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HalloweeN ✝︎ BATTLE 〜僕が夢みた150年の物語〜  作者: 善法寺雪鶴
仲間を探しに
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魂の叫び

篭姫(るき)の合図で始まった かごめかごめ。ヒショウから始まり、ビア、椿(つばき)と順番に1人ずつ子どもの姿に化け消えていく。

篭姫の思惑通りに進み続けていた中、鴇鮫(ときさめ)この状況を打破するための唯一の作戦を思いついた。


 残り3人⋯⋯。もう後はなさそうだし、アレを使うしかないかな。


「ちょっといいかな?」


 俺が篭姫(るき)ちゃんに声をかけると、不思議そうな表情で首を傾げた。


「なぁに?」

「今俺達は篭姫ちゃんに負けてばかり。篭姫ちゃんとっても強いから、このままだと勝てる気がしないんだ。だから、もしよければ1度話し合いをする時間をくれないかな?」

「もちろん構わないわ。」


 篭姫ちゃんは迷いなく答えるとニコッと笑った。


「ありがとう。それともう1つ。話し合いをする時だけ場所を変えたいんだ。篭姫ちゃんを疑うわけじゃないけど、やっぱり誰もいない場所で話し合いたいんだ。いいかな?」

「分かったわ。この校舎内ならどこを使っても構わない。でも、逃げようとしたらもう元の世界へ帰る事はできないから。」

「もちろんだよ。」


 俺はグレイと椰鶴(やづる)の方を向いた。


「それじゃあ、話し合いの間だけ移動しよう。」


 早速2人を連れて体育館を出た。




「なぁ鴇鮫(ときさめ)。どこまで行くんだ?すっげー離れてねーか?」

「グレイの言う通り離れすぎだろ。」


 行き先を告げず進み続ける俺に、2人は違和感を覚えているらしい。


「今、誰もいない場所であり俺達の声が篭姫ちゃんに届かない場所を探してるんだ。」

「探すってどうすんだ?」

「できるだけ遠くに行くんだろ。」

「そういうことか!椰鶴、お前頭いいな!!」


 あながち椰鶴の答えは間違ってない。篭姫ちゃんに声が聞こえないようにするには離れることが第一だ。

 だが、それに加えてこの校舎内を彷徨っている子どもの幽霊達からも離れる必要があった。


 彷徨う幽霊が篭姫ちゃんに加担する可能性が高いから。


 俺は教室や廊下をよく視て歩いた。

 2人は何も言わずに後ろをついてきている。


 どれくらい歩いただろうか。

 何度も曲がり角を曲がり階段を登った。体育館からかなり離れた場所。

 距離があるから篭姫ちゃんには声が届かない事は確実である。

 その上、途中から幽霊達の気配が一切無くなった。


 この廊下の端の教室なら安全だろう。


「この教室に入ろうか。」


 俺は教室の後ろの扉を開けた。


 ガラッ


 扉を開けると、目の前に広がるのはごく普通の教室だった。俺が通ってた学校とさほど変わらない。

 少し懐かしさを覚えていると、現役高校生のグレイは近くの椅子に座った。


「なぁ、話するなら座ってしようぜ。」

「うん。そうだね。」


 俺と椰鶴はグレイの前と左隣りの席に座った。


「鴇鮫。何か策があるのか?」


 グレイは俺が椅子に座ったのを見届けると、すぐに疑問をぶつけてきた。

 椰鶴は静かに俺の目を見ている。


「篭姫ちゃんが、誰が後ろに立っているのか簡単に当ててくるのには理由があるんだ。」

「⋯⋯理由。」

「理由ってなんだ?」

「それは一一」


 俺は、百目だからこそ気がつくことのできた真実を語り始めた。

 話を聞いている2人の目には少しずつ怒りが見え始めていた。


「何だよそれ!!ズルしてるってことじゃねーか!!」

「見えなきゃいいって話じゃねーだろ。」

