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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
33/77

力を隠すなら優等生の中


 終始椰鶴(やづる)について語っていた和倉(わくら)に続いて歩いて行くと、狐の街「ルナール」に辿り着いたようだ。

 「ロージ」の森を抜けた先には赤い灯篭が道に沿って立っており、木には提灯が繋がっていた。

 この先は神聖な森なのか、「ロージ」の森以上にとても静かで感じたことのない空気が漂っていた。


 「ガット」・「ネーヴェ」・「オープス」・「オーガ」・「ロージ」を訪れた際も感じたことだが、俺の街にはない珍しい和風の造形物や建物があり興味が湧く。


 灯篭と提灯については「ガット」と「オーガ」にもあったため、その際に吉歌(きっか)と和倉から教えてもらった。


 優しい灯りが俺達を「ルナール」へ誘い込んでいるように感じた。


 灯りに照らされながら進んで行くと、灯篭が途切れた先に大きな朱色の鳥居が立っていた。奥を除くとかなり遠くまで連なっているように見えた。


「この先が「ルナール」だよ!」


 楽しそうに駆け出す和倉。それに続く吉歌とグレイ。グレイに引っ張られながら必死に着いていくヒショウ。


 「ルナール」に入るのが余程楽しみなんだろう。

 その様子を後ろから眺めていた俺達も続いて鳥居をくぐった。


 先へ先へと進んでいくと、鳥居の大きさが小さくなってきているように感じた。

 それは気の所為ではなかったようで、初めは数人が横並びで歩けるほど広々としていた鳥居だったが、今は1人通るので精一杯な大きさになっていた。


 これ以上鳥居が小さくなると、屈んで通らないと行けなくなってしまう。

 そんな不安を抱き始めて間もなく、すぐに鳥居の終点が訪れた。

 最後の一基をくぐり抜けた途端だった。


「⋯⋯凄い⋯⋯」


 声が無意識に漏れだしてしまうほどの景色が広がった。

 そこは賑やかな屋台街だった。


 鳥居の中にいた時は全くこの賑やかさを感じ取ることは出来なかった。それだけでなく、こちらから見えていた景色とは驚く程に異なっていた。

 鳥居をくぐり抜けた途端全く違う世界へ来てしまったかのようだ。


「何度も来てるけど、「ルナール」の鳥居の謎は未だに俺達も分からない。」


 まさに狐につままれたような俺達の様子に、椰鶴は呟いた。

 それに呼応するように大きく頷く和倉。


「あんまりふざけてると、一定時間「ルナール」に入れなくなっちゃうんだよねー!」

「それはどういうことですか?」


 すかさず牡丹(ぼたん)が疑問をぶつけると、椰鶴が頭を抱えながら話を始めた。


「⋯⋯8歳くらいの頃、俺と和倉で「ルナール」に遊びに来た。その時も変わらず「ルナール」に入るにはこの鳥居をくぐる必要があった。あの時初めて通ったから、今のあんたらみたいにこの鳥居が不思議で仕方がなかった。で、こいつ。」


 指さされた先にいるのは少し照れくさそうにしている和倉だった。


「何となく察してるかもしれねーが、興味を抱くと一生遊び出す。あん時もそうだった。この手前の鳥居を行ったり来たりして、世界が変わる謎を楽しんでた。やめろって言っても聞かなかった。そしたら、突然和倉が消えた。俺からはそう見えた。1度鳥居を戻って入り直したけど、やっぱりいなかった。すっごく焦った。それを見てたんだろうな。近くの屋台にいたおっさんが大笑いして言った。「あまりにも楽しそうだから神様がイタズラしたんだろうな。大丈夫。数分もすれば戻ってくるさ。ガッハッハッ!」って。実際、その場で待ってたら突然しゃがみこんで大泣きしてる和倉が現れた。ふざけてると痛い目見るってことだ。」

「そうそう!ある瞬間から鳥居をくぐっても「ルナール」に辿り着かなくて、ただ何も無い森に出るようになっちゃったんだ。もう椰鶴と会えなくなっちゃったって思ったら涙が止まらなくてさ!椰鶴がいなくなっちゃったーって泣いてたんだよね。そしたら突然椰鶴が現れて。実際は3.4分くらいだったと思うんだけど、あの時の俺にとっては永遠に感じた。もう絶対やらないって心に決めたんだ!だから、みんなは興味あっても絶対やっちゃダメだよ!」

