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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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初めての隠し事

師匠からの思いがけない言葉に涙を流した椰鶴(やづる)だったが、他の者達に見られないようにとすぐに涙を拭った。



 俺は師匠と2人きりになった。

 他の奴らは全員洞窟の外で待っているそうだ。


「師匠⋯⋯本当に俺なんかが行っていいのでしょうか。」

「当たり前だろう。天下一の天狗の弟子だ。街の人達だって直ぐに受け入れてくれるはずだよ。だから俺なんか(・・・)なんて言うんじゃない。」


 師匠はニコッと笑を零した。


椰鶴(やづる)、自信を持ちなさい。お前はこの街を代表するに相応しい強さを持っている。その強さがある限り、お前は誰にも負けないよ。」


 師匠は普段俺を褒めたことはない。厳しい言葉しか聞いたことがない。

 しかし、今日初めて褒め言葉を頂いた。


 凄く嬉しかった。


「ほら、みんなが外で待ってるよ。行ってきなさい。私はここで椰鶴が戻ってくるまでずっと応援しているからね。」

「ありがとうございます。それでは行ってきます。」


 俺が後ろを振り返り扉の方へ歩きだそうとした時だった。


「椰鶴!」


 師匠が俺を引き留めるなんてことは初めてだったため、俺は驚きながらも師匠の方を振り向いた。


 師匠は涙を流していた。


「し、師匠⋯⋯?」

「椰鶴⋯⋯私はちゃんとお前の師匠になれていただろうか。」


 どうしてそんなこと聞くんですか⋯⋯。

 師匠になれてたかどうかなんて、そんなの決まってます。


「師匠⋯⋯俺は師匠にたくさん迷惑をかけてきました。師匠に反抗してばかりの時期もありました。でも、師匠は俺がどんなわがままを言っても、厳しくも愛のある言葉で受けとめてくれました。俺は師匠に感謝しています。面倒なガキである俺を弟子として優しく迎え入れてくれたこと。幼い頃からここまで育ててくれたこと。そして⋯⋯俺だけの師匠でいてくれたこと。」


 俺は思い切り息を吸い込んだ。


「師匠は俺だけの、たった一人の師匠です!それは他の誰でもなく春火(はるひ)さんだけです!」


 そう言うと、師匠は微笑みながら涙を流した。


「そうか⋯⋯それはよかった。⋯⋯そうだ椰鶴。1つだけお願いを聞いてはくれないだろうか。」

「1つだけとは言わずいくつでも聞きます。」


 俺がそう言うと、師匠は笑った。


「ありがとう。もしよかったら、俺に笑顔を見せてくれないだろうか。」


 お願いごとって⋯⋯俺が笑顔を見せること⋯⋯?


「お前が笑っている所を一度も見たことがないからな。この思いを秘めたままお前と別れたら、お前のことをすぐに恋しくなってしまいそうな気がしたんだ。一度だけでいい。笑ったところを見せてくれないか。」


 師匠はなんでそんなに俺が喜ぶことを言ってくれるのだろうか。


 俺は確かに師匠の前で一度も笑ったことがない。

 それは、師匠が嫌いだからとか師匠には見せたくないとかそんな理由があるからじゃない。師匠のことは大好きだ。普段から笑えるのであれば笑って過ごしただろう。


 一一俺は昔から笑うことが苦手だった。

 幼い頃から笑わずに過ごしてきた俺は、師匠と出会ってからも笑わずに過ごしてきた。


 笑えないのではない。

 笑い方がわからないのだ。


 しかし、俺は和倉(わくら)と出会ってから様々なことを少しずつ覚えてきた。笑い方もその一つ。

 嬉しい時や楽しい時に笑顔になることを和倉から学んだ。


 だが、それは和倉の前でしか出せなかった。

 理由は分からないが、他の人の前では出せなかった。

 いや⋯⋯出せなかったのではなく出さなかっただけなのかもしれない。


 一一でも、師匠から言われたら⋯⋯師匠の頼みとあらば断る理由はない。


 俺は、師匠への感謝の気持ちを込めて精一杯伝えた。


「師匠!今までありがとうございました!精一杯戦ってきます!!そして⋯⋯絶対に師匠の元へ戻ってきます!!だから、待っていてください!」


 何故か俺の目からは自然と涙が溢れでてきたが、その涙に負けず俺は精一杯の笑顔を師匠に向けた。


 そんな俺を見た師匠はとても優しい表情をしていた。


「あぁ。待っているよ。椰鶴の戻ってくる場所を開けて、待ち続けるからね。ガーディアンの変更もすぐに手続きしておくからね。だから、自信を持って頑張ってくるんだよ。」

「はい!⋯⋯それでは、行ってきます!」

「行ってらっしゃい。」


 俺が扉まで歩いていた時だった。


「椰鶴。お前は笑顔にも自信を持ちなさい。私は椰鶴の笑顔が大好きだよ。」


 後ろから師匠に声をかけられた俺は、扉の先から最後にもう一度だけ後ろを振り向き涙を拭いながら言った。


「俺も、師匠が大好きです!」


 微笑み手を振る師匠に見守られながら、俺は洞窟を後にした。




 俺が洞窟の外に出ると、和倉が飛びついてきた。


「おかえり椰鶴!」

「あぁ。」


 和倉は俺の顔を見ると首を傾げた。


「あれ?何かいいことあった?」


 何故だろう。表情には出していないはずなのに何かあった事を的確に当ててきた。


「いや、何も無い。」


 俺が素っ気なく答えると、和倉はマジマジと俺の顔を見てきた。

 そして、ニコッと笑った。


「そっか!」


 それだけを言うと他の奴らの所に俺が来たことを伝えに行った。


 俺が和倉に初めてした隠し事。俺は和倉には全てを見通されている気がした。




「隣の街は「ルナール」でいいんだな?」

「あぁ。」


 ビア達が次にどの街へ行くか相談していたため、隣街が狐の街「ルナール」であることを伝えた。


 すると、和倉が楽しそうに指揮をとって「ルナール」に案内を始めた。


 全員が和倉の後をついて行っているのを見ながら、俺は最後に洞窟の方を振り返りお辞儀をした。


「行ってきます。」


 またここに戻ってきます。成長して戻ってきます。

 だから、待っていてください。師匠。

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