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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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噂と嘘


 俺達は華紫亜(かしあ)に続いてフォックス学園の門の前まで歩いてきていた。


「華紫亜は誰にでもそんな感じの話し方をしているの?」


 華紫亜の後ろを歩いていたミオラが話しかけた。


「はい。普段からどのような方に対してもこのように話しをさせて頂いております。」

「その話し方窮屈じゃあないかしら?」

「えぇ、問題ありませんよ。昔からこの話し方ですから慣れているんです。お気遣い感謝いたします。」

「そう。それなら仕方がないわね。」


 ミオラがなにかを諦めたかのようにため息をつくと、横から吉歌(きっか)が顔を出した。


「華紫亜。ミオラは友達みたいに、崩した話し方で話して欲しいと思ってるにゃ!」

「ちょっ!!吉歌ちゃん!?」


 突然爆弾発言をした吉歌の方をミオラは勢いよく振り返った。

 その様子を見ていた華紫亜はふふっと笑った。


「なるほど。そういうことでしたか。」

「い、いや!そういうわけじゃないのよ!」


 吉歌に心を読まれ暴露されたミオラは、かなり焦っているようだ。普段の冷静さが全く見られない。

 華紫亜はそんなミオラに向かって微笑んだ。


「ありがとうございます。慣れてきた暁には、かしこまった話し方ではなく崩した話し方で皆さんと話せるようにいたしますね。」

「え、えぇ⋯⋯そうしてくれると嬉しいわ⋯⋯。」


 頬を赤く染めたまま、ミオラは気まずそうにしていた。


「突然だが、華紫亜はこの中にある街めガーディアンを知っている街はあるか?もしくはここから一番行きやすい街を教えて欲しい。」


 俺が書物を手渡すと、一通り目を通した華紫亜はニコッと笑った。


「「ヴォルフ」のガーディアンでしたら存じ上げておりますよ。それに「ヴォルフ」は隣街ですから、すぐに向かうことが可能です。」

「そうか。それなら良かった。是非「ヴォルフ」までの案内を頼みたいんだがいいだろうか?」

「お任せ下さいませ。僕にできることでしたら喜んで何でもやらせて頂きます。」


 そう言うと早速案内を始めてくれた華紫亜の後ろに続き学園を去った。



「あの、華紫亜さん。お聞きしたいことがあるのですが⋯⋯。」


 牡丹(ぼたん)椿(つばき)は華紫亜の横へ行くと、両脇に立った。


「はい、如何なさいましたか?」

「「ヴォルフ」のガーディアンを知っているそうですが、どのような方か教えて頂けませんか?」

「どんな奴か事前に分かってた方が誘いやすいんじゃないかと思ったんだ。」

「構いませんよ。「ヴォルフ」のガーディアンは、ランロークというイブルツェルグループの総長を務めているランドさんです。」


 それを聞いた瞬間、ヒショウが話題に飛びついた。


「イブルツェルって何?」

「イブルツェルですか?そうですね、説明がとても難しいのですが⋯⋯組織で活動している方々といえば宜しいでしょうかね。」

「組織か〜。なんか強そうだね!総長ってことはリーダーなの?」

「えぇ。ランドさんはランロークのリーダーとして活動されております。」

「そっかそっか!」


 華紫亜の簡易的な説明に納得した様子を見せたヒショウだが、イブルツェルが何かを知っている俺達は何とも言えない表情を浮かべていた。

 それが視界に入ったのだろう。

 華紫亜はふふっと笑った。


「皆さんご安心くださいませ。ランドさんはとても心優しい人ですよ。」

「⋯⋯でもよー、何でそんな奴と知り合いなんだ?生徒会長と対極にあるような奴じゃねーか。」


 グレイの言う通り、一番気の合わなそうな2人が知り合いなのは不思議なことである。


 そんな問いに対しても華紫亜は笑った。


「「ルナール」と「ヴォルフ」では生徒会役員の合同集会が定期的にございます。ある時「ヴォルフ」の生徒会長様から、「自分達だけでは手のつけられない者達がいて困っているため手を貸してほしい」とお願いをされましたので、そちらへお邪魔させて頂いたんです。その時に僕がお相手させて頂きました。それから交流させて頂いているのですよ。」


