディアンに選ばれてからは街を守るために動く事がほとんどだってことが国と「マジック」から認められてな。ある時これが送られてきたんだ。俺達は疑ったんだが、俺が触れたら特殊魔法が反応した。中に入った証明書も同じくマークが入っていた。これは信じるしかない。まぁ、認めて貰えたのなら有効に使おうって話になったんだ。」
「メリゴとカンラの話やランドがガーディアンである事実を踏まえたら、ランロークがシールドを持っていてもおかしくないな。」
「イブルツェルである以上、初めはどこかから奪ってきたって思われる事の方が多いがそれは仕方ない事だ。ビアには理解して貰えたようでよかった。」
華紫亜の知り合いといえど、正直かなり疑問に思っていた。
奪ってきた⋯⋯までは流石に思わなかったが、何故肩書きがイブルツェルの団体が持っているのか不思議だった。
証の封筒を実際にこの目で確かめた上でランドの話を聞くことができた事は本当に良かったと思う。
俺は証の封筒に描かれたマークをマジマジと見つめていた。
「ビア。別件だが⋯⋯。」
突然言いにくそうにしながら目を伏せたランド。
⋯⋯どうかしたのだろうか。
「今日は本当に申し訳なかった。誘いを断った挙句余計なことに巻き込んだ。」
ランドは椅子から立ち上がると、深々と頭を下げた。
そういえば、ランドから俺の隣に座りに来ていた。
座った後も仲間の話をしたり俺の話を聞くだけだった。
ランドから俺に何か用事があるのではと初めは思っていたが、そういうことだったのか。
「謝らなくていい。仲間を大切に思う気持ちは簡単に捨てられる物じゃないからな。」
「⋯⋯そうか。」
俺の言葉に頭を上げたものの視線が交わることはない。
まだ腑に落ちないところがあるようだ。
俺の言葉でランドの気を晴らせるかは分からないが⋯⋯
「俺達も仲間になったんだ。ランロークのメンバーには勝てないが、それくらい大切だと思ってもらえるように⋯⋯ランドがランロークを離れている間だけでも居心地がいいと思ってもらえるように俺達も努力する。だから、ランドも気負わずにいて欲しい。」
目線が合った。
ランドの不安そうな表情も少しばかり無くなっているように感じた。
「ありがとう。」
ランドが微笑む。柔らかい表情に変わった。
あんな事しか言葉をかけられなかったが、それでもランドを安心させることが出来たようだ。
そんなランドと俺の様子を少し離れた所から見ていた2人がいた。
2人は頷き合うと、タイミングを見計らっていたかのようにこちらへと近づいてきた。
「ランド。今少しだけ時間もらってもいい?」
「あぁ、双子の⋯⋯椿と牡丹だったな。なんだ?」
「さっきは牡丹達を助けてくれてありがとう。俺達じゃ太刀打ち出来なかった。本当にありがとう。」
「ありがとうございました。」
2人は深々とお辞儀をした。
「礼はいい。巻き込んだのは俺の方だ。寧ろ俺が謝らなきゃならねー。巻き込んで悪かった。」
ランドの謝罪が予想外だったらしい2人。
目を丸くし顔を見合せた。
「あの、謝ってもらいたかった訳じゃないんですよ。ランドさんやランロークの皆さんのせいではありません。たまたまあそこに居合わせてしまっただけですから。」
「俺達にとってランドは命の恩人だ。それは俺達2人だけじゃなく、ガーディアン全員が思ってる事だと思う。」
2人が俺の方を見てきた。
流石双子。息があっている。
「2人の言う通りだな。」
俺がその様子に笑いながら頷くと、2人も安心したように笑顔を見せた。
「そうか。ビア以外にもそう言ってもらえるとは思わなかった。ありがとな。」
「こちらこそ。」
「あっ、そうそう。私達、ランドさんにお聞きしたいこともあったんです。」