「そう。だからさ、俺達もやり返してあげようよ。」

「やり返す?」


 どう言う意味なのか分からないと言った表情の2人。

 俺は笑った。


「真実を知っているのに対策せずに向かって行っても、結果的に負けるだけだからね。」




「ただいま、篭姫ちゃん。」

「も〜遅すぎ。」

「ごめんね、作戦会議が長引いちゃった。」


 頬を膨らませる篭姫ちゃんは、子ども達と手を繋いで2列に並び向かい合っていた。


花一匁(はないちもんめ)でもやってんのか?」

「正解!暇だから子ども達と花一匁をして遊んでたの。でもフランケンのお兄さん、かごめかごめは知らなかったのに、花一匁のことは知ってたのね。」


 不思議そうな表情の篭姫ちゃん。それに対してグレイは勝ち誇ったように笑った。


「他の街の伝統的な遊びを学ぶって授業があって、花一匁の方は知ってたんだ!やったこともあるぞ!」

「そう!それなら、私の仲間になった時が楽しみね!早く仲間になって欲しいわ!⋯⋯と、お喋りはここまでにして、遊びの続きをしましょう。」


 篭姫ちゃんはそう言うと、子ども達に戻るように伝えた。

 子ども達は「また続きやろうね!」ととても楽しそうな様子で消えていった。


「さてと⋯⋯。」


 篭姫ちゃんはニッコリと不敵な笑みを浮かべた。


「お兄さん達がどんな作戦を練ったのかは分からないけれど⋯⋯私、絶対に負けないからね。」


 今まで以上に恐怖を感じる笑顔に少したじろいだ俺達だったが、すぐに準備を始めた篭姫ちゃんに対して俺達も手を繋いだ。


 作戦を練った俺達からすると、次で勝負が決まると言っても過言ではない。

 次篭姫ちゃんに当てられたら、この作戦は通用していないということになる。


 皆を助けるためにも⋯⋯


 お願い。騙されて。


 俺達は目を合わせると歌を歌い始めた。


「かごめかごめ

籠の中の鳥は

いついつ出やる

夜明けの晩に

鶴と亀が滑った

後ろの正面だあれ?」


 歌い終えると、体育館の中はシーンと静まり返った。


 篭姫ちゃんの後ろに立ったのは、俺。

 そして、現在の俺の位置から見える篭姫ちゃんの表情は笑っているように見えた。


 すると突然⋯⋯


「あははははっ!!!」


 篭姫ちゃんが声を上げて笑った。

 

「あはははっ⋯⋯ご、ごめんなさい⋯⋯私、お兄さん達が一生懸命作戦を練っていたみたいだから、どんな作戦が来るのか少し不安だったんだけど⋯⋯やっぱり私の勝ちなんだなって思ったら面白くなっちゃって⋯⋯ふふっ。」


 ⋯⋯まさか、この作戦が通じなかった?


 誰かが息を飲む音が聞こえた。

 途端、篭姫ちゃんが声を張り上げた。


「百目のお兄さん!!」


 篭姫ちゃんは勝ち誇ったような笑顔で立ち上がりながら、勢いよく後ろを振り返った。


 しかし、その笑顔も長くは続かなかった。


「えっ⋯⋯どうして⋯⋯どうしてフランケンのお兄さんが⋯⋯?」


 そう。振り返った先にいたのは同じく勝ち誇った笑顔を見せるグレイだった。


「残念だったな!篭姫!!」

「う、嘘よ⋯⋯だ、だって、さっきまで百目のお兄さんが後ろにいたじゃない⋯⋯なんで⋯⋯なんでフランケンのお兄さんなの!?」

「落ち着いて、篭姫ちゃん。」


 俺は取り乱す篭姫ちゃんに声をかけた。

 篭姫ちゃんは怒りに満ちた表情で俺の方を見た。


「篭姫ちゃん、なんで俺が後ろにいたって知ってるの?」

「だって!それは」

「おかしいよね篭姫ちゃん。」


 俺は篭姫ちゃんの話を遮って続けた。


「確かに歌を終えた時、"俺"が後ろにいた。でも、篭姫ちゃんは俺達に囲まれて下を向いていた。後ろはもちろん周りに誰がいるのかさえ見えていないはずだよね。なのになんで"俺"が後ろにいたことを知ってるの?」

