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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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代表になるべき者


「「ヴォルフ」自体はとても平和な街なんですけれど⋯⋯。」

「そのようだな。」


 俺達は狼の街「ヴォルフ」に到着していた。「ヴォルフ」の雰囲気は思っていた以上に平和だった。


「勝手なイメージだけどよ、イブルツェルのトップがガーディアンやってるくらいだから、何となく荒れてる想像してたわ。」


 グレイは街の人々の様子を伺いながら呟いた。


「僕も最初はグレイさんと似たような考えを抱いておりました。ですが「ヴォルフ」の生徒会長様とお会いした際に、自分のイメージだけで偏見を持ってしまうことはいけないことだと改めて思い知らされました。この街には心優しい方がとても多く住まわれておりますよ。」


 そんな説明をしながらも、華紫亜(かしあ)は迷いなく道を進んでいく。

 会ったことがあると言っていたから当たり前だが、ガーディアンがどこにいるのかしっかり把握しているようだ。


「着きましたよ。こちらの道の先にランドがいます。早速行きましょう。皆さん僕から離れないように気をつけて着いてきてくださいませ。」


 華紫亜が入った脇道はとても細く暗かった。街の外れの裏路地といった所だろう。


「び、ビア⋯⋯待って⋯⋯。」

「うっわ⋯⋯やべーなここ⋯⋯。」

「こんな所が存在するのね。正直架空の話かと思ってたわ。」

「こ、怖いにゃ⋯⋯。」

椿(つばき)牡丹(ぼたん)ちゃん、大丈夫?」

「うん。大丈夫。」

「はい。お兄様と鴇鮫(ときさめ)さんが傍にいてくださっているので大丈夫そうです。」

「えー?なになにここー!落書きだらけじゃ〜ん!楽しそう〜!」

「馬鹿。騒ぐな。」


 和倉(わくら)が言っていたように、この道の壁はスプレーで大層な落書きが施されていた。

 傍にはスプレー缶が散乱している。

 きっとここにいる若者達が書いて遊んでいるのだろう。


 落書きの中には、芸術作品として展示してもいいのではないかと思ってしまう程クオリティの高いものまであった。

 街の人々が簡単に見られないような場所にあるのが少し勿体ないと感じてしまった。


「そろそろこの裏路地によく遊びに来てらっしゃる方々と出会う頻度が増えますが、気にせず前だけを向いて歩くようにしてくださいませ。何かあれば僕が対応しますのでご安心ください。」


 華紫亜が忠告をして間もなく現れた角を曲がると、多数の若者が現れ始めた。


 タバコを吸っていたり酒を飲み交わしていたり、ゲームをしていたりと様々な者達がたむろしているが、全員に共通しているのはこちらに気がつくと睨みつけてくるというところだ。