牡丹達も聞きたいことがあるのか。
シールドやヒールリーフについてでは無さそうだが⋯⋯。
「そうだった。ランド。何で俺と牡丹が兄と妹だって分かったんだ?」
「⋯⋯どういう事だ?」
意味が分からないといった表情のランド。
なるほど。何となく2人の言いたい事が分かった。
「俺がランロークの幹部達に運ばれる時、ランドは『大切な妹にも顔向けできないだろ?』って言ったよな。」
「それだけじゃありません。私を助けて下さった後も、『あんたの兄貴と約束したからな。』と言っていました。私はよく「お兄様」と呼んでいますが、ランドさんの前ではあの時まだ呼んでいなかったと思います。」
「牡丹が俺を呼ばない限り、大抵の人は血が繋がっているってこと、双子かもしれない程度は分かっても、確実に双子だと言い切ることもできなければ、どちらが年上なのかも判別出来ない。」
「それなのに私が妹だと分かった理由が知りたくて。」
ランドは、小さく「あー、なるほど。」と呟いた。
「2人ともよく似てるから、兄妹や姉弟というよりは双子なんだろうとは一目で分かった。椿が兄だと思ったのは匂いだ。狼は匂いで大体分かる。」
先程、匂いで俺の気持ちを当ててきたランド。
気持ちだけじゃなくそんな事まで分かるなんて、狼はやっぱり凄いな。
「匂いで判断できるなんて凄い能力だね。」
椿も俺と同じくランドの隠れた能力に感心しているようだ。
「まぁ、分かると言ってもほんの少しだけだ。そんなに凄くねーよ。」
謙遜⋯⋯というより、本気で自分の能力を大した事ないと思っている様子のランド。
そんなランドに牡丹は微笑んだ。
「ランドさんにとってはそうかもしれません。でも、兄と妹であることを当てられた私達にとっては素晴らしい能力に感じますよ。」
「それに、一発で双子だと見抜いたのも、よく似てると言われるのも今までほとんどなかった。観察力が鋭いんだな。羨ましいよ。」
双子の笑顔にランドは言い返せなくなったらしい。
「ふっ⋯⋯そうか。ありがとな。」
ランドは何か心苦しそうな表情をすることが多かった。
ランドなりに様々な思いがあったのだろう。
俺も、ランドがイブルツェルであるという事や、仲間になるのを拒んでいたことを考えるとみんなと上手くやって行けるか不安だった。
だが、そんなに思い悩むことはなかったようだ。
ランドの笑顔と2人の笑い声を聞き、打ち解けることが出来たようで俺は安堵した。
宴が終わると、俺達はランドに案内されそれぞれ男女別で部屋に通された。
2部屋借りた俺達は、昼間の疲れもありそれぞれがすぐに床に着いた。
体力的な疲れだけでなく今日起きた様々な出来事による精神的な疲れもあり、みんなすぐに寝てしまった。余程疲れたのだろう。
明日からは隣街である魔法の街「マジック」へと向かうことになる。
次に備え、ゆっくり休んでもらえればいいが。
なかなか寝付けない俺は、考え事をしながら窓辺に腰かけ涼んでいた。
「んー⋯⋯ビア?」
「あぁ、起こしちゃったか?」
窓際に敷かれた俺の布団の隣が鴇鮫の寝ている場所だ。
そこには、丁度月の光が差し込んでいた。
「そんな事ないよ。」
鴇鮫は体を起こすと俺をじっと見つめた。
「眠れないの?」
「元々夜行性だからな。」
「そっか。吸血鬼だもんね。」
納得した様子の鴇鮫。
鴇鮫は窓の外を少し眺めると、俺に視線を戻した。
「明日からまた忙しくなるし、ほどほどにね。眠れなくても布団に入ると身体が休まるから。ビアはこのチームのリーダーのような存在だから精神的にも疲れちゃうでしょ?ゆっくりしてね。」
リーダー⋯⋯か。
「そうだな。ありがとう。」
「うん。明日の事もあるし、俺は寝る事にするよ。それじゃあビア。おやすみ。」