「⋯⋯そ、それは⋯⋯。」


 突然の指摘が図星だったからか、焦って言い訳を探しているように見える。


 俺はこのトリックについて語り始めた。


「実は、俺達は変化(へんげ)をしていたんだ。」

「変化⋯⋯?」


 そう。俺達の作戦は変化をして騙すことだった。

 あの教室で俺は、お互いが変化できるようにアトラクトアイズというレガロをかけた。

 椰鶴はグレイに、グレイは俺に、俺は椰鶴に。

 見た目と声を変化しているため、変化対象人物の性格を上手く真似できれば第3者には誰が誰に変わったかなんて分からないだろう。

 その状態で俺達はこの体育館へ戻ってきたのだ。


 だから、ズルをして子ども達に答えを教えてもらっている篭姫ちゃんは、自分の後ろに立っているのが俺だと答えてしまうのも仕方がない。

 しかし実際は俺ではなく、俺に変化したグレイが立っていたということになるのだ。


 その事実を告げられた篭姫ちゃんは声を荒げた。


「そんな⋯⋯変化するなんてズルイじゃない!!!作戦立てて良いって言ったけど、そんなの勝負として認められない!!」

「ズルイ?それは君も同じだろう?篭姫ちゃん。」

「⋯⋯え?」


 怒り狂う篭姫ちゃんだったが、冷静に返す俺の言葉に驚いているようだ。


「篭姫ちゃんもレガロを使って誰が後ろにいるのか視てたんだよね。」

「レガロって⋯⋯そ、それは無理でしょう?だって、番傘は使ってないもの!」

「嘘つくな。」


 今まで事が運ぶのをずっと静かに見守っていた椰鶴が口を開いた。


「俺達はお前がズルをしてることを知ってる。鴇鮫から全部聞いた。だから今更嘘つくな。無駄だ。」


 椰鶴に呼応するようにグレイも篭姫に反発した。


「篭姫!お前最初に番傘閉じたとき、回しながら閉じたんだろ!だからレガロを使えたんだ!!」

「そう。グレイと椰鶴の言う通り。きっと、番傘を置いた時に子ども達を呼び寄せたんだよね。そして、その子ども達に誰が後ろに立っているのか指示をもらっていたんだ。俺達には姿が見えない上に声も聞こえないように細工をして。だから、簡単に指示をもらい誰が後ろにいるのか当てることができた。これが答えだよね。」


 篭姫ちゃんは肩を震わせた。


「⋯⋯のよ⋯⋯⋯⋯どうしてくれるのよ!!!」


 今まで以上に声を荒げる篭姫ちゃんを見て、姿を表していた子ども達は表情を強張らせた。


「貴方達のせいで負けちゃったじゃない!!ちゃんと見てって言ったじゃない!!」


 睨みつける篭姫ちゃんに対し、子ども達は恐怖からか肩を寄せ合い俯きながら震えていた。


「ねぇ!!何とか言いなさいよ!!貴方達のせいよ!!!」

「それは違うんじゃないかな。」


 子ども達に当たり散らす篭姫ちゃんに俺は声をかけた。


「定められたルールに沿って遊ばなかったのは篭姫ちゃんだ。子ども達は何も悪くないよ。子ども達は篭姫ちゃんの指示通りに後ろに立っている者の名前を伝えていただけ。ルールを破ったんだから、これくらいの報いがあっても仕方がないんじゃないかな。」

「くっ⋯⋯。」


 篭姫ちゃんは俯くと悔しそうに唇を噛み締めていた。

 

 ねぇ、篭姫ちゃん。気付いてる?

 子ども達の中で自我を持ち始めている子がいること。元の記憶を少し取り戻している子がいること。

 楽しそうに遊んでいるレントくんやマリンちゃん達と違って、楽しくなさそうな表情でかごめかごめや花一匁をしている子がいたこと。

 そして、遊びの輪に入らず「帰らせて」と必死に叫んでいる子ども達がいること。


 俺には幽霊の子ども達が見えていた。

 だからこそ不正にはすぐに気がついた。

 そこから思いついたこの作戦。たった1人だけ百目の子どもがいたから、その子が篭姫ちゃんに真実を伝えないことが鍵だった。

 俺達が体育館に戻って来た時、百目の子どもは変化に気がついていた。表情で分かった。

 でもその子は篭姫ちゃんに真実を伝えなかった。


 それはそうだろう。

 百目の子どもは自我を持ち始めていた子どもの1人だから。

これ以上被害者を増やしたくないという意思を持っていたから。

 だから、あえてみんなが見えている目の前の事実だけを伝えたのだ。


 その事に篭姫ちゃんは気づく事はできるかな?

