覚悟と真実
ランロークの面々に溜まり場へと運ばれて来た俺達。
傷だらけだった身体もランロークの幹部達によって回復し始めていた。
想像以上に幹部達は手際が良かった。
イブルツェルのトップということもあり、普段からの抗争で患者の対応に慣れているのかもしれない。
俺達の傷を癒すために使われたヒールリーフ。材料がなかなか手に入らないため、国で定められた商店でしか取り扱われていない価値の高い回復薬だ。
俺達の横に1人1瓶出してある上に、先程倉庫にもまだ瓶があるのが見えた。最近は高騰している商品だが、大量に手に入れることが可能な程金貨を持っているようだ。
そして、溜まり場の前と内側に展開されたシールド。このシールドは、魔法の街「マジック」のガーディアンが率いた専門チームが作っている物だ。これは国とマジックが判断した団体にのみ配られている非売品だ。
イブルツェルであるランロークに対し、国が配布を決断するようには思えないが⋯⋯。
それとも、ガーディアンであるランドがいるから別枠なのだろうか。
様々なことが気になりだした俺は、思考を巡らせることができる程回復してきているようだ。
周りを見渡してみると、ガーディアン全員、少しずつ回復して来ている様子が見て取れた。
シールドの件はどうあれ、ここまで回復させてくれているランロークに対し、俺達全員が動けるようになったら感謝をしなければならないな。
回復後について考えていると、いつの間にかシールドの張られた扉の向こうが静まり返っていた。
そして数分後、突然シールドが消えると扉が開かれた。
一瞬身構えるランロークだったが、扉の先にいる者を見て安堵しているようだった。
「ご苦労様です!ランドさん!」
「華紫亜くん達の様子は?」
「こちらの回復も順調です!」
「⋯⋯よかった。」
俺達の様子を見ると、ランドは緊張の糸が切れたかのように頬が緩んだ。
「お兄様!!」
「⋯⋯っ!!牡丹!」
その後ろから現れた牡丹達。怪我もなく無事のようだ。
ランドが椿と交わした約束は果たされたようだ。
体を起こした椿に駆け寄った牡丹は椿を優しく抱きしめた。
牡丹を抱きしめ返した椿は目線をランドに移した。
「ランド、牡丹達を守ってくれてありがとう。」
「約束したからな。」
約束を確実に守るのは流石総長といったところだろうか。
「もう動けるようになったの?」
「あぁ。戦闘はまだ難しいが、普通に生活する分には問題ないだろう。」
「そう。それは良かったわね。」
立ち上がる俺を見てミオラは胸を撫で下ろしたようだ。
「今すぐにでもガーディアンを探しに行けるぞ!!」
「ここまで回復させてもらえたからね。」
グレイと鴇鮫の言葉に頷く椿・ヒショウ・和倉・椰鶴。
ランドはそれを聞き逃さなかった。
「いや、それはやめろ。」
「なんでだ?俺達すっげー元気だぜ?」
その場で飛び跳ねる和倉。
ランドが「はぁ⋯⋯」とため息をつくと、華紫亜が笑った。
「確かに身体は動くでしょう。ですがそれは身体機能を元に戻したからです。ヒールリーフは身体機能の回復と治癒に特化した治療薬となっております。しかし、体力回復効果は商店で売られている治癒薬とさほど変わりません。従って、僕達の体力はまだ半分も回復していませんよ。」
「マジか⋯⋯」と呟いた残念そうに肩を落とす和倉。心做しか息切れしている。
少し飛び跳ねていただけなのに息切れするとは、やはり体力は万全ではないということだろう。
「流石華紫亜。何でも知ってるんだな。」
「いえ、大した知識ではないですから。」
そう謙遜する華紫亜。
生徒会長と言ってもただ学力のある生徒会長という訳ではないらしい。
博識の華紫亜がいるのは今後を考えると有難いことだ。
「今すぐ旅に出るのは身体が持たないから休んでいけ」とランドが提案してくれた為、その言葉に甘えて俺達は少し休憩することにした。
多少動けるようになった俺達は、幹部達の誘導でソファーに座り談笑していた。
「ランドのレガロ凄かったにゃよ!!皆にも見て欲しかったにゃ!!」
俺達が休んでいる間のシールド外で起きていたことを細かく説明してくれるミオラ達。
吉歌はランドのレガロが気に入ったようで、終始褒め称えていた。
「どう凄かったんだ?」