「誰もやらねーよ。」

「えー!?」


 まだ会ってそこまで時間が経った訳では無いが、和倉ならやりかねない話だと思った。


 誰にも分からない謎に包まれた鳥居。

 きっと「ルナール」が狐の街だからこそ起こる現象なのだろうと何となく感じた。


 そんな不思議な鳥居を離れた俺達は、屋台街へは入らず、道を少し逸れた所にある人通りの落ち着いた場所に集まった。


「ひとまずこの屋台街でガーディアンについての情報を仕入れるとしよう。人通りも多い。2人1組で手分けをして聞き込みをして、大体聞き込みができた頃にこの場所に戻ってくる。それでいいか?」

「良い案だと思うわ。」

「うんにゃ!そしたら、早速別れて行くにゃよー!」


 仲の良い者同士、すぐにペアを組むと聞き込みをするため屋台街へと向かい出した。

 俺は鴇鮫(ときさめ)とペアを組むことにした。


「よろしくね、ビア。」

「あぁ、よろしく。」

「みんな張り切って結構先まで行っちゃったね。」

「そうだな。」


 もうここからはとっくに姿が見えなくなっている者もいた。


「俺達は敢えて近い場所で聞き込みをしよう。ただ、無闇矢鱈に声をかけると時間がかかる。確実に知ってそうな人に話しかけたいものだが⋯⋯。」

「そしたら俺の出番かな?」


 鴇鮫は辺りを見渡した。


「あ、あの子。」


 鴇鮫は少し先をこちらに向かって歩いてきていた若い狐の女の子を示した。


「あの子ならガーディアンのこと確実に知ってるよ。」

「え⋯⋯どうして?」

「だって俺、百目だから。」


 鴇鮫はニコッと笑うと女の子の方へ歩いて行った。


「こんにちは。初めまして、可愛らしいお嬢さん。」

「は、はい!」


 声のトーンと話し方が一瞬で変わった。これは⋯⋯仕事用の声か?