 ⋯⋯いや、時間をかけても無理だろうね。

 どれだけ子ども達が叫んでも、篭姫ちゃんには都合の良いこと以外の叫びは届いていないから。


 仲間や友達なら、それくらい把握できなきゃダメだよね。

 相手の思いを受け取れないような一方的な愛は、最終的に悪い結果しか生まないんだよ。


 俺達が中央にいる篭姫ちゃんを見つめていた時だった。


 ボンッ!!!


 聞いたことのある爆発音とともにグレイの後ろから煙が上がった。


「な、なんだ!?」


 突然の出来事に驚きを隠せないグレイは、煙から離れるように後退りをした。


 篭姫ちゃんや子ども達を含め、この場にいる全員が煙から何が現れるのか静かに待ち構えていた。

 そして数秒後、煙が落ち着いてくると中から人影が現れた。

 それは俺達がよく知っている人達だった。


「ビア!ヒショウ!椿(つばき)!!」

「良かった。戻ってこれたんだね。」

「無事⋯⋯だな。」


 煙の中から現れた3人は、何が起きたのか分からないといった困惑した表情で顔を見合わせていた。

 しかし、状況を把握しようとしているビアと椿に対し、ヒショウは少し違っていた。


「みんな〜!!」

「うっ!!」


 物凄い勢いでグレイに突進し思い切り抱きついた。


「ど、どうしたんだよヒショウ⋯⋯。」


 フラッとよろけたもののどうにか持ち堪えたグレイが、自分の胸に顔を埋めるヒショウを少し心配そうに見ていた。


 ヒショウはグレイを見上げながら言った。


「お、俺⋯⋯寂しかったんだよ⋯⋯。ずっと頭の中でみんなの声が聞こえて⋯⋯。でも、それが誰の声なのか分からなくなった。帰り道も分からなければ今まで誰と一緒にいたのかさえ分からなくて⋯⋯怖かった⋯⋯。忘れちゃいけない人達を忘れてしまった⋯⋯って。」


 ヒショウは涙を流していた。

 俺はそんなヒショウに何と言葉をかけるべきか分からずにいた。

 しかし、グレイは満面の笑みを浮かべると、ヒショウの両肩を掴み目を合わせて言った。


「泣くなよヒショウ!!もしお前が俺達のこと忘れちまったとしても、俺達は絶対にヒショウのことを忘れない!何度だって思い出させるし、何度だって救い出す!!それはビアも、椿も同じだ!だって、仲間だろ!!」

「⋯⋯グ、グレイぃ!!」


 ヒショウはまた涙を流し、グレイはそんなヒショウを優しく抱きしめると頭を撫でた。


 そんな微笑ましい光景を眺めていると、椿が小さな声で呟いた。


「⋯⋯消えてる。」


 椿の方に目をやると、確かに椿は手足の先から少しずつキラキラと輝き消え出していた。

 それは椿に限ったことではなかった。

 ビアも、ヒショウも、グレイも、椰鶴も。

 そして俺も。

 俺達は少しずつ消え出していた。


「どういうことだ?」

「わけわかんねー。」

「き、消える!!俺、死ぬのか!?」

「やだよー!!死にたくないー!!」


 篭姫ちゃんとの勝負には勝ったはず。

 理解が追いつかない俺達に対し、篭姫ちゃんは焦ったような表情をしていた。


「う、嘘⋯⋯どうして⋯⋯?ま、負けたの?本当に?い、嫌⋯⋯嫌!!!」


 篭姫ちゃんは、1番近くにいた俺の方へ走りながら手を伸ばしてきた。


「行かないで!!!」


 俺が消える前に見たのは、泣きながら必死に手を伸ばす篭姫ちゃんの姿だった。

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