「月がバンッ!!て出て、ピカッ!!て光って、眩しいにゃ!!って目をギュッてしたらいつの間にかディアヴォルク全員元の姿に戻ってたにゃ!!」
「バンッ、ピカッ、ギュッだったんだな!!それは凄いな!!」
「和倉、そうだけどそうじゃねーだろ。」
「んえ?違うのか?」
「凄いのは元の姿に戻ったって所だろ。それ以外はただの一発芸だ。」
「一発芸なのか!」
「一発芸じゃないにゃ!!吉歌は至って真剣にゃ!!椰鶴は辛辣すぎるにゃあ!!」
ぷんぷんと怒る吉歌を呆れた目で見る椰鶴。
椰鶴の性格を考えると、きっとその言葉も表情も1ミリも悪気はなく心からの物なんだろうな。
そういえば、元の姿に戻ったって言ってたが⋯⋯
「元の姿というと狼男か?」
「それが違うにゃ。なんと狼さんだったにゃ!!可愛い可愛い狼さんに戻っちゃったから、諦めて逃げてったにゃ!」
ここは「ヴォルフ」。狼の街だ。
狼の街だからこそ狼男とは限らないのか。
それに、元の姿に戻ってしまうということは魔力が消えたってことだよな?
「それじゃあ、魔力が無くなったっていうことかな?」
「そーいうことにゃ!!」
やはりそうだったか。同じことを考えていたらしい鴇鮫の言葉で納得がいった。
例え一時的な物だったとしても、魔力を奪い取れるというのはかなり役立つレガロだ。
そんなレガロを目の前で見たら誰だって興奮するだろう。
ランドを引き入れたい気持ちがますます強くなっていく。
強力なレガロ持ちのガーディアンには是非とも仲間になってもらいたい所だが、1度断りを受け入れてしまった反面こちらから再度お願いするのも躊躇してしまう。
やはり受け入れるべきでは無かったか⋯⋯?
後悔の念に狩られていると、視界の端に幹部2人が入ってきた。
「お話中にすみません。お茶、良かったら飲んでください。」
「出すの遅くなってしまってすんません!」
「いえ、お構いなく。」
全員分のお茶を運んできたのは、ここに訪れた時に初めて声をかけてきた⋯⋯先程の戦いの際にランドからヒールリーフの使用とシールドの展開を任された2人だった。
2人はテーブルにお茶を並べ終えると、テーブルを挟んだ向かい側に片膝をついてしゃがんだ。
「ご挨拶が遅れてしまってすみません。ランロークで幹部をしているカンラです。」
「ランロークの副総長、メリゴです!よろしくお願いしまっす!!」
「あ、あぁ。よろしく。俺は「ヴァンパイア」でガーディアンをしているビアだ。」
落ち着いているカンラと、覇気のあるメリゴ。
正反対の2人の突然の挨拶に驚きを隠せない俺達だったが、俺が挨拶を返すとみんなも自己紹介を続けた。
一通り自己紹介を聞き終えると、カンラとメリゴは目配せをし話を始めた。
「休憩中でしたのに突然すみません。実は、僕とメリゴから皆様にお願いがあるのですが、聞いてくださいませんか?」
「叶えてくれなくたって構わない!!ただ、俺達ランロークの気持ちを知っておいて欲しいんだ!お願いします!」
メリゴが勢いよく頭を下げると、続けてカンラも頭を下げた。
そんな真剣な2人の様子に俺達は顔を見合せた。
「内容によっては俺達の力不足で叶えられないこともあるかもしれないが、できるだけ力になれればと思う。是非話して欲しい。」
俺の言葉を聞いた2人の表情は凄く嬉しそうだった。
「マジっすか!!!ありがとうございます!!」
「貴重な時間を割いて下さりありがとうございます。それでは本題ですが⋯⋯。」
口を閉ざしてしまったカンラ。迷いがあるように見える。
それを隣で見ていたメリゴがカンラの肩に手を乗せ笑った。
メリゴの笑顔を見たからか、カンラも微笑むと改めて真剣な表情になり口を開いた。
「ランドを皆様の仲間に加えてくれませんか?」
「⋯⋯え?」
「お、俺達断られたんだぞ?」
「グレイの言う通りにゃ⋯⋯。」
「先程のランドの様子では、その提案は厳しいかと僕は思いますが⋯⋯。」
想像もしていなかった内容に言葉を失った。
そんな様子の俺達に対し、俺達の反応が予定通りだったのか表情一つ変えずにカンラは話を続けた。
「ランドはランロークの総長であり、「ヴォルフ」のガーディアンでもあります。「ヴォルフ」の中でオスクリタに対抗できる力を持ってるのは正直な所ランドくらいなんです。」