 突然話しかけられた女の子は頬を赤く染め緊張しているような強ばった表情をしている。


「この街のガーディアンを知っていますか?今ガーディアンを探しているのですが、もし知っていたら教えて頂けませんか?」

「えっと、ガーディアンはフォックス学園第3学年に所属している生徒会長さんです!」

「フォックス学園の生徒会長さんですね。教えて頂きありがとうございます。」


 お辞儀をし礼を伝えると、鴇鮫は女の子の頭の方へ目をやった。


「髪を結っている赤いリボンはお手製ですか?」

「え?は、はい!手芸が好きなので作ったんです!」

「そうですか。とてもお上手ですね。その赤いリボン、可愛らしい貴方にはとてもお似合いですね。」


 いきなり褒め始めた鴇鮫の言葉に女の子はさらに頬を赤く染めた。


「い、いえ⋯⋯そんなことないです⋯⋯。」

「謙遜しないで下さい。とても可愛いですよ。貴方の雪のように白い髪に赤いリボンが映えていてとても綺麗です。」


 鴇鮫は女の子の髪の先を手に取った。

 女の子はショート寸前かのように指先まで真っ赤にそめ恥ずかしそうにしている。

 そして、鴇鮫は女の子に目線を合わせると頬に手を添えた。


「真っ赤な貴方の顔も可愛らしいですよ。謙遜する必要はありません。自信を持ってください。」


 女の子は俯きながら小さな声で「ありがとうございます。」と言っていた。


「それでは僕はここで失礼します。貴方の大切な時間を奪ってしまってすみません。教えて頂きありがとうございました。」

「こ、こちらこそ!!」


 鴇鮫は微笑みながら手をひらひらと振ると、こちらに平然とした表情で歩いてきた。


「⋯⋯流石スピルウィルだな。」

「これぐらい普通だよ。スピルウィル目当てで店に来ているお客様だけじゃなくて、初めて出会った見知らぬ女性の事も虜に出来なきゃレジェンドとは呼ばれないよ。」

「まぁ⋯⋯そうだな。」


 確かにレジェンドなんだからこれぐらいできて当然か⋯⋯。

 先程の女の子の表情と鴇鮫の様子を思い出していると、鴇鮫が俺に目線を合わせた。


「どうしたの?大丈夫?」

「え?あぁ、大丈夫だ。それで、ガーディアンはフォックス学園の生徒会長さん⋯⋯だったか?」

「うん、そうだよ。生徒会長ってことはきっと真面目な人なんだろうね。」

「そうだろうな。生徒会長になれるのは大抵周りから信頼を得ているような奴が多いからな。」

「そっか⋯⋯俺みたいな職業の男のこと受け入れてくれるかな⋯⋯。」


 不安そうな表情をしている鴇鮫。鴇鮫のそんな表情は初めて見た。


「大丈夫だろう。きっと理解のある者だと思う。偏見を持つような者じゃ独裁者と変わらないからな。そんな性格の者を生徒会長として学園長が許可を出すとは思えないからな。」

「⋯⋯そうだよね。きっと大丈夫だよね。」


 鴇鮫が悲しそうに笑っているため、俺も少し不安を覚えた。


 そんな時、ちょうど全員が俺と鴇鮫の場所へ戻ってきた。

 俺達は鴇鮫により確実な情報を得ているが、報告として各組から話を聞くことにした。


「じゃあまずは俺とヒショウな!!俺達が聞いた奴らはフォックス学園の生徒会長っつってたな!複数人に聞いてみんなそう言ってたから間違いねーよ!」


 自信たっぷりに言うグレイを見て、続けて椿(つばき)が言った。


「俺と牡丹(ぼたん)も同じ。生徒会長で人気者だって聞いた。」


 この2組の話を聞いて異論を唱えたのはミオラと吉歌、椰鶴、和倉の4人だった。


「私達も確かに生徒会長って情報をもらったけれど、他の意見もあったわ。」

「そうにゃ!金の九尾がガーディアンになったって聞いたことがあるって言っている人もいたにゃ!」

「俺達もそれ聞いた!!路地裏にたまってた人達に聞いちゃったから嘘の情報かもって思ってたんだけど、ミオラ達がそう言うなら本当だったんだね!」

「聞いちゃったっていうか、お前自ら突っ込んでったんだろ。」

「だってー!何してんのかなーって思って!」

「お前が鬼って分かって怯んでたからよかったものの⋯⋯。」

「いいじゃん!情報得られたんだし!」


 その話を聞いて鴇鮫は不思議そうな顔をしていた。


「金の九尾⋯⋯?おかしいな。生徒会長って情報が確実のはずだけど⋯⋯。」

「そうだな。百目のお前が言うんだから生徒会長の情報は間違ってないと思うぞ。」


 俺達は『金の九尾』が何なのか、ガーディアンは生徒会長であっているのか疑問に思いながらも、確実に場所が分かっているフォックス学園に向かうことにした。




「ここがフォックス学園か。」

「グレイの学校くらい大きいね。」

「こりゃここの学園長も相当な阿呆なんだろうな。」

「そういう失礼なこと言ってると後々痛い目見るわよ。」


 学園の門は大きな赤い鳥居だった。鳥居の中央には学園名の書かれた看板がある。


「なぁ、どうやって中に入るんだ?」

「学校ですから勝手に入る訳にはいきませんよね。」


 椿と牡丹の言う通り勝手に入る訳にはいかないため、手段を探さなくてはならない。


「グレイの時はたまたまグレイが中に入れてくれたけど、都合良く生徒会長さんがここに来るとは思えないよね⋯⋯。」


 ヒショウの発言を聞いて、俺は1つ案が思い浮かんだ。


「なぁグレイ。」

「なんだ?」

「学園長名義で中に入れないか?」

「えっ!?俺が交渉すんの!?」

「グレイのいた学園、規模も大きそうだったし学園長さんは春火(はるひ)さんとも仲が良かっただろ?学園長さんならいろんな所に知り合いがいてもおかしくない気がするんだけどどうだ?無理強いはしないが。」