 イブルツェルの総長のお相手というその一言に何が含まれているか何となく察した後に華紫亜の笑顔を見ると、とても不気味に感じた。


 何とも言えずに困っていると、後方からヒソヒソ声が聞こえてきた。


「ねぇ、椰鶴(やづる)。華紫亜に聞いてもいいかなぁ?」

「は?このタイミングで聞くか普通。」

「でも気になるじゃん?椰鶴も気になるっしょ?」

「⋯⋯まぁ、気にはなってるけど。」

「じゃあ今だよね!聞くね!」


 そう言った和倉(わくら)は後方から先頭にいる華紫亜に向けて大声で叫んだ。


「なぁ!華紫亜!『金の九尾』って知ってる?」


 『金の九尾』という単語が和倉の口から出た瞬間、ほんの一瞬だが華紫亜の表情が真顔になった気がした。

 左目が前髪で隠れている為片目しか見えないが、それでもその表情に何故か背筋がゾワッとした。


「いえ、ご存知ありませんが⋯⋯その『金の九尾』が如何なさいましたか?」

「実は、ガーディアン探しをしてた時に生徒会長の他に『金の九尾』がガーディアンだって言っている人もいたから知らないかなって思って!」

「左様でございますか。僕はその方については存じ上げておりません。大変申し訳ございません。ただ皆さんが『金の九尾』だけでなく、生徒会長という情報もお持ちになられていたのは幸いでしたね。ガーディアンは生徒会長である僕ですから、『金の九尾』をお探しになられていたら「ルナール」のガーディアンはいつになっても見つからなかったか、もしくは僕に出会うまでかなりの時間を要していたと思われます。」

「確かに!じゃあ『金の九尾』は間違ってたってことか!」

「左様でございます。『金の九尾』がガーディアンだという情報を皆様にお伝えしたのは路地裏にいらっしゃる方々ではありませんか?」

「そうそう!よく知ってるな!」

「えぇ。生徒会長と同時に僕はガーディアンもしておりますから、そのような場所へ出向くこともございます。実際に出向いた際、路地裏に集まっている方々は僕達のように過ごしている者とは少し異なった考えをお持ちの方が複数いらっしゃるのを確認いたしました。裏路地に集まる方々が表のルールをご存知ないのと同様に、僕達も裏路地のルールは把握出来ておりません。ですから、把握出来ていない情報はほとんど裏路地から出来た物が多いのですよ。」

「なるほどなー!」


 笑顔で説明する華紫亜を眺めていた時だった。


「これは⋯⋯かなり厄介そうな子だね。」


 俺の横にいた鴇鮫(ときさめ)が苦笑いをしながら小さな声で呟いた。

 その鴇鮫の様子に、俺は違和感を覚えた。


「⋯⋯何かあったか?」

「え?あぁ⋯⋯もしかして、声に出てたかな?」

「俺にしか聞こえてないとは思うが。」

「そっか。聞こえてたなら隠しても仕方ないかな。本人の了承を得ないと勝手にバラしちゃうとマズイと思うし、とりあえずビアにだけ伝えるから、みんなには秘密にしておいて欲しいんだけどいいかな?」

「分かった。」


 俺達は「移動中に襲われる事も多いから」という理由で最後尾に移動することと、華紫亜に先導をお願いしたい事を伝えた。

 すぐに了承を得たため、俺達は最後尾へと移動した。


 疑いの目を向けられない程度に、元々最後尾にいた椰鶴と和倉から少しだけ距離をとると、鴇鮫は声量を抑えて話を始めた。


「あの子⋯⋯華紫亜が『金の九尾』の話が出た時にほんの一瞬表情を変えたんだけど、ビアは気がついたかな?」

「あぁ⋯⋯気の所為かと思っていたが、やっぱり間違いなかったか。」

「流石ビア。きっと気づいてると思ってたよ。後は⋯⋯ミオラちゃんもそういう変化に敏感だから、もしかしたら気がついているかな?」

「そうだな。近くにいたし、尚更気づいているだろう。」


 今は華紫亜の近くで吉歌や牡丹と楽しそうに会話をしているミオラ。

 詮索する様子は見られないが、ミオラなら有り得ると思った。


「何か良くない事を隠しているかもしれない、相手は狐だからなりすましの可能性もあるかもしれないって変に疑っちゃって⋯⋯申し訳ないけど、少しだけ覗かせてもらったんだ。そしたら⋯⋯」


 少し悩んでいる様子を見せた鴇鮫。知った情報を俺に言っていいかどうか考えているのだろう。

 だがそれもほんの少しの時間で、すぐに囁くように俺の耳元へ近づいた。


「「気づかれたか?」って。すぐに覗くのを止めてそこまでしか視なかったから、どういう意味だろうって考えたんだ。あの表情とその考えを結ぶと、『金の九尾』が華紫亜だって事になるんじゃないかなって思うんだ。」


 例え一瞬でも心の中で気が付かれたのかを気にしている所と、俺が直接見た今の様子からは到底想像出来ない表情を踏まえると、あの状況では確かにその答えに行き着くと思った。


「とは言っても、『金の九尾』が何を示しているのか、どんな意味を持った単語なのかは分からないから、『金の九尾』が華紫亜だって分かったところでどうすることも出来ないけどね。」

「そうだな。とりあえず、その『金の九尾』が俺達にとってマイナスに作用する事がないうちは、華紫亜が話をしてくれるまで詮索しないようにしよう。」


 遅れを取らないようにみんなの後を追いながら、先頭の華紫亜の様子を伺った。

 ヒショウと楽しそうに話をしているあの姿からは、何か悪い隠し事をしているようには全く感じられなかった。


 『金の九尾』が何なのか、それが華紫亜とどう関係しているのかは想像がつかないが、仲間を疑うことは今後共に過ごし、協力して戦うという状況に間違いなく支障をきたす。

 今はとにかくお互いを信じなければ。

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