「だからこそ、オスクリタに挑むのはランドに行って欲しいんです!もちろんランロークの総長に行って欲しいっていう個人的な理由も少しばかりあるけど、それ以上にランドにしかできないことだから諦めて欲しくないんです!!」
「「お願いします!」」
立ち上がると再び深く頭を下げる2人。
2人の強い気持ちはヒシヒシと伝わってきた。
もちろん、ランドが加わってくれるというならそれは有難い話だ。
だが⋯⋯
「⋯⋯溜まり場はどうするんだ?それに、ランドが言ってた街の人々からの信頼に関しては?」
そんな俺の質問も予想していたのだろう。
メリゴもカンラもたじろぐことは無かった。
「溜まり場は、俺とカンラでまとめる。伊達にランドの隣に何年もいねーからな。」
「信頼に関しても問題ありません。それらに関しては俺達が説得します。なのでどうか、」
「「よろしくお願いします!」」
3回目の深々としたお辞儀。2人は静かに頭を下げ続けた。
イブルツェルの幹部が一般人へ頭を下げるなど前代未聞だろう。
それなのに繰り返し頭を下げた。
それ程2人にとってのランドは大きい存在なのだろう。
そこまで何度も頭を下げられているのにそれでも断るなんて事はできない。
それに⋯⋯
「ランドが俺達の仲間として国を守ってくれるというのは有難い話だ。是非仲間に加わってもらいたい。」
「マジっすか!!」
「ありがとうございます!」
先程までの真剣な表情と打って変わって笑顔を見せる2人。
「ただ、そうするには君達2人の力が必要だ。会ったばかりの俺達よりも、一緒に過ごしてきた君達の言葉が1番ランドの心に届くだろう。2人に頼ることになるがそれでも大丈夫か?」
2人はふふっと笑い目配せをすると揃って言った。
「もちろんです。」
「もちろん!!」
俺達は2人に連れられ、別室にいるランドの元へ向かった。
「この扉の先にランドがいます。手筈通りにお願い致します。」
「あぁ。分かった。」
コンコンコンッ
「ランド!入っていいか?カンラも一緒だ!」
「あぁ。」
扉の奥から聞こえてくるランドの声。
メリゴは扉を押し開けた。
「入るぞー!」
「失礼するよ。」
まず2人が先に中へ入った。俺達は呼ばれるまで外で待機だ。
「何の用だ。」
「あのさ、俺達から話があるから聞いて欲しいんだ。」
「話?⋯⋯構わねーけど。」
「ありがとう。それと、話があるのは僕達だけじゃないんだ。ここに入れてもいいかな?」
「⋯⋯⋯⋯好きにしろ。」
声を聞く限りとても乗り気では無さそうだが、2人からのお願いだからか少しの間の後許可を得ることができた。
「入ってきて下さい。」
カンラの声を聞き俺は扉を開けた。
扉の先にいたのが俺達で予想外だったらしい。
ランドは訝しげな表情を浮かべた。
「お前らが俺に何の用だ。俺とお前らが関わる必要は一切ないはずだが?」
ランドは俺達と心底関わりたくないようだ。
冷たい言葉が俺達に突き刺さる。
「ランド。ビアさん達の事は悪く言わないで欲しい。俺達が呼んだんだ。」
「メリゴ達が?何故?」
メリゴ達に対するランドの声も一段と低くなり、室内はピリピリとした雰囲気に包まれ始めた。
誰かの息を飲む音が響いた。
メリゴは手に力を込めギュッと握りしめた。
「俺は⋯⋯ランロークの総長であり「ヴォルフ」のガーディアンであるランドに、この街の代表として、ビアさん達と一緒に国を守って欲しいんだ。」
「⋯⋯俺は断ったはずだが。」
「確かにランドは断ったよ。でも、メリゴと僕はまだ諦めきれてない。僕もメリゴと同じ気持ちだよ。」
深いため息をつくランド。
空気がとても重く感じる。
「ランロークは誰が指揮る?街の人々の事は誰が守る?またディアヴォルクが攻めてくるかもしれない。ディアヴォルクだけじゃなく、アイツらの傘下が手を組んで来るかもしれない。団体で来れられた時、誰がこの溜まり場を守るんだ?」
ランドの全てを射抜くような睨みにも2人は怖気付くことなく話を続けた。
「ランドがいない間、俺がここを指揮る。」
「⋯⋯。」
「俺だってここの副総長だ。いつもランドの傍で全てを見てきた。俺にならランドの代わりを務められる。そりゃあランドレベルの統率力はないし、ランドほど上手く指揮ることはできないと思うけど⋯⋯。でも、ランドに任せっきりにもできないと思うからな。」