「⋯⋯うーん⋯⋯。」


 深く悩んでいたがすぐに結論が出たようで顔を上げた。


「分かった。やってみるわ。でも、失敗しても文句言うなよ!」


 そう捨て台詞を吐きながら学園の中へ入って行った。



 そして数分後、グレイがニコニコしながら走って戻ってきた。


「中入っていいってよ!それに、生徒会長がガーディアンで間違いねーって!」

「ありがとうグレイ。やっぱり任せて正解だったな。」


 それを聞いてグレイは興奮気味に話し始めた。

 聞いた所によると、グレイの祖父である学園長さんはフォックス学園の学園長さんと知り合いだったそうだ。やはり知り合いが多そうだという考えは間違ってなかったようだ。


 俺達はグレイに案内されて守衛の元へと向かった。

 守衛からは来賓者と書かれたネームホルダーを人数分渡された。

 俺達がネームホルダーをつけ終えると、そこからは守衛が学園長室まで案内をしてくれた。


 学園長には守衛が既に話を通しておいてくれたらしい。

 学園長は直ぐに俺達を迎え入れてくれた。



「お忙しい中、お話させて頂ける機会を設けてくださり誠にありがとうございます。」

「いえいえ。様々な街のガーディアン様がわざわざこのような学園へ足を運んで下さりありがとうございます。本日は何用ですかな?」


 俺は簡単にオスクリタの件とファニアス様の命令で選ばれた街のガーディアンを探していることを伝えた。


「この街もファニアス様から頂いた書物に記載されていまして、街の皆様に聞き込みをしたところこの学園の生徒会長さんがガーディアンだとお聞きいたしました。もし可能でしたら生徒会長さんとお会いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「なるほど。確かにこの学園の生徒会長が「ルナール」のガーディアンを務めております。ファニアス様からの命令ですし、この国を守るために各街の素晴らしい方々がお揃いでいらして下さったのですから、喜んでご協力させて頂きたいと思います。今生徒会長を呼びますから少々お待ちくださいね。」


 学園長は机の上に置いてあった受話器を取った。


「生徒会長の華紫亜(かしあ)くんを呼んでくれ。」


 それだけを伝え受話器を置いた。


「すぐに来ますからね。」

「ありがとうございます。」


 すぐと言っても今呼んだばかりだから最低でも1.2分はかかるだろう。

 そう思い、少しだけゆっくりさせてもらおうと思った時だった。


 コンコンコンッ


「失礼致します。」


 ドアがノックされ男の子の声が聞こえたため俺達がドアの方を見ると、開いたドアの先に真っ白な狐の少年が立っていた。

 毛先が金に染ったサラサラの短い白髪と赤い目が、彼の容姿を引き立てているようだ。


「お呼びでしょうか、学園長。」

「あぁ。入りたまえ。」


 少年は微笑みながら一礼すると、部屋の中へ入ってきた。


「やはり君は生徒会長をやっているだけあって優秀だな。ここへ来るのに30秒もかからないとは。君の教室からだとどれだけ早く走っても3分はかかるはずだ。」

「お褒めいただき光栄です。ですが、僕と同じくらいのスピードでここまで来れる人はこの学園に何人もいらっしゃいますよ。」

「いや、そんなことはない。華紫亜くんが最速だ。君のような数少ない優秀生徒が我が学園の生徒会長だなんて私も鼻が高いよ。」


 そんなたわいもない会話を交わしながら少年が学園長の前へ来ると、学園長は表情を変えた。


「ところで本題だが、こちらの方々が君に話をしたいと来園されたんだ。話を聞いてあげて欲しい。」

「承知致しました。」


 少年は学園長に一礼すると、俺達の座るソファーの前に片膝立ちになり胸に手を当てた。


「初めまして。僕がこの学園の生徒会長を務めております、華紫亜でございます。僕にお話があるとのことで⋯⋯ここまでいらっしゃるのは大変でしたでしょう。ご足労頂いたこと、並びに皆様にお逢い出来たこの縁に感謝申し上げます。」


 素晴らしい言葉遣いと対応に、俺達は少したじろいだ。特に、グレイ・ヒショウ・吉歌・和倉はそのような言葉遣いや対応に慣れていないようで緊張からか表情が固くなっていた。