「おやすみ、鴇鮫。」
俺と1つしか変わらないはずだが⋯⋯流石年上なだけあり侮れないな。
静かに眠りにつく鴇鮫を見届けた俺は、鴇鮫に言われた通り、カーテンを閉めると布団に潜った。
カーテンと窓の隙間からは、輝く月がこちらを覗いていた。
⋯⋯あぁ。月が綺麗だ。
次の日の早朝。
支度を終えた俺達は、ランドと共にメインホールにいた。
ランドはランローク全員がメインホールに集まったことを確認すると、ランローク全体に今後の話をしていた。
「以上だ。俺が言い残したことはない。後は全てお前達に任せた。」
「おぅ!頑張ってこいよ!」
「僕達、応援してるから。」
ランドは真剣な表情になるとメリゴの方を向いた。
「集団をまとめるのは簡単なことじゃねー。だが、お前ならできる。任せたぞ、メリゴ。」
「あぁ!!任せとけ!」
「カンラもメリゴの手助け、頼んだからな。」
「うん。もちろんだよ。」
「普段1人で全て解決してしまう」とこぼしていたメリゴとカンラ。
ランドに頼み事をされ2人は少し嬉しそうだった。
「それじゃあ、行ってくる。」
そう言うと、ランドは俺達の方を振り返った。
「ランド!!気をつけて行ってこいよ!!」
「無事に帰ってきてね。」
そんな2人の言葉に続けて幹部や舎弟達も声を張り上げた。
「お気をつけて!!」
「待ってますからー!!」
「頑張って下さいっス!!」
そんなメンバーを背に、ランドは「行くぞ。」と俺達に声をかけた。
俺達はランローク一同に礼をすると、ランドに続いて扉を出た。
「「ご武運を!!」」
扉の閉まる直前、ランローク一同の張り上げた声に、ランドは手を軽く挙げ応えた。
裏路地を抜けると朝靄のかかった住宅街へ出た。朝早いからかとても静かだ。
俺達は声を抑え話しているが、話し声が街中に響いているように感じた。
そんな中、後ろを歩いていた華紫亜が俺の隣を歩くランドに対し静かに話を始めた。
「ランド。貴方は素敵な仲間に恵まれましたね。メリゴさんも、カンラさんも、貴方のことをよく理解しておられました。先日貴方に再交渉に行かせて頂いた際、僕が貴方に食ってかかったでしょう?あれは、お2人の案なんです。お2人が仰っていました。『ランドはよく華紫亜くんの話をしています。「華紫亜くんには頭が上がらない。華紫亜くんは凄い人だ。」って何かある度に華紫亜くんのことを話すんです。それを聞いていれば、ランドが華紫亜くんをどれだけ大切に思っているか分かります。だからこそ、俺達だけで説得出来なかった場合、華紫亜くんに託したいんです。お願いできませんか?』って。その様にお願いをされてしまったら、その案を否定することなど不可能ですよね。」
「あいつら⋯⋯そんなこと⋯⋯。」
「素敵じゃないですか。自分を理解してくれる仲間がいるなんて。」
「羨ましいです」と呟く華紫亜。
その言葉は、前を歩いていた俺達だけじゃなく、ガーディアン全員に聞こえていたらしい。
「なんだなんだ!水臭いぞ!もう俺達は仲間だろ!」
「和倉の言う通りだ!まだ会って間もないが、同じ目標に向かってる仲間に変わりねー。これからお互いを理解していこうぜ!」
「2人の言う通りにゃ!ランドも華紫亜も吉歌達の大切な仲間にゃ!」
「出会ったばかりですし、まだ心から信頼し合う事は難しいかもしれないですが、少しずつお互いを理解して信頼し合える関係になれるといいですね。」
突然のみんなの言葉に驚いていた2人だったが、暖かい言葉が2人の心を解したようだ。
華紫亜が「ふふっ」と笑うと、それにつられるようにランドも口角を上げた。
「そうですね。これから共に歩む仲間ですからね。」
「俺達のことも信頼してもらえるように努力する。」