「最初にビアさん達からの誘いを断った時、ランドはこの街の人達を不安にさせてしまうって言ってたよね。それは違う。街の人達はランドを全く軽蔑してないよ。たまに僕とメリゴで出かけると街の人達から話しかけられるんだ。『この間はランドくんに助けてもらったんだ。ありがとう。』って。1人だけじゃない。何人にもだよ。」
メリゴとカンラの真剣な説得に対してランドは口を噤んだ。
「そりゃあ最初の頃は俺達ランロークはこの街から軽蔑されてた。でも、華紫亜くんが来てからは街の人達からの俺達への目が変わった。」
「街の人達からの評価だけじゃないよ。ランドも、僕達も変わった。初めの頃は自分達の目的を果たす為だけだった力も、今は人を助ける為の力に変わった。だから、ランドは何も心配しなくていいんだ。」
「その上でのお願いだ。俺達はこの街の代表はランドであって欲しい。きっとそれを願う人は俺達だけじゃないから。」
2人を睨みつけながらも話を静かに聞いていたランドだったが、最後まで気持ちを曲げずにハッキリと言った2人の言葉に、バツが悪そうに下を向いた。
「⋯⋯そうか⋯⋯。そうは言ってもな⋯⋯。」
「⋯⋯まだ言うか。」
今までとは打って変わって自信なさげな表情で言葉を濁すランド。
それに対してどこかで呟かれたメリゴでもカンラでもない低い声。
声のした方を振り向く間もなく、ずっと黙って行く末を見守っていた華紫亜が一瞬でランドに近寄ると胸ぐらを掴んだ。
華紫亜の赤い目はランドを見据えている。
華紫亜と出会ってから一度も見たことの無い雰囲気で、あの丁寧な生徒会長の面影は消え去っていた。
「おい、ランド。まだ弱音を吐き続けるつもりか?」
話し方も180度変化した華紫亜は全くの別人のように感じた。
それと同時に「ルナール」で聞いた『金の九尾はガーディアン』だという噂が何となく現実味を帯びてきた。
「お前は都合が悪いと何もかも悪い方に考える。だから何もできねーんだろ。」
淡々とした華紫亜の言葉に、ランドは華紫亜を睨みつけ声を荒らげた。
「知った口聞くんじゃねーよ!そんなこと華紫亜くんには分かんねーだろ!?」
「分かんない?ほざけ。お前のこといつから知ってると思ってんだ。メリゴとカンラが言ってんだろ?俺達に任せろって。ランドは心配しなくていいって。お前こそ何も分かってねーな。」
流石、ランドは複数の組をまとめる総長だ。華紫亜に食ってかかった途端、その迫力や威圧から空気がピリッとした。
しかし華紫亜は簡単にその空気を上回ってきた。正直、ランド以上に華紫亜の方から恐怖を感じた。
「っざけんな⋯⋯。」
そんな華紫亜に屈する気配のないランドだったが、何故か唇を噛み締めながら辛そうな表情を浮かべた。
そして⋯⋯
「俺の気持ちなんて華紫亜くんには分かんねーんだよ。誰にも!俺の思ってる事なんて分かりゃしねーんだよ!!」
その言葉は華紫亜の逆鱗に触れたらしい。
華紫亜が初めて声を荒らげた。
「独りよがりで周りの気持ちに気がついてねーのはお前だろ!?ランド!!」
華紫亜の宝石のように綺麗な赤い瞳が一瞬だが金色に光った気がした。
「メリゴとカンラはお前を信じているから言ってんだ!信じてない相手にここまで説得するか!?しねーだろ!!2人がここまで必死に説得してるのは、お前のことを心から信じているからだろ!?お前の本心が分からなくても、それでも自分達の思いを伝えてお前を安心させようとしてんじゃねーか!!なのに気持ちを分かってもらえねーだ?甘ったれたこと言うな!!よく自分の胸に手を当てて考えてみろ!!お前はどうするべきなのか!何が正しいのか!!」
華紫亜が掴んでいた手を離した。支えのなくなったランドは、糸の切れた操り人形のように地面に崩れ落ちた。
「⋯⋯んでだよ⋯⋯。何で華紫亜くんまで⋯⋯華紫亜くんに言われたら断れねーじゃねーか⋯⋯。 」
力なく呟くランド。
どことなく悲しげな表情にその場は静まり返った。
「メリゴとカンラの気持ちは分かってる。痛いほど伝わってくる。だけど、そうじゃねーんだ⋯⋯。俺は⋯⋯俺は⋯⋯⋯⋯。」
言葉を失ったランド。俺達は何も言えずにいた。
そんな空気を破ったのは予想だにしなかった人達だった。
ガタッ!!