「突然来園してしまい申し訳ございません。生徒会長さんにお話があります。」

「華紫亜で構いませんよ。それに、貴方は次期国王候補のビア様。僕なんて比較対象にさえならないただの生徒会長です。フランクにお話頂けますと幸いです。」


 流石生徒会長でありガーディアンである者だ。情報の把握力がかなり高い事がこの会話だけで分かる。

 ただ、華紫亜が笑顔でこちらを見つめるためその提案を断る訳にも行かず、俺は言葉に甘えさせてもらうことにした。


「それじゃあ華紫亜。要件に関してだが⋯⋯実は今、オスクリタの件で国王のファニアス様からの命令が(くだ)っている。それは、この国を守るためにオスクリタの手に侵されていない街の中からガーディアンを集め、オスクリタと戦い街を取り戻すということだ。直々に命令された俺が、ファニアス様が選んだ街を1箇所ずつ巡ってガーディアン探しをしている。」


  そこまで真剣に聞いていた華紫亜がハッとすると、口を開いた。


「ということは、皆様は全員各々の街でガーディアンを務めておられるということでしょうか?」

「あぁ。その通りだ。」

「左様でございますか。皆様から多大なるオーラを感じ取ることが出来たのはそれが理由だったのですね。納得致しました。」


 多大なるオーラと言われ、グレイ、吉歌、和倉の3人が分かりやすく嬉しそうにしている。


「それで、「ルナール」もその1つ。オスクリタとの戦いに相応しいガーディアンのいる街としてリストアップされていた。街の方々に聞き込みをしたところ、フォックス学園の生徒会長さんだと教えて頂いた。だからこの学園へ来たんだ。」

「では、僕も皆様と共にオスクリタと戦うということで間違いありませんでしょうか。」

「あぁ。一緒に来てくれると有難い。」


 俺の言葉を聞いた華紫亜は困ったような表情をした。


「そうですよね。ファニアス様からの命令ですからね。ですが⋯⋯僕にはこの学園で生徒会長としての役目がまだ残っています。やらなくてはならない仕事もありますし、どうしたら⋯⋯。」


 下を向いて悩んでいる様子の華紫亜を見て、学園長は穏やかな表情を浮かべた。


「華紫亜くん。例え短時間になろうとも、君がオスクリタと戦うためにこの学園から離れるという事実はかなり惜しい。しかし、国の為だ。「ルナール」の代表としてオスクリタと戦える実力を持っているのは他でもないガーディアンの華紫亜くんしかいないだろう。だから、行きなさい。華紫亜くんが戻ってくるまでの間、仕事は私がやっておこう。」

「それでは学園長の負担が増えてしまいます。それはなりません。」


 学園長を心配する華紫亜に対し、学園長は笑った。


「生徒会長という仕事よりも大きな仕事をこれからやらなくてはならない君に比べたら、私の負担なんてちっぽけなものさ。私の事は気にせず行ってきなさい。君にしかできない仕事だよ。」


 それを聞いた華紫亜は目を瞑った。

 次に目を開いた時、目の奥に決断の炎が燃え上がったのが一瞬見えた気がした。


「承知致しました。学園長、御手数ですが僕がいない間だけ生徒会長の仕事をどうぞよろしくお願い致します。」

「任せなさい。」


 華紫亜はスクッと立ち上がると、俺たちの方へと体を向けた。


「それでは皆様。長期外出手続きをして参りますから、少々お待ちくださいませ。」


 そう言い部屋から出て行ったと思ったも束の間、10秒程で華紫亜が戻ってきた。


「手続きが完了致しました。それでは参りましょう。」

「え!?おい、早すぎだろ!」

「ちゃんと手続きできたにゃ!?」


 何事も無かったかのように微笑む華紫亜に、グレイと吉歌がツッコミを入れた。

 本当に、この2人は息が合っている。合いすぎていて恐ろしいくらいだ。


 2人のツッコミに、華紫亜はふふっと笑った。


「えぇ。手続きは終えましたよ。問題ありません。僕の方は何もやり残したことはございませんから。まだ他の街のガーディアンを探さなければならないでしょうから。早速参りましょう。」


 扉を開き手で誘導する華紫亜を見て、俺達はソファーを立ち上がり早速この学園を後にすることにした。


 華紫亜は俺達が全員部屋を出たことを確認すると、学園長に「行ってきます。」と挨拶とお辞儀をして扉を閉めた。

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