 何となくだが、華紫亜の忠告は何があっても確実に守らないといけない気がした。


 睨みつけられながらも間をすり抜け奥に進んでいくと、今までいた若者達とは明らかに風格の違う派手やかな柄の服を着た若者が俺達に声をかけてきた。


「あれ?華紫亜くんじゃん!」

「こんな所までわざわざどうしたんですか?」

「今は俺ら他人に迷惑かけるようなことしてねーぜ?」

「大丈夫ですよ。今日はそのような要件で来たわけではございませんから。」

「へぇー。珍しいですね。」

「⋯⋯そっちは誰だ?」


 黒い狼の少年が俺達の方に目を配りながら華紫亜に問いかけた。


「こちらの方々は僕の大切な仲間です。くれぐれも手を出さないようお気をつけくださいませ。」

「手なんて出すかよ!出したら俺らが殺されちまう!」

「華紫亜くん怖いからねぇ。」


 見るからに俺達とは正反対の世界を生きていそうな少年達の華紫亜に対する反応に、俺達は違和感を覚えた。


 こんなに真面目で丁寧な生徒会長を怖がっている。

 その事実が不思議で仕方がなかった。

 それと同時に、『金の九尾』が示しているものがどういう系統の意味を指しているのか、少しだけ想像が付いた。


「怖がらせてしまっていたなら謝罪しなければ⋯⋯。」

「いやいやいや!謝罪なんてしなくていい!」

「大丈夫!怖くないから!」

「そうですか?」


 必死に謝罪を拒む2人。

 謝罪なんかさせたら自分達が大変な目にあってしまうといった思いが伝わってきた。


「あぁ、そうでした。僕達が今日ここに来たのはランドに用がある為ですが、本日はまだこちらにいらっしゃいますか?」

「おぉ!ランドならいるぜ!」

「奥にいるから案内するよ。こっちだよ。⋯⋯そっちのお仲間さん達もどうぞ。」

「ありがとう。」


 少年達2人に連れられながら奥へと進んで行くと、突き当たりの壁には扉が1枚取り付けられていた。


「中入っていいぞ!」


 開いた扉の先は広い空間があり、ソファーやテーブルが複数置かれ、休憩できるようになっていた。

 また、この先にもいくつか部屋があるのか、どこかへ続くであろう道も見られた。

 俺達はその道⋯⋯いや、廊下を進んで行った。


 幅が広めの廊下で、左右にはいくつか扉が見られた。かなり広い家のように見える。

 途中で階段を通り過ぎると、その先に会った大きな扉を茅色の綺麗な長髪の少年が叩いた。


 コンコンッ


「ランド。入ってもいいかい?」

「あぁ。」


 中から返事が聞こえたため少年が扉を開けた。


「ランド、客が来たぞ!」

「⋯⋯客?」


 部屋の中でこちらに背を向けてソファーに座る茶髪の少年に、案内をしてくれた黒髪の少年が声をかけた。

 すると、後ろを向いていた少年はソファーの背もたれに腕を乗せるとこちらを振り返った。


「華紫亜くん⋯⋯久しぶり。」

「ランド、久しぶりです。」

「⋯⋯そっちは?」

「こちらの方々は僕の大切な仲間です。」


 俺達を見た少年は、困ったような表情をした。


「⋯⋯俺、何かした?大人しくしていたつもりだったんだけど⋯⋯。」


 先程からここにいる少年達全員が、華紫亜が自分達を制裁しに来たと勘違いをしているようだった。

 華紫亜はふふっと笑った。


「違いますよ。本日はそのような件でここを訪れたわけではございません。本日はビアさんが⋯⋯吸血鬼様がお話をしたいとの事でしたからここにお連れしたんです。」


 華紫亜を見ていた少年は俺の方に目線を移動させた。


「⋯⋯吸血鬼が俺に話⋯⋯。とりあえず座って。立って話すのも疲れるだろ。」

「ありがとうございます。そうさせて頂きますね。」


 華紫亜が俺達の方を向き近くのソファーを手で示したため、少年に一礼しながら全員が腰をかけた。


「吸血鬼。話ってなんだ。」


 全員が座ったことを確認すると、少年は前のめりになって話を聞き始めた。


「あぁ。今日はハロウィンに関してファニアス様か

命を受けここへ来た。」


 俺はオスクリタの件と「ヴォルフ」のガーディアンに会いに来たことを簡単に説明した。


「要するに、ガーディアンである俺が今からオスクリタと戦わなければいけないってことか。」

「そういうことだ。」


 それを近くで聞いていた少年2人が声を上げた。


「いいんじゃないかな?」

「ランドが「ヴォルフ」の代表として戦うとか嬉しすぎる!!」


 嬉しそうにしている2人に対し、本人は乗り気ではなさそうな表情をしていた。


「⋯⋯お前らなぁ。そう簡単に言ってるが、俺がいなくなったらその間の溜まり場は誰が指揮んだ。」

「あぁ⋯⋯そっか。」

「ランドの代わりなんていねー!!」

「それに、俺が「ヴォルフ」の代表になったことを街の奴らが知ったら不満が出てくるだろ。良く思われてない組織のトップが街のガーディアンをやっている時点で不満を抱いている奴は沢山いるんだ。さらに街の奴らを不安にさせるだけだろ?」


 少年の言葉にその場は静まり返った。


「⋯⋯じゃあ、そういうことだから。帰ってくれ。」

「ランド、でも⋯⋯。」

「折角誘いにきてくれたんだぜ?」

「まだこの街には強い奴が山程いる。他をあたれ。」


 少年2人は納得がいかなそうだが、ガーディアンの少年は琥珀色の目を鋭く光らせこちらを威嚇した。

 その状況から、これ以上彼を誘うのは無謀であると判断した。


「⋯⋯分かった。共に行くことが出来ないのは残念だが仕方がない。他をあたろう。時間をとって悪かったな。」

「嘘だろ!?ビア!!」


 グレイが立ち上がり叫んだ。

 みんなの視線が俺に集まっていた。

 しかし、どれだけ見つめられても、どれだけ意見を言われても、俺の気持ちは変わらなかった。


「本人が拒否をしたんだ。ファニアス様からの命で選ばれた街だが、だからといって無理矢理連れて行くことは出来ない。」


 諦めたように下を向くグレイ達。

 その姿にこの決断をした事に対して申し訳なさが込み上げて来た。


 俺がソファーから立ち上がると、グレイ達も力なくソファーを立った。

 残念そうな表情を浮かべる両脇に立つ少年2人と、今も尚睨みを利かせている中央の少年に一礼をすると、俺達は部屋を後にした。

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