突然扉の方から物音がした。
「誰かいるのか!」
メリゴが扉に向けて声を張り上げると、ゆっくりと扉が開きランロークの幹部や舎弟と呼ばれていた者達が現れた。
「すみません。聞き耳立ててしまって⋯⋯。」
「悪気はないんス!」
「どうしても気になっちゃってさ〜。」
ぞろぞろと部屋へ入ってくる幹部達。
俺達やランド達がいるため中へ入ってこれたのはほんの数人だが、開ききった扉の先にはまだ人影が見える。
話の行く末が気になっていたのだろう。
実際はどうなのか分からないが、ランロークに所属するほとんどの者達がここに集まっているかのような空気を感じた。
そして、先頭にいた者が口を開いた。
「正直な事言うと、俺達は馬鹿だからランドさんが思ってることなんて分かんねー。 だからこそ、俺達の思いをぶつけただけじゃ、ランドさんの心は揺れねーと思う⋯⋯けど、これだけは言える!!」
するとその勢いに乗せ、幹部と舎弟達は口々にランドに向けて叫び始めた。
「ランロークも、ランドさんの居場所も俺達総出で守ります!!」
「ランロークの総長はランドさんだけっすから!!」
「ランドさんの居場所は誰にも譲らねー!」
「それに、俺達もメリゴとカンラを支えます!!」
「皆でランロークを⋯⋯この街を守ります!!」
「だから、ランドさん!!安心して行ってきてくださいっス!!」
「俺達、ランドさんのこと大好きです!!」
放たれた言葉は想像を超えとても優しく暖かいものだった。
それを目を丸くし聞いていたランドは、目を瞑ると深く吸い込んだ息をゆっくりと吐いた。
目を開けると呟いた。
「まさか、メリゴとカンラだけじゃなく、お前らにまでそんなこと言われるとはな⋯⋯いや、言わせたのか⋯⋯。」
ランドは立ち上がると幹部達に向けて頭を下げた。
「申し訳ない。」
「え!?い、いや!俺達はランドさんにそんなことさせたかった訳じゃ!!」
「す、す、すみません!!違うんス!!」
「頭を上げてください!!」
「下げるのは俺たちの方ですから!!!」
それを見た幹部達は狼狽えていた。
ランドは頭を上げると、その様子を見て眉を下げながらも笑った。
「幹部と舎弟にそこまで言われちゃあ、断れねーよな。」
ランドから放たれた言葉に、狼狽えていた幹部達は動きを止め固まった。
そしてその意味を理解すると、一瞬で溜まり場が歓喜に包まれた。
ここに来ていたのは「ランロークに所属するほとんどの者達」ではなく、「ランローク全員」だったようだ。
その様子を暖かい目で見つめていたランドは、俺達の方を向くと真剣な表情を浮かべた。
それを見た幹部達は喜びの声を抑え、静かにランドの言葉を待っていた。
ランドは深々と頭を下げた。
「さっきは誘いを断って申し訳なかった。⋯⋯もしよかったら、仲間に入れてくれないか?」
そんなランドを見ていた俺達の答えはもちろん1つだった。
「あぁ。喜んで。」
俺の言葉を聞き、溜まり場が再度歓声に